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未完成の親友達

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未完成の親友達(1)

その日、ケイゴが死んだ

文化祭に向けて、いつも通りにバンドの練習をした後で

普通に校門の前で別れて、その後に

殺された

コンビニ強盗を捕まえようと、後を追いかけて、逆にその強盗に

目の前で、強盗があったからって、そんな、ちっぽけな正義感のせいで...

犯人は、すでに捕まっている

ケイゴが殺されてすぐに捕まった、と、後で見たニュースは言っていた

ニュースの中で見た犯人の顔は、こいつならやりそう、っていう顔だった

年は、俺らの少し上くらいの男

犯人の男は、追いかけられて気が動転し、とっさに持っていたナイフで刺した、と言っていたらしい

無駄死に

そんな言葉が浮かんだ

葬式の日、多くの女子が、赤い顔をして泣いていた

男子も数人、顔を伏せて涙を流していた

あいつと仲の良かった奴は、みんな、泣いていた

サトシもマキも

人目はばかることなく泣いていた

でも俺は

その場にいた俺だけは

葬式当日の、空気の読めない快晴の空みたく

一粒の涙すら、零すことができなかった





『未完成の親友達』





街をさまよい歩く

当てがあるわけでもなく、淡々と

でも、この街はそんなに広くない

歩きだとしても、一日もかからず見て回れるくらいだ

別に目に何かが映りこむわけでもない

何か面白い展開が待っているわけでもない

知り合いにすら、誰とも会う事もなかった

そうして、意味も目的もなく歩いたら、最後はいつも、この街を見渡せる高台に来ていた

そこから街の景色を眺める

それが、俺の日課になりつつあった

時間はもう夜

一粒の星も見えない代わりに、街の明りが無数に瞬いていた

でも、なんの感慨も沸かない

作られた瞬きに、想いを馳せる事もない

前みたいに、心動かされることなんてなかった

そんな風に、意味もなくボ〜っとしていると、胸ポケットにある携帯がなった

またか、と思う

さっきからもう何回もかかってきている

いい加減しつこい

相手はサトシとマキのどちらかに決まっている

どうせ今日も学校サボったな、とかそういう話なのだろう

もう聞き飽きたし、聞く気もない

「ほっといてくれよ...」

「ほっとけるわけないでしょ?」

「は?」

不意の声に、思わず振り返る

「ヒロ、やっぱりここにいたんだ」

そこには、見知った一人の女の子が立っていた

「マキ...」

何となく、目を合わせづらくて、また街の方を見下ろす

でも、マキも俺の隣にやってきて、手すりに両腕を乗せていた

つい、マキのいる逆の方に目をやってしまう

「ヒロ、昔っから何かあると、ここに来てたよね」

「...そうだったか?」

「うん。眺めいいよね。ここってさ」

「...そうだな」

意味のない会話

でも、わざわざこんな場所に来たんだ

別に、そんなことをいいに来た訳じゃないのだろう

「ヒロ。あなたいい加減学校に出てきなさいよ。サトシも心配してるし」

「いいだろ...別に」

「よくないわよ。このままだとあなた留年よ?ただでさえ出席日数足りてないんだから」

「いいよ...そんなの」

俺が学校に顔を出さなくなって、かれこれもう一ヶ月になる

それは、ケイゴが死んでからの同じ日数でもある

親父は、何も言わない

いつも通り、黙って仕事に行っているだけだ

「よくないの!ヒロのお父さんだって心配してるのよ?」

「親父が?」

あの仕事人間が俺を?

まさか

驚いてつい、マキの方を見てしまったが、すぐに目をそらす

仮に、それが本当だとしても、それが何だというんだ

親父は、関係ないじゃないか

「ウチに電話、かかってきたの。サトシの方にもね。ヒロをよろしくお願いしますって、自分では力になってやれないからって」

「............」

何だよそれ

何こんな時だけ、心配なんてしてるんだあいつは

母さんが死んだ時だって、病院に駆けつけもしなかった奴が

「それに...やっぱり私も、心配だよ」

「............」

「ほら、私達、一応付き合ってるわけだし...」

そう

俺とマキは付き合っている

一ヶ月と、三日前から

俺達は、4人の軽音楽部のバンドメンバーだった

マキがベース

ケイゴがギター

サトシがドラムで

俺がギター兼ヴォーカル

そんな、俺達だけの軽音楽部

今は、たったの3人になってしまった、部活メンバー

まぁ、そんなメンツだ

俺もそうだし、ケイゴもサトシも、マキに気があった

我先にってマキの気を引こうとしていた

でも、そんな中で、俺はマキに告白した

二人には悪いって思ったけど、それでも自分を止める事ができなかった

夕暮れに染まる学校の屋上で

マキを呼び出して

それっぽい雰囲気の中で

まっすぐに

俺と付き合ってくれないか...って

そして、マキも、その問いに頷いてくれた

「そうだ、ヒロ。明日さ一緒にどこかに行かない?二人っきりでさ?」

だけど

「ほら、なんだかんだで、デートもしてなかったじゃない私達。だから気分転換も兼ねて、ね?」

今の俺には

「悪い...そういう気分になれない」

付き合う余裕なんて...

楽しむ余裕なんて、ない

「俺、帰るわ...じゃあな」

「あ、ちょっとヒロ!」

マキの声に背を向ける

マキを見ないようにして、そのまま歩いていく

これ以上、声をかけてこないように...

そして、決して振り返らない

もう、追いかけてこないように...

「ごめん...」

ただ、届かないような小声で、一言、呟いた

マキが、ケイゴのことで俺に気を遣ってくれているのは分かる

自分だって辛いはずなのに、俺がこんなだから慰めようとしているんだろう

でも、今の俺に、マキと付き合っていく気持ちなんて持てなかった

俺の中には、抜け駆けして、マキに告白したことが胸に引っかかっている部分がある

いや、そんなことは、実際どうでもいいのかもしれない

ただ、ケイゴがいなくなったこと

そのことが、何よりも俺に重く圧し掛かっていた

あいつがいないことが、辛くて...苦しかった

酷く苦しくて、心が潰れそうだった

だけど、それなのに...

涙が流れる気配だけは、一向に表われてはくれなかった

未完成の親友達(2)

学校に出てきた

少し、マキに悪いなって気持ちがあったのかもしれないし

昨日の夜、珍しく親父と話して、言葉少ないながらに慰められたのもあるかもしれない

でも、それで何が変わるわけでもない

クラスの連中が、どこか同情したような顔をみるのが気に食わなかったけど、それだけだ

後は、聞きもしない授業を受けて

休み時間中は眠りもしないのに、机に顔を伏せて

ただ、そうやってボ〜っとしているだけだった

意味なく、時間を浪費するだけだった

せいぜい、昼休みにわざわざウチのクラスにきたマキと、適当に、少しだけ話をしたくらい

そして、そのまま時間は過ぎていき、放課後になる

さっさと下校しようとしていると、今度はサトシが話し掛けてきた

「部室、行かないか」

それだけ告げると、サトシは先に教室を出て行く

いつも通りといえばそこまでだが、あんまりに淡白なもんだから断る事もできず、仕方なく、その後をついていった

でも、話の内容は、多分分かる

「バンド、どうする気だ」

部室について一言目が、予想通りそれだった

俺達の部室

今は使われなくなった教室の一室

いつもここで、4人で練習をしていた

そこかしこに、楽譜やらCDやらが散らばっている

その中には、今は使われていない、ケイゴのギターもあった

サトシ、それとそのギターを直視できないで、つい目を背けてしまう

サトシは、それに気づいたみたいだったが、でも構わないという風に言葉を続けた

「文化祭まで、あと一週間しかない」

「...ああ...そう、だな」

文化祭

あと一週間で、この学校の文化祭だ

ケイゴの一件でどうなるか分からなかったが、結局予定通りに開催される事になった

あちこちのクラスで、文化祭の準備は進んでいるし、俺ら軽音楽部も、体育館でライブをやることになっている

「ヒロは、どうしたい?」

「...さぁ、な」

でも、今の俺に、そんなこと考えられる余裕はない

それに、こんな苦しい気持ちのままじゃ、とても歌えそうにない

「そうか。なら...止めるか...」

「............」

その言葉に、否定も肯定もできない

ただ、少しホッとして

同時に、残念だと思っている自分がいるだけだ

「...それでいいか?」

「............」

「答えろ...いいんだな?止めても」

ここで、答えを出せと言うサトシ

こいつのことだから、本当に答えるまで、俺を帰すつもりはないのだろう

俺は、どこかで答えに迷うつつ、それでも

「...ああ」

そう、返事をしていた

だから、そういうことなんだと、思う

「...そうか、分かった」

それだけ言って、サトシは少しの間、淋しげに顔を伏せる

でも、すぐに元の仏頂面に戻り、上着のポケットから何かを取り出した

薄いプラスチックのケース

中には、一枚のCDが入っていた

「なら、これを渡しておく」

「...?...なんだよ、これ」

「...ケイゴが、作った、最後の曲だ」

「え?」

ケイゴの?

見ると、ケースには「未完成の親友達」と書かれていた

by ケイゴ、という手書きの文字と一緒に

「ヒロとマキに、ってさ」

「...俺と、マキに?」

訳が分からない

なんで俺とマキに、なんだよ

いや、それならいつ作ったって言うのさ

俺達が告白したのは...つい、最近で

だけど...あいつは...

「近いうち、あいつら付き合い始めるから、そん時にからかってやろうって、そう...言ってた」

「な、何だよ、それ...」

ケイゴだって、マキを...

それにサトシだって

なのに、なんで?

「お前ら二人してさ。互いに意識しあってるのバレバレなのに...いつになったら付き合うのか、ハラハラしたよ、ケイゴも俺も」

「いや、そんなことじゃなくて...」

「ケイゴな...お前らを祝ってやろうとして、これ作ってて、あ、一応俺も手伝ってたんだぜ?」

「だから、そうじゃ、なくて...」

どうして、俺達のための、曲なんだよ

どうして、俺達を祝おう、だなんて思えるんだよ

俺は、二人を...

「...お前、トロいんだよ」

「は?」

「お前、ビリなんだよ...告白するのも、なにもかも...」

「それって...」

「渡しとくぞ?もし、気が向いたなら聞いてくれ。あいつ、感想聞くの、楽しみにしてたからさ」

それだけ言って、サトシは、強引にCDを俺に受け取らせる

そして、そのまま部室を後にした

逆に俺は、しばらく、動く事が出来ずにいた

呆然と、手の中にあるCDを見つめながら






「ケイゴの、曲、か」

夜になって、ようやく家に帰る

今は、ベッドに寝転がりながら、渡されたCDを眺めていた

「...『未完成の親友達』か...」

あいつらしい、人を小ばかにしたようなタイトル

それでいて、雑さのない、とても慎重に書いたような丁寧な字で、それは書かれていた

昔っから、ケイゴはそんな奴だった



「おいヒロ!今のとこ違ってんぞ!」

「あ、悪い悪い。」

「ったく、お前はどうしてそんなとこで間違えられるかな〜」

人一倍音楽が好きで、勉強そっちのけで、ひたすら音楽の事だけを考えていた



「見てろ?俺は、ぜってえプロになってやるからな!」

「何言ってんのよ。今のまんまじゃプロどころか、ライブですら満足に歌えないわよ?」

「いいや。俺にならできる!いや、俺たちなら、だな!」

大真面目にそんなことばっかり言って、でも実際、それ以外の事を考えていなかった



「はははっ!今日の良かったよな?サトシもそう思うだろ?」

「ああ。久しぶりに上手くいったと思う」

「だっろ〜?やっぱあれだな。全部まとめて俺の類稀な音楽センスのおかげだな」

自信家で、よく調子による奴だったけど、そのおかげで、何度も助けられた事がある



「俺、マキの事が好きだ」

「俺も、だな」

「その、俺だって...」

マキのいない時なんかは、いっつもマキのことが話題に出てて

「なら、俺らみんなライバルなっ!」

なんて肩組んで、笑顔で励ましあって、馬鹿にし合っていた



「なぁ...いつか、本当に、俺らみんなで、プロになろうな。絶対に」

あの高台で、空と夜景を見ながら、俺らは誓い合った

みんなで、プロになろう

自分たちの力で

俺達4人で

いつか必ず

絶対に、って



CDを眺めていると、そんなことばかり頭を巡っていた

つい横目に、ギターを見る

今も、部屋の隅においてある、俺のギター

ケイゴに選んでもらい、金を貯めてようやく買った、俺の初めての楽器

その黒いケースの表面には、少し、ホコリが被っている

そんな薄汚れたケースを見ていたら、体が勝手に動いたみたいに吸い寄せられてしまっていた

側に寄り、ケースの表面をなでる

撫でた表面の薄い白が、はっきりとした黒に変わった

「やっぱり...俺も...」

そっと、ケースを、開ける

ずっと、閉めっぱなしにしていたケース

ずっと、放っておいた薄汚れたケース

でも中の、今も変わらずにある、俺のギター



「練習だ!練習あるのみだ!」

中々上達しない俺は、いっつも、ケイゴにそう言われていた

「大丈夫だって!お前才能あるよ!」

そんな風に、何度もおだてられて

「やったな!さっすが俺の親友だ」

初めて満足のいく演奏が出来た時は、まるで自分のことみたいに喜んでいた



「俺...やっぱり、音楽が、好き、なんだな...」

音楽が一番好きだったのは、ケイゴだったけど

その、好きは、俺らにも移っている

今でも、ケイゴから移された、その音楽好きは変わっていない

今もずっと、変わっていない

何も、全然変わっちゃいなかった

だから

「もう少しだけ...待っててくれ...ケイゴ」

そう呟いて、手に持ったCDをコンポに入れていた

未完成の親友達(3)

「ヒロ!?」

「...よっ」

次の日の放課後

俺は、部室に顔を出した

少しだけ気まずかったので、15分くらい部室の前辺りをウロウロしていたが、思い切って部室の扉を開けたのだった

「もう...遅いよヒロ」

「悪い...待たせた、んだよな?」

多分そうだ

文化祭でのライブを止める、なんて言ってたけど、きっとそんなことなくて

昨日は、ただケイゴのCDを渡すためだけに、部室に呼んだはずで

多分、いつもこの部室で、俺なんかが来るのを、待っていてくれたんだと思う

もう、ずっと前から、俺達はそういう仲間だった

「ううん...来てくれるって信じてたよっ」

そういうマキの目が、少しだけ潤んでいるのは、気のせいじゃないと思う

「サトシも、悪かったな」

「いや、気にするな」

いつもの仏頂面でそう言う

でも、いつもより、少しだけ口元が緩んでいたと思う

相変わらず分かりにくい奴だ

「じゃ、始めようか。もう時間がないしさ」

「こら、今までサボってたヒロが言うな」

「全くだ」

「あははっ...そりゃ違いない」

笑みがこぼれる

とっても自然に

やっぱり、こいつらのことは、好きだった

「さぁ、これからが大変だよ。特にヒロはかんっぺきにギター弾いてもらわないと」

「だな。いつもみたいなケアレスミスなんて、絶対に許さないからな」

「わっ、分かってるって...ハハハっ...」

そうして、また俺達は練習を始めた

ここ数週間のことを、なかったように接してくる二人

笑いながら、注意し合いながら、演奏を繰り返しながら、いつも通りに

そんな二人に感謝しつつ

ケイゴがいないことの痛みを、噛み締めつつ

まだ、苦しい気持ちが胸にわだかまっているけど

きっと、この辛さが消える事なんてないとは思うけど

俺達は、文化祭に向けて練習を重ねていった






そして、あっという間に文化祭当日

毎日練習していたためか、やたらと時間を早く感じた

正直、まだ演奏に気になるところはある

それでも、この3人で出来る限りの練習をしてきたつもりだ

今まで以上に、やってこれたはずだ

「あ〜!緊張すんな〜!」

「誰だってそうだよ〜!」

俺とマキは、舞台袖で落ち着きなく動き回っている

今は、別の奴の演奏中なのだが、ついに俺達の出番がその次と迫っていた

これが落ち着いていられるかってんだ

「おい。お前ら,落ち着きなさすぎ」

そんな俺達を呆れた風に見るサトシ

サトシ本人は、いつもと変わらないように見えた

「うるさいな〜。俺はサトシみたいに神経が図太くもオッサンでもないんだよ!」

「そうだよそうだよ!人って漢字を飲んで落ち着くのなんてサトシくらいのもんよ!」

「...お前ら、無駄に仲良すぎだろう。それにそういうの、結構傷つくって」

そう言って、サトシはうな垂れた

サトシって、見た目老けてるくせに、実はとっても傷つきやすいのだ

そうこうしている内に、前の連中の演奏が終わり、一度幕が下りる

前の奴らとハイタッチを交わし、ついに俺達の出番が来た

すぐに、演奏の準備に取り掛かる

ここまで来たら、泣き言なんて言っていられない

今日のために、頑張ってきたのだし、悔いなんてものは残すつもりもなかった

そして、幕が上がる

同時にワ―――っと大きな歓声が上がった

ズンと、低い音が全身に響く

その音に、どうしようもなく体が震えた

どうしようもなく、感情が高ぶった

無言で、マキとサトシの顔を見て頷きあう

さぁ、行こう!まずは一曲目だ!

サトシのドラムが鳴り響き、それに俺もマキも合わせる

目の前には、拍手で曲に合わせる観客

文化祭の、ほんの小さなライブだけど、そこには俺達の演奏を聞いてくれるみんながいた

盛り上がりながら聞いてくれるみんながいた

一年前の文化祭でも、同じように拍手を受けていたのを思い出す

まだまだ拙い演奏だったけど、それでもみんなが聞いてくれていた

俺も

マキも

サトシも

ケイゴも

みんなで、スポットライトを浴びていた

みんなで、この歓声を受けていた

その瞬間は、何よりも変えがたい一瞬だったことを覚えている

そして今も

俺達は、何よりも大切な時間を過ごしていた

みんなで一緒に、この時間を過ごしていた






一曲目が終わり、一際大きな歓声が上がる

「はぁ...はぁ...」

思いっきり、目一杯力を込めて歌ったおかげで、少しだけ息が切れていた

少し、声には伸びがなかったかも知れない

それでも、心には清々しい充実感に溢れていた

やっぱり、歌うのが好きだと思えた

好き以外の何かなんて、全く思いつかなかった

息を整えると、俺は、スタンドのマイクを取る

どうしても、伝えたい事があった



「みんな!ありがとうっ!!」

みんなは、俺の声に歓声で答えてくれる

「俺、この文化祭で歌えて、すっごく嬉しいって感じてる!」

「みんなの歓声が聞けて、全身、ふるえちまうくらいの快感で一杯だ!」

「だから、もう一度言う!ありがとう!」

また、みんなも歓声で答えてくれた

とても心地いい

「だけどっ、一人だけ...この快感を感じられない奴がいる...」

その言葉に、俺の声に、一斉に歓声が引いていった

さっきまであった熱気も、まるで感じられない

体育館の中が、音一つない、とても静かな空間に変わった

「みんなも知ってると思うけど、そいつは...もうこの世にいない」

「嫌になるくらい、あっさりと、いなくなってしまった...」

「一人カッコつけて、勝手に、いなくなっちまった...」

「本当なら...」

「本当なら今日、俺の隣で、バカみたく、騒いでたはずなのに...」




「俺...ずっとあいつのこと探してた」

「もういないって分かってるのにっ...!」

「街中を歩いて...闇雲に歩いて...」

「思い出の高台で、何時間も待って...」

「ひょっこり『あんなの嘘だよ』って

「『俺が、んな簡単に死ぬかよ』って」

「『プロになるまで死ねるか』って」

「そういってくれるのを、待ってた...」

「ずっと、長いこと、待ってた...」

「だけど、当然あいつが出てきてくれるはずもなくて」

「そんなわけ...なくて...」

「分かってて」

「だから苦しくて、辛くて、悲しくて」

「犯人恨んで」

「警察恨んで」

「あのコンビニいた連中恨んで」

「自分も恨んで」

「悔しくて...」

「きつくて...」

「叫びたくて...」

「でもそれでも、あいつ待って...」

「なのに...」

「だけど...」

「だけど...」

「...だけど!!!」

「ケイゴっ!!...もう死んじまってるんだってさ!!」

そこまで言って、声が詰まった

どうしようもなく、声が出なかった

鼻がツンとする

視界が、ぼやけてきた

「くっ...」

これ以上言うと...俺...俺...






――頑張って!!

「...ぇ」


――俺たちがついてるぞ!!


――泣かないで!!


――頑張ってーっ!!!


「あ...」

広い空間に、ぼんやりとした声が響く

幾つも

幾つも

たくさん

たくさん...

数え切れなくらい...

「...みんな」



「ヒロ」

そんな中...マキも、みんなと一緒に声をかけてきてくれる

そして、俺を真っ直ぐに見つめながら

「頑張って」

優しく、そう言ってくれた



「ヒロ」

サトシも

「頑張れ」

そう力強く言ってくれた



「...あり、とう、み、な...」

――聞こえないぞ!!

――もう一回!!

――俺たちにも、聞こえるように言ってくれ!!

――最後まで、お前の言葉で言ってくれ!!


「みんなっ!!!!ありがと―――――――っ!!」

俺の声に、一際の歓声が上がった

「もう、ケイゴはいない!」

「もう...俺達と歌うことはできない!」

「だから...」

「だからっ!!」

「俺達がケイゴの分まで歌ってみせる!!」

「俺達が、あいつの代わりに歌ってみせる!!」

「そしていつか!!」

「ケイゴの代わりに、ぜっっっったいに、プロになってやるんだ――――――――――――っ!!!」

今日一番の歓声が上がった

「聞いてくれ!!ケイゴの最後の曲!」

「俺と、そこにいるマキのために作ってくれた曲だっ!!」

「ケイゴが、俺達二人を祝ってくれた曲だっ!」

「未完成の親友達っ!!」

俺のギターが鳴り響く

サトシのドラムがあわせてくれる

マキのベースがついてきてくれる

そして、ケイゴの曲が、この会場に響き渡った

みんな、精一杯に生きていた

この瞬間、精一杯生きていた

みんなみんな、辛い事を振り切って

みんなみんな、苦しい事を乗り切って

みんなみんな...ただひたすらに生きていた

俺は、そんなみんなに、目一杯の力を貰っていた

目一杯の勇気を貰っていた

だから

俺も今日から、精一杯生きようと思った

みんなで一緒に、生きようと思った

応援してくれたみんなのためにも、ひたすらに目一杯生きようと思った

今この瞬間、目から絶え間なく流れる...この涙は

まだまだ未完成の俺が

だからこそ、精一杯生きているっていう、証なんだと思った

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