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その日、ケイゴが死んだ
文化祭に向けて、いつも通りにバンドの練習をした後で
普通に校門の前で別れて、その後に
殺された
コンビニ強盗を捕まえようと、後を追いかけて、逆にその強盗に
目の前で、強盗があったからって、そんな、ちっぽけな正義感のせいで...
犯人は、すでに捕まっている
ケイゴが殺されてすぐに捕まった、と、後で見たニュースは言っていた
ニュースの中で見た犯人の顔は、こいつならやりそう、っていう顔だった
年は、俺らの少し上くらいの男
犯人の男は、追いかけられて気が動転し、とっさに持っていたナイフで刺した、と言っていたらしい
無駄死に
そんな言葉が浮かんだ
葬式の日、多くの女子が、赤い顔をして泣いていた
男子も数人、顔を伏せて涙を流していた
あいつと仲の良かった奴は、みんな、泣いていた
サトシもマキも
人目はばかることなく泣いていた
でも俺は
その場にいた俺だけは
葬式当日の、空気の読めない快晴の空みたく
一粒の涙すら、零すことができなかった
『未完成の親友達』
街をさまよい歩く
当てがあるわけでもなく、淡々と
でも、この街はそんなに広くない
歩きだとしても、一日もかからず見て回れるくらいだ
別に目に何かが映りこむわけでもない
何か面白い展開が待っているわけでもない
知り合いにすら、誰とも会う事もなかった
そうして、意味も目的もなく歩いたら、最後はいつも、この街を見渡せる高台に来ていた
そこから街の景色を眺める
それが、俺の日課になりつつあった
時間はもう夜
一粒の星も見えない代わりに、街の明りが無数に瞬いていた
でも、なんの感慨も沸かない
作られた瞬きに、想いを馳せる事もない
前みたいに、心動かされることなんてなかった
そんな風に、意味もなくボ〜っとしていると、胸ポケットにある携帯がなった
またか、と思う
さっきからもう何回もかかってきている
いい加減しつこい
相手はサトシとマキのどちらかに決まっている
どうせ今日も学校サボったな、とかそういう話なのだろう
もう聞き飽きたし、聞く気もない
「ほっといてくれよ...」
「ほっとけるわけないでしょ?」
「は?」
不意の声に、思わず振り返る
「ヒロ、やっぱりここにいたんだ」
そこには、見知った一人の女の子が立っていた
「マキ...」
何となく、目を合わせづらくて、また街の方を見下ろす
でも、マキも俺の隣にやってきて、手すりに両腕を乗せていた
つい、マキのいる逆の方に目をやってしまう
「ヒロ、昔っから何かあると、ここに来てたよね」
「...そうだったか?」
「うん。眺めいいよね。ここってさ」
「...そうだな」
意味のない会話
でも、わざわざこんな場所に来たんだ
別に、そんなことをいいに来た訳じゃないのだろう
「ヒロ。あなたいい加減学校に出てきなさいよ。サトシも心配してるし」
「いいだろ...別に」
「よくないわよ。このままだとあなた留年よ?ただでさえ出席日数足りてないんだから」
「いいよ...そんなの」
俺が学校に顔を出さなくなって、かれこれもう一ヶ月になる
それは、ケイゴが死んでからの同じ日数でもある
親父は、何も言わない
いつも通り、黙って仕事に行っているだけだ
「よくないの!ヒロのお父さんだって心配してるのよ?」
「親父が?」
あの仕事人間が俺を?
まさか
驚いてつい、マキの方を見てしまったが、すぐに目をそらす
仮に、それが本当だとしても、それが何だというんだ
親父は、関係ないじゃないか
「ウチに電話、かかってきたの。サトシの方にもね。ヒロをよろしくお願いしますって、自分では力になってやれないからって」
「............」
何だよそれ
何こんな時だけ、心配なんてしてるんだあいつは
母さんが死んだ時だって、病院に駆けつけもしなかった奴が
「それに...やっぱり私も、心配だよ」
「............」
「ほら、私達、一応付き合ってるわけだし...」
そう
俺とマキは付き合っている
一ヶ月と、三日前から
俺達は、4人の軽音楽部のバンドメンバーだった
マキがベース
ケイゴがギター
サトシがドラムで
俺がギター兼ヴォーカル
そんな、俺達だけの軽音楽部
今は、たったの3人になってしまった、部活メンバー
まぁ、そんなメンツだ
俺もそうだし、ケイゴもサトシも、マキに気があった
我先にってマキの気を引こうとしていた
でも、そんな中で、俺はマキに告白した
二人には悪いって思ったけど、それでも自分を止める事ができなかった
夕暮れに染まる学校の屋上で
マキを呼び出して
それっぽい雰囲気の中で
まっすぐに
俺と付き合ってくれないか...って
そして、マキも、その問いに頷いてくれた
「そうだ、ヒロ。明日さ一緒にどこかに行かない?二人っきりでさ?」
だけど
「ほら、なんだかんだで、デートもしてなかったじゃない私達。だから気分転換も兼ねて、ね?」
今の俺には
「悪い...そういう気分になれない」
付き合う余裕なんて...
楽しむ余裕なんて、ない
「俺、帰るわ...じゃあな」
「あ、ちょっとヒロ!」
マキの声に背を向ける
マキを見ないようにして、そのまま歩いていく
これ以上、声をかけてこないように...
そして、決して振り返らない
もう、追いかけてこないように...
「ごめん...」
ただ、届かないような小声で、一言、呟いた
マキが、ケイゴのことで俺に気を遣ってくれているのは分かる
自分だって辛いはずなのに、俺がこんなだから慰めようとしているんだろう
でも、今の俺に、マキと付き合っていく気持ちなんて持てなかった
俺の中には、抜け駆けして、マキに告白したことが胸に引っかかっている部分がある
いや、そんなことは、実際どうでもいいのかもしれない
ただ、ケイゴがいなくなったこと
そのことが、何よりも俺に重く圧し掛かっていた
あいつがいないことが、辛くて...苦しかった
酷く苦しくて、心が潰れそうだった
だけど、それなのに...
涙が流れる気配だけは、一向に表われてはくれなかった
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