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独り
私は、もうずっと独りだ
学校に行く時も
朝のホームルーム前の時間も
休み時間も
昼休みも
放課後も
その後も
ずっと、ずっと独り
ここ5年、私はずっとそんな日常を送っている
誰かと話すことも
誰かに話し掛けることも
誰かに話し掛けられることも
それどころか、誰かと関わる事が全くない日常
これが、私の普通
かといって、別にいじめられている訳じゃない
テレビの中みたいに、トイレに閉じ込められたり、水を浴びせられるようなこともない
教科書は真っ白なままだし、靴を普通に下駄箱に入っていて、キズ一つついていない
ドラマの中のような出来事に遭遇した事なんて、一度もなかった
私は、ただ...そこにいるだけ
ただ、当たり前のように、そこにいるだけ
ひたすら、空気のように、そこにいるだけだった
子供の頃は、そんなことはなかった
みんなと普通に話していたし、普通にみんなと遊んでいた
夏休みには、日に焼けて真っ黒になるまで遊んだ
クリスマスには、パーティーを開いてプレゼントを交換し合った
友達の家に泊りに行った事もある
だけど、それは中学に上がる前までの話
キッカケは、なんだっただろう
もう、よく思い出せない
確かあれは、周りの男子に、やたらとからかわれ始めた時からだった
内容は、とてもくだらない事だったと思う
ただ、私は、そんなの全く気にしていなかった
バカな男子が、また変な事言ってるよ、くらいの認識だった
でも
気づくと、私は独りになっていた
周りの友達は、何故か私から離れていった
何が悪くて、何がいけなかったのか、私にはわからなかった
最初の頃は、みんなに聞いて回った
みんな、どうして私を無視するの?
みんな、どうして私を避けるの?
そう、ストレートに聞いて回った
でも、いつもはぐらかされて、用があるから、とか言って、私の前から去っていく友人達
理不尽に暴言を吐かれたり、とても高圧的な態度に出られたりすることもあった
私は、全然分からなくて
その内、苦しくなってきて
その内、悲しくなってきて
その内、何も感じなくなってきて
そして、そんな事を繰り返していく内に、いつしか...諦めていた
いつしか諦めて...本当に、独りになっていた
空気になってしまっていた
それからの私は、もう前の私ではなくなった
みんなと目を合わせないように、前髪を長くし
少しでも派手目に見える服は着ることをしない
メイクも整えず、いつも素のまま
アクセサリーなんて一個も持っていないし
髪を染める事もない
常に本を読んで、周りから距離を置き
いつの間にかそんな風に...自ら進んで独りになるようになっていた
私の普通が、普通でなくなり
普通でないことが、私...相坂 夢美(あいさか ゆめみ)の普通になっていた
『恋人がサッキュバス!?』
いつも閉め切っているカーテン
その隙間から街の明りが入りこみ、少しだけ暗い室内を照らしていた
明日も明後日も明々後日も、この部屋には、昼夜問わず、そんな光しか入ってこない
夜の11時50分
また、今日が終わろうとしていた
今日もいつも通り。独りでいた
学校が終わったらすぐに家に帰り、自分の部屋に閉じこもった
さっさと宿題と予習・復習を終わらせて
それが終わったら再放送のドラマを見て、昨日録画しておいた番組を見て
途中、お母さんの作ってくれた食事を食べて
それが終わったら、何冊かの小説を読んで
それも終わったら、長めに風呂に入って、すぐにベッドにもぐりこむ
本当にいつも通り
何の面白みのない、意味のない毎日
そして、この先も、ずっとそれが続いていく
ずっとずっと、こんなつまらない日常が続いていく
きっと...いつまでも...
でも、たまに思う
さっき読んだ小説みたいに、誰かと出会えたりしないかな、と
そんなご都合主義はありえないと思うけど
運命の出会いなんてものはないとは思うけど
それでも、誰かと、恋なんてできないかな、なんて
「ずっと、一緒に、いたいね...か」
小説の一節
駆け落ちを題材にした小説だった
そのお話の中の二人は、周りに反対されながらも、とても幸せそうな恋をしていた
若い身で、結婚の約束までしていた
ありえない、って思う
でも、それはお話の中
なんだかんだありながら、最後はちゃんと結ばれる
ホントご都合主義
だから、現実には、そんなことはありえない
でも、だからこそ、思ってしまうとも言えるかもしれない
「...何か...面白い事、ない、かな...」
明りの消えた部屋の天井を眺めながら呟く
でも、そんなこと呟いたところで、何かがあるはずもない
何か起こるわけでもない
世の中は、自分が何かをしなければ、何かが起こるなんて事ないのだ
現実とは、そういうもの
ご都合主義的な展開なんてないのだ
「なら。試してみるか?面白い事」
「えっ!!」
私しかいないはずの部屋に、声が響いた
バッと、ベッドから起き上がり辺りを見回そうとする
いや、見回すまでもなく、そいつはすぐに視界に入り込んでいた
「よっ。こんばんは」
そこには、黒のタンクトップと黒っぽいジーンズ
腕や指、首元には銀色の髑髏をあしらったリングやネックレス
そして、夜を照らすような、金色の瞳をした男が
閉め切っていたはずのカーテンを、ハタハタと揺らめかせながら、私の部屋の中に立っていた
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