ちょっぴり不思議な小説小箱

人との繋がりを大事にしていきたいと思ってます。ご訪問、お待ちしてます♪

5度目の冬 履歴1

[ リスト | 詳細 ]

今年も冬になった

いつものように巡ってくる季節

彼は、無意味に思いを馳せた
記事検索
検索

全1ページ

[1]

5度目の冬 履歴1

また、冬になった

ここにきて、もう5度目の冬

今年も、この街に雪は降るのだろうか

一年に、たった一、二度の雪

昨年は、2月の終わりにようやく降ったことを思い出す

昔住んでいたところに比べれば、それは少なすぎる回数だ

けれど、電車や道路とか交通機関への影響は格段に大きい

駅のホームの混雑

真っ赤な光の並ぶ車の列

ニュースでは、見知らぬ誰かが必ず足を滑らせている

何もいいことなんてありはしない

喜ぶのは、朝早く起きた子供たちくらいだろうか

もう5回目になる冬の、ある日の朝

ふと、そんな事を思った





『5度目の冬 履歴1』





先日、3年付き合った彼女と別れた

理由は、あなたに愛されている気がしないから...

前の彼女にも、同じような言葉を言われたことを思い出してしまう

彼女とは数え切れないくらいメールをした

数え切れないくらい電話で話した

僕の携帯の履歴は、舞という文字で埋め尽くされている

でも、その回数分に相応しいほどに、二人の距離は縮まる事はなかった

僕が、縮めようとしていなかった

舞の事は、好きだった

今まで付き合っていた女性の中で、間違いなく、一番好きだった

彼女の一つ一つの仕草とか

指を通すと、さらさらと流れる髪とか

たまにだけど、どこか甘えん坊になるところとか

そんな舞のことが、とっても大好きだった

だけど

彼女との距離は、他の人達と、ほんの少ししか変わらない

出会った頃と比べても、それは少ししか変わらなかった

自分でも、彼女に踏み込んでいないことが、よく分かっていた






仕事は忙しい

常に、忙しいようにしていた

あまり多くの仕事のない日も、どうにかして仕事を詰めた

とにかく忙しくして、ただひたすら前に進むために毎日を過ごしていた

周りからは面白みのない奴と言われたが、それでもただ仕事をして過ごした

そんな中で、僕は舞と出会った

彼女とは、帰りによく行くレンタルビデオ店で知り合った

それ以外にも、何故か接点は多く

なぜか同じ時間の電車で帰ることがあり

なぜか同じ時間にコンビニに立ち寄っていたり

なぜか同じ時間の同じ場所の信号で待って

なぜか同じ時間にレンタルDVDを借りて

そんな風に、二人とも意識しあって

同じ時間を過ごすようになり

同じ場所に行くようになり

いつしか、同じ場所に帰るようになっていた

でも、仕事は忙しいままだった

ずっと忙しく働いていたままだった






「あなたに愛されている気がしないから」

舞は、そんな文面のメールで送ってきた

僕は、「そう。」と、それだけのメールを返信した

それ以降、携帯の履歴が増える事はなかった

おそろいのカップは一つになり

スリッパも一組だけ

洗面所の歯ブラシも一本になった

でも、日常に変化はなかった

ただ、床に転がる缶ビールの空き缶が増えていた

コンビニ弁当の箱が幾つも重なっていた

眠るとき、ベッドが広くなった

それくらいだった






子供の頃

宇宙に行きたかった

小学校の頃の作文や卒業文集にもそう書いた

だけど、気づけばそんなことは考える事すら止めていた

ただ、日常を浪費するようになっていた

何の意識もなく高校を選び、大学を選び

自分に合っていそうということからシステムエンジニアになった

そんな数年間のうちに、何人かの女性と付き合った

高校でも、大学でも、それなりの付き合いをしていた

最初に付き合った子は、自然消滅した

初めて体を重ねた子には、他に好きな人ができた

その後に付き合った女性達からは、愛想をつかされた

でも、いつも心が動かされるような事はなかった

ただ、受け止めていた

ただ、そう、とだけ返事をした

携帯の履歴は、その度に0になった

その度に、物が半分になった






小学生の頃だ

最初に、好きになった女の子がいた

同い年の、本が好きで、笑顔が可愛くて、髪の長い女の子

真奈美という名前の女の子

その頃は、本当にずっとこの先も真奈美と生きていこう、なんて思っていた

本当にそんな子供じみたことを思っていた

でも小学校の卒業を前にした三学期の始め

彼女は転校した

親の仕事の都合、ということだった

真奈美が引っ越す前の日、僕らは電話で話した

言葉数は多くなく

でも、時間はとても長く話した

離れたくない

一緒にいたい

手紙書くよ

たまにだけど電話もする

夏休みとか冬休みに会おう

そんな事を話した

でもその最後に、さよなら

そう言われた

電話の中では、何度かごめんね

そう言われた

僕も、ごめん、と何度か呟いていた

あの日、窓の外には雪が降っていた

もう何度も見たはずの雪が降っていた

来年も、真奈美と一緒に見れると思っていた雪が降っていた

でも、それ以降一度も、真奈美と雪を見ることはなかった






いつしか、僕は真奈美のことは、記憶の中に紛れ込んでいた

思い出すことも、もうほとんどない

ただ、子供の頃、真奈美という女の子のことが好きだった

それだけのものになっていた

そして、僕は何人かの女の子と付き合った

デートをして

キスをして

体を重ねて

長い時間を過ごして

でも、別れた

ただ、そんな時だけ

そんな時だけになぜか...真奈美の事を考えている自分がいることに気づいた

気づけば、もうはっきりと思い出せない真奈美の顔が思い浮かべていた

もう会うこともできない、真奈美の事を思い浮かべていた







「キミは...今どうしてる?」

そう、呟いた

ぼんやりと、呟いていた

床には缶ビールとコンビニ弁当の空箱

正面には、暗い部屋に灯るテレビの光

そして、手の中にある携帯が、履歴を削除しました、と映し出していた

とても、空虚だった

何も、手につかなくなっていた

何も...考えつかなかった

ただ無気力に、暗い部屋の中にある光を眺めていた






仕事を辞めた

具体的な理由は特にない

上司からは、引き止められた

それは、少しだけ嬉しかった

でも、気持ちは変わらない

もう、ただ磨耗するだけの生き方を、続ける気持ちにはなれなかった

ただ、忙しいだけの毎日を続ける気持ちにはなれなかった

意味もなく前に進むことに、疲れていた

そして、全ての仕事が片付いた日

少し時間が遅くなった

帰りに、コンビニに寄った

レンタルビデオ店に寄った

そして家に帰り、何度か見たDVDを眺めた

コンビニ弁当を食べながら

缶ビールを飲みながら

ただ呆然と、それを眺めた

そして、何も思うことなくそのままDVDを見終わってしまう

それでも、何も映らない画面を、そのまま眺め続けていた

そんな意味のない時間が過ぎていった

もうすぐ、時計の針は真上を指す

気づけば、自然手が伸びていた

正直、何をしたいのか、自分でもよく分かっていなかった

でも

だけど

声を聞きたかった

無性に、彼女の声が聞きたくなっていた

躊躇しながらも、アドレスの中から名前を探す

そのまま、10分くらいだろうか...画面上の彼女の名前を見続けた

その間ずっと、色々な感情が駆け巡った

でも、ゆっくりと

僕は、そのボタンを押した

耳元に鳴り響く呼び出し音

その音は、今までにないくらいに、僕を苦しくさせた

苦しくて、でも胸を高鳴らせた

こんな想いは、いつ以来だっただろうか

「...あ」

繋がった

「...もしもし...アキ、ラ?」

「うん...急に、ごめん」

「...うん...何?」

「...あのさ」

「...うん」

「...今から、会えないかな?」

「え?」

「どうしても...キミに...」

「舞に...会いたいんだ...」

日付が変わったその日、履歴が一件増えた

ずっと増える事ないと思っていた履歴が増えた

窓の外を眺めると、雪が降り始めていたのに気づく

真っ暗な夜に、白い結晶が舞い降りていた

また、今年もうっすらとだけ積もるのだろうか

もしそうなら、多分駅のホームが混雑するだろう

ニュースでは、雪に足を取られる人が映されるだろう

交通機関がマヒして、この街を生きる多くの人が、大変な思いをするだろう

でも

どうせそうなるんなら、たまには、深い足跡が残るくらいに降ればいいのに、そう思った

子供がはしゃぐくらいに降り積もればいいのに、そう思った

全1ページ

[1]


.
シャッフル
シャッフル
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
友だち(33)
  • 琉歌
  • ハウスRITOKU
  • 沙奈♪**
  • かかし
  • スピードバード
  • もふもふしっぽ
友だち一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事