「拳銃使いの娘」 ジョーダン・ハーパー(2019年、ハヤカワポケットミステリ、1700円) 拳銃強盗の罪で服役していたネイトは、刑期を終えて出獄します。
しかし、シャバでかれを待っていたのは苛酷な運命でした。 ネイトとその妻子への処刑命令が、裏社会の帝王から出されていたのです。 それを知ったネイトは別れた妻のもとに急行しますが、時すでに遅し。
元妻は、再婚相手の男性と共に殺されていました。 時をうつさず、ネイトは小学校校門で娘ポリー (11歳) を待ちます。
もう何年も会っていなかった娘。 その日から 「娘の命を守ること」 がネイトの至上命題となります。 ネイトとポリーの必死の逃避行。
しかし、娘の身の安全を永遠に守るためには、逃げるだけではダメだ。 裏社会組織を相手に、反撃に出なくては...。 無骨な犯罪者の父親と、利発で勇敢な娘。
ハラハラドキドキ感は申し分なし。 ポリーの可愛らしさも印象的で、ひじょうに楽しい読書になりました。 映画化されるそうですが、うまい子役が見つかれば大ヒットするでしょう。
(あの人気映画 「レオン」 に似た設定ですし。) ※権威ある 「MWA賞 (アメリカ探偵作家クラブ賞)」 の新人賞を受賞しています。
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海外ミステリ
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「ザ・プロフェッサー」 ロバート・ベイリー
(2019年、小学館文庫、970円) アメリカの法廷ものミステリです。
ふつうに読み始めたのですが、中盤に差しかかるころ、読むスピードを遅くしました。 つまらないからではありません。 面白くて、早く読み終わるのがもったいなくなったからです。
主人公トム・マクマートリー (68歳) は、アラバマ大学の法学部教授です。
裁判における 「証拠論」 の一大権威であるとともに、学生を育てるのも得意な名伯楽。 長年大学に大貢献してきた優秀な教師なのに、いまかれは、職を追われようとしています。 そんな折り、トムは、むかしの女友達から連絡を受けます。
「娘一家3人が大型トレーラーとの衝突事故で亡くなったが、この事故には不審な点がある。 裁判で真相を明らかにしたいので、助けてほしい」 と。 大型トレーラーの運送会社は、従業員に無理な運行を強いていたブラック企業でした。
このことが明るみに出ないよう、経営者は、脅迫手段を使って社員たちの口封じにかかります。 このへん、とても怖いです。 大学教授であって弁護士ではないトムですが、教え子の駆け出し弁護士に手を貸して...。
というような内容です。 ひじょうによく書けています。
ミステリ部分のハラハラドキドキも申し分ないし、 加齢と病気で弱気になった初老の男が少しずつ闘志を取りもどしていく様子も、ハートブレイキングです。 久しぶりに出会ったブラヴォー! なミステリでした。
わたしの評価は、堂々の5.0です。 |
「IQ」 ジョー・イデ (2018年、ハヤカワミステリ文庫、1060円) 主人公 アイゼイア・クィンターベイ (26歳の黒人青年) は、
名前のイニシャルでもあり、ずばぬけた知能を表す意味も込めて、 まわりから 「IQ」 と呼ばれています。 かれは私立探偵というより、むしろ 「人助けの何でも屋」 なのですが、
いま、まとまった金が必要になって、気がすすまないながら、ある仕事を引き受けます。 <何者かに命をねらわれている有名ラッパーを護り、犯人を特定する> というものです。 冒頭から、やたらたくさんの人物が、ろくに説明のないまま登場します。
わたしの苦手なタイプの小説です。 (わたしは、順を追って進む明快なストーリーが好き)、 途中で投げだそうと思っていると...、おや? だんだん面白くなってきました。 説明はあとからやってきます、それも、かなりきちんとわかりやすく。
IQの兄マーカス、IQの元ルームメイト ドッドソン、その元恋人デロンダ、などなど。 また、IQがなぜフラーコという少年を庇護しているのか、とか。 ゴチャゴチャしているように見えて、わりあい整理整頓が行き届いています。
文章がうまいし、全体に明るくほがらかだし、 かなり楽しい読書になりました。 IQが、からきし腕力のない 「頭脳派」 であることから、
新たなるシャーロック・ホームズなどともてはやされているようです。 これがデビュー作ですから、もしかしたらシリーズ化されるかもしれません。 次作も読んでみたいです。 |
「暗殺者の潜入」 [上・下] マーク・グリーニー (2018年、ハヤカワ文庫、各860円)
いよっ 待ってました!
大好きな 「グレイマン」 シリーズ、最新作です! 今回の舞台はシリアです。
聞いただけでぞわっと鳥肌が立つような危険な場所ですが...。 悪の権化シリア大統領には愛人がいます。 (美しいスペイン人モデル ビアンカ。)
仕事でフランスを訪れたビアンカを、シリア自由連合という穏健な反政府組織が拉致します。 大統領失脚につながる重要証言を、ビアンカから得る目的で。 シリアを泥沼から救うためなら協力もやぶさかではない...という感じのビアンカですが、
極秘出産した生後4ヶ月の息子 (大統領の子) がシリアにいるので、身動きが取れません。 この状況下、われらがグレイマンことコート・ジェントリー (フリーランスの凄腕工作員) に、
「シリア ダマスカスに潜入して、生後4ヶ月の赤ん坊を国外に連れ出す」 という依頼がなされます。 えっ! です。
読者ものけぞりますが、さすがのジェントリーもためらいます。 だって...。 政府軍、それと敵対する反政府軍 (ISなど多数)、 いずれ劣らぬ極悪残虐な集団が、何やらわけの分からぬ闘いをくり広げているシリア。 命がいくつあっても足りないような国です。 しかし、もちろんジェントリーはシリアに行きます。 たったひとりで行きます。
荒唐無稽な話ではありますが、ストーリーテリングがはんぱなくうまくて引き込まれます。
いつものように、数々のアクション見せ場にさしかかるたび、ハアハアとあえぎながら読みました。 |
「そしてミランダを殺す」 ピーター・スワンソン (2018年、創元推理文庫、1100円)
「真打ち登場」 です。 ブラヴォー! の米国ミステリです。
青年実業家テッドは、数々の投資が大成功して、いまや億万長者です。
私生活でも、美貌の妻ミランダと結婚したばかり。 公私ともに順風満帆のはずのテッドですが、じつは大きなトラブルが...。 妻ミランダの不貞を知ってしまったのです。
たまたま飛行機で乗り合わせた若い女性に、つい心の鬱屈をもらしてしまうテッド。
すると、その見知らぬ女性リリーがおどろくべき提案をしてきます。 「そういう道徳観の欠如した人間に、生きる価値はない。 私が助力するから、殺してしまえば?」 妻との離婚が成立するまでの果てしない泥沼 (延々の離婚訴訟・周囲の嘲笑・莫大な手切れ金)
を思って心ひるんでいたテッドは、妙に自信満々なリリーの提案に乗ってしまいます。 具体的な計画にうつるふたりですが、事態は思わぬ方向に進んで...。
主要登場人物4人 (テッド、リリー、ミランダ、その愛人ブラッド) 全員が、
非情なサイコパス人間です。 (暗愚なブラッドが、いちばん人間的かもしれません。) とりわけ、リリーにはビックリ。
彼女の極めつけサイコパスぶりには、ゾッとすると同時に引きつけられもするので、 どうか彼女が破滅を逃れられますように...と、肩入れしてしまいます。 小説最後は、映画 「太陽がいっぱい」 の有名なラストシーンを思い出させます。
おお...!!! という声にならない叫びが、胸中にひびきわたります。 ひじょうにすぐれたミステリでした。 わたしの評価は 「4.9」 です。
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「拳銃使いの娘」 ジョーダン・ハーパー
「ザ・プロフェッサー」
「IQ」 ジョー・イデ (2018年、ハヤカワミステリ文庫、1060円)
「暗殺者の潜入」 [上・下] マーク・グリーニー
「そしてミランダを殺す」 ピーター・スワンソン 





