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  「おまえの罪を自白しろ」 真保裕一
  (2019年、文藝春秋、1600円)

  いままでたまたま読む機会はなかったけれど、
  真保裕一が実力あるミステリ作家であることは知っていました。

  さてストーリーは、ある有力政治家の孫が誘拐されるところから始まります。
宇田清治郎。 埼玉県選出の衆議院議員。 現在6期目。
長男は県会議員、娘婿は市会議員、次男も最近仕事をやめて父の秘書を務めています。

誘拐されたのは、長女の3歳になるひとり娘です。
すぐに犯人側からの連絡があり、誰もがおどろいたことに、要求は身代金ではありません。
「記者会見をひらいておまえの罪を公表・謝罪しろ」 というものでした。
日時の指定もあります。

宇田が 「おまえの罪」 と言われて思い当たるのは、最近、
<『首相のお友達』 に便宜をはかり、県内建設予定の橋の位置を変えたこと。>
いま現在、さんざん野党やマスコミに叩かれている事案です。

この事実を公表・謝罪するということは...、影響が首相におよぶことは必至。
この時点で、首相周辺の与党トップ政治家から圧力がかかり始めます。
この辺のシビアな政界内描写は、大迫力。
(それに、どうしたって、現実の 「森友・加計問題」 を連想してしまいますし。)

ハラハラと、手に汗握るミステリです。
予想どおり、力量のある作家だとわかりました。
  「ノースライト」 横山秀夫
   (2019年、新潮社1800円)

  深い感銘とともに読み終わりました。
  さすがは横山秀夫です。
  古くは 「半落ち」、 新しくは 「64」 で、読書界をうならせた実力派作家です。

主人公 青瀬稔 (40代) は、才能ある一級建築士です。
売れっ子建築士として多忙で華やかな生活を送っていた時期もありましたが、バブル崩壊で状況は一変。
大手建築事務所をリストラ同然に辞めたあとは、家庭も崩壊してしまいます。

数年まえ、大学時代の友人が誘ってくれて、小さな建築事務所に再開職した青瀬。
昨年ある夫婦から、名指しで、新居の設計を依頼されます。

小柄で人の良さそうな夫婦は、信濃追分に80坪の土地を所有していると言い、
「建築資金3千万円で、あなた自身が住みたいと思うような家を建ててください」。

創作意欲を刺激された青瀬は、北向き採光 (ノースライト) のユニークな家を設計します。
この家は、建築雑誌の 「平成すまい二百選」 という特集に取りあげられるほど評判になります。
...が、青瀬は最近、この家が無人の状態になっていることを知ります。

依頼主夫妻にも連絡がとれなくなっています。
かれらの行方を追ううちに、さまざまな謎が明らかになっていき...。
というような内容です。

『家』 というものに対するひとびとの思い入れが、印象深く描かれているし、
子を想う父親の情、夫婦間の愛憎、など、情緒的な内容を語るちからもきわだっています。
多くの伏線が効果的にちりばめられるなど (ブルーノ・タウトの椅子とか)、 とにかく脱帽です!

※殺人はありませんが謎があるので、ミステリというジャンルでよさそうです。

「本性」 伊岡瞬

  「本性」 伊岡瞬 
  (2018年、角川書店、1600円)
  
  まず登場するのは、40代独身の資産家ひとり息子です。
  かれはある婚活パーティで魅力的な女性に出会って、夢中になります。
  読者の危惧どおり、この女には黒い下心があるのですが...。

  こんな感じでスタートするこのミステリ。
筋立てが陳腐でドロドロ系なので、 「なんかねえ」 と斜にかまえて読み始めました。
ところが、読みすすむうちに 「ホオ〜、なかなかやるじゃん」 と見直して...。

先の読めない奇想天外なストーリーなのです。
えっこの若い男だれ? ああ、あのひとの元...?
じゃこのばあさんは? あのひとの...?  つーか、ばあさんじゃなくてじいさん?
この若い女は? これもあのひとの元...で、さらにはこっちのひとの親戚?

こんなふうにさんざんおどろいて前半が終わると、後半は警察捜査にうつります。
50代と20代の刑事コンビが、3件の殺人事件を捜査します。
ふたりとも個性が立っていて、なかなかの存在感です。
やがて、捜査は15年もまえのある事件に行き着いて...。

というようなミステリでした。
パッとしない立ち上がりのわりに、中盤からの盛り上がりがなかなかGOOD!だったのですが、読み終わっての感想は
「終盤のもたつきが気になるうえに、結末にスマートさがない」 でした。
残念!

  「彼女の恐喝」 藤田宣永 (2018年、実業之日本社)

  ヒロイン岡野圭子は、大学文学部の4年生。
  地方出身母子家庭の彼女は、学費・生活費のすべてを自分でまかなっています。
  六本木のクラブで、ホステスとして働いて。

  圭子は、こんなアルバイトをしていても、うわついたところはなく、
出版社勤務をめざして着々と就活をおこなう、いたって生真面目な学生です。

しかし、出版社の採用試験にことごとく落ちて自暴自棄になった圭子は、
店の客に、二千万円という大金を強請る匿名の手紙を出します。
 (この客が殺人事件の犯人だと確信して。)

始めは恐喝者圭子の視点から描かれていたストーリーが、とちゅうで被恐喝者の視点に変わり、
それにともなって、意外な事実が読者に提示されます。

このふたりにそれぞれ、ストーカーじみた男友だち、兄思いの妹などがからみ、
ハラハラドキドキ感が強まって...。

というようなミステリでした。
うーん、悪くはない。 悪くはないが、かと言って、取り立てて良くもない。
かろうじて 「オススメ本」 のレベルに達するかな...。 微妙です。

日ごろ、海外ミステリばかりに目を向けがちなので、
「たまには国内ミステリを」 という気持ちで、迷いつつご紹介 しています。
  「未必のマクベス」 早瀬耕 (2014年 早川書房、2200円)

  最近、新聞読書欄で 「激賞!」 されているのを見かけ、
  ぜんぜん知らない作家・知らない作品だけど...、とためらいつつ読んでみました。

  ほんとだ、すごく面白かったです!
  あっという間に物語に引き込まれました。
「これほどの小説を知らずにいたわたしって...」 と、自分の読書情報網に不安を感じつつ。

一人称主人公 中井優一は30代後半、中堅IT企業に勤務する有能な会社員です。
<パスモのようなICカードを東南アジア各地に販路開拓する> という海外営業が主たる仕事で、
物語は、かれがバンコクでの営業を成功裡に終わらせて帰国の途につくところで、幕をあけます。

乗っていた飛行機の不具合のため、マカオで一夜を過ごすことになった中井と部下。
部下にさそわれてカジノに行った中井は、ツキに恵まれて、360万円もの金を手に入れます。
その金で、香港のとある幽霊会社の株を買うことになる中井。

売りつけたのは、某国 (北朝鮮のこと) 独裁者の息子で...、
その後、香港勤務となった中井は、その幽霊会社と深くかかわることになり...、
その幽霊会社をめぐっては、暗黒の陰謀がうずまいていて...、
中井の身にも危険がせまって、思いがけない殺人が起こり...。

みたいなストーリーが、息をもつかせぬ文章テクニックで描きだされ、じつにみごとです。

ほぼ全編の舞台が外国 (香港)、 という事情もあるかもしれませんが、
スタイリッシュで、どことなく晴朗感があって、何ともカッコイイのです。
「わたしの好きな作家、だれかに似ている...。 だれ? うんそうだ、佐藤正午だ!」 という感じ。

ですが...、後半3分の1で、失速が始まります。
ストーリーに破綻が始まって、 「は? なに? どういうこと?」 というツッコミを止めることができません。
かなりガッカリでしたが、前半の鮮烈な印象は残っているので、むげに捨て去るには忍びない作品でした。

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