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(2018年、東洋経済新報社、1620円) AI第一線研究者の著者は、2011年、 「東ロボくんプロジェクト」 を発足させます。
<AI (人工知能) が東大入試を突破できるか> を検証する10年計画プロジェクトで、 100人規模の研究者たちが、チームを組んで参加しています。
10年のタイムリミットが近づくなか、 「東ロボくんの東大合格は不可能」 という見通しが強まっています。
(MARCHレベルならば可能だそうです。) 将棋やチェスの名人を破るほどのAIが、なぜ東大入試で苦戦? (じつは、国語や社会の論述問題でつまづく。)
このへんから、「AIとは何ぞや」 の、ひじょうにわかりやすい解説が始まります。 まず 「AIは、考える・推論する・理論を学ぶ、などが苦手」 という意外な指摘があります。
将棋やチェスでAIがやっているのは、統計処理・確率処理にすぎないそうです。 あらかじめインプットされた膨大な対戦データを驚異的スピードで読み取り、勝利につながる手を見つける。 だから、AIを用いた自動翻訳機などは、開発がひじょうにむずかしい。
膨大な対訳データを用意してインプットする必要があるからです。 *対訳というところがミソ。 ただ外国語文だけ入力しても、翻訳の役には立たない。 *また、AIに文法理論を教えるなど夢のまた夢。 こんなふうに読んでいくと、なるほどねとわかってきます。
『AIがいずれ独自の 「意志」 を持って人間を支配する日が来る』 的なSF風発想はナンセンスだと。 ただ、得意な統計・確率処理分野では人間の追随をゆるさないAI。
今後さまざまな分野で人間の仕事を奪っていきそうです。 (向こう10〜20年後になくなりそうな仕事がリストアップされています。) こんな中、AIに苦手な 「思考・推論」 を用いる仕事は生き延びるわけですが、そもそも、この種の能力に秀でているひとがひじょうに少ない。
小・中・高校生の多くが、教科書の文章すら満足に読解できない現状 (大規模な調査で判明) では、 将来、AIとの仕事争奪戦で敗退するひとは増えていくばかり...。 ...といった内容の、じつに明快な一般読者向けAI解説本です。
とてもすぐれた本だと思いました。 オススメです! |
エッセイ・ノンフィクション
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「モラハラ妻 解決BOOK」 高草木陽光 (2019年、左右社、1700円) 図書館の新着リストでこのタイトルを見て、
「こ、こ、これは借りるっきゃない」 と思いました。 私自身がかなりのモラハラ妻であり、そのことで心の負い目を感じているからです。 あっさりと手に入ったこの本、 (予約待ちはほとんどなし)、 表紙にはタイトルのほかに、
「心が折れそうな夫のための」 「4タイプでわかる」 「理由がわかればうまくいく」
などのキャッチコピーが踊っています。
読み始めると、この本のノリが 「真面目」 でなく 「笑い」 であることがわかってきます。
ついプッと吹き出してしまう ところがたくさんあります。 たとえば、終盤の悩み相談事例には、夫からの切々たるうったえが並んでいますが...。
*妻が家事をほとんどやらないため、私の家事分担がひじょうに多い。
でも文句を言うと不機嫌になるので、ドキドキしてしまう。 *妻のルールが多くて自宅でくつろげない。
外出先から帰ったら、すぐお風呂に入らないとソファーに座ってはいけないとか...。 *妻の暴言をまねて、4歳の息子が最近、 「クソおやじ」 「テメー」 「ふざけんな」 「サッサと動け」
などの言葉を使うのでショックである。 おかしい、何だかおかしい。 気の毒だけどおかしい。
夫婦の立場が逆だと、たちまち深刻な事態となって、笑いどころではなくなると思いますが。 |
「自炊力」 白央篤司 (2018年、光文社新書、800円)
「よもや (ぜったい、断じて) 結婚はあり得ない」 と思っていた長女が結婚しました。
家事能力はゼロで、とくに、料理などやったこともありません。 不安がつのるなか (本人はわりとのんき)、 この本に出会いました。 「『料理、料理』 と肩ひじ張らなくても大丈夫ですよ」 と、全編をつらぬくやさしい語り口が、何ともうれしい。
食事というものはつぎの3種類がそろっていればOK、と著者は言います。
①主食(米、麵、パン、などの炭水化物) ②主菜(魚、肉、大豆加工品、などのタンパク質) ③副菜(野菜類など) だから、このすべてを含むハム野菜サンドイッチは、梅干しおにぎりなどよりマッチベター。
合わせて牛乳も飲めば、じゅうぶんランチとして成り立つ。 コンビニ店内でこう考えることが、もうすでに 「自炊」 なんですよ。
えっそうなの? そんなゆるい考え方でいいの?
ゆるゆる路線 (「ムリをしないで、できる範囲で自炊してみましょう」) はさらにつづきます。
*カップ麵に温泉卵を割り入れ、貝割れなどの野菜を少し乗せる
*冷凍野菜をレトルトカレーやレトルトシチューに混ぜ込む (セブンイレブンの 「イタリア産ミックスグリル野菜」 はとくにオススメ) *豆乳にベーコンと冷凍ブロッコリを入れて温め、うすく塩味をつける などなど、具体的ヒントがてんこ盛り。 冷凍食品、レトルト食品、できあい総菜 を進んで取り入れつつ、上記①〜③をめざすわけです。
なーるほど、これならうちの娘にもできるかもね...。 「ひとり暮らしの男性」 を主たるターゲットにしているであろうこの本、
料理音痴の新米主婦も、 (その心配性の母親も)、とても助かっていますよ。 ありがとうございます! |
「ハリエット・タブマン」 上杉忍 (2019年、新曜社、3200円)
3月発行、新刊ホヤホヤの伝記です。
新聞書評を見て、すぐに図書館に走りました。 (予約待ちなしですぐにゲット。)
ハリエット・タブマンという黒人女性、いったいどういうひとかというと...。
1820年アメリカ南部で奴隷として生まれ、のちに 「地下鉄道」 運動の優秀かつ強力な活動家となったひとです。 「地下鉄道」! そうです!
南部の黒人奴隷を北部に逃がすための地下組織です。 その名も 「地下鉄道」 というタイトルの小説を去年読んで、心の底から震撼したわたしです。 恐怖に満ちたあの小説にくらべると、タブマンの活動はもう少し安全で落ちついた感じですが、
それは、地理的条件のちがいもあるようです。 小説の舞台はミシシッピ州、アラバマ州などの深南部でしたが、タブマンが生育したのはメリーランド州。 比較的北に位置していて、奴隷のあつかいも、深南部よりはおだやかだったようです。 30歳くらいで奴隷主の元から逃亡したタブマンは、家族を救い出すために何度も南部に戻ります。
そして、家族以外にもじつに300人もの奴隷たちを、地下鉄道組織で逃がしたのですが、
そういうことができるだけの、強靱な肉体と鋭い知性を備えた女性だったようです。
無学な文盲だったにもかかわらず、教育のある白人活動家たちと、対等な信頼関係を築いたタブマン。
「私は地下鉄道の車掌として八年間活動してきましたが、一度として脱線させたことはありませんし、一人の乗客も失ったことはありません」
という誇り高い言葉が有名です。
ひじょうに興味深く読みました。
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小室直樹という学者、
東大で10年余にわたって開いていた 「小室ゼミ」 には、橋爪大三郎など、優秀な弟子が集まったし、 その学識・知性は、ほんとうにすばらしいものがあったようです。 でもそのいっぽう、かなり奇矯な性向のひと でもあったらしい。
ロッキード事件での田中角栄擁護事件が、その代表例のようです。
テレビ番組で、田中擁護のコメンテーターとして出演した小室、 田中批判派と討論しているうちにとつぜん激高して、 「田中を有罪にした検事を殺せ! ひとり残らず殺せ!」 と叫び、仰天した番組スタッフによって、強制退出させられたらしい。 (すごいエピソードです!) 小室の理屈はこうです。
*田中角栄は政治家としてひじょうに優秀である。 *優秀な政治家は、汚職などの 「つまらぬ」 ことで断罪されるべきではない。 *優秀な政治家は、国や国民を守る存在なのだから、ほぼ何をしても許されるのである。 フーム。
わからないではない理屈です。 以前新聞で読みましたが、 ①清廉だが無能な政治家と、 ②汚職をするが有能な政治家と、ではどちらを望むか というアンケート質問に対し、フランス国民の大半は②を選んだそうです。 話が逸れました。
この本、ひじょうな力作評伝であることは間違いないので、興味のあるかたは読んでみてはいかが? |
「モラハラ妻 解決BOOK」 高草木陽光
「自炊力」 白央篤司
「ハリエット・タブマン」 上杉忍 





