北海道小樽の老舗洋菓子店「あまとう」の名物、 「小樽サブレ MARRON CORON」だ。 ひと目見ただけで、そんじょそこらのサブレとは違う何かを感じる。 それは何なのだろう? 港町には特有の異国情緒があり、そこで生まれたものには、 そんな異国情緒がごく自然に内包されているものだ。 僕が感じた「何か」とは、その異国情緒なのだろうか? いや、それだけはない気がする。 それが何なのか?口にすればわかるだろうか・・・。 味は4種類。ウォナッツ、アーモンド、チーズ、カカオとある。 デコラティブで高級感のある包装が味への期待を高める。 実際ひとつ140円とサブレにしては高級だ。 どのサブレも大ぶりな正円形。 カカオ以外は一見同じに見えるが、サブレ表面の肌触りや色合いが微妙に異なる。 練りこまれている材料による違いなのだろう。 シンプルな形だからこそ、そんな違いが引き立つ。 手間がかかっていることに、側面にはチョコレートのコーティング。 しかもチョコレートの種類はブラックとホワイトの2種だ。 たぶんそれぞれの味に合うチョコレートをコーティングしているのだろう。 普段、サブレの味にはさほど期待しないのだが、ここまで凝っていると否が応でも期待は高まる。 いつもより期待を込めて、ひとつを齧った。 サ・・・クサクサクッ! な!なんだこの噛み心地は!? 歯ざわりは軽やかなのに、口中には十分な重量感が押し寄せる。 このサブレ、何か不思議な構造をしているに違いない! 断面を確認してわかった。 なんとこのサブレ、3枚重ねにした薄いサブレを側面のチョコレートによって固定していたのだ。 この手間のかかった独特の構造が、あの贅沢な食感を生み出していたのだ。 贅沢な食感・・・。 このサブレを見た時に感じた「何か」の正体がわかった気がした。 それは贅沢感。このサブレには、外に滲み出るほどの「贅沢」が込められているのだ。 老舗洋菓子店「あまとう」がこのサブレの販売を始めたのは昭和35年、やっとカラーテレビ放送が始まった年だ。 きっとその頃、洋菓子を食べることは今よりずっと贅沢でハイカラな行為だったに違いない。 そして洋菓子は、それを食べる人を満足させるべく、贅沢な質と雰囲気を備えていなければならなかった。 決して「普段づかい」であってはならなかったのだ。 だからこの「小樽サブレ MARRON CORON」は、こんなにも凝った構造に作られ、 華やかに包装されたに違いない。 興味深いのは、その時このサブレに込められた「贅沢」を21世紀の現在でも感じることができること。 今、洋菓子を食べることは贅沢な行為では無い。ひとつ140円は高価ではない。 それなのに、このサブレに確かな贅沢感を感じるのは、この贅沢感が高級な材料を使うことではなく、作り手の工夫と心遣いによって添えられたものだからなのかもしれない。 時代を超えて生きる価値に、出合った気がした。
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2008年10月06日
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