「神風戯言」

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「1986年 11月×日」

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※このスペースに書かれた内容はフィクションです。
また、映像は本文とは直接関係ありません。




++ ++




いまM田のスタジオにいる。


パンクとハードロックが好きな自分なのだが何故かこうして今は「レベッカ」の「半」コピーバンドにいる。 ベーシストとして。 それは太鼓のZ間先輩との関わりによるものであり、先輩とは部活と地元つながりなのだ。 ベース技量をあげたいから取り合えず片っ端からバンドを掛け持ち。 バンド名は


「コーヒー○乳」


もともとこのバンドは年上で看護婦のA'子さん(あとに出るA子と区別するためA'とする)が作ったバンドなのだが何かの理由で気がつけば脱退していて、そこに女子高生ボーカル「A子」が加入。 彼女の加入した経緯もよくわからない(何て無関心なのだろう)。 前ベーシストは今やAE86を乗りこなす走○屋となり箱○1国や大○水峠でドリフト中。 かく言う自分も二輪の走○屋だけど。


ベースは俺、太鼓はZ間先輩、キーボードはZ間さんの知り合いの「一見温厚そうな」W田さん。 しかしZ間先輩の話ではW田さん、実は高校の先生と喧嘩して中退している。 今ではウェットスーツを作る小さな会社に勤めていておばあさんと二人暮らし、W田さんの家がバンドのミーティング場になっている。ギターはO野に住むSさん生粋のRock’nRoll好き、サンハウス〜シーナ&ロケッツのギタリスト椎名誠を崇拝しているが、その手の音楽は悪いけど俺の範疇外。 因みにSさんのおやじは有名な漫画家だ。


そしてボーカルのA子。 ショートカットで目がクリクリした「活発過ぎる」ボーイッシュな女子高生、小○急沿線の某女子高校に通うらしいが俺は苗字も知らない。 とにかく良く喋りまくる子さながらマシンガン「うるせ〜」よう。 W田さん家でミーティングする際もこの子は野郎の取り巻きの中全く臆せずとにかくウルサイ。 


この間も自分がオニギリをほおばる様を見てすかさず「あ〜〜お茶でオニギリ流しこんでる〜〜がめつい〜〜〜ギャハハハハハ」、鬼の首でもとったかのように囃し立てる。 気に入らねえ。 女に上下関係説教する気はないけどさ。 しかしA子のゲタゲタ笑いが大人になりきれない自分の気持ちを逆撫でする。けっ。


次回スタジオの課題曲はレベッカの「ムー」とかいう曲。 それにバンドのオリジナル曲「モノク○ーム・イエ○タデイ」。 もう1曲はこの間いきなりFMでかかってビックリした「パー○ル・ラッキー○ター」、Sさんがバンドに内緒でデモテープを送ったとのこと。 そのほかSさんがオリジナル曲を披露するらしいから全部で4曲。 


皆、スタジオの予約日にあわせて練習してきた。 M田のスタジオ管理人はZ先輩の知り合いでOさん、 あまり喋らない人だがいつもニコニコ感じの良い人だ。 Z間さんに依ればブルースギターを弾かせたら皆惚れ惚れするうまさらしい。 スタジオ予約時間20分前に全員集まる。 受付前の長椅子に座り音楽とは全然関係ない事を話してリラックス風。 スタジオはわりと盛況していて夕方は高校生から大学生までわいわいガヤガヤである。 「タコ焼き天国」だかなんだかっていう「ク○くだらない番組」も影響しているのだろうか(何だよバンドブームって)。 駅に近いということも原因なんだろうが。


譜面の全く読めない自分とSさんを前にW田さんがコード譜なん広げている。 スタジオ開始まであと10分、その傍でボーカリストA子はいつものようにギャーギャーうるさい。 Z間さんが相手してるから少し離れようっと。 耳コピーした「ムー」のベースラインをイメージトレーニングだ。 何回かリフレインしてふと気がつけば、A子のガーギャー声がやんでいる。 


「おめえ何やってんのここで」


制服を着た女子高生3名がA子を囲む。 金髪に限りなく近い茶髪に目もとはパンダみたいな化粧、一瞬スターリンのボーカル遠藤ミチロウ師匠かと思ったが違う。 テラテラ光るピンクの口もと、天ぷらでも食べて来たのだろうか? 


「おめえいきがってんじゃねえよ」


うつむくA子、そしていきなりの状況変化にたじろぐ我等。 A子、この怪物たちを前にさっきの元気は無い。 化け子たちはさらに傷口に塩でも擦り込むように、押し黙るA子を罵倒し続けている。 あまりの下品言葉に何いってるのか途中から聴き取れなくなった。 受付のニコニコOさんも顔を硬直させ静観している。 ただただ下を向くA子、我らはどうしてやればいいのか。 


A子の世界があるのだろう。 女子の世界は複雑そうだから安易に化け物退散図って良いものか?  横でただ聞いててもネチネチと。 こんな世界にいるのかA子は・・。 ただただ押し黙るA子。 いつものあのク○ウルサイ元気は、この「化け物」から解放された反動なのかもな・・。 


待望のスタジオ時間。


しめたとばかり、A子の手を引っ張り化け物から引き離す。 自分を睨めつける化け物トリオ、化け物の上に化け物のメイクしてるから本気でおっかね〜〜!


「こんなところまでわざわざ来て、お前らも相当暇やのう」



とは言わず睨みかえすと、薄笑み浮かべ「けっ」だか「ちっ」とかいいながら飄々とスタジオを出ていく。 帰れ帰れ〜! 何も言わずAスタに入る4人、トレースエリオット(ベースアンプ)のスピーカーを太鼓に向けてからエフェクターのプラグを入れる自分。皆も黙々セッティング。 何かA子にフォローしてやりたいが、プライドの高いA子にはかえってそれが辛いのが実に良くわかる。 だがスタジオが重苦しい雰囲気なので敢えて言ってみた。


「なにあのブ○連中」


ニコリと無理に笑うA子しかしやっぱり冴えない。 再び押し黙りホルダーにSM58をさしこんだ。 「ほんじゃあムーやってみようかあ」ラジカセのスイッチをONしてとりあえずスタート。 洋楽好きな自分は
もちろんこの曲の歌詞なんか知らない。 W田さんのシーケンサーが鳴りそのテンポに合わせミュートでリフを弾き始める。 


歌い始めるA子、順調にスタートしたかに思えたが、2番の歌詞を歌い始めたころ嗚咽をあげはじめた。 顔は涙でぐしゃぐしゃ、完全に歌は止まる。 さっきの非道い仕打ちを歌いながら思い出したのだろう。


演奏を中止して「大丈夫かよ」と聞くが、気の強いA子が「だめ」なんていうわけがなく。 再び2回目のトライ、だがやっぱり2番目の歌詞がはじまると歌は止まった。 そんなことを5回ほど繰り返したがこれ以上続けるのは此方もシンドイので作戦変更。 残り時間をオリジナル曲製作に引き当て時間を潰す。 その間A子は椅子に座り床をじっと見つめている。 


スタジオ練習は結局アドリブ大会になった。


スタジオ代を払うとA子は言い出したが皆は勿論そんなのいいよ!と断る。 励まそうと居酒屋に誘いたいところだが高校生だから勿論ダメ、じゃあマックに行くかと聞けば「今日はもう帰りたい」という。 そうかわかった元気出しなよと、M田駅まで見送る。 最後には笑顔でありがとうと言い、別れた。 そしてその後、再びスタジオに来ることは無かった。 A子の進退とは関係なく、程無く自分もバンドを去った。




どこかで元気に暮らしてますように。




(おしまい)


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