「神風戯言」

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「197×年 6月×日」

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※このスペースに書かれた内容は全てフィクションです。
また映像は本文とは直接関係ありません。




++ ++




この円形の塔を僕たちは「おおづつ」と呼んでいる。




漢字にしたら「大筒」。通う中学校からおよそ4kmほどのところにあるこの「おおづつ」、どうやら浄水に関連したものらしい、という事まではわかっているけど、まあ結局のところそんなのどうでもいい。



「ただ、大筒を登るのみ」




塔の大きさは直径15mほどで高さもやっぱり15mほど、かなり大きい。 コンクリート製で表面はザラザラかなり粗い質感だ。 所々コンクリがポロリ欠け落ちていて、その断面部には3センチほどの石の頭がゴロゴロ突出してるがこれ、芯材みたいな役割なのだろうか。 塔(いや筒か)の壁面はサビサビの梯子が1つだけかかっている。 それは塔の株から頂部まで達しているのだが、全体的に朽ちてかなりボロボロ。 所々脚をかける横の鉄棒まで朽ち落ちているので(腐食だろう)頂部まで登るとなればそれなりの覚悟と勇気(?)がいる。 何しろこの高さだから、まあ、落ちたら死ぬだろう。 

横の鉄棒「2本飛び」の箇所が、その途中に2箇所ある。 夏になると塔の周囲全面にツタが生い茂り、大筒はよりミステリアスな雰囲気となる。 戦車好きな自分から見たらココ、殆ど要塞、なんかのダイオラマにでてきそう(秘密基地みたい!)。 そういえば一昨日Iちゃんに見せてもらった九七式戦車のプラモはホントにカッコよかったなあ〜。 でもタ○ヤの1/35は自分にとっては高いし、ちょっと大き過ぎ。作ったら母親は怒るだろうし。 僕は見るだけにし〜ようっと。



暇つぶしに入った部活。 ほとんど体育館に入った試しなし。 



まるで帰宅部、サボリの常連。 だって、つまんないんだもん。 本日も最後の授業がとどこおりなく終わり、事前にしめし合わせたブーさんやT君、I君、ひ○あき(彼はT君と同じ名前なのだが、T君は彼を自分と同じ名前で呼ぶ。なんか変な感じ)が中庭に集まる。 これがレギュラーメンバーだ。あとは日ごとメンツが変わる。 僕たちは授業を終えると部活の活動場には当然向かわず、体育着を着たまま大筒を目指して歩き始める。 そこが別にどうというわけでもないのに。 

中学校の校門を出て、T坂を登りS公園を目指す。 途中の砂利道をあ〜だこ〜だ言いながら進むのだが、相変わらずこの道は閑散としていて寂しい。 車も殆ど通らないから、女子はこんなとこ夜危なくて歩けないでしょう。 しかしまあホント静かだな・・。 やっぱりウチはイナカなんだろうなあ。 とぼとぼ進みながらあれこれ思案。 来年は3年生だし、高校の事とか進路を真剣に考えなきゃいけないんだろうけど、でもやっぱり今は考えるのは、いいや、ヤメタ。 皆も同じ気持ちなんでしょう、そんな話題はぜんっぜん出ない。 今みんなの目的はただひとつ、



「ただ、大筒を登るのみ」



砂利道を進むと、途中広々とした畑となる。 そこから大筒までは目と鼻の先だ。 そうそう、トボトボ歩いてきたこの路は、毎年開催される持久走コースの一部になっている。 持久走に関しては得意でもないのに変なリキが入る自分、やはり親父の影響だろう。 今年もあわよくば自分とM、それにSとIとで、表彰台の一番高いところ目指して戦いたいところだが、昨年はMにゴール手前800mほどでスッパリさされた。 チクショー。 我が学年最速、サッカー部の彼は、噂では最近になって夜練習を開始したらしい。部活が終わってからまた走るなんて全く信じられないけど、何しろピュアで男気を感じるいい奴だから、それはあり得るだろう。 だが自分は夜走るのはダルいから朝練しようっと。



S公園の西側を突き抜けると、ようやく大筒。 



登ってもし落ちたら死んじゃうわけだし、皆その不安を払拭したいのでしょう、ベラベラ多弁になってきた。体育館の端から端までバック転できるジャッキー・○ェン好きのブーさんも少しずつ興奮してきた油ようだ。 大筒まではあと30メートル、筒の威容を目の前にして皆、再び寡黙となる。やっぱり遠目で見るより高さがあるなあ。 こええ。 思わずたじろぐけどまあ、とにかく目的を果たそう。 

ボロボロの梯子の下に到着。 皆の意思をここで確認、全員「登ろう!」。 まずはブーさんから。 軽々とクライム開始、そして2番目に自分、次にI君、T君、ひ○あきの順だ。 高所と閉所の恐怖症の疑いがある(とみなに言われた)自分はクライム中、極力そのそぶりを見せぬよう努める。 内心では毎回登るたびに心臓バクバク、口からビョッと飛び出しそうである。 登り始めの部分と中間地点に例の2本飛びセクションだ。 鉄棒懸垂のようにして何とかクリアする。 下を絶対に見ないように・・。 はあはあ。 どうにか今回も登頂成功〜! 



「ただ、大筒を登るのみ」



筒の丁部。 筒の外壁の厚みが確認出来て50センチ近くもある。 かなり頑丈なつくりだ。 筒の内部はたっぷりと水がなみなみと。 内部壁面には一応梯子も掛けられてはいるが、泳げない者は落ちたらおそらく黄泉の国だ。 この危険な状況に得も言えぬ達成感を得る僕たちはひょっとして「マ○」なのかもしれない。「○鹿は高いところが好き」、それは間違いなく僕たちの事だろう。 



「ただ、大筒を登るのみ」



慎重に大筒から降りた。
明日も多分、ここに来るだろう。




(おしまい)

「199×年 11月×日」

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++ ++




今週も恙無く仕事は終わり、いつものように南伊豆。



ここ半年。 金曜の夜仕事が終われば逗子の会社の寮には帰らず、そのまま直接南伊豆へ向かうパターンである。心から、南と西の伊豆海(いずみ)を愛している(きゃ〜言っちゃった言っちゃった)。 仕事は俺にとってはそれ以上でもそれ以下でも無く、ただただ、プライベートな時間を充実して過ごすための資金稼ぎであるということに他ならない。 家族を持たず、自分にとって100%ピュアで完全なる時間を捻出しようという姿勢、これは高校時代の恋愛トラウマから来てるのかも知れない(ばははは)、けれども、そんなこともう今更どうでもいいや。 自分が幸せでなければ他人を幸せに出来る筈もないしと自己弁護しつつはや30代。 へっへっへ。

行軍の際は、自分は波乗りするのが主目的。 だからサーフボードを車に積むのは当然なのだが、そのほかにも第二第三の目的達成グッズも用意。 それは例えば「素潜りセット」「バーベキューセット」「カヤック」「サンドバッグ」「プラモデル(模型 がはは)などである。 自分の好きな漫画「浮波雲」や「二十手物語」なんかも数十冊積んではいるけど荒天時以外は結局読まないことが分かった。 何しろ、目の前に広がる砂浜と海岸が、最高だからねえ。




何しろ、景色が最高。




今週は、上に加えて自分の尊敬するK-1ファイター「アー○スト・ホースト」の教則ビデオを入手したからさらに御機嫌である。 ジムの会長ヨハン・○スお得意のパンチとキックの対角線攻撃パターンなんかをじっくり酒を飲みながら車中で検証する。 ああ考えただけでも、なんて至福の時なんだろうと思うわけで。 左のジャブ連打から左フック、そしてハイキック(なんてね〜)。 ちゃ〜んと、サンドバッグ(いや正確にはウォーターバッグか)も積んである。 ビデオ見たら蹴りたくなるのは当たり前だし、波がなきゃ明日は朝から浜で鍛錬じゃ、お〜!(ははは) 明日は野となれ山となれ。



逗子から3時間程して到着。 ここが自分の、第二のふるさと。



愛車「般若号」も外見はだいぶくたびれてきた。 逗子自宅の駐車場が海岸から数百メートルだからだろう、塩害で板金がボロボロだ。 プラスして例の「NOX規制」とやらが深刻な問題、来年はこの般若号もそれに該当し、車検を通すには「NOX」排ガス量を緩和する触媒(マフラー)をつけなければならないのだが、それがン百万円もするらしい。 金のない自分からしてみれば「なにそれ」って感じである。今や般若号の身の降りを考えてやらねばならない、多分いや、おそらく廃車だろう。 売った人も規制した人も俺から見れば自作自演の茶番にさえ見えてくる。 くっだらね〜!なんて。 誰か一握りの人間はこの状況笑ってるんでしょうけど、まあ、よい。世の中そんなもの、しかし最後はちゃんと、なるようになるもので、得た分以上に寂しい思いをするのが常。 ピュアな気持ちで、俺は死ぬまで背伸びすることなく生きましょう(と自分に)。  



満天の星空、南伊豆。



Y浜の素晴らし過ぎる夜空の眺め。 キラキラ輝く星屑はあたかも粉々になったパン屑、それをまぶしたように天上のドームは覆われている。 俺には天文学とかの学は無いけど毎週この凄すぎる夜空が見れるだけで幸せだなと〜と、見るたびに思う。 冬の夜空にただずむ30代の男ひとりは絵的にさえないが(ぎゃはは〜)この先何十年もこうしていたいと、心の底から思う。 まあまあ、とりあえずビールをグビグビ。うまいのう〜。



徒歩移動して隣のOヶ浜。 ここで焚き火をするのがいつもの締め。 



いつもの定位置に。 50センチほどの石がゴロゴロしているT岬への登り口から数十メートル離れたこの場所に、会社で廃材廃棄となった輸入品用梱包木材を細かく切断、その下にはネジリンボウ状態にした新聞紙を20本ほど敷いて着火。 傍には海水が満ちたバケツを用意して消火万全の体制、右手に持つウチワを鬼のように仰ぎ、火を際立たせ、十分に風と空気が注ぎ込まれて、ボウッと。 こうなったらシメタモノ、火力が弱まらぬよう木屑や新聞紙を満遍なく補充しながらも空気穴を塞がぬよう細心の注意。火力は安定、よし。 落ち着いて、ゆっくり酒を飲もう。 




クーラーボックスから、冷酒。 ヒンヤリ冷えたそれを、おもむろに紙コップへ。



グビリと、うまい。 焚き火は、焚き火をすると「愛おしい」気持ちになるとジョージ秋山先生の書かれた「浮浪雲」の中で、その主人公浮第浪雲は語る。 自分もそのような気持ちになりたい、しかし邪心のカタマリである自分には毎回それをパーフェクトに感じることは出来ない(勿論修行不足なのでしょう)、だが焚き火をするたび、何か神々しいというか、ニュートラルな気持ちにはなる。 パチパチ音をたてて燃える焚き木を観ながら酒を飲むだけで、心の底から安堵と充実感を得ることができる。 嗚呼、俺は生きていると、精神安定剤の役割。 心が洗われる、浄化される瞬間。 



さて、水平線に、大挙釣り船。



イカ釣り漁船だかなんだか知らん。 右にいったり、左に行ったりせわしない。 だがこうこうと輝く灯火が水面に映ってえらく綺麗だ。 そんなふうに見えるのは酔っ払っているからもあるのでしょう。 ほう、ジリジリと焼け音をたていいニオイのハマグリちゃん。 醤油を上からちょっと垂らしてジュッ。 フーフーしながらパクッ。おいちい〜〜。 明日は低気圧が二個玉、下から来るらしい。 波も上がるだろう。




明日と、明後日は。




波のことだけしか考えないで生きようっと(は〜しあわせ〜)。




(おしまい)

「198×年 11月×日」

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いつものように午前6時半に起床、とりあえず高校へ行くフリの準備を始める。 朝飯をさっさと済ませたあと、肩にかけるスポーツバッグの中には、教科書の類は何も入っていない代わりにベース用エフェクター「BOSS コンプレッサー/リミッター」と「BOSS フランジャー(これはLOUDNESSの『LOUDNESS』曲中に始まるベースソロ用)とシールド(安物でしょっちゅう断線する!)一式。 来年は3年生になるというのにこんな感じでいいのだろうかと自問自答しつつも、いつも通りママチャリにまたがる自分。

出発15分後。 Fパーク前の坂は結構きつい。 Tは高校まで10km近くを毎日チャリ走してるけど考えられん。 うんしょこうんしょこ汗まみれになって登るその先には、最初自分が入学目指していた高校(でも入らなくて良かった!バンドはこっちのほうが盛んだし)、素通りしてさらにその先へと進む。 C科学研究所を超える頃には平地となり、自然とチャリもスピードが乗ってピュー。 とりあえずS駅を目指し学校へ向かうフリをする自分、しかしなんだかもう腹が減った。


「はああ〜」


S駅周辺を少しウロウロ、そこに「ユービー」がいた!


中学の同級生「ユービー」、バッタリだけどたぶん違う、彼はおそらく自分を待っていた。 
某有名私立高校に通う彼は中学のころからおとなしい、けども、とある女性小集団に人気がある存在で、この点は何故かわからんが自分もその対象の中にあり、彼に対する妙な連帯感を自分だけもっていた(クラスも違うのに)。  


始業の時間が刻々と迫る中、我々はその行くべき先と異なる、とあるマンションへ向かい、その青塗り螺旋状の非常階段をカツカツ登り始めた。 おいちに、おいちに。 やっぱり「ユービー」もまんざらじゃないみたい、誘った始めは「いやマズイす今日は」といいつつ、意気揚々とこの階段を上っているように見える。 


最上階まで上り詰めた。


天気は快晴、秋のサラリとした風がなんとも心地よい。 ここから見下ろS駅の風景は、海とか山とかは無いけれどもなかなかのもの、空気も澄んでいるのか、町の細部が手に取るようにわかる。 出勤途中の人や通学途上の学生達が、アリのごとく駅ビルへ吸い込まれていく。 まったく御苦労さんである。  さて、腹も減ったし、目的を果たそう。


カバンからゴソゴソ、親が作ってくれた弁当を取り出しムシャムシャと。 まだ午前9時10分過ぎである。 ウインナーの根元に切れ込みが入り、その裾部分は「タコ」さん状にびょ〜んと開いている。かわいいでないの! ご飯の上には自分が大好きなイ○イのハンバーグ(しかも鳥肉)がベッチョリと。 おもむろにそれにハシを突き刺しパクリ。 「うめえです」


ユービーも御満悦だ。 弁当もうまいのでしょうが、よほど学校がツマランのでしょうねえ。わかるわかる。 明日もさそってみっか(嫌がるかな?)。 腹も膨れた。 ちょっと食休みしたらMまでチャリ走して、買いもしない(買えもしない)メサブギのアンプでも見にいくかな〜。 アンペッグのSVTがいいな。 モトリークルーのニッキー・シックスも使ってるし。 


店長、今日いるかな?


(おしまい)

「199×年 10月×日」

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今週も終わった。 いつものように会社を出てから逗子寮には寄らず、そのまま愛車ハイエースを伊豆に向け走らせる。 サーフボード、ウェットスーツ、サンドバッグ、酒その他もろもろ必需品を載せた我が愛車はひとまず134号海岸線を西へ西へと突き進む。寝袋も2つ用意してある。 明日明後日は朝から晩までサーフィン三昧だ! 向かっている台風の影響で車は大きく揺れる。こんなじゃ熱海ビーチラインは通行止めかも。  


台風が北上中しかも二子玉、予定進路からみて伊豆は大荒れ間違いなし。 ワイパーの音を聞きつつ今後のシュミレーション、まず今夜は台風直撃だ。 進路下にある伊豆地方はモロ暴風圏内に入る。 通過は夜半2時頃だから明朝は台風一過で晴れ上がるだろう。 そして台風が掻きなでた海面はザクザクのボッコボコ状態、沖合で形成された爆弾のようなものすごいウネリが次から次へと押しよせる1日。 


ファンサーフ出来るのは昼以降あるいは午後からだろうか、午前中は決死の覚悟で海に入ることになろう。 あるいは全く入れないかもしれないけれど、それにしてもその間は


「団地が動いているような」


凄まじくデカイ波コイツを朝から存分に眺めることが出来る。 嬉しいじゃないか! 自然の脅威を目の当たりできる瞬間、体験できる瞬間を毎週ここで待ち続ける自分、今日が待ちに待ったその日なのである。 カレントを利用し隙あらば朝からコイツに真っ向挑んでやろうとか思うのだが、実際その怒りの海を見れば最初はやっぱり間違いなくヤバイ!と思うのである。 このUヶ浜は普段海水浴場でありサーフィンには適していない。 ドン深のこの浜はサンドバーの形成だのはあまり関係なくていつでもバクダンパーだ。 ひょいっ、と上がった次の瞬間爆裂する波。 普通サーファーには嫌われる波・・・。 


それでよい。


こんなデカ波があがる日を首を長くして待っているハードコアなサーファーがここにはいる。 普段は漁船を操りあるいは山で農業に営んでいる彼らは、暇を見つけてはこの海岸をチェックしている。 そこに自分がいるので自然と仲良しになる。 格好良く横に滑るなんてこと無理にしなくていい。 デカイ波の、一番上から真下まで「チョッカリ」で降りればよいのである。 だが波の大きさは、その日一番デカイのがいい。ただこの一本乗る「だけ」の為毎週3時間かけてここに。 冷たい海の中その1本「だけ」のために1日中待てる。 寒くなったらウェットの中でオ○ッコ攻撃じゃ〜(キタネ)。 海中にいるのは確かにひとりなのだが何故か全然寂しくない。 なぜだろう。   



一期一会。



Uヶ浜には1230到着。 すでに海岸は台風が間近に迫り物凄い状況、木々は弓のようにしなり荒れ狂う風雨。 こりゃかなわんと車内に戻り車の移動、海岸に向かって右側にある派出所の間に1台分をあけるのが自分の駐車位置。 フロントガラスのすぐ前に垣根があるが、昼間はその上から海を見渡すことが出来るのはハイエースだからだろう。 ただ今は真っ暗闇、海から聞こえるのは爆砕する波の音と轟々蠢くうねり音。 周りには誰もいない、自分ただ一人。 誰もこんな日こんなとこに来るわけもなし。 


運転席のシートを倒してまずは一献かたむけ、ほうっとため息をうちつつ明日の作戦をたてる。 この時が一週間の中一番うれしい。 0400起きで波をチェックして、隙あらば沖に出てやろうと画策する。 「辛口一献」500mlパックを傾け5杯、6杯重ねる頃には間もなく睡魔が襲い、後部フラットシートに避難。 あらかじめ準備してあるフカフカなシュラフの上にば〜んと寝そべり明日を想うこの嬉しさよ! 車外は物凄い状況、風雨は最狂車ごと横に倒してやろかの勢い、駐在所裏のトイレまでここから10mも無いがこりゃドアは開けられん。 そして間もなく夢の中へと。


明けて翌朝。 台風は明け方未明日本海へ抜けたらしい。 目前に広がる青空、だが海は、目前にある海はといえば、グツグツ煮えたぎる鍋の中みたいな状態。 水平線ははっきりせず、こんもり盛りあがっているのだが、海岸線から500メートル前後のところで7列くらいの「山脈」を形成、モリモリ押しよせてくる。 


予報によれば南伊豆は波高7メートルとのことだが、沖の沖で砕けているのはもっとありそう。 ハイエース車内からは水平線が全く見えない。 この状況を前にして確かに恐怖は感じるのだが、なんだか懐かしい友人が遠方よりわざわざ来てくれたという錯覚に陥るのだ。 見た最初は確かに恐怖を感じるのだがそのうち次第に顔がほころび笑みさえする自分、牙をむき咆哮する山脈が一瞬穏やかな表情、やさしく自分に言い寄る。



”そんなとこに突っ立ってないでホラホラ〜、早く来なよう ”



”OK ”



ディスチャージの名曲「DOOM’S DAY」をかけテンションをあげつつウェットスーツに着替える。 滾るアドレナリン、足の裏は地につかず。 山脈の向こうにはもう朝日が登っているのだろう、だがまったく見えない。 逸る気持ちを抑えつつ、しかし何処か冷静な自分。 昨夜呑みつつ塗りたくったボードの表面のワックスの具合をしっかり確認、爆裂する海をみて沖に出る最良のルートとタイミングをチェック。 

やはり駐在所前のカレントがいい。 気合いを入れるために空手道の挨拶「十文字」を切る。 リーシュコードをボードに巻き砂浜を歩く。 10分ほどセットの間隔を計測して沖出のタイミングを最終確認しつつ、カレントを見つける。 ブレイクポイントはうねりの大きさにより岸から50m、80m、150mのところだ。 一瞬の間を逃さず息を吸いこみドルフィンスルー開始。 逝くぜ!



”また、逢えたね! ”




(おしまい)

「1986年 11月×日」

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いまM田のスタジオにいる。


パンクとハードロックが好きな自分なのだが何故かこうして今は「レベッカ」の「半」コピーバンドにいる。 ベーシストとして。 それは太鼓のZ間先輩との関わりによるものであり、先輩とは部活と地元つながりなのだ。 ベース技量をあげたいから取り合えず片っ端からバンドを掛け持ち。 バンド名は


「コーヒー○乳」


もともとこのバンドは年上で看護婦のA'子さん(あとに出るA子と区別するためA'とする)が作ったバンドなのだが何かの理由で気がつけば脱退していて、そこに女子高生ボーカル「A子」が加入。 彼女の加入した経緯もよくわからない(何て無関心なのだろう)。 前ベーシストは今やAE86を乗りこなす走○屋となり箱○1国や大○水峠でドリフト中。 かく言う自分も二輪の走○屋だけど。


ベースは俺、太鼓はZ間先輩、キーボードはZ間さんの知り合いの「一見温厚そうな」W田さん。 しかしZ間先輩の話ではW田さん、実は高校の先生と喧嘩して中退している。 今ではウェットスーツを作る小さな会社に勤めていておばあさんと二人暮らし、W田さんの家がバンドのミーティング場になっている。ギターはO野に住むSさん生粋のRock’nRoll好き、サンハウス〜シーナ&ロケッツのギタリスト椎名誠を崇拝しているが、その手の音楽は悪いけど俺の範疇外。 因みにSさんのおやじは有名な漫画家だ。


そしてボーカルのA子。 ショートカットで目がクリクリした「活発過ぎる」ボーイッシュな女子高生、小○急沿線の某女子高校に通うらしいが俺は苗字も知らない。 とにかく良く喋りまくる子さながらマシンガン「うるせ〜」よう。 W田さん家でミーティングする際もこの子は野郎の取り巻きの中全く臆せずとにかくウルサイ。 


この間も自分がオニギリをほおばる様を見てすかさず「あ〜〜お茶でオニギリ流しこんでる〜〜がめつい〜〜〜ギャハハハハハ」、鬼の首でもとったかのように囃し立てる。 気に入らねえ。 女に上下関係説教する気はないけどさ。 しかしA子のゲタゲタ笑いが大人になりきれない自分の気持ちを逆撫でする。けっ。


次回スタジオの課題曲はレベッカの「ムー」とかいう曲。 それにバンドのオリジナル曲「モノク○ーム・イエ○タデイ」。 もう1曲はこの間いきなりFMでかかってビックリした「パー○ル・ラッキー○ター」、Sさんがバンドに内緒でデモテープを送ったとのこと。 そのほかSさんがオリジナル曲を披露するらしいから全部で4曲。 


皆、スタジオの予約日にあわせて練習してきた。 M田のスタジオ管理人はZ先輩の知り合いでOさん、 あまり喋らない人だがいつもニコニコ感じの良い人だ。 Z間さんに依ればブルースギターを弾かせたら皆惚れ惚れするうまさらしい。 スタジオ予約時間20分前に全員集まる。 受付前の長椅子に座り音楽とは全然関係ない事を話してリラックス風。 スタジオはわりと盛況していて夕方は高校生から大学生までわいわいガヤガヤである。 「タコ焼き天国」だかなんだかっていう「ク○くだらない番組」も影響しているのだろうか(何だよバンドブームって)。 駅に近いということも原因なんだろうが。


譜面の全く読めない自分とSさんを前にW田さんがコード譜なん広げている。 スタジオ開始まであと10分、その傍でボーカリストA子はいつものようにギャーギャーうるさい。 Z間さんが相手してるから少し離れようっと。 耳コピーした「ムー」のベースラインをイメージトレーニングだ。 何回かリフレインしてふと気がつけば、A子のガーギャー声がやんでいる。 


「おめえ何やってんのここで」


制服を着た女子高生3名がA子を囲む。 金髪に限りなく近い茶髪に目もとはパンダみたいな化粧、一瞬スターリンのボーカル遠藤ミチロウ師匠かと思ったが違う。 テラテラ光るピンクの口もと、天ぷらでも食べて来たのだろうか? 


「おめえいきがってんじゃねえよ」


うつむくA子、そしていきなりの状況変化にたじろぐ我等。 A子、この怪物たちを前にさっきの元気は無い。 化け子たちはさらに傷口に塩でも擦り込むように、押し黙るA子を罵倒し続けている。 あまりの下品言葉に何いってるのか途中から聴き取れなくなった。 受付のニコニコOさんも顔を硬直させ静観している。 ただただ下を向くA子、我らはどうしてやればいいのか。 


A子の世界があるのだろう。 女子の世界は複雑そうだから安易に化け物退散図って良いものか?  横でただ聞いててもネチネチと。 こんな世界にいるのかA子は・・。 ただただ押し黙るA子。 いつものあのク○ウルサイ元気は、この「化け物」から解放された反動なのかもな・・。 


待望のスタジオ時間。


しめたとばかり、A子の手を引っ張り化け物から引き離す。 自分を睨めつける化け物トリオ、化け物の上に化け物のメイクしてるから本気でおっかね〜〜!


「こんなところまでわざわざ来て、お前らも相当暇やのう」



とは言わず睨みかえすと、薄笑み浮かべ「けっ」だか「ちっ」とかいいながら飄々とスタジオを出ていく。 帰れ帰れ〜! 何も言わずAスタに入る4人、トレースエリオット(ベースアンプ)のスピーカーを太鼓に向けてからエフェクターのプラグを入れる自分。皆も黙々セッティング。 何かA子にフォローしてやりたいが、プライドの高いA子にはかえってそれが辛いのが実に良くわかる。 だがスタジオが重苦しい雰囲気なので敢えて言ってみた。


「なにあのブ○連中」


ニコリと無理に笑うA子しかしやっぱり冴えない。 再び押し黙りホルダーにSM58をさしこんだ。 「ほんじゃあムーやってみようかあ」ラジカセのスイッチをONしてとりあえずスタート。 洋楽好きな自分は
もちろんこの曲の歌詞なんか知らない。 W田さんのシーケンサーが鳴りそのテンポに合わせミュートでリフを弾き始める。 


歌い始めるA子、順調にスタートしたかに思えたが、2番の歌詞を歌い始めたころ嗚咽をあげはじめた。 顔は涙でぐしゃぐしゃ、完全に歌は止まる。 さっきの非道い仕打ちを歌いながら思い出したのだろう。


演奏を中止して「大丈夫かよ」と聞くが、気の強いA子が「だめ」なんていうわけがなく。 再び2回目のトライ、だがやっぱり2番目の歌詞がはじまると歌は止まった。 そんなことを5回ほど繰り返したがこれ以上続けるのは此方もシンドイので作戦変更。 残り時間をオリジナル曲製作に引き当て時間を潰す。 その間A子は椅子に座り床をじっと見つめている。 


スタジオ練習は結局アドリブ大会になった。


スタジオ代を払うとA子は言い出したが皆は勿論そんなのいいよ!と断る。 励まそうと居酒屋に誘いたいところだが高校生だから勿論ダメ、じゃあマックに行くかと聞けば「今日はもう帰りたい」という。 そうかわかった元気出しなよと、M田駅まで見送る。 最後には笑顔でありがとうと言い、別れた。 そしてその後、再びスタジオに来ることは無かった。 A子の進退とは関係なく、程無く自分もバンドを去った。




どこかで元気に暮らしてますように。




(おしまい)

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