ポケットにミステリを

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歌野晶午が江戸川乱歩の幻想を現代に蘇らせた短編集。

作家・原口涼花には秘密があった。出世作のキャラクター設定もプロットも、かつて交際していた渡辺明日路によるものだったのだ。現在の夫に乗り換える格好で縁を切った明日路からの「再びコンビを組もう」という連絡を無下に断った涼花に対し、明日路は“復讐”を宣言する。(『椅子? 人間!』)

擬似古典というのではないが地の文の文体は少しだけ古めかしく、文豪の作品への敬意みたいなものを感じつつ読み出した。現代的なとげとげしさを持った会話のなかで説明される“人間椅子”を成り立たせる仕掛けには、
なるほど科学を駆使したらこんなことはできるなと納得する空恐ろしさがある。科学が人間をリアルな身体性から解き放つのは現実に起きている流れで、居ながらにして時間的空間的に離れた情報を収集することができるし、他人に直接の影響を及ぼすこともできる。時代による犯罪の変化、トリックの変化というわけである。他の作品にも“人工知能”“バーチャルリアリティ”といった現実と電脳世界の境界を危うくするアイテムが盛り込まれ、身体性が薄れることで人間と人間の間に生じる距離感の誤認が重要な意味を持つ。「まだ親しくないのにあたかも親しいかのよう」だったり「既に蜜月は終わったのにそれを認められない」といった誤認は作中で悲劇を引き起こすのみならず現実でもすぐ隣にある。社会派歌野氏らしい料理法だった。


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