ポケットにミステリを

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騙し絵

 読んだことのない作家さんを開拓しよう特集・第2弾は創元推理文庫発の“幻のフランス本格不可能犯罪ミステリ”。著者はマルセル・F・ラントーム氏とおっしゃる。この作品を含め、遺された3作はいずれも第二次大戦末期にドイツ軍の捕虜収容所にいた際書きあげたというから驚きである。それなりに捕虜の扱いが人道的だったのか、とすれば日本軍が終戦後にあれほど糾弾されたのもいわれのないことではなかったのか、などと余計なことを考える。どの辺が幻なのかというと、この作家さんは3本の作品をを発表したのち文壇から姿を消してしまったようなのだ。解説では「売れなかったから」と言うが本当だろうか。

 実業家の故 V.U.プイヤンジュ秘蔵の大ダイヤモンド“ケープタウンの星”は、孫娘アリーヌが成人を待って相続することになっていた。盗難を恐れ通常は銀行に保管されているダイヤが結婚披露の席で披露される運びとなり、保険会社らの手配で集められた警官数人が監視を行う中、なんとダイヤはいつの間にか偽物にすり替えられてしまった。途方に暮れる警察にアマチュア探偵ボブが協力を申し出る。

 こんなアーティフィシャルな“館モノ”があちらにもあるんだ!?と驚きをもって読んだ。建物の平面図をみればこの辺が「仕掛け」なんだろうなと匂ってはくるが、そこまでやる!?と目をむくほどにそのトリックは大がかりで、到底看破できるとは思えない。むしろ解決編で前座的に披露される誤った推理たちのほうが自分が誤誘導された場所に近いものであり、見破れない悔しさを超える面白さを持っている。

 それにしても、何人か登場する「使用人」がみなかなり屈辱的な従属を強いられているように見えて根っからの庶民は気になる。主人の側の要求の勝手さに対して諾々としているしかないのだ。こういうトーン、奇しくも『貴族探偵』にも共通していそうだなぁ・・・

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水時計

 読んだことのない作家さんにまとめて初挑戦しようと画策中。まずは創元推理文庫の棚から数冊買ってみたうち、“現代英国本格”と銘打たれたジム・ケリー氏の本書から。

 氷結した河から車が引き揚げられた。トランクには銃で撃たれた上、首を折られた死体が入っていた。さらに翌日、大聖堂の屋根の上で白骨死体がみつかる。二つの事件には関連が?  独自の取材で真相に迫ろうとする記者・ドライデンにも犯人の魔手が・・・

 最初は中途半端にハードボイルドタッチの素っ気なく気取った文章にノレなかったのだけれど、ふたつの死体をつなぐ古い強盗事件に加えて主人公自身の自動車事故まで大盤振る舞いなプロブレムがどうつながるか見えてくれば、俄然リーダビリティが出てくる。現在進行形の部分と過去にあったことを解説する部分とで活字を変えてくれる心遣いもあるから、読みやすいと言えば読みやすい。しかしとってつけたようなラブシーンがあったりして全体の印象としては映画のノベライズみたいだから、この際思いっきり“超訳”(←古い)にしちゃえば良いのにという感じもする。それにしてもプロローグにあたる部分の存在意義が読了後にもどうしてもピンとこない。まだ何が起こるのか解らないうちに“自然の脅威”みたいな場面を見せられたところで興奮しないから、「11月1日」から始まったって良いんじゃないかと思うのだけれど・・・まぁその辺りは好きずきなので言っても始まるまい。ネタ的には好きで書き方が自分の波長と合わないだけだから、他の作品にもトライしたいところ。

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マローン御難

 クレイグ・ライス氏のこのシリーズももう残すところがあんまりない。ラストから数えて3番目らしいけど、本邦未訳のものもあるって言うし。

 犯罪撲滅運動の闘士であるエスタプールの継娘が誘拐され、何故かマローンが犯人側との交渉役に指名された。事情がつかめないままマローンが待ち合わせの時刻に事務所に出向くと、そこにはエスタプールの死体が転がっていた。何者かが殺人と誘拐の罪を着せようとしている!?  マローン最大の危機!

 いいなコレ。マローン自身が容疑をかけられるほど事件にがっちり関わっているという事情からか、バタバタした笑いが抑えられていて全体に真面目な感じ。ジャスタス夫妻の関わり方もこんな感じに“ちょっと大事な脇役”というぐらいが程良い(そうでないとヘレンって結構煩わしいもの。事件の真相とその刑事的処理には、ごく一般の道徳を備えた市民の立場だと若干納得行かない気もしたりするけれども、マローンの奥底にくすぶる品の良さみたいなものが表に出てくるのだと好意的に解釈したい。翻訳も新しくなって読み易く、なかなかお薦め。但しここから読んだのでは魅力が伝わらないだろうから、そこが難しいところ。

100人館の殺人

 山口芳宏氏が東京創元社に里帰り。しかし“大冒険シリーズ”ではない。

 両親亡きあと助け合って生きてきた大切な妹・結衣子が、住み込みで働く豪邸で「とても恐ろしいこと」が起きそうだとメールで助けを求めてきた。警察に通報しようにも詳しいことが解らないでは気が引けるし、かといって独りで調べに行くのも危険な気がする。「それなら」と叔母が紹介してくれた探偵・西園寺を伴って神尾が現地へ赴くと、当主が殺され、館が孤立する事態が待っていた。容疑者はなんと招待客ら100人!

 いちばん先に出てきた感想としては・・・これ100人要るのかなぁ?  100人いなきゃダメ〜っていう理由がないように思えるけど、わざわざ100人を呼び揃えた必然性って何? 99人じゃダメなんでしょうか(←仕分け風に)。インパクトのあるタイトルになっているのに羊頭狗肉ってやつ。

 意義にこだわったりするならば他にも「なんでメイドじゃなきゃいけないのか」なんていうことも生きてない気がするし、○○をくりぬくモチーフが多用されているわりに事件の本質やトリックには関係ないってことも嘆きたい。結局いちばん書きたかったのは何なんだろう。最初の殺人のトリック? そこは確かに類を見ないぶっ飛びかたをしているけれど、他は舞台の作り込みにしても探偵のキャラにしてもわりに大人しいからそこだけ浮く感じがする。現実にというのではなくて物語の流れの中での説得力、リアリティが不足してないか。

 そういうことを言いたくなるのも期待しているからなんだけども。2冊目のサイン本なんだから、価値上がって欲しいもの。

眩暈を愛して夢を見よ

 2001年に発表された小川勝己氏の長編ミステリで、傑作と聞いたのに長らく絶版で入手不能だったものが角川文庫に新登場(最初の出版は新潮社だった模様)。巻末に「実際の組織・個人と無関係なフィクション」と強調されているところからその手の何らかの抗議でもあったのかなと思ったがどうだろう。

 勤めていたAV製作会社が倒産しダラダラしたバイト生活を送る須山のもとに、元女優・里村リサが電話をしてきた。やはり元女優だった山下なつみが行方不明で、婚約者の蓬田が探しているのだと言う。実はなつみは須山が高校時代に世話になり憧れていた先輩だった。放っておくわけにもいかない須山は里村と情報交換しつつなつみを探し始める。

 なるほど面白い。失踪したなつみについて調べながら彼女との過去を振り返る須山の視点をメインにところどころ謎の殺人者の語りを挟む第1部と、なつみのミステリファンとしての一面に注目し矢継ぎ早に“作中作”を叩きつける第2部を経て、第3部まで読み進む頃にいつのまにか自分が事態の虚実を見失い混沌に取り巻かれていることに気づく。この眩暈感はいくつかの竹本作品を思い起こさせるが、個人的には本書はあれよりかなり読み易かった。そう言えば『撓田村事件』も『まどろむベイビー・キッス』も思いのほか読み易かったっけと思い出す。

 AV業界を舞台にしているうえ性的に虐待された過去を持つ女性が少なからず登場するからエロ要素は多いし、残虐な殺傷シーンが度々挟まれるしでR-15に指定したい不穏さに満ちた作品ではある。しかし不思議に不快感が限度を超えないのは、それらの描写がしつこくはなく場面場面であっさりしているからということもあるし、それらのシーンの存在意義が納得できる、即ち「読者獲得のためのなりふり構わぬ媚び」でもなく「単なる作者の趣味」でもなく「ストーリーを進められなくなっての爆発」でもないと思えたからなのではと思う。退きどころの上手さがあるから何となく安心なのだ。

 『撓田村〜』、『まどろむ〜』には若干及ばないかと思うので☆を差し引いたが、文庫化を機にまた話題になりそうな、話題になって欲しい作品。売っているうちに如何。

 


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