ポケットにミステリを

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 “メフィスト学園”第2弾らしい(確かに2って書いてないですよね)。“凄腕ミステリ作家陣が放つ学園ミステリ傑作集”だそう。全て高校生ものではないので例の特集の一環になるかどうかは微妙なところだが、半分以上だから一応セーフかな?

 既に自分が作風を知っている浦賀氏と石持氏(乾氏はそこまで数を読んでいないので)に関して言えば、まぁ順当な作品を提出されたんだなという感じがする。浦賀氏は話の進行に必要のない虚実不明なヲタ系ソフトタイトルの羅列で字数を稼ぎ、非芸術的なエロを押し付け、いつもの落とし所で締めるというあまりにも王道な作品(私は嫌いじゃないけど)。また石持氏の作品では現実をちょっとズラしたパラレルワールドで気真面目だけど空気を読まない秀才が「事件」を証明問題のように解き明かす(なんだか結構ムカつくけど)。これを読んで気に入ったら他も気に入ると予想できそうな、名刺代わりの作品になっているだろう。

 さて乾氏の作品は「歌にまつわる暗号を地道に解読するシンプルなお話」で、三雲氏の作品は「冷めた眼の少年少女が若さゆえの危険な正義感を発揮するお話」と理解したので、その両者はいずれも「このひとたちはこういう作品なんだ!?」と興味を持って読むことができた。ただ矢野氏の作品は個人的にはいただけない。オチかたはソブケンと一緒なのにどうして好悪が分かれるの?と不思議がられるかもしれないが、この手のバイオレンスには笑いを誘われないのだから仕方がない。他の作品を読んでみたいなとは思えなかった。

 予想した満足を裏切られることがなかったからという消極的な理由ながら、総じて今回の『道場』VS『学園』ではこちらの勝ちのような印象。おそらく今後もこのペースでのアンソロジー揃い踏みが続くのだろうから、次回を楽しみにしていよう。

八月のマルクス

 「おそらく気に入る」とのお墨付きとともにもう1冊頂いた本書。新野剛志氏が第45回乱歩賞を受賞してデビューした作品である。その後の作風も含め、ハードボイルドの書き手として知られるのだとか。

 元お笑い芸人・笠原雄二は、5年前、ストーカー少女にレイプの濡れ衣を着せられて業界を離れた。一方で相方だった立川は新しいコンビを組むこともなくバラエティの司会を中心にお笑い界のトップの位置にとどまり続けていたから、自然ふたりは会うこともなかった。その立川が5年ぶりに自分を探し当ててきたうえ癌であることを告白したことに戸惑う笠原だったが、そこから仇敵の雑誌記者の死、立川の失踪と事態は急展開をみせる。

 この表紙絵が誰よ?と思うほどそぐわない・・・と思うのは最近のお笑いのひとたちを思い浮かべるからか。そう言えば昔はもっと強面の芸人さんも多かったんじゃなかろうか。いや、単に狩甘さんが好んで見ている層がふにゃけてるだけの話かもしれないけど(ちなみに狩甘さんのご贔屓は1にゴー☆ジャスさん、2に狩野英孝さん、3にロバートだもんなぁ)。絵で損しているだけで、ストーリーそのものはお笑い界に設定する必然性を十分に備えているのだと思うし、雄二たち人物の描かれ方も「そんな感じなのかな」と素人を納得させるそれらしさを備えている。根っことなるいくつかの事件はその世界ならではのもので、それを構成する主人公その他のやや屈折した性格・心情が光と影のある世界を鮮やかに作り出している。

 物語について疑問がないわけではない。そもそも復讐劇のいちばん始まりがこういう形であったことは自然ではないだろう。そこから先が「及び腰」だったと自覚はあるようだがいくらなんでも格差がありすぎだ。そこで暴走を止められるキャラにも描かれていないと思う。逆に、メインな実行犯がここまで暴走することには「このキャラがそんなことまで!?」とむしろ「やりすぎ」に感じてしまうから、ややバランスが悪いのではないか。

 たぶんお薦め頂いた理由は「ハードボイルドが好きだから」というあたりだと思うのだけれど、私が思うハードボイルドの美学というのは「痩せ我慢」である。イヤだけどやる、欲しくても譲る、だってそのほうがカッコイイから。その点からして、本書で注目すべきは笠原ではない。ラストでこんな場面になってはだめなのだ。ハードボイルドを体現しているのは、死期を悟り、非難を受け入れ自らのすべきことを模索する立川の姿で、これは痺れる。そういうわけだから、本書の続編がある(短編集に笠原のエピソードがあるのだとか)のだとしても、あんまり興味を持つ気にはならなそうだ。

 以上、たいへん楽しめたご報告でした。凄いなぁ、見抜かれてるなぁ!  ありがとうございました。

 
 

三年坂 火の夢

 早瀬乱氏の第52回乱歩賞受賞作。乱歩賞と聞くと「それでデビュー」という感じがしてしまうが、これに先立ってホラー系の作品を出されていたらしい。実は単行本刊行時からちょっと気になってはいたのだけれど読む決め手がなかった(「乱歩賞」に食いつく気にもならないでしょ?)。で、読んでみたらばこれがたいへん楽しかった。こうなってみると早く読めば良かったと思う。本書をたぶん私に向くと言って送って下さった 心の義妹 に感謝を捧げたい。

 帝大生の兄が突然学校を辞めて郷里に戻って来た。家にはもう二人目の学費は残っていなくても兄が卒業して就職さえすれば・・・と思っていた実之はすっかりあてが外れた心地である。しかも腹に傷を負っていた兄はそのまま敗血症であっけなく命を落としてしまう。その後母・祖母のはからいで一高進学を目指すことになった実之は兄の生前の足跡を辿るが、探索はなかなかうまくいかなかった。「三年坂で転んだ」という兄の言葉の真の意味とは?

 たぶんこの作品が「辛い」というご感想と私が惹かれた部分というのは同じところだと思う。実之が「三年坂」を求めて東京の坂をひたすら廻り歩く。また兄・義之の学友も、別の糸口から坂巡りを始めることになる。こちらは「東京を付け火で一面焼き払うことが可能か」という都市建築学上の命題を解くためのフィールドワークで、坂沿いに火の広がるルートを設定することを思いついて坂探しをするのだが、これまた東京中の坂を探してあるくのだ。地図が提示されたところでピンと来なければ辛いだろう。私自身東京の地理に明るいわけではないが、現在の大まかな場所の配置は解るし、江戸ものの小説でお馴染の地名ならば来歴もそこそこ頭に入っているから、彼らの道中記はたいへん面白く読んだ。物語そのもののミステリ性はあまり高評価はしないけれど、坂を探していく緻密な検討過程が推理物としての興味を十分満足させてくれたのである。

 物語のミステリ性を高評価しないのは、実之の調査を妨害する勢力の位置づけ・動機づけが読み手を納得させるには弱いと思うことによる。「腑に落ち方」の度合いで言えば、色合いは違うが物集高音氏の『夭都七事件』あたりのほうがスッキリ来る。ただ、猟奇的な装飾に逃げた感じのする“朱雀シリーズ”あたりよりはシンプルに勝負した分、確実に私好みだった。

 そんなわけで、 とても楽しめました。本当にありがとうございました 。次、アレ行きますからね!

 

画商の罠

 アーロン・エルキンズ氏の“美術館学芸員クリス”シリーズ第3弾。スケルトン探偵は何冊出ているんだかもうよくわからないけど、こっちのシリーズはたぶんこの3冊までで止まっているんだと思う。そんなに人気がないのかな?  こっちのほうが好きだっていう人もいそうだけど(べるさんとかそうじゃないかなぁ)。

 シアトル美術館にフランスの画商から絵を寄贈したいという申し出があった。しかし彼は美術界でもひときわエキセントリックな人物で、激しい論争を交わしたり世間を驚かす事件を起こしたりするのが大好きないわゆる“異端児”だ。寄贈に際してもいくつかの奇妙な条件をつけてきている。彼の真意を探り絵の真贋を見極める任務を帯びてフランスへ赴いたクリスは、またしても厄介な事件に巻き込まれてしまう。

 実はこのシリーズの1・2作目を読んだときには、人名が錯綜したりとか、筋書き的にも主人公の巻き込まれた事態がよくわからないとかいう情けない状態に陥った。そういう意味では今回がいちばん苦労しなかった気がする。いちばん解らなかったのは、画商が罠を仕掛けるにあたってシアトル美術館を巻き込んだ動機だと思う(それが物語の基本の基本・・・とも言う)。

 物語全般に渡ってナチス・ドイツを極悪視する思想が貫かれていて、そこに関するクリスの主張は若干ヒステリックに見えた。無論かの政党のしたことには弁護の余地がないのだろうけれど、アメリカ人が絶対善の立場からそこにどうこう言う姿も日本人からしたらフェアでない感じがしてしまう。アメリカでは一般ウケするのだろう、とは解るけれど。

 

屍の命題

 同じ原書房ミステリリーグから刊行された『浮遊封館』で、どうも納得が行かないながらいつかは傑作をものしてくれるのではないかと妙な期待を持つに至った門前典之氏。あれ、新刊!?と思ったらその昔鮎川賞を獲り損ねて自費出版された作品の改作だとiizukaさんに教えていただいた。そういう出自の作品は大抵作者の熱い思いが感じられて損はしないことが多いから、試しに買ってみた(おっしゃる通りまだありました師匠!)。

 西洋建築史で名を知られたK大名誉教授・美島は、世間的には昆虫採集や西洋拷問具の収集を趣味とするマッドサイエンティストのイメージを持たれていた。教授は退官後にしばしば訪れていた信州の雪山で遭難し行方不明になってしまったが、夫人が遺志を継ぐかたちで建てた館の落成式に親交のあったひとびとが招かれた。しかし元教え子・篠原は客の顔ぶれに違和感を覚える。不安が的中し次々と起きる殺人・・・

 序盤で登場人物がミステリ談議をたたかわせる。推理小説に最も大切なことはなにか。動機を描き切ることが人間性を描くことにつながり重要だと語る作家に対し、動機は既に現実に追い越されている、動機やリアリティを犠牲にしても奇想天外なトリックやアイディアで印象付けて欲しいと読者側の反論が出される。

 その伝でいくと、作者は本書のアイディアに相当な自信を持っていると感じる。トリックが奇想天外と言うより、言わば殺されようとしている被害者側の反応が抜群にオリジナル。第一印象で「こんなことあるわけないだろ」と思い、ふと立ち止まって「いやもしかしてこんなこともアリか?」と迷う。迷った時点で読者の負けだ。

 終盤で謎が解かれてから冒頭に戻ると、詩的な風景がバカミスの輝きに照らされて見え、思わず頬がゆるむ。思った以上に好みの作品だった。

 それでも若干文句をつけたい点もあり。(以下伏字)
事件のクライマックス、阿武澤が「誰がドアを叩いているのか」と半狂乱になるシーン。「奴」が篠原ならなぜ「ありえない」のか。そして外に向けて「押し開け」たおそらくは同じドアを、次の段では篠原が「押し開け」て中に入っている。それらの記述は何らかの叙述トリックなのか、単に筆が滑ったのか、犯人当て小説ならはっきりしたいとどうも気になった。
 また、鷹舞の年格好も性格付けも雅野医師との関係性も、全てがなんとなくはっきりしない印象。そのため終盤の「秘密の暴露」がひどく唐突なものに感じられた。

 このあたりはちょっと丁寧さが足りてないようにも思え、☆がつかない所以になった。今後派手なアイディアにそういった細部がついてきたら最強なのではと思わされ、まだまだ期待が大きくはある。いずれにしても今年の収穫のひとつであろう。

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