ポケットにミステリを

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 “本の話題満載の新シリーズ”という宣伝文句が気になっていた創元推理文庫の翻訳もの。等身大の本の虫の図書館司書を主人公としたユーモアミステリで、個性豊かな脇役たちに世渡りベタの主人公がとことんイジられるさまが本好きにはたまらない・・・なんてことを解説者は書かれている。ちなみに作者イアン・サンソム氏については「北アイルランドで大学の教官をしている方」という程度しかふれていなかった。

 好きずきはあると思うが、私自身はこの作品は苦手。

 主人公はアイルランド系の父親とユダヤ系の母親を持ちイングランドで育った青年。子供のころから本を読み漁り、図書館が彼の居場所だった。知的で夢と情熱と豊富な語彙を備えた大人に育ちはしたが社会性には欠ける彼は、大学で英米文学を専攻し司書の資格を取ったものの専門職につけぬまま安売り書店に勤めて生活していた。そしてやっとアイルランドの田舎の図書館ながら司書の職を得たと思った矢先に一方的に図書館閉鎖の知らせを受ける。その上無理やり移動図書館の任を押し付けられ、行方不明の蔵書を秘密裏に探すことまで命じられてしまった。

 階級社会イギリスでの移民の苦しさとか殊にユダヤ教徒の置かれた境遇、またアイルランドの微妙な政治情勢を踏まえながらも、とりあえずは作中の個人の不器用さや貧しさ、不健康さをあざ笑うような描き方にどうもイヤな感じを受けてしまう。若干自分に重なる主人公を自虐的に描いているのだと解説者は言うが、軽蔑的な視線は主人公ばかりでなく土地のひとたちにもことごとく向いて、主人公がロンドンの知人から切り捨てられるさまも含めユーモアよりは悪意を感じる。だから「ほろりとさせる心憎い結末」なんて持ち上げられても、それよりは田舎の住民の独善的な部分や非常識な部分を著者が「こんな考え方って予想外でしょ」と高みから見下ろしているように受け取れてならない。続編も予定されているそうだけれど、これは他の方にお任せだ。

ミステリ愛。免許皆伝

 先月講談社ノベルスで出たアンソロジー。私はずっと寝かせていたうえ読み終わっても記事を書く暇がなかったのだけれど、まだどこも感想文が出ていないような気がするのは気のせい?  いかにも食いつかれそうなラインナップなのに。

 ただまぁ・・・食いつかないのは馬鹿だとか損だとかは言う気にならないですねえ。

 順に言えば、まず平山夢明氏はえっこのひとが?と思うほど捻りのない人情話だった。久坂部羊氏はプロ(この場合のプロは小説のプロではなく医者のプロ)がこんな書き方しちゃいけないだろと思う穴の開いたトリックだった。不知火京介氏は話の展開が盛り上がりに欠けた。黒田研二氏はいかにもくろけんさんらしい話でありすぎたために先が見えてしまって残念(それは自分が悪いのか^^;)。倉知淳氏は好きなだけにこの手の冗談が許し難い(あ、それも自分のせいだ)。村崎友氏はこの使い古されたネタでくる以上、種明かしの笑え方がこの程度では不満が残る。

 全体に、“入門編”以外の何者にも見えないのだ。残念ながらそろそろ講談社ノベルスは卒業しなければならないのかなぁと思わされた企画だった。『ミステリ魂。校歌斉唱』も買ってあるので、それは読もうと思うのだけれど。

学園島の殺人

 みつからなぁい!!と散々嘆いていた山口芳宏氏の“孫シリーズ”(←変な名前)第2弾。「学生探偵」ったって大学生だもんなぁと思っていたけれど、これが意外にも高校生もののカテゴリに入る“フェア対象作品”だった。

 友人の真野原は不思議な事件がおこると異常なほどの興味で首を突っ込みたがるので、私・森崎はいつも苦労させられている。ある日、彼が興味を持った事件に関する記事を集めたスクラップブックを見た友人・菜緒子が「赤両島」に興味を示した。学園の生徒と関係者のみで成り立つ一種の「学園都市」であるその島には学生やOBにつながるベンチャー企業もあるが、そのひとつを写した写真が気になるようなのだ。島に行きたがっていた真野原はここぞとばかりに張り切り、島の理事長である政治家・増本宏に直談判を試みる。

 まず、ごく一部のひとにしか通じないつぶやきをひとつ。この島、その街に似てないよ。

 対象年齢がよく判らないなぁと思った。とりあえず見返しの作者の言葉をまとめると「中高生に読んでもらいたいドタバタ活劇」とでもなろうか。話の筋を追っていく作業はなんとなくRPGめいていて、「島の各所で発生する危機的エピソードを仲間の協力やそのほかの住民へのアプローチで解決しながらミッションをクリアする」という感じ。暗号風の書きものを解き明かしていくなんていうお楽しみもある。それはまぁ若い子向けな話のつくりなんだろうけれど、ギャグとして絡めてくるのであろうアイテムがたぶん一〜二昔前のもの。ジャギ・・・・・??と思ったのは年長さんの私ばかりでなく若い子もそうだろう。中学生、こういうジョーク好きかなぁ?

 しかし自分がノレなかった最大の原因は判っている。菜緒子の言動である。口調の媚び具合に始まって森崎と真野原の個人領域にずかずか入りこむ厚顔さ、それでいて自分の領分からは彼らを締めだす身勝手さ、男というものをなめきった危うさ。彼女は「家族を襲った凄惨な事件から真野原の解決で救われた生き残り」の設定なのだけれども、過去に傷ついていればなにしても甘えが許されるのかと非常に不快さを誘う。彼女の今回作品でのエピソードが今後に伏線として生きるならまだしも、これで解決済みと扱われてしまうのだったらシリーズキャラとしての厚みが足りなくないか。

 ついでに言えば、増本のキャラ設定も奇矯なだけで奇矯さの理由が感じられないのは痛い。

 最後に、目指した当の「再生の秘宝」。「マジでそんだけ?」「ギャグとしても面白くない」「よくあるオチ」(←以上本文より)・・・・・自分で言うか。ってことはこれもジョークなのかしらん。真面目にこんな説教されるなんて勘弁だけれど、ジョークだという印象は持てなかったので扱いに困る。全体的に笑うところなのかどうか判断しかねるのがこのひとの魅力だとデビュー作で思ったが、こう続くとそれは意図的に隠しているのではなくて単なる結果なのかもしれない。

青春探偵団

 高校生ものキャンペーンをやると言いながら止まっていた。春休みって結構忙しいのだ。狩甘さんは入学するとすぐに課題テストがあるとかで、こっちも数学気笋蘆姥譴僚颪取りやらに付き合っている。おかげで『パノラマ』のDVDすら観てないんだから辛い。

 さて本書、ずいぶんクラシックなタイトルと思われることだろう。それもそのはず、山田風太郎氏の往年の傑作である。若い子向けに復刊作品を送り出しているピュアフル文庫からの登場(他に仁木悦子氏の『猫は知っていた』もこれで出たそうだ)で、解説に米澤穂信氏、表紙絵に黒田硫黄氏と付加価値をつけるのにも怠りない。

 霧ガ城高校の“殺人クラブ”は、名前は恐ろしいが要はミステリ好きなメンバーの交流の場。男女それぞれの学生寮の立つ城山に集まり、小説の批評から教師へのいたずらの計画などを大いに討論するのだった。
 ある日退屈を持て余す彼らの前に見慣れない女が現れた。「人を探してこの街へ来て、当座の仕事を探している」と言う女に、メンバーのひとり大八は知り合いの酒場を紹介する。後日その酒場を目指して寮を夜中に抜け出したメンバーたちは、外出を見とがめられて逃げる途中、たいへんな事件に巻き込まれてしまった。(『幽霊御入来』)

 高校生の少年少女たちがいかにも楽しそうに青春を謳歌している。話の中には同年代の少年たちが街のチンピラとなってふらついている様子も登場し、両者のギャップを登場人物自身にかみしめさせているのだが、高校生たちは多少神妙にしながらも結局高みから社会を見下ろしていて、若さゆえの傲慢さをあたりに撒き散らしている。当時の場合「高校生」と言えばエリートで、書き手の山田氏もそうだけれども、読み手となるインテリ層には学生寮での想い出が郷愁を誘うと同時に誇らしい自慢の種でもあったのだろう。ジュブナイル的でもあるから、年少の読み手には上級学校への憧れを掻き立てるための意味合いを持っていたのかもしれない。

 今や高校全入時代になり無償化も決まって、高校に行くことが普通に近い世の中になったのは良いことなんだと思う。大いに学校生活を楽しんで欲しいと思うし、思い返せば勉強が解らなくて苦しんでいる最中でさえその状況に生きがいを見いだせたくらいエネルギッシュな時代だったと覚えているから、こっちが言うまでもなくきっと楽しく毎日を送ってくれるんだろうと思う。それでも「そういう生活ができるありがたさを認識してもらうことも大切なはずだ」という辺りにこの作品の復刊意図があるのかしらと勝手に憶測したりした。

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完全犯罪研究部

 高校生ものに続けて取り組んでみる。先日の『甘栗〜』は正統派ジュブナイルで学校図書館に推薦したいくらいのものだけれど、こちらはぐっとブラックだ。講談社ノベルス3月の新刊である、汀こるもの氏の最新作。これまでも5冊はいずれも“THANATOS”のシリーズタイトルがついたメフィスト賞応募作の改作で、本書からがストック外なのだそう。ついに魚蘊蓄がなくなるのだなと安心する向きもあるかも。

 凶悪事件が相次ぐ世相に神経過敏になっている私たち教師を脅かすように、校舎裏の鳥小屋が襲われた。犯人は生徒なのか、学外からの侵入者なのか。校長が警察を呼ぶのを躊躇っているので、私は顧問をしている「推理小説研究部」の生徒を呼びつけた。撮影機器やおもちゃの捜査セットを手に嬉々として駆け付けた彼らだが、私の狙いは別のところにある。この中の誰かが犯人かもしれないし、でなくても彼らなら小動物を殺すものの心理が解るかもしれない。彼らは日常的に人を殺す話ばかりしているのだから。

 有名どころの作品の実名を挙げながらミステリ談議を繰り広げるのはご愛敬として、未解決殺人事件の被害者遺族が自ら復讐のため犯人探しに乗り出すのをそれぞれ特技を持った仲間がサポートする、書きようによっては心温まる設定なのである。しかしそこは汀氏だから、登場人物の殆どの腹の中は真っ黒で、言動も悪意に満ちている。装飾を剥ぎ取った後に十代の純粋な仲間意識や恋心、救いを求める幼さと他者への思いやりといったものを感じるかどうか。汀作品に好意を持つかどうかはその辺りで決まるのだと思う。THANATOSシリーズでは魚蘊蓄に惑わされて(と言うより嫌気がさして)本質を見る気が失せたりしそうなので、「人間しかでてこない」この作品は読みやすくなったと思う。

 但し、ネタばれになっても申し訳ないので具体的には言わないが、この作品もTHANATOSシリーズを踏まえて書かれていて、あちらを先に読まないと一部の登場人物の言動が唐突でありすぎる。逆に言えば、「汀ワールド」というものは既にしっかり確立されていて、主要人物の設定がストーリーの中に不可欠なものとして組み込まれていると感じられる。エピソードそれぞれはアリエナイことでも「この人物ならこう考えてこう動く」が十分納得いくという意味においてリアリティのある展開なわけだ。やはり汀氏、面白い。引き続き目が離せない作家さんである。

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