ポケットにミステリを

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裁く目

久しぶりに我孫子武丸さんの作品が目にとまったのは、お友だちの記事で『.jp』を読んだのが記憶に新しかったからかもしれない。人間の脳は意識化でいろんなものを記憶しているそうだ。

好きな漫画を何度も読み返し、模写して遊ぶ子供だった。元々観察力があるところに美大で確かな画力を身につけた。それでも漫画家になるには足りないものが鉄雄にはあったのだろう。三十過ぎてもくすぶる鉄雄に法廷画家の仕事が舞い込んだ。彼の絵がテレビに映し出されたその日、鉄雄は自宅前で何者かに襲われる。犯人の目的は…?

謎解き物語ではない。「犯人は誰か?」の問いに論理的推理抜きで答える方法を提示した作品と言えよう。鉄雄が襲われるための必要条件が都合よく片付けられているとか、明らかに殺され損でしかない登場人物とか不満が残らないではないけれど、アイディアの面白さは買う。
歌野晶午が江戸川乱歩の幻想を現代に蘇らせた短編集。

作家・原口涼花には秘密があった。出世作のキャラクター設定もプロットも、かつて交際していた渡辺明日路によるものだったのだ。現在の夫に乗り換える格好で縁を切った明日路からの「再びコンビを組もう」という連絡を無下に断った涼花に対し、明日路は“復讐”を宣言する。(『椅子? 人間!』)

擬似古典というのではないが地の文の文体は少しだけ古めかしく、文豪の作品への敬意みたいなものを感じつつ読み出した。現代的なとげとげしさを持った会話のなかで説明される“人間椅子”を成り立たせる仕掛けには、
なるほど科学を駆使したらこんなことはできるなと納得する空恐ろしさがある。科学が人間をリアルな身体性から解き放つのは現実に起きている流れで、居ながらにして時間的空間的に離れた情報を収集することができるし、他人に直接の影響を及ぼすこともできる。時代による犯罪の変化、トリックの変化というわけである。他の作品にも“人工知能”“バーチャルリアリティ”といった現実と電脳世界の境界を危うくするアイテムが盛り込まれ、身体性が薄れることで人間と人間の間に生じる距離感の誤認が重要な意味を持つ。「まだ親しくないのにあたかも親しいかのよう」だったり「既に蜜月は終わったのにそれを認められない」といった誤認は作中で悲劇を引き起こすのみならず現実でもすぐ隣にある。社会派歌野氏らしい料理法だった。

宰領 隠蔽捜査5

今野敏氏の警視正・竜崎シリーズ。

有力な与党議員・牛丸が地元から都内へ戻る途上で姿を消した。当初は牛丸の勝手な行動と思われたが、大森署管内で乗り捨てられた車から運転手の遺体が見つかり、警視庁に誘拐を告げる電話が入る。

恥ずかしながらタイトルの単語を知らなかった。警察の無線は“宰領無線”というシステムで中央の警視庁が各所轄からの情報を集約しまた所轄を采配する。そんな具合に、竜崎が実質的な司令塔となって子飼いの所轄捜査員と警視庁からやってきた組と事件の進行により合同捜査することになった神奈川県警をまとめて仕切る様子をこの言葉で象徴させているらしい。

なかなか意味のわからない中途半端な事件を机上の空論として解くならば読み手にはちらほら思い浮かぶ無茶な可能性というものがあり、それを実際話のなかで誰かがポロッと示唆しては「イヤイヤまさかねw」と却下されたりする。そんなところでは既刊作品中あまり好意的に見られて来なかったキャラも捨てたもんじゃない働きをしたりするからまた面白い。竜崎がみんなに認められてきたからそうなるとしたら、そろそろ「変人」の突破力・破壊力が薄れてしまわないかしら。

事件の進行と同時に竜崎の家族に様々な危機が訪れるのもこのシリーズの魅力と言われているのだけれども、そっちについては今回がいちばんどーでも良いというか。息子の非行、妻の病気、娘の結婚ときて今回息子の受験というのは、そんなん親はなんもしようがないじゃんね。
 皆さまお久しぶりです。

 図書室がいよいよ酷いことになってきて、なるべく本を買わないように、いまさらながらクリスティの再々再・・・読などしていました。昔はピンとこなかった『スタイルズ〜』とか『パディントン〜』とか、ポワロやマープルが若いひとの恋愛沙汰に向ける温かくも悲しげな視線に共感できる年になったんだなぁと苦笑してしまいます。筋立てはしっかり覚えているのに犯人だけ都合よく記憶から抜け落ちている作品が結構あったりして、これならまだ楽しめるなぁ。

 閑話休題。

 自分に甘いものですからノベルスならまぁ買っていいってことにしていまして、『名被害者一条(仮名)の事件簿』などはくすぐりが世代的にツボって面白いとか、『立花美樹の反逆』は錯誤を見破ったつもりがもうひとネタに足下救われたぜ悔しいぃとか、感想を書くのは面倒がりながらも楽しんでおりました。それでもハードカバーは自分に禁じていたため、本書は久々の「重い本」となります。

 いやぁ。やっぱり良いなぁ、この重さ。

 『厭魅〜』以来の、ひたひたと迫る怖さ。『首無〜』以来のカタルシス。その後の作品は自分的にちょっとばかりアレがソレだったのですが、これは良かった!! 謎を理詰めに解きながらも「これより先はあえて解かない」といったスタンスには良い具合のゆとりが感じられ、読後の余韻が抜群。応援していた作家さんのユーモアミステリが売れるのは嬉しいし、流行のイヤミスも決して嫌いではないのだけれども、久々に☆をつけたい満足度でした。『このミス』も『本ミス』も間違いなくいいとこ行くんじゃないでしょうか。期待。

『三本の緑の小壜』

 年末ベスト連続1位作家D.M.ディヴァイン後期の逸品なのだとか。本邦初訳である。

 友人との海水浴からひとりで帰宅途中だった13歳の少女・ジャニスが無残な死体となって発見された。有力容疑者と目された青年医師・テリーが崖から転落死し良心の呵責による自殺として処理されかけるも、その弟・マークは納得できず独自に真相を追い始める。そしてマークの警告を嘲笑うかのように次の殺人が・・・

 密な関係の数名の容疑者、その間にある好悪感情。英国本格と言えばそれが醍醐味みたいなところがある私にとっては鉄板の好物だった。ちょっとロマンス部分が中途半端かなぁとは思うし、殺される側の少女たちやその子と容疑者集団の絡み描写にイヤったらしい臨場感が足りない気がするのは文章の書き方への個人的な好みだから批判するのはお門違いなのだろう。でも最後のシーンなんかはもっとこってりしていても良いんじゃないかと思わない?

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