ポケットにミステリを

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 当“ポケミス”開設当時は小学生だった狩甘さんがこの春から高校生になる。高校なんて自分がついこの前まで行っていたような感覚(←言いすぎ)なのに、早いものだ。この時代は自分的に人生最良の時期だったと思うから、これから高校に通えるなんて羨ましさの極み。試しに数学気量簑蟒犬鮗擇蠅討澆董△修亮蟠さすらも懐かしい。私が青春ミステリ好きなのも結局そういうことだ。

 というわけで“狩甘さん進学記念 高校生ものミステリフェア”最初は太田忠司氏の“高校生探偵・甘栗晃”シリーズ、ファン待望の第2弾である。前作は完全にジャケ買いから始まったのだが、今度もまたミギーさんの描く甘栗くんが非常に可愛い。うんうん、横顔もイケてる。良い仕事してますねえ。中身にかかわらず満足してしまう表紙なんて、このシリーズと唐沢版“猫丸先輩”ぐらいだ。

 事故死した父親から探偵事務所を遺された私は、父が手掛けていた事件まで成り行きで引き継ぐ羽目になったが、幸運が重なってどうにか完結させることができた。ようやく保険金も目途が付き、奨学金も貰え、うどんや“やまや”の源さんではないが「親はなくとも子は育つ」と言えそうな状況である。そんなとき私は、美術室に訪ねてきた元“名古屋最凶の中学生”から「小学生時代の恩師を探してくれ」と依頼される。

 滅茶苦茶 ハードボイルド 。「男は強くなくては生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」というかの有名な台詞そのもののお話だ。依頼人はゴツイ見かけと裏腹に純な一本気の少年で、大切なもののためには何かを引き換えられる潔い漢。彼の過去からしてそんなに真面目になれるはずないと頭から決めつける周囲の目は当然と言えば当然だけれど、この年頃の男の子ならば「三日会わざれば刮目して見るべし」。変容できる可能性があることがこの年頃の素晴らしさだ。そんな依頼人の気質に感じ入った甘栗君がまた更に熱い。フットワーク軽く関係者を訪問しては直球勝負の質問で懐深く斬り込んでいく。相手の背後に巨悪が潜んでいると知れば知るほど、また脅迫じみたアプローチを受ければ受けるほど火中の栗を拾う行動に出る彼は決して「考えなし」なのではなく、運も味方につける素養と誠意の持ち主だ。そして「友人」でもないふたりがいつしかがっちりとタッグを組んで身に余る事件にぶつかっていく姿が眩しい。前作では甘栗父の探偵仲間・藤森涼子さんが晃君に入れ込んでくれたけれど、今回は少年たちのまっすぐさに打たれた関係者の女性たちがちょこちょこと手を差し伸べてくれる。自然、こちらもそこに視点を置いて彼らを見てしまおうというものだ。

 事件の解明は複雑ではないが、人の心の陰りをうまくすくい取った真相はジュブナイルミステリに相応しい深みを持っている。一見すれば泣かせる話、実は「泣いてなどいてはいかん」と鼓舞するお話で、シリーズ第1弾共々高校生くらいの読み手に是非とお薦めしたい。
 

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踊り子の死

 ジル・マゴーン氏の“ジュディ&ロイドシリーズ”第3弾。結局コンビ誕生の『パーフェクト・マッチ』を読まないうちに偶々手に入ったコレを読んでみた。
寄宿学校での舞踏会の夜、副校長の妻が殺された。暴行された形跡があったと訊いた教師たちは、一様に驚きを見せた。男とみれば誰かれ構わぬ彼女の色情狂ぶりは、学校の悩みの種だったのだ。では、レイプ目的の犯行ではありえないのか?

 二言目には「公私混同しない」と言うくせに傍から見ればバレバレな不倫カップルに少なからぬ不快の念を抱いたことをまた思い出した。どっちつかずの態度を続けるジュディがいかにも被害者面をするのが殊のほか気に入らなくて、ロイドもジュディの夫・マイケルもいい加減こんな女は切れば良いのにと思ってしまったりした。ロイドは「きみがやってることはフェアなのか?」と問いかけるし、マイケルは「こけにされるままになっていたくなかった」と吐き捨てる。「結婚当初はきみを愛していた」と言うマイケルの言葉だってたぶん嘘ではないのだ。それを愛ではないなんて言う権利はジュディにないはずだ。

 本筋に話を戻そう。
 ジュディとロイドが犯人に思い当たるところでは、「被害者の人柄を考えれば犯人は明白」という糸口から様々な証拠のピースが正しい位置に収まって真相という絵ができあがる。しかしながら、読んでいるときには被害者の人柄がそんなふうだということがいまひとつすんなり受け入れられなかったのが正直な心境。翻訳ものだからというよりは、作者の書きこんだ情景の細部がそれを裏打ちしていなかったのだと思う。

 ジル・マゴーン氏の作品はあまり翻訳されていないようで、男女関係や家族のありかたといった点での社会通念が本国とわが国で違うからウケが良くないのかなと思う。わざわざ言語で読みたいという意欲を起こさせるたぐいのものでもないから、お付き合いもこのあたりまでになりそうだ。

蝦蟇倉市事件2

 東京創元社ミステリ・フロンティア最新刊、架空の市“蝦蟇倉”を舞台に1970年代生まれの作家陣が競作したアンソロジー第2弾。

 1に比べて「粒揃い」感がある。逆に言えば突出した作品はないのだ。馴染みのない秋月涼介氏と桜坂洋氏の作品は若干「読み」損なったが、あとの4篇(北山・村崎・越谷・米澤各氏)はミステリ的に解り易いベタな作品であり、どちらにしてもひっくり返るような衝撃は与えてくれない。それでも越谷氏の作品における 人生を諦めさせかねない徒労感 は嗜虐的な快感を与えるし、米澤氏の 擬翻訳調 に文学の可笑しさを感じたりもする(ちなみにこの作品は『さよなら妖精』のスピンオフ。本編は評判の良い作品ではないが、私はその「小細工」感が気に入っていた)。

 連作の短編集ではないけれども、多少前作を受けている作品もあるので、好みの作家さん順ではなく刊行順に読まれることをお勧めしたい。

夜の冒険

 エドワード・D・ホック氏は“シリーズキャラクターがお得意なひと”ととられがちながら、ノンシリーズの短編も数多く書かれているのだそうだ。この短編集はそういう中でも皮肉の利いたオチのあるサスペンスといったところだろうか。サム医師の密室ものパズラーのイメージからはかなり離れていて意外だった。中にはわりとありがちな、先の読める作品も多いのだけれども、クールな雰囲気が好きだった。

 お気に入りは『フレミング警部最後の事件』『出口』『二度目のチャンス』あたり。

扼殺のロンド

 クリスティ女史の短編集を積み上げて読んだりはしていたが、ちょっとやっていることがあってまとまった読書時間を取れずにいる。そんななか久々に読んだのが こともあろうに 小島正樹氏だったのは自分でも不思議だ。『武家屋敷の殺人』で苛々の極致に至って もう読むことはない と思ったものだったが、iizuka師匠の記事でつい買ってしまった(結構あるのだこのパターン)。

 結果的に『武家屋敷』よりはずっと好印象。

 言葉遣いのレトロさが気にならないとは言えないが、年代設定が昭和60年とわざわざ書いてあるから「それは狙いです」と言われればそれまで。仕掛けるため思わせぶりに書かれたプロローグはともかくとして、第1章の冒頭の台詞でもう「うわっ」と思うところを、名探偵の友人である刑事の登場シーン(=“本題”の開始)にあたって現代の話ではないのだと断り書きをするのだから、敵もさる者である。

 問題の人物造形も『武家屋敷』に比べれば(←こだわる)ずっとそれらしい。死体発見の糸口となる アヴェック の様子はこの際置くくらいの優しさは私にもある。この“名探偵”の奇矯さは“木更津悠也”を許す程度の読者なら腹は立たないくらいのものだろう。御手洗潔を目指しつつそこまでの人間的魅力は醸し出せていないにしても、てめえ今すぐいなくなれと罵倒したくなったあの弁護士野郎を思えば(←しつこい)問題ないに等しい。ただ中心人物の刑事は、プジョーへの不自然なこだわりまではともかく、捜査本部と違う方針で捜査をするために休暇を取ってしまうという暴挙に出るのが受け入れ難い。だったらそもそも“探偵”要らなくないか。公務員ができないことをやらせなきゃいけないからの“名探偵”だろうに。この男をわざわざ出しているのは、両親を犯罪被害で喪った過去を持っていて「いつか親の仇をあぶりだすために探偵をやっている」なんていう浪花節だったら笑うぞ。

(以下、ネタばれ気味です。未読の方はお避けくださるのが無難)





















 いちばんリアリティがない登場人物は彰伸医師だろうか。作者にとって都合のいい仕事ばかりさせられている気がしてならない。医者はそんなにオールマイティカードではないと思うのだが。「医療過疎地の老あかひげ」でもあるまいに標榜科がやたら多いし、院長の独断で特別室の改装から管理までさせてみたり、一方で家族構成だって辻褄合わせだ。大体、彼を通して提示される会実に関する情報は明らかにおかしい。意識不明で点滴に繋がれた患者がいるとして、彰伸医師だけが部屋に入れるのであれば清拭が行き届かない患者が綺麗に保たれているはずがない。点滴の部位だって中心静脈でないのは不自然だ。どうみてもまともな患者ではないとなれば、もうちょっと捜査のメスがしっかり入るはずだろう。ついでに言ってしまえば、湯たんぽの栓をしたまま火にかける愚にも等しい無茶な仕掛けを、最低限の物理知識を持つ人間にさせないで欲しい。





 「(あくまで相対評価ながら)好印象」と言ったそばから結局ガンガン文句を言ってしまったけれども、とりあえずこの水準だったら読める。次回作も心なしか楽しみだったりして。

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