ポケットにミステリを

実は前からアメブロがあります。しかし記事移転は難しそう。

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

 先日の記事にて私が萌えそうなキャラの登場する作品を募集したところ、ゆきあやさんの回答はこうだった。
ドン・ウィンズロウの「ストリート・キッズ」で始まるニール・ケアリーが条件にどんぴしゃりかと思われます。ナイーブだけど減らず口、母性本能をくすぐるタイプ。成長して行く姿も楽しめます。物語が水準以上の出来、という意味でもこれに勝るお薦めはありません。
 “ポケミス”通の方ならば、私がミステリでも音楽でも殆ど国産のものの話しかしないのはご存じだろう。私は 国粋主義者 で、この年まで海外に出たことも、パスポートを持ったことすらもない。どっちかというと外人さんは畏怖の対象で、実物はもちろんハリウッドスターもほとんど興味の対象外である(例外はしばらく前までのトム・クルーズと太る前のディカプリオ)。その私に 敢えて 薦めてこようと言うのだから、ゆきあやさんの確信のほどが窺えよう。

 11歳のストリートキッド・ニールは財布を掏ろうとしてドジを踏んだのが縁で“朋友会”の探偵・グレアムから技を仕込まれることになった。それから10年あまり、どういうわけかニールに目をかけている“会長”から学費の援助を受け、彼は仕事の傍らコロンビア大学院で英文学を学んでいる。試験準備で忙しい彼を“組織”が呼び出した。会長から直々に下された仕事は、ある上院議員の行方不明の娘を探すことだった。

 原題は『地下鉄に吹く風』とでも訳せばよいのか(『A Cool Breeze on the Underground』)、このままのタイトルにしたら良かったのにと惜しく思えた。ニールが家出娘を探すため出向いたロンドンで「霧の都」のイメージとは程遠い酷暑に苛まれるさまが実に臨場感溢れていて印象的なのだが、この部分で地下鉄というキーワードが特に強調されているのだ。 「煉獄というと地下鉄が目に浮かぶ。〜中略〜殺人的な暑さ。神々しいまでの暑さ。涼しさの存在の可能性さえ否定する絶対的な暑さ」という愚痴は、訪ね人の手がかりすら見つからない彼の苛立ちを象徴している。それでいて地下鉄の路線図をプリントしたTシャツに惹かれてみたりするのは異邦人としての好奇心でもあるのだろう。

 イギリスという土地柄は、想像を超えるほどの階級社会なのだと聞いたことがある。生まれ育った階級によって住む地域も使う言葉も違い、ぼうっとしていたら一生がそれぞれの平行なレールのまま進行することになる。もちろん自由の国アメリカであれ、我々のこの国であれそういう実情はあるわけだが、より厳格な格差を意識させるロンドンでパンクバンドのメッセージをBGMにニールが労働者意識に覚醒するシーンでだいぶ胸を突かれた。「文学を学ぶ=本を読む」ことは多くの場合同様ニールにとって階級を上へスライドさせる手段と意味づけられるわけだが、思考を停止させそうな暑さのなかそれが無駄なあがきに思えてしまいそうなとき、攻撃的な叫びも必要とされるのだ。

 物語は知力・体力・時の運すべてを使ったゲームのように、喜ばせたり心配させたりと次々意外な展開を見せる。さすがにぐったり疲れてきたころちょうどゲームの終わりが宣言され、ほっとするようながっかりするような、それでも確かに読了の満足感を与えてくれる。

 さてそれではこのニールくんへの萌え加減はどうか。
 たいへんに素敵な青年(23歳)ではあり、育ての親である探偵との軽妙なやりとりの奥にある絆などからは私が既に贔屓にしている『アルバイト探偵(アイ)』(大沢在昌氏)の冴木隆(りゅう)くんを連想させるものもあったのだが、そっちの彼ですらそこそこ深刻な人生を生きていると思えるのに、ニールのレベルまで行ってしまうとあまりにも負っているもの(生い立ち)が重すぎる。萌え〜と茶化してはダメな感じがするのだ。

 そんなわけで、ニールくんのキャラにではなく、「続編も読んでみよう」と思った話運びの巧さに☆進呈。

開く コメント(4)

全1ページ

[1]


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事