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「虫の知らせ」と言うのがある。誰でも1度はそんな経験があるらしいが、僕は前回書いたように多少、霊感?めいたものがあるにも関わらず、「虫の知らせ」は1度も無い。
過去、特にあってほしかったのは、やはり、ばあちゃんが亡くなった時だ。
オヤジは病院で死期が近いと分かってから亡くなったからまだいいものの、ばあちゃんは突然だったからもしも「そうゆうもの」を感じたら、もっと早くに駆けつけられたんじゃないか?などと、どうにもならない事を時々思うのである。
そんな、家族の死を察知したおばさんが、近くにいる。
彼女は僕がよく行くスナックのママで、去年旦那さんを亡くしたのだが、その時はっきりと感じたのだと言う。
旦那さんはしばらく前からガンで入院しており、ママは仕事と家事と見舞いで大忙しの日々だった。
ただ、数日前から容態は安定しており、その日は病院に行かなくても大丈夫だろうと、溜まっていた洗濯物を片付けていたそうだ。
ママは、ビーズアクセサリーを作るのが趣味で、右手にはいつものように自作のブレスレットを付けていた。それは、旦那が元気な頃、出張に行った先で買って来てくれた、七宝焼きのビーズを使ったもので、ママのお気に入りだった。
洗濯が終わり、掃除機をかけ、子供たちの夕ご飯の支度をする。と、途中でなんとも言えない焦りに似た感覚がやって来たのだ。いてもたってもいられない。
胸がドキドキして、不安で、切なかった。
ママもそれまで「虫の知らせ」を体験したことが無く、初めは何かと思ったそうだが、すぐに旦那に何かあったのではないか?と感じたそうだ。
思い過ごしならばいい・・・それでも病院に向かおうと服を着替えに2階へ上がる途中、ただ歩いている時にパラっと大きな音をたててビーズが床に散らばった。
中の紐が切れ、ビーズは散り々々に階段の段差を転がり落ちて行く。
自分で作ると、よく紐が切れるものだから、今回は特別頑丈に作っていたものだったのに・・・
紐も結び目も2重にしたおかげで、これまでずっと付けたまま家事をしても平気だったはずのブレスレットが突然切れた・・・
その時、ママは旦那が自分の右手首をすうっと撫でたように感じたのだと言う。
「これは!」と確信した。
もしかしたら、今、亡くなったのかもしれない。今にも、病院から電話がかかってくるかもしれない。
しかし、もちろんそんなものは待っていられず、大急ぎで病院に向かった。
その頃、病院では容態が急変した旦那に医師達は大慌てで救命処置に入り、ママに「もう、もたないでしょう」と電話があったのは、ママが病院の近くまで来た時の事だった。
やっぱり、そうなのか。でも、まだ生きていてくれた。
ママは泣きながら病室に入り、もう意識の無い旦那の傍に駆けつけた。
そうして、旦那はママの見ている前で息を引き取った。
病院側は、「電話をとってから家を出たのでは間に合わなかったでしょう。よく、偶然こちらに向かっておられましたね」と言ったそうだが、それを痛感したのはママ本人である。
話を聞くと、旦那の意識が無くなった時刻は、ちょうど「虫の知らせ」を感じた時間だった。
あの時、きっと本当にあの人は私の手を撫でたんだわ・・・別れの挨拶に来たのよ・・・
ママは涙目で僕に話してくれた。
これは凄い、と思った。こうして大切な人の死に目にあえるなんて。
不幸な出来事ではあるが、その中の大きな救いではないか。ママは「私、第6感みたいなものは何も無いのに、その時だけははっきり分かった。不思議ねえ」と言う。
お互いの相性の良さなのか、絆のなせる技なのか、とにかくこうゆう知らせならば、僕にもあってほしいものだ。
おかしいなあ・・・ばあちゃんと僕の絆は甘かったか・・・???
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