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さて、前回の続きとなるが、そんなこんなで「首が落ちてくる陸橋」の下などもう絶対通らないと決めた三輪君は、その日から通勤ルートを変えたのである。
寮から会社に行く主な道は2つだった。
1つは今までの道、もう1つは遠回りになるが、池の傍の狭い道を通って行くルートだったらしい。
彼は翌日からすぐに、この「池の傍」ルートで出勤を始めた。
道幅が狭い分、皆大通りへ出てしまうのか、そのルートは車も少なく思ったより快適だった。民家も少なく緑の多い景色も気に入ったそうだ。
そうしてしばらくは、何ごともなく過ぎた。が、ここにも「出た」のである。
それは、小雨の降る夕方だったと言う。
仕事が残業も無く終わり、三輪君は彼女を乗せてその道を走っていた。1つ先のカーブを曲がればのどかな池が見えてくる所まで来た。
彼は彼女に向かってこう言ったと言う。
「今日は雨で見えにくいけど、天気の良い日はこの先の池がけっこうキレイなんだよ」
と。すると自然に彼女の視線もこれから見えてくる池のほうへと向けられた。
車はカーブを曲がり、三輪君も運転しながら視線を右にちらちらと向けて池を見た。
そして2人同時に言葉を無くし、彼は急ブレーキで前のめりに止まった。
池の真ん中に女が立っていたのである。水深がどれくらいあるのかは分からなかったが、つま先は全く水に浸かっていない。「え・・・?」どうゆうことなのかと2人共目をこらしたが、その女は確かに水面に立っていたのである。
全身が白いのだが、全裸なのか白い服を着ているのかはぼやけて分からない。顔も、少し距離がある上ぼやけてしまって表情は見えなかった。長い髪だけが黒く、雨に濡れそぼって立っている。
「・・・あれ、何・・・」
先に三輪君にすがりついた彼女が口を開いたそうだが、現実離れしすぎて彼もすぐには返事が出来なかったらしい。
そうしている間に、その女が動いた。
片手を上げたり下ろしたりし始め、ゆっくりとこちらの道へと近づいてくる。水面を歩いているのだ。
水面は滑らかで、波紋すら立っていなかった。それで気がついた。
女がぼやけているのは雨や距離のせいではない。後ろの景色も水面もはっきりと見えているのだから女自体がぼやけて見えるのだと。
それが、手招きをしながらこちらにやってくる。
「あれ・・・幽霊だよ・・・」
「キャー!!!車出して!早くっ!」
背筋の凍る思いだった。又、この世のものではないモノを見てしまった。
彼女は泣き出し、三輪君の手も震えたが、思い切りアクセルを踏んで、振り返らず走ったのだと言う。
ミラーを見るのも怖く、何度もカーブにぶつかりそうになりながら寮に帰ったらしい。
今まで何も見たことが無かったと言うのに、どうしてここに来て、続けざまにああゆうモノに出会うのだろうか?
以前、そんな話を聞いても信じないどころかバカにしていた自分が、ここ1ヵ月ほどですっかり変えられてしまった。
友人に話すと、「ここの空気に同調してるとか?それともここに極端に幽霊が多いとか?」などと言われたそうだが、答えは分からない。
それから、次第に「見る」機会が増え、1年後に地元に帰る頃には寮の中でも「見る」ようになってしまったのだそうだ。
1回目の「落ちてくる首」に遭遇したせいで、霊感が目覚めたのかと心配だったようだが、地元に戻ると又、ピタリと見えなくなったと言う。
「そりゃ、ここにもいっぱいいるんだろうけど、帰ってきてから1回も見てないんだよ。やっぱり、米子に波長が合ったのかな?でも、よかった。一生あんなのばっかり見えたらたまらない」
と、彼は言った。
土地で変わる。そんなことがあるのだろうか?
皆さんはどう思いますか?
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