ここから本文です
北杜市ふるさと歴史文学資料館 山口素堂資料室

書庫全体表示

甲斐の洋学 活躍した山梨県人・ゆかりの人

『山梨百科辞典』山梨日日新聞社刊 一部加筆
 

江戸時代

 重畳たる山岳に囲まれた京浜への幹線としては富士川の激流と甲州・青梅街道だけで、洋学の息吹に接するには困難な甲斐国も、19世紀(すでに長崎では蘭学後の英学の時代が始まっていた)になると、蘭方医学を求めて江戸、京都、長崎へ旅する医者の子弟が現われ、19世紀後半に幕府昌平黌の分身である徽典館の学頭として赴任してきた若い需者たちには開国への姿勢を示す者が見えた。1857(安政4)年赴任の24歳の中村敬軸(正直〉をはじめ、外国奉行となった岩瀬修理、林五郎次郎、神奈川奉行となる依田克之丞、海軍総督となる矢田堀景蔵、フランスに行き、後に清国公司となる田辺太一らである。初代喜多島宗甫(1790=寛政二年)は長崎人で、18世紀の初めオランダ外科を甲府に伝え、三日町に開業、名声をあげたが、ドイツの医師シーボルトに直接接したのは石坂宗哲(甲府出身、幕府典医、漢蘭折衷派)で1826(文政9年)、長崎から江戸に来たシーボルトに専門の針灸を施し、自書「鍼術論」を贈った。古市場(甲西町 現南アルプス市)大久保章吉1848=嘉永1年没)、市川大門の橋本伯寿(1822…文政5年没)は山梨県初期の蘭方医であった。
 幕末蘭学史に異彩を放ったのは広瀬元恭で、京都の時習塾で医学のほか化学、兵学など七科目を教え「諸生、病客その門に蜻集した」という。幕末、明治(1868〜)初年の蘭方医としては村松岳祐(市川大門 現三郷町)、小野泉・実・民也3兄弟(明野村浅尾新田)小沢道順(八田村御影 現南アルプス市)、4代目喜多島宗甫(甲府)らがあげられる。

広瀬保庵

1860(万延1)年の「庚申亜米利加(アメリカ)紀行、環海航路日記」には市川の医者広瀬保庵の眼に映ったアメリカの文物・人情が新鮮精細に描かれ、センキウ(ありがとう)ソルジウ(兵士)テンノクロク(10時)など耳で聞いた発音を的確に記し、明治初期学生の「変則英語」に皮肉な対照を示している。この書は「万国」という観念を甲斐に恐らく初めて伝えた書として、英学に参与するところが大きい。

明治維新

明治維新となり養蚕、貿易、鉱業、風俗視察に英人(1870=明治3年、1871=明治4年)、「ホロシン人」と呼ばれたドイツ人(1869=明治2年)らが時おり来県して、県民も西欧人に接する機会がでてきた。

徽典館

1872(明治5)年学制がしかれ、その10月には徽典館規制改革が行なわれ「従来の学課を廃止し英学開校」の運びとなる。英学には午前812時をあて、内容は下級では、つづり字、習字、単語、会話、地理学初歩、読本、文法など。上級は洋書、すなわち英書を読み、窮理書、人体及び養生論、各国歴史、化学書、経済書、生理書で、発音にかかわりなく意味だけのために、洋書を読む変則英語であった。
教師には横浜野毛の幕符伝習所、沼津兵学校資業生出身の吉村幹を用いた。
 正則英語は1878(明治11)年、甲府市緑町英学義塾と横町英語学校(甲府教会)で教えたCS.イピー夫妻の助手浅川広湖(ひろみ)により教えられた。明治10年代(18771886年)には南部の「蒙軒学舎」、南八代村の「成器社」、甲府の「三猛徳社」など私塾・私立学校が諸所に生まれ、バーレ一万国史、ミッチェル大理書、にカッケンボスニ文典、スマイル自叙伝、グートリプチ英国史、ギゾ開化史、ホーセット経済書、ミル経済書、富国論、代議政体などが教科書として流行した。

永峯秀樹(北杜市明野町浅尾新田)

小野3兄弟の末弟永峰秀樹は沼津兵学校資業生の出で明治初・中期を通じ、西欧文化全域にわたり翻訳を通して盛んに移入、時代の見通しにすぐれ、

八巻九万(北杜市高根町)

その弟子で県会議長、代議士となる八巻九万は慶應義塾で福沢諭吉に師事(18731874年)、洋書に通じ、郷党学生のため東京に山梨共修社をたてた。
 
一方同人社の中村正直に師事した者には甲府にきた新聞人野口英夫、成器社で英学を教えた清水有文、米国に学び内外煙草菊水商店を興した内藤彦一らが
ある。「新体詩歌」第1集(1882=明治15年)から第4集まで甲府微古堂で製本発売し、蒙軒学舎発行の「以文雑誌」に近藤麟止が番羽訳(翌年)を出しているのも、英学普及の一班を示すものといえる。
 また出版により英学を普及した内藤伝右衛門も特筆されねばならない。1887(明治20)年に、県によるカナダ人JW.サンピーの外人教師としての雇い入れ、1889年の山梨英和女学校の創立によるカナダ夫人教師の継続的来県をもって、文明開化期を通して欧米文化摂取にいきりたつ姿勢の「英学」の時代は一つの終止符を打ったものと考えられる。<保坂忠信氏著>

この記事に

本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事