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スレイヤーズ!は図書館で読んだのだと知人は言う。 知人とは言っても、もう一回り年下の人間で、私よりも学がある。社会学などをやっている人で、サブカルチャアなどを真面目に研究している人だった。その彼とライトノベルについて話した時、そう聞いたのである。スレイヤーズ!は近所の図書館に入っていたのを読んだのだという話だった。彼のライトノベル暦はそこから始まっているのだという。 スレイヤーズ!については今更語る必要はないと思う。 第一回富士見ファンタジア大賞の準入選作で、以後巻を重ねて漫画化、アニメ化、映画化……などのメディアミックスを成し遂げたという人気作だ。 現在でもドラゴンマガジン誌上では連載は続けられ、定期的に短編集が刊行されている。 さすがに往時ほどの売れ行きはないが、今でもそれなりに版を重ねているようだ。 ライトノベルを語る上ではさけて通れない、一つのマイルストーン的作品である……と思う。今日での評価のよしあしはどうであれ、そのあたりには異論はそうそうないのではないか。 以降の富士見ファンタジア文庫は、神坂一の後輩たちともいうべきファンタジア大賞入選でデビューした作家たちによって独自のカラーを得ていくことになるのだが、後輩ではなく、氏と同期で準入選をとった作品でデビューした人がいたことは、あまり知られていない。 その作品の名前はリュカオーンという。 作者の名前は縄手秀幸。 この作品について、今から語ろうと思う。 リュカオーンという小説の表紙を見た時、自分が何を考えたのかということはすでに遠い記憶の彼方のことであり、さすがに詳細は思い出せない。ただ、「随分と扱いが違う」というようなことは思ったはずである。そのような印象は確かに残っている。そして「扱いが違う」というのは、先行して出されていたスレイヤーズ!と比べての話であり、それは全く疑いようもない事実だった。 リュカオーンが出版されたのは、スレイヤーズ!が出た年の七月のことである。 スレイヤーズ!は1990年の一月に出版されていた(ドラゴンマガジン誌上では1989年の十月号にて「白魔術都市の王子」が発表されている)。 ほぼ半年の時を置いて、第一回富士見ファンタジア大賞の準入選作は二つともが商業出版されることになった訳だが―― その扱いというか待遇が全然違うということについては、それぞれの表紙を見たら一目瞭然のことだと思う。 残念ながらリュカオーンの方は写真も用意できないのだが、当時の人気イラストレーターである天野喜孝の気合の入ったイラストであったといえば、私の言いたい事は解ると思う。そうなのだ。スレイヤーズ!の方がその頃ではほとんど名も知れてなかったあらいずみるいの(しかも後々に改訂されるような)イラストであったのに対して、リュカオーンの方はというと天野喜孝。内容が内容だけにその差異は仕方ないとは言えたのだけど、なんとも露骨な扱いの差であるのも確かだった。 元々、富士見ファンタジアではスレイヤーズ!の路線は望まれていなかったと思われるフシがある。 今でもスレイヤーズ!一巻の解説を読めば書いてあるのだが。 『以降、スレイヤーズ!と同じような傾向のものが投稿されても、よほど優れたものでなければ受賞は難しいでしょう』 とある(記憶に基づいているのでかなり怪しいけど)。
これは素直に読めば「二番煎じはいけません」とのことではあるが、スレイヤーズ!はどうにも簡単に模倣ができる作品と思われていたとも読み取れる。 この時期のファンタジーブームというのは、ドラゴンクエストなどのRPG人気から発展したものであった。 このブームはゲームからコミックに当たり前のように波及した。 もっとも、よくよく思い出したのならばジャンプ以外のサンデーやマガジンで異世界ファンタジーが連載するようになった時期はもう少し遅かったような気もする。この時期にファンタジー漫画というのはホビージャパンだの角川とかから出ていた月刊誌で連載していたものが多かったのではないかという気もするが、少なくともジャンプでのバスタードがあったとは書いておく。 そんなこんなで、ファンタジー漫画はこの時期に多く出ており、その中で例えば「勇者」なる存在が特別な職業だったりするような設定とか、ファイヤーボールとかを呪文を唱えて手から出すというような魔法など――は、明らかにドラゴンクエストや他のRPGに由来していると思ってもいい。ゴブリンが下級のモンスターというのも、だ。氾濫したと言い切ることもできないが、かなりの数が出回っていた。 そんな時期にスレイヤーズ!は登場したのである。 さぞやオリジナリティの欠けたシロモノに見えたであろうことは想像に難くない。実際に精読すればなかなか独特の世界観があるというのも解るが、ざっと一読した限りではゲーム由来のファンタジー漫画とそう変わっているとも思えないと思う。それでも前後のファンタジー小説の全てに通暁しているわけではないので推測にしかならないが、いかにもゲームの影響を受けましたという風な小説というのも当時はそんなにはなかったものと思われる(フォーチュンクエストはもう少し後だし、ロードス島戦記は元々がRPG由来ではあるけど、こちらは路線が完全に違うので除外)。語り口なども独特のものがあり、何より「笑える小説」というのはなかなかに得難い。当時の富士見書房がどういうつもりだったのかを推測に推測を重ねてもあまり意味はないのだけれど、「同じ路線のものはいらないけど、これ一本だけならいいか」という程度のものだったのではないのだろうか。 そう考えるとスレイヤーズ!の一巻のイラストの扱いなども納得はいく。あと「白魔術士都市の王子」などでのリナのイラストなども、当時の編集が中身をよく読まないで発注したなどという噂すらあり(この当時の編集は外部の人だったけど、新人賞をとった期待の新人を外部の人間にやらせるのも…と思わなくもなかったが、富士見は伝統的に外部の編集に仕事をさせるらしいのでこれはあまり傍証にはなにらない)、文中で胸が小さいとされていながらも巨乳だったりする。噂の真偽はさておいて、イラストが文章と合ってないということすらチェックされてないのだから、かなりぞんざいな扱いをされていたと言い切るのは、多分、間違いじゃない。 (まあ、当時のドラゴンマガジンは印象的にどっか雑な作りをしていたようにも思う。もしかしてただ単にチェックがいきわたらなかったという可能性もあるのか) そして、リュカオーンが出た。 (後編へ) |
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訂正訂正。フォーチュンクエストはスレイヤーズ!の前でした。素で間違えてた。なんて無様。
2008/1/18(金) 午後 11:44 [ 佐上典明 ]