流星通信Blog

趣味人・我乱堂の放談三昧

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 その後の変化は突然ではなかった。
 往々にして、変化というものはいつの間にか始まっていて、気付いた時には終ってしまっているものである。それでも兆しというものはあって、最初にそれを感じたのは飛天のSFモノからであったと思う。もしかしたら、もっと別にもっと速くに気付いてたのかもしれないが、今思い出せるのはそれからだった。確かおぼろげに覚えている内容では、なんかすげー美形に蹂躙された過去を持つやっぱり美形な少年が宇宙の騎士団みたいなのに入る話であったと思う。この時には、しかし何の危機感も覚えてなかった。同時期の花とゆめですら男同士の恋愛を描いている作品は限りなく少数派になりつつある時期であったし、同性愛が出てくるというだけならば魔夜峰央が創刊号で「ホモじない」なんてギャグの短編を出している。恐らく「まあ本橋先生だっているしさー。あとツーリングエクスプレス。一成はどうすんのかなー」なんてことを思いながら読み流した、のではないかと思われる。まさかこの頃に少女小説の世界に変革期がきつつあったなどということも思いもよらなかった。
 創刊から一年ほどたってみると、気がついたら花丸誌上で吉岡平やら安芸一穂やら北原尚彦やらの連載していた作品の名前はなくなっていた。そうでなくとも積極的に読もうと思った作品がほとんどなくなっていたのだが、それはまだ普通に恋愛小説とかコメディとかが増えたというだけで、しかし創刊号の頃のような雑多ともいえるほどのパラエティ溢れるものではなくなっていたということである。その時期には(当時の花丸は少なくとも月刊ではなかったので、一年でどれだけ出たのかはよく解らない)私も当初のような期待は抱かなくなっていた。というより、期待の抱ける時期はもう過ぎ去ったのだと理解していた。夏はもう終ったのだといったほうが文学的だろうか。もっとも夏の前には春があるのが順番であるから、私の注目していた時期は、芽生えの季節である春であったのかもしれない。以降の花丸の変遷を考えると、夏はこの頃から始まっていたのだ。
 そしてその日差しの強さに夏を想う時は、もうそれの真っ盛りであるのが常だ。
 いつの間にか、誌上の大半が同性愛の――いわゆるジュネだのBLだのと呼ばれる作品ばかりになっていた(この当時にBLという言葉があったのかどうかはわからないのだけど)。少なくとも、そのようなニュアンスの強い作品が多くなっていた。
 探偵モノなどはまだしも女性が登場していたし、コメディ調の作品はノンケな主人公が美形に迫られるというような展開であったと記憶していたるのだが、確たるものではない。それらでも男性同士のカップルが目立って活躍していたような印象もある。正直な話をいうと、この頃の花丸は惰性で買っていたのでほとんど覚えていないのである。ただ一つだけ記憶に残っている作品があって、それは死んだ少年の魂が少女の中に入るという、いわゆるTS(トランスセクシャルの意)モノであった。後に調べたらそれは「ふたりめの蘭子」という作品で、読み返してみると確かに最初の方の溺れるシーンなどは覚えがあった。この作品の作者は微かに存在を覚えていた探偵モノの人でもあったのだけど……それはつまり、そのような作品が男女を交えた探偵もの以上に優先されるようになった、ということなのだろう。
 今回の調査で、もう一つTSの作品が刊行されているのが確認できた(「六月の知恵の輪たち」という作品で、「ふたりめの蘭子」とは逆に主人公は少女から少年になっている)。時期はふたりめの蘭子の刊行の少し前である。だとすれば本格的にBLに移行する前の過度期の橋渡し的な存在としてTSがあった……と考えると文脈としてすっきりするが、それはちょっとできすぎである。
 なお、「ふたりめの蘭子」のあとがきの中で「男同士の恋愛でやれ」というような注文が編集部であった旨が書かれていた。「ふたりめの蘭子」では、もう一人のTSキャラがいて、そちらは少女から少年に代わっていたのである。以降はそちらをメインにした少年同士(精神だけ片方は女だけど)の恋愛にするようにと。実際に書き下ろしの短編はその内容であったし、花丸の方でもその続きは幾つか書かれたらしい。このあとがきが1993年の六月頃のものであった。だから恐らく、花丸の決定的な方針の転換はこの何ヶ月か前の、1993年の前半か、その前の年の後半であったと思われる。
 ともあれそんな感じで花丸は変容していったわけだが。私自身の嗜好としてはBLは好みではないし、今となっては「いや、それもアリだろう」とか思ってはいるのだが、当時は高校生であった。視野は狭く、度量はより狭い。いつの間にか新人賞に送ろうなどということは考えなくなっていた。それでもなんとなく買い続けたのは、もう本当に惰性としかいいようがない。あとH田氏の毒のある口調を読者の投稿コーナーだか雑記で読むのが楽しみであった。それも、その読者コーナーで、確か苗字に松がついていたと思うのだが、激しい文調で「流行に追従してBL専門になったのは許せない」というようなことを書いてある投書を読んだ時に「ああ、もう終っていたのか」と何かひどく心の中にある、かろうじて張り詰めていたものが萎えていったのを覚えている。
 以降、私は花丸を買うことはなくなった。


 結局、それからさらに何年かたった1995年の12月に、花丸は増刊号ではなくて、小説花丸として創刊し直した。
 それはかつて目指した「活字新世代のための新しい小説雑誌」ではなくて、BL専門レーベルとしてであった。その翌年に漫画花丸が創刊され、そして花丸文庫が生まれた。


 なんでこんなことになったのだろう……花丸の小説を本屋で眼にするたびに考えるのだが、「そういう時期だったのだ」としかいいようがない。
 あまりそっちのジャンルには詳しくないし、ネットで調べてもちょっと煩雑なので未確認なのだが、どうにもこの前後の年にBL系レーベルが幾つも立ち上がっているらしい。件の投書でも「流行に」とあったから、多分、この頃はそういう小説が人気が出た時期なのであろう。どういう事情で流行ったのかというのはそれこそ門外漢なので不明である。とにかくそんな時勢であったから、花丸の新人賞はどんどんとその系統のものが増えていったようだ。いや、本当にそこらの記憶は曖昧なのだが。ただ、新人賞の二回目からほとんど印象にないのは、やはりそういうものばかりで読む気がしなかったのではないか。そしてそのことは花丸の編集方針に大きく影響を与えていったはずである。雑誌のコンセプトに多大な力を持っていたと思しきH田氏は、その方針転換にどう関わっていたのかはよく解らない。不本意だったのか、あるいは予定されていたものであったのか。そもそも当初のコンセプトが崩壊して以降も関わり続けたのか、それとも別の部署に移動してしまったのか。花丸から離れた私は知らなかった。
 H田氏の行方が知れたのは、そのさらにずっと後になって、白泉社My文庫というものが創刊された時である。
 2001年の九月になって創刊されたそのレーベルは、ややBLの要素は残しているものの、全体的にいわゆるライトノベルとして出発していた。
 多様な顔ぶれであり、それはかつての花丸を何処か思い出させて。その中のどれだったかは覚えていないが、あとがきを見るとH田氏の名前が見えた。久々の氏が誘いによってこのレーベルで書いたのだということが記されてあった。

 この白泉社My文庫がH田氏の復讐戦であるのか否かは、あくまで外部の人間である私にはうかがい知ることはできない。
 ただ、私はこれらの顔ぶれにかつての花丸を思い出し、そしてまた波を――かつてとは比べ物にならないほどに小さくだが――期待した。
 電撃も富士見もスニーカーも世代交代をして、かつてとはまるで様相の違う現在において、多少の波風などはまるで意味を成さないということは知っていたのだけれど。

 白泉社My文庫は九冊だけ刊行して、消えた。
 一年と続かなかった。
 
 その後のH田氏の行方は知らない。


 ◆ ◆ ◆


 昔、花丸ノベルズというのがあった。
 今も続いていて、数多くの人気シリーズ、作家を輩出している。

 しかしその当初の姿を覚えている者は、もう少ない。






 追記。
 花丸新人賞の初期に受賞した作品はBL以外のものも少なからずあって、そのうちの幾つかは花丸ノベルズとして刊行された。
 そして上述した第一回の新人の中では、竜と女の子の話――ドラゴン・ザ・フェスティバルのみが本になった。
 それは「活字新世代のための新しい小説雑誌」だった頃の花丸を偲ばせる唯一の証拠として、今も私の本棚の何処かに埋もれている。

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>その後のH田氏の行方は知らない。
演出上こう書いたけどだいたい知ってます(えー
あとこれらの話は現存する情報を集めて適当にでっちあげたストーリーなので、真に受けないでくださいねw

2008/3/14(金) 午前 8:48 [ 佐上典明 ] 返信する

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よろしく

2008/3/19(水) 午後 7:05 aka12aya70 返信する

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6回ビーケーワン怪談大賞 我乱堂さん、出番ですよ!!
じつは、私も参戦しておりますが、2ちゃんの専用スレで不評でした。
ベスト100は、ポプラ社から出版される本に載り、ささやかながら印税ももらえます。イベントも呼んでもらえて、京極先生や黒史郎さん、田辺青蛙(日本ホラー大賞短編受賞)とも、したしく会話もできます。なにより、我乱堂さんほどの、ポテンシャルがあれば、受賞、スターへの道しるべになるでしょう。実際、たった800字であらそうというのに、出身スター作家多数です。ぜひ、チャレンジしてください。 削除

2008/6/17(火) 午後 0:20 [ 元徳大生 ] 返信する

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