ここから本文です
未来小説家のブログ
幸せになってみせる。絶対。

書庫全体表示

記事検索
検索

全574ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]


移転先のブログはこちらです。
『ミライ先生の日直日誌』

『未来小説家のブログ』は閉鎖しました。
このブログの大半は友だち限定公開になります。
創作小説『黄薔薇の姫』たまに更新します

このYahoo!ブログは2019年12月15日に消えます。

「納得いかね〜。」

―家庭教師の言葉を遮り、俺はひとり言をつぶやく。歴史の授業にはアンジェリカも同席していた。今まで勉強をサボっていたため2歳年上のくせに俺と同じ内容を勉強している。

「なんで俺よりあとに生まれたあいつがいきなり第一王位継承者になるんだよ?王の娘だからってひいきしすぎじゃね?」

―ジャンヌと会ってからあいつのことが頭から離れない。他の人間と違って俺に媚びないあいつがイライラする。俺が第三王位継承者になってから俺の機嫌を取ろうとする貴族は減った。代わりにあいつの周りに貴族が集まるようになった。アルフレッド兄様の味方をする貴族の数はあまり変わらなかった。王位継承戦は実質ジャンヌとアルフレッド兄様で行われると決まったも同然だった。家庭教師の学者は戸惑いながら俺の言葉に答える。

「それが……王もかわいい一人娘に国の責務を負わせたくないと悩んだらしいのですが……。」
「ほ〜んとにかわいいわよねぇ、ジャンヌ。」

―話題を勉学からそらすためアンジェリカも話に乗った。学者は話を続ける。

「姫があまりにも賢いのでよそに嫁がせるには惜しいと……。」
「はあ?」

―俺は拍子抜けした。女が賢い?男よりも?

「まだ3歳ですが簡単な読み書きならもうできます。何か気になることがあったら周りの者に訊ねたり本で調べたりします。難しい本があったら他の者に読ませ、説明させることも……。この前なんて食事はどうやって作られるか興味を持ち、城の厨房だけでなく田舎の農場まで見学しに行かれました。さすがに動物の解体作業はお見せできませんでしたが……。とにかく知識欲がすごいのです。なんでも吸収してしまいます。」

―……マジかよ。そういえば初めて会ったとき、リリアンドの植物図鑑を目当てに兄上についていったな……。

「やだぁ〜。ジャンヌすご〜い♪わたしなんて昔、ステーキやケーキは草から生えてくると思ってたわぁ。」
「お前の発想に草が生えるな。」

―アンジェリカはけらけら笑う。本当にこいつは俺の姉なのか?同じなのは髪の色だけだぞ。学者はコホンと咳をした。

「お二人はジャンヌ姫より長く生きているのですから、そのぶん良いお手本となりましょう。さあ、勉強を再開しますよ。」
「ええ〜?やだぁ〜。勉強つまらな〜い。ジャンヌとなら勉強した〜い♡」

―アンジェリカが駄々をこねる。俺は一瞬だけジャンヌと勉強しているところを想像した。同じテーブルで俺の隣にジャンヌが座っている……。良い!……じゃなくて最悪だ!!

「はあ?3歳も年下だぞ。無理だろう。」
「それが先ほど申し上げたように姫は知的好奇心が強くて……このままだとお二人は3カ月後には追いつかれます。」
「は?」

―男の俺が、年下の女に負ける……?ありえない。あってはならない!

「なんだと!追いつかれてたまるか!さっさと授業を進めろ!」
「わ〜い♪このままのんびりしていればジャンヌと一緒に勉強できるのねえ♡」
「そんなわけないだろう!あいつは超人見知りだぞ?従兄妹である俺たちですら警戒して近寄ってこない!」
「ロナルドが下心持つからよ。」
「ははははははあ?し、下心なんて持ってない!お前こそあいつを着せ替え人形にする気だろう!」
「それの何がいけないのぉ?美は着飾ってこそ意味があるのよ。」
「お前の服派手すぎだろう!趣味悪いぞ!」
「まあ!センスがないのねぇ。それだからジャンヌにモテないのよ。」
「は、はあ?関係ないだろう!」

―結局その日はアンジェリカと喧嘩して授業はあまり進まなかった。その後、俺は努力したものの、6カ月後にジャンヌは俺の勉強内容を追い抜いてしまった。それからというもの……勉学方面ではどんなに俺が努力しても、あいつに追いつくことはなかった……。

―ジャンヌは俺たちが住む城には滅多に来ない。俺たちのことを見下しているのだろうか?アンジェリカはジャンヌと遊びたがっていたし、俺はジャンヌに言いたいことがたくさんあったが、招待しても全然遊びに来やしない。

 ある日、俺とアンジェリカが買い物から早く帰ってきた。俺は買ったばかりの剣を早く兄上に見せたくてうずうずしていた。執事から兄上が中庭にいると聞いてまっすぐに飛んで行った。ベンチに座っている兄の後姿が見える。俺は大喜びで兄上を呼んだ。

「アルフレッド兄様!」

―ベンチの正面に回りこむと信じられないものが目に入った。兄上のひざの上に、ジャンヌがちょこんと座っていた。兄上は両手で本を持っていた。帝王学の本だった。

「おかえり。ロナルド。早かったね。」

―兄上は優しく笑う。金髪の髪が美しい。まさしく王子だ。それに比べ、ジャンヌは無表情だった。髪の色が暗ければ性格も暗い。あいかわらず笑わないあいつに俺はむっとした。

「兄上。なんでそいつがここにいるの?」
「ああ。今日は天気がいいからジャンヌに外で本を読もうか提案したんだ。そしたら頷いたから中庭へ……。」
「そうじゃなくてなぜそいつがこの城にいるのですか!?」

―しかも当たり前のように兄上の膝に座っている。

「月に一度は遊びに来てるよ。……そういえばいつもロナルドとアンジェリカが授業を受けているときや外出しているときに来てたね。」
「はあああ!?」

―……わざとだ。絶対こいつわざと俺たちと会わない時間帯に来てる!アンジェリカはともかくそんなに俺と会うのが嫌なのかよ!!

「お兄様〜、おみやげ買ってきたわよお♪」

―噂をすれば影。アンジェリカまで中庭に入ってきた。

「や〜だぁ!ジャンヌじゃな〜い♡」

―アンジェリカは国一番の美少女を見て目をきらきらさせた。

「お兄様、ジャンヌをひざにのせてずる〜い。」
「こらこら。アンジェリカは昔ひざにのせてあげただろう。」
「わたしもジャンヌをひざにのせた〜い!」
「あれ?そっち?」

―兄上は笑っていたが俺は許せない。なぜかとてもイライラする。

「ジャンヌ〜。お人形の着せ替えして遊びましょお♡」
「ジャンヌを着せ替え人形にするの間違いじゃないか?」

―皮肉を言ったがアンジェリカは気にせずジャンヌを連れ去ってしまった。ぽつりと取り残された兄上と俺……。

「あ〜あ。あの様子じゃ2時間は戻ってこないね。」
「…………。」

―兄上は今まで俺が見てないところで何回もこの城でジャンヌと会っていた。そう思うと怒りと悲しみがこみ上げてくる。俺が大好きな兄上に怒るわけがないから、きっと全部ジャンヌのせいだ。大好きな兄上がジャンヌに取られたみたいで悲しくて怒っているんだ。そうに違いない。兄上は何も知らずに優しく声をかける。

「なにか用事があって僕のところに来たんだろう?」

―俺はうつむいたまま新品の剣を差し出した。

「新しい剣か!良い剣だね。」
「……うん。」

―剣を返されたあとなでられた。兄上は優しい。あんな無愛想な従兄妹にも実の弟と同じように接してくれるのだから。



実はよくアルフレッドの名前を忘れます。良い人だけど影が薄いから……(笑)。

開くトラックバック(0)

イメージ 1

―俺はお前が生まれたときから嫌いだった。

 ロナルドは悔しそうに姫を見ながら、昔のことを思い出していた……。

―子供の頃、俺はちやほやされていた。王位第二継承者、ロナルド・ロサキネティカ。王の弟の二番目の息子。別に王になりたかったわけじゃない。王はやることがたくさんあるから兄のアルフレッドが王になればいいと思っていた。ただ自分がこの国で2番目に偉くなることが誇らしかった。俺が生まれる前は姉のアンジェリカが第二王位継承者だった。だが女であるため俺が生まれた瞬間、継承権が繰り下がった。このまま王に子どもが生まれなければ俺は第二王位継承者のまま。仮に生まれても女だったらおそらく王位継承権は兄上と俺のほうが上。だから王妃が懐妊したと聞いたときは全力で子どもが女であることを祈った。

 俺の祈りが天に届いたのか、王に娘が生まれた。その時点で王位継承権は兄上が一位、俺が二位、アンジェリカが三位。女とはいえ、王の直系の子どもだから継承権は三位か四位になると俺は思っていた。

 姫が生まれてから3年……。俺が6歳のときだった。ある日、城でガーデンパーティーが行われた。特別な行事ではなく、王族と貴族の軽い親睦会のようなものだった。俺と兄上の周りにはいつものように貴族が集まっていた。

「2人とも大きくなられましたね。どうです?うちの娘をアルフレッド様に……。」
「我が家は娘が3人おりまして……よろしければ誰か1人、ロナルド様と結婚を……。」

 まだ俺たちは子どもだというのに貴族どもは縁談を持ち出している。よほど王族と縁を結びたいのだろう。大人への対応は早々に親に任せ、俺は女の子たちの相手をしていた。俺と同年代の女子は俺の元へ集まり、俺より年上の女子は兄上かアンジェリカの元へ集まっていた。同年代の貴族の男子たちとはときどき遊ぶので、たまには女子たちの相手をすることにした。

「俺、剣の腕は同年代で1位なんだよね。」
「すごいですわ!」
「さすがロナルド様!」

―ちょっと自慢するだけでこれだ。女子は黄色い声を上げる。

「この前の試合を観ましたわ!」
「わたくし感激しました!」
「しびれるくらいかっこよかったです!」

 次々と俺を褒め称える女の子たちに俺は気を良くする。女なんて簡単だ。武勇伝を語ればすぐしっぽを振る。まるで犬だ。

「トロフィーを部屋に飾ってあるんだ。見せてやろうか?俺の城に招待してやるよ!リリアンドの珍しいお菓子を取り寄せたばっかりなんだ。」
「きゃーー!」
「ぜひお願いします!」
「お父様にきいてみますわ!」

―そう言って女の子たちはそれぞれの親に許可をもらいに行った。作戦通りだ。父上は兄上が王位を継げるよう貴族を仲間につけようとしている。密かに気に入った貴族たちを二次会に誘う準備をしていた。

 女の子たちがいなくなるとある一人の幼子が目に入った。年下の女の子だ。俺に背を向けて芝生に座り込んでいる。この国ではめずらしい髪の色だった。黄色いドレスを着ている。いつのまにいたのだろう。一人でかわいそうだからそいつも家に誘ってやることにした。

「おい。そこのお前。」
「…………。」

―この俺様が呼んだのにそいつは振り向かない。ただ一心不乱に腕を動かしていた。何をしているのだろう。

「おい。お前。」
「…………。」
「お前だよ、お前。」

―まただ。返事がない。俺に気づいてないのか。無反応の娘にイライラしてきた。

「俺はこの国の第二王位継承者、ロナルド様だ。王の弟の2番目の息子。お前は?」

―この自己紹介で今まで頭を下げなかった人間はいない……はずだった。ところがこの小娘は手を止めるどころか振り向きすらしない。

「これから俺の城でみんなとリリアンドのお菓子を食べるんだ。俺が優勝した剣大会のトロフィーや俺だけのオーダーメイドの兵隊の模型も見せてやる。お前も一緒にどうだ?」
「…………。」

―素性を明かして誘っても彼女は振り向かない。生まれて初めて無視された俺は屈辱を感じた。

「なんだよ!こっち見ろよ、きいろ(ジョーン)!」

―俺は名前も知らない女の子をフランス語で"きいろ"(Jaune)と呼んだ。黄色いドレスを着ていたからだ。するとどういうことか、ようやく彼女は振り向いた。

「……?」

―肩まで伸びた黒いウェーブの髪。夜空が宿った大きな瞳。どんな花のつぼみより愛らしい唇。そのあまりの美しさに、妖精の子どもが人間界に紛れ込んだと思った。

「……。」

―彼女は無表情で俺を一瞥すると、すぐ作業に戻ってしまった。よく見たら彼女はシロツメクサで花輪を作っていた。どこの貴族だか知らないが、そんな雑草より高級な薔薇のほうがふさわしいと思った。彼女に見惚れていたら別の女の子の声がした。

「あの子、さっきからずっとそこで花輪を編んでるんです。」

―なんということだ。さっきまでそれなりにかわいいと思っていた伯爵の女の子が急に色褪せて見えた。"きいろ"が美しすぎるせいだ。

「わたくしたちもロナルド様に話しかけるとき、一緒に行きましょうと誘いましたが断られました。」
「可愛らしいですけど変な子ですわ。」
「あ……ああ、そうだな。」

―腑に落ちなかったが、俺たちは馬車で城を移動した。

***

―俺の城へ移動したあと、大人は大人同士で、子どもは子ども同士で集まり賑わった。ダイニングルームは大人に占拠されていたので俺たち子どもはリビングルームで遊んでいた。執事とメイドは俺たちの飲み物と食べ物の要求に応えようと必死だった。

「俺、トロフィー取って来る!」

―忙しそうな執事とメイドを置いて俺はリビングを出た。寝室のある2階へ上がろうとしたら向かいの廊下を横切る人物がいた。あの黄色いドレスの女の子だ。……なんだ。やっぱり俺に興味あるんだ。複数の馬車があったから俺の後に来たんだろう。特別に俺の部屋まで案内してやろう。俺は階段を上るのをやめてあの子を追いかけた。

「おい!きいろ(ジョーン)!」

―今度は一発で振り向いてくれた。だがあいつは他の男と一緒にいた。

「……ロナルド?」

―そう。あいつはアルフレッドと一緒だった。

「兄上!……その子は?」

―なんとなく嫌な予感がした。兄上は爽やかに答える。

「ああ。リリアンドの植物図鑑を読みたいと言ったから貸そうと思って……招待したんだ。」

―俺はむっとした。俺の誘いは断って兄上の誘いは受けるなんて……。こいつは兄狙いの貴族なのか?……王妃の座を狙っている?胸がもやもやしたがそいつの名前が知りたくて訊ねた。

「さっきも言ったが俺はロナルド。アルフレッド兄様の弟だ。お前は?」
「…………。」

―本当に無愛想な子だ。笑いもせず俺の顔をじっと見ている。

「あれ?知らなかったの?」

―兄上はきょとんとする。

「さっき名前を呼んでなかったかい?」
「え?……きいろ(ジョーン)?」

―兄上はくすりと笑った。

「なんだ。聞き間違えか。彼女の名前はジャンヌだよ。J-E-A-N-N-E。Jeanne(ジャンヌ)。Jaune(ジョーン)だとJohn(ジョン)みたいで男の子の名前じゃないか。」

―この国でジャンヌと言ったら一人しか思い浮かばない。ジャンヌ・ロサキネティカ。王の一人娘。彼女が第一王位継承者になったと発表されたのは翌年のことだった。

開くトラックバック(0)

 朝食に乱入者が来ることはわかっていた。それは心の声を聞くまでもなく予想できる展開だった。あんな前代未聞の決断を宣言されて、はいそうですかとすぐに受け入れられるわけがない。私たち家族は発表前から誰が直訴しに来るかも予測できた。足音も鼻息も荒い男は衛兵も無視して自ら扉を開けた。

「おい!ジャンヌ!どういうことだ!」

 釣り目の男は挨拶もせずに私を責める。従兄弟のロナルドだ。赤茶色の髪をうなじ辺りで一か所に三つ編みでまとめたこの男はいつも偉そうな態度を取っている。傍らにはアンジェリカもいる。私と両親は彼らを見て一瞬手を止めたが、私はすぐ食事を再開する。ロナルドがカチンと来ることはわかっていたが料理が冷めるのが嫌だから仕方がない。

「王位継承権を放棄する?馬鹿かお前は!?」
「別にいいでしょ。」

 私はナプキンで口を拭く。もうすぐここの宮廷料理が食べられなくなると思うと名残惜しい。結婚したら牛肉のステーキはあまり食べることはないだろう。

「あなたには関係ないわ。」

 ステーキをもう一切れ口に運ぶ。おいしい。スピーチ前にシェフが仕込みを終わらせてくれたのだろう。動揺して肉を焦がすというミスをしないとはさすがプロだ。ロナルドはテーブルを両手でドンと叩く。食器は揺れても私の心は揺れない。

「関係ある!!大ありだ!」
「私たち、血は繋がっているけど関係ないでしょ。あなた日頃から『この国の王になるのは兄さまだ!』って豪語してたじゃない。」
「それは……!」
「私が王になろうがアルフレッドが王になろうが大差はないでしょ。どっちにしろあなたは王にならないんだから。」
「俺が王になるかならないはどうでもいいんだよ!!」

 テーブルの上についていたロナルドの手は拳へと変わる。

「お前……平民と結婚するって……正気か……?」

 温野菜が刺さったフォークがピタリと止まる。私は彼がダイニングルームに入ってから初めて彼を見据える。しかし次に言葉を発したのは私でもロナルドでもなくアンジェリカだった。

「そうよぉ。もったいないわぁ。」

 アンジェリカはいつもの甘ったるい声で話す。ロナルドと同じ赤茶色の髪で私の髪のように美しいウェーブを放っている。今日も髪の一部を三つ編みにしていた。ロナルドもアンジェリカもどうせ自分は王位を継げないとわかっており、熱心に勉強をしなかった。自分の趣味に走った二人の知識は偏っている。それは別に構わないのだが二人とも性格に問題があるため苦手だった。

「あなたは王位第一継承者なのよぉ?わたしと違って確実に王になれるのよ?てっきり建国以来初の女王陛下になると思ってたわぁ。そしたらあなたを全力でサポートするつもりだったのにぃ。」

 背筋がゾッとした。テーブルをはさんでいなかったら彼女は私の髪を触っていただろう。

「ジャンヌ〜。今日もきれいねぇ。前よりきれいになったんじゃな〜い?恋してるからかしら?一体どこの馬の骨がわたしのジャンヌを奪ったのぉ?」

 そう……これだ。この甘ったるいしゃべり方。私を見つめる目。私は彼女にとってお気に入りの最高級自動人形なのだ。操り人形と違って自立していて思い通りにならないところが面白いらしい。だがさすがに私が女王に即位せず国を出るのは嫌らしい。近くで観察できなくなるからだ。私はため息を堪えた。

「私はあなたのものではないわ。」
「あらぁ?ごめんなさ〜い。言い間違えたわぁ。わたしの大事な従姉妹と言いたかったのぉ♡」

 くすくす笑う彼女に頭が痛くなる。彼女の脳裏には今までの思い出が高速で再生されているようだ。

―ああ……ジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌ〜!初めて会ったときはかわいい妖精さん。会うたびにどんどんきれいになっていく。今となっては妖精女王。どんな服もどんな髪型もどんなアクセサリーも似合う!優美で聡明な至高の着せ替え人形!!剣技も体術も優れているのに私に暴力を振るわない騎士姫!愛しのジャンヌ。麗しのジャンヌ。ああ、嫌がるあなたに頬ずりしたい……♡

 悪寒が体の下から上まで走る。アンジェリカの私への思いは同性愛というより偶像崇拝に近い。ひどければペット扱いだ。どちらにせよ勘弁してほしい。彼女の機嫌が良くなる言葉をかけなければ。

「離れても手紙を書くわ。」
「ほんとぉ?楽しみにしてるわよぉ♪」

 機嫌を取るのに成功したらしい。彼女はにんまり笑う。

「結婚前に遊びに来てよねぇ。アルフレッドお兄様もロナルドも歓迎するわぁ♪」
「……善処するわ。」

 本当は行きたくないが国を出たらもう二度と会わないかもしれない。最後くらいは付き合おうと思った。問題はロナルドだ。アンジェリカは満足して下がったが再びロナルドが前へ出た。

「他国の王族や自国の貴族と結婚するならまだわかる。だが……平民だと?容姿端麗、文武両道。富も名声もある完璧なお前が身分の低い男と……結婚?ふざけるな!」

 ロナルドはテーブルを叩いた。執事はロナルドに一瞥した後、気まずそうに空になった皿を片付ける。ロナルドはこめかみをヒクヒクさせながら腕を組んだ。

「そいつは美しいのか?」
「見た目は普通よ。」
「賢いのか?」

 あなたよりかは、と言うのはやめた。ロナルドはプライドが高い。

「教養はあるほうよ。」
「お前より……強いのか?」
「心は強いわ。」
「はあ?」

 理解できないという顔だった。彼の性格を考えるとおそらく全てを聞いても納得しないだろう。

「そいつのどこが良いんだ?」

 その質問のあと、真っ先にロバートの笑顔が思い浮かんだ。

「優しいの。誰よりも……。」

 ロナルドは冷ややかに笑った。

「誰にでも優しいんじゃないか?」
「私には特に優しいの。」

 私の反応が気に入らなかったのか、ロナルドはむっとした。

「金目当てなんじゃないのか?」
「私は必要最低限の持参金しか用意してないわ。結婚した後は二人で協力して働かないと生活していけないことは彼も承知している。」

 ロナルドは絶句した。立派な城、柔らかいベッド、贅沢な食事、豪華な服、美しい調度品、たくさんの召使い……それら全てが一切ない生活を彼は想像することができなかった。

「あなた……私にどうしてほしいの?私ではなくアルフレッドに王位を継いでほしいんでしょう?でも私が王位継承権を放棄して平民と結婚するのは嫌ってどういうこと?」

 初めてロナルドは弱気になった。口をつぐみ、泣きそうな目で私を見る。どこかで誰かが似たような顔で私を見た気がする。すぐに思い出した。幼馴染のマシューだ。私がロバートと楽しそうにしていると、マシューはいつも悲しい目で見ていた。

「そいつは……お前にふさわしくない!」

 ロナルドは葛藤しながらなんとか言葉を振り絞った。悪手だった。チェスで負けが確定しているのにあがいているようなものだ。

「それはあなたが決めることじゃない。……そもそも私が誰と結婚すれば納得するのよ?アルフレッドならいいの?」
「うっ……。」

 ばつが悪い顔をするロナルドを見てアンジェリカはにやにや笑う。私の両親はやれやれと呆れていた。執事は仕方なく居心地が悪いダイニングルームへデザートを運んだ。

「たしかに……アルフレッド兄さまならお前にふさわしいかもしれないが……。」

 第二王位継承者のアルフレッドは眉目秀麗で優れた剣士でもある。私と同じくらい賢くて強い。高潔な人格で、私はアンジェリカとロナルドが苦手だけどアルフレッドのことは敬愛していた。王の弟である叔父の自慢の息子で、ロナルドもそんな兄を誇りに思っている。それでもロナルドは兄が私と結婚するとは思っていなかった。……否、望んでいなかった。なぜなら彼は……。

―なんで……なんで……。

 とうとう彼の思いは爆発した。

―なんで俺と結婚しないんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!

開くトラックバック(0)

 年が明けた。こんなに清々しい気持ちで新しい年を迎えたのは初めてだ。小さい時は新年の何がめでたいのかわからなかった。無事に年を越せることのありがたさを知識で知っても理解はできなかった。どうせ新しい年になっても自分の能力はそのままだとひねくれていた。でも今は違う。今年の最初の朝、私はベッドから飛び上がり両手でカーテンを開けた。冷たい風を覚悟して窓を開く。朝日が街を、国を、山を照らしていた。

―なんて美しいの……!

 残っていた眠気は冷気で飛ばされた。私は深呼吸をする。新鮮な空気。生きててよかった……心からそう思えた。

―きれいな景色……ロバートやミランダにも見せてあげたいわ。

 このまま景色を切り取ってみんなに見せたかった。きっとどんなに一流の芸術家でもこの景色を絵の具で表現できない。

―クシュッ。

 感動的な景色に見惚れていたらクシャミが出た。体は正直だ。メイド長に怒られる前に窓を閉めた直後、ちょうどドアがノックされた。

「まあ、姫様!もう起きていらしたんですね!」

 今まで新年の朝は不機嫌に布団にくるまっていたためメイドたちは目を丸くする。

「おはよう。明けましておめでとう。」

 メイドたちはまた面食らった顔をしたがマーサだけのんびり挨拶する。

「姫様〜!ご機嫌うるわしゅう。今年も姫様と新年を迎えられてうれしいっす!」
「私もよ。」

 あいかわらずのマーサのマイペースにメイドたちがひやひやするなかメイド長はすぐに仕事の顔に戻る。

「おはようございます、姫様。新年明けましておめでとうございます。」

 お約束の挨拶を終え、メイドたちにテキパキと私の洗顔・歯磨き・着替えの準備を始める。メイド長はメイドたちの行動を一通り目視したあと私をじっと見る。

「今年もよろしくお願いします。……ご機嫌ですね。」
「そう?」

 自分がどんな顔をしているか気になって鏡を見た。少し嬉しそうな顔をしていた。知らないうちに笑っていたようだ。どうりで顔がくすぐったいわけだ。私はイタズラっぽくメイド長に語りかける。

「今年もよろしくね。……もうすぐ会えなくなるかもしれないけど。」
「えっ?それってどういう……」

 何か言いたげなメイド長を置き去りにして私は顔を洗った。

 この国の年末年始は静かだ。南国のハイビスカシアでは年越しは飲んで騒いで踊るが、ロサキネティカの年越しはみんな眠って過ごす。起きたら身支度し朝食の前にいつもより少し長めの祈りを捧げる。最初の7日間は休日でどの店も開いていない。そして8日目に国王が城の屋上から新年の挨拶をする。このように王族は新年、春夏秋冬の挨拶、復活祭、収穫祭、クリスマスなどの行事にスピーチを行う。国民はこれらのスピーチを聞くことを義務付けられていないがいつも多くの国民が国王のありがたい言葉を聞きに集まってくる。特に私が生まれてからは年々集まる人が増えていると言う。国王・王妃・王女の言葉が聞こえなくても、遠目でもいいから一目見ようと押し寄せてくる。

 そんな中でも城で働く人たちは幸運と言われている。新年の初日から場内の聖堂で国王のありがたい言葉が聞けるからだ。今年も父はスピーチを行った。しかし私が国王としてスピーチを担当する日はとうとう来なかった。

「皆の者、明けましておめでとう。」

 大臣、書記官、騎士団、召使い、聖職者。それぞれの役職の者が固まり列を作っていた。聖堂に入りきらない騎士は聖堂と城を守っている。聖堂では城で働く者が全員敬愛する国王陛下に真摯に目と耳を傾けている。マーシュ、マーサ、チャーチヒル司教とロバートもいる。ただ一人父を睨んでいたのは叔父だった。本当は自分が王としての責務を果たすはずだったと言わんべき顔をしている。従兄弟のロナルドとアンジェリカも面白くなさそうな顔をしていた。二人の兄であるアルフレッドだけは真面目にスピーチを聞いていた。

「去年は皆私たちによく仕えてくれた。皆の厚い支援がなかったらこの城も国も成り立たなかった。礼を言う。」

 聖堂は拍手で包まれた。飾り気のないありきたりな言葉だが父の裏表のない言葉は皆の心を温かくした。メイド長いわくみんなこの毎年同じような言葉を聞き気を引き締めているらしい。

「この城で働く者だけでなく全国民にも感謝している。一足先にここにいる者たちに告げよう。ありがとう。」

 その後、父は国の情勢や近国との外交方針を説明をした。私はいけないと思いつつ時折ロバートをちらりと見てしまう。このとき誰も父が最後に重大発表をするとは思っていなかっただろう。

「……最後に大事な知らせがある。皆動揺すると思うが落ち着いて聞いてほしい。」

 いつもと違う流れに城の者は少し戸惑う。

「我が娘、第一王位継承者にして我が一人娘であるジャンヌ・ロサキネティカ姫は今春、結婚する。」

 事情を知らぬその場の全ての者はざわめいた。特に大臣や叔父、ロナルドは激しく動揺した。アンジェリカとアルフレッドも驚いたもののロナルドほどではなかった。叔父の心の乱れが伝わってきた。

(誰だ……?結婚相手は誰だ!?他国の王族に嫁ぐのか?それとも……他国の王族か我が国の貴族と結婚し、我が国を統治するのか?その場合は夫婦で共同統治か?それともあの小娘が単独で……?)

「結婚相手は……平民だ。ジャンヌは自分を姫としてではなく一人の女として愛してくれる男を見つけた。彼は賢く勇敢で清廉な魂を持ち、姫の見た目だけでなく心も愛している。そのため姫は彼の愛に応えるため自ら王位継承権を破棄し、国王の座を辞退することを決めた。」

 その言葉を聞いて逆にざわめきが収まった。中には顔面蒼白になっている召使いもいる。自分の息子に王位を継承させようとたくらんでいた叔父までぽかんとしている。私は打ち合わせ通りいったん父と入れ替わり、スピーチを行った。

「皆さん。今まで国王・王妃だけでなく私に仕えてくれてありがとうございます。中には私がこの国初の女王になること期待していた方もいたでしょう。残念ながらその期待には応えられません。」

 再び聖堂がざわついた。私はみんなの心の声を聴きながらスピーチを続ける。

「私はこの国と国民を愛しています。でも……本当にやりたいこと、一緒にいたい人を見つけてしまったんです。自分勝手だということはわかっています。恩知らずと思われても仕方ありません。申し訳ありませんが私は王位を継ぐことはできません。」

 本当に申し訳なかった。今まで私が受けた教育はなんだったのか。誰のために男を倒せるほど体を鍛えたのか。私はみんなの期待を裏切ってしまった。私が女王になるプレッシャーを感じていたことはみんな薄々知っていたかもしれない。でも誰も私が人の心を読めることを知らない。この能力のせいでどれほど苦しんだことを知らない。だから私には……言い訳かもしれないが……全てを手放して幸せになることを許してほしかった。

「私はこの国の王にはなりません。しかし私と同じくらい、もしかしたら私以上にこの国を愛している者が国王になります。」

 ここでようやく城の者は気づく。私が誰と結婚するか、なぜ女王にならないか。私のほうに気を取られてもっと重大な問題を忘れていた。国の今後を最も左右する者――誰が新しい王になるのか。

「私は……アルフレッド王子を次の国王に推薦します!野心のない彼なら今後も我が国の平和を守ってくれるはずです!」
「ええっ!?」

 ここで初めてどよめきより大きな声が聞こえた。アルフレッドだ。ずっと第一王位継承者の私が女王になると思っていたので、第二王位継承者である自分が王になるとは思っていなかったのだ。叔父は長年アルフレッドが王になることを望んでいたが狂喜乱舞するどころか頭が真っ白になっていた。さっきまであんなに心の声が激しかったのに何も聞こえない。心の底で叶わない夢と思いつつ暗躍し、いざ叶うと知ったとたん拍子抜けしてしまった。もしかして息子に王位を継がせるという野望が今まで彼を生かしていたのかもしれない。私は叔父が抜け殻にならないかと初めて彼のことを心配した。父は自分の兄の様子に気づかすスピーチを締めた。

「次の国王はアルフレッドだ。……アルフレッドが望むならな。もしアルフレッドが辞退したらロナルドかアンジェリカか王位を継ぐ。まだ三人に王位を継ぐ覚悟がなければそれまで私が国王を続ける。……皆の者、今年もよろしく頼む。」

 スピーチを終えた私たち家族は晴れ晴れとした気持ちで聖堂を去った。しかし残された者は興奮が収まらず、自らを落ち着かせるように周りの者と感情を共有した。しばらく聖堂を離れられない者がほとんどだったが、給仕係の召使いだけ慌てて私たちの朝食を運びに行った。

開くトラックバック(0)

全574ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]

本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事