オフィスを開いた。
日本ではちょっとした会社で誰でも知っているが、米国の事務所は、超マイナーだ。
会社の格は銀行のクレジットラインによってきまる。
応募してくる女性はそれぐらいの事は当然調べてくる。
集まってくるのは、人種的に冷遇されている層か、そういうことにすら気が回らないレベルだけだ。
今回はスペイン語の翻訳の条件つきで、特にアングロサクソンが必要というわけでもない。
ほしいのはスペイン語の能力だ。
結局、集まったのは、まず、ヒスパニック系、黒人、アジア系が少々。
正直いって短い時間で全て把握できるはずもない。
最初からヒスパニック系のひとりに的を絞っていた。
「それにルックスもまあまあだしな。」
同僚のAが言った。アメリカでやっていくにはちょっと危ないタイプだ。
要するに女性に対して軽薄すぎる。
型どおり面接と翻訳の試験を行う。
大概の人は与えられた翻訳の紙を訳すのみ。翻訳のレベルはまちまちだが、
この文章が途中で終わっていて、おかしいと気付くデリカシーがない。
実は裏面に文章が続いている。まともに訳せる人でも裏面に気付くものは少なかった。
これで単純に面接以前にだいぶ絞り込むことができた。
「秘書たるものボスの文章の中身についても、当然責任をもつべきだ。」
とはAの言い分だ。
これには一理あるなと内心感心した。単純だが、意外と気配りの有無が明確になる。
「これ途中で終わっていますけど?」
「ああそうなんだ。実は裏面に続いているんだよ。」
「そうですか気付きませんでした。」
「翻訳はさすがだね。」
「面接までちょっと待ってて下さい。」
「ほれみろ彼女に決まりだな。」
「日本語分かる奴もいるかもしれないじゃないか。軽々しく言うなよ!」
こういうところが彼の最大の欠点だ。
結局4名残した。ほとんど彼女に決めていたが、型どおり面接は行う。
逆恨みされて、差別されたなどと騒がれても困る。平等に扱ったフリをする。
彼女の面接の番になった。
「ここにくる前は何を?」
「ペンステートを、卒業したばかりです。」
「当社を希望した理由は?」
「実はメキシカンなので、最低3年は勤めないとグリーンカードがとれないの。」
「3年間保証ということだったし、場所も近いし。」
「というとカードの取得が目的?」
「失礼ですけど、こちら日本の会社の連絡事務所でしょ。」
「3年したらボスが変わるので、保証できないということでしょう。」
「まあそういうことです。」
「ところで結婚は?」
「それは答える必要ないわ。」
「そうでしたね。ファミリーの事は聞いてもいいかな。」
「子供が一人いるわ。」
結婚しているかどうかを聞くのは駄目だが、子供がいるかどうかを聞くのはオッケイらしい。
妙だが、子供の有無は労働基準法に関連するので、経営者側に聞く権利がある。
こうしてAと私と彼女の3人のオフィスになった。
一年半が過ぎた。オフィスの機能も順調で、彼女は思いのほか優秀だった。
今までで最大の金額の公共事業の入札だ。
会場で二人で開札を待っていた。
時間になれば金額が読み上げられ、一番札が決まる。
その後、一週間は書類が、相互に閲覧でき、おかしな点があれば指摘できる。
公正そのものだ。
「わくわくするな。」
「ああ。
結果は一番札だった。一週間たっても競合先からクレームはなかった。
ほぼ決まりだなと思った矢先に役所から呼び出しがあった。
「実は君達訴えられている。」
「へ!そんな馬鹿な。」
「一週間の閲覧期間後、どこからもクレームはでてないはずだ。」
「こちらのジェントルマンがMr.Aかな?」
「君がセクハラで訴えられてる。」
「こういうトラブルは困るんだよ。」
「相手はマイノリティだし、しかも子持ちで離婚暦ありときてる。」
彼女だった。そいういえばこの入札が始まって以来、服装が変わったし、
Aに対しても必要以上に接近していた。
「オレは合意の上だと思ったんだ。」
「馬鹿言え。お前結婚してるだろう。」
といっても後の祭だ。自分でなかった分、まだましだと思うしかない。
彼女は当然のごとく辞表をだした。
それでも何度か役所に談判した。彼も必死だ。
あるとき例の彼女がライバル会社と一緒にきていた。
「こんにちわ。私こちらに転職したの、部長になったわ。」
「何故だ。」
「これもキャリアの内よ。」
「私は貴方の裏を読みとって採用されたわ。」
「そして特徴を生かして成功したの。」
「でも貴方は私の裏を読めなかったわ。」
その後一週間でAに帰国命令がでた。
寂しい帰国だった。
それ以来、秘書にルックスと若さを求めるのは、やめることにした。
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