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中央線快速電車は定刻通り、新宿駅を出た。高尾には約1時間後の13時14分に着く。電車の中は混んではいないものの、座ることはできなかったのでドア横に固まって立つことにした。
電車は吉祥寺に到着した。
「お、吉祥寺か!」千葉が感心した声を出した。「おれ、ここに住みたかったんや。」
「千葉って家はどこだっけ?」友則が聞いた。
「うちは東西線の落合や。なんや東京のほうではこの吉祥寺という街が人気が高いって聞いたんで、吉祥寺狙いでアパートを探してたんやけども、ええのが見つからんくてな。しゃあないから、ちょっと妥協して落合で落ち合うことにしたんや。」うけをねらったつもりだろう。でも意味がわからない。
「加賀と輪島って横浜だよね?いいなぁ!」内灘だ。たしか内灘の家は埼玉だったと思う。
「横浜って言っても、山のほうだよ。海なんか全然見えない。なぁ、友則。」現に、横浜の中心部に出るのに地下鉄で30分はかかる。
「ああ、まあな。」冷たい反応だった。
このあと高尾、塩山と乗りかえて松本には17時29分に着いた。その間、直哉の問いかけに友則は終始冷たい反応だった。
松本駅で降りて舟橋が全員いることを確認してから、大糸線のホームに向かった。階段を昇っているとき、内灘が背中をつついた。
「ねぇ、けんかでもしたの?」内灘は小柄なので、一段先を昇っている直哉はかなり見下ろす体勢をとらなければならない。
「いや、してないと思うけど。」
「かもちゃんも心配してたよ?」鴨川のことだ。女子の間ではかもちゃんと呼ばれている。
「いや、全く心当たりがない。」階段を昇り終えると、内灘と並んで歩いた。
「聞いてみなよ。」
「そうだな…なんか急に冷たくなったんだ。キヨスク入るまでは普通だった。」はずだ。
大糸線普通電車南小谷行きは松本を17時47分に出る。2両編成のため、50人が乗ると混雑率は急上昇した。その中で直哉はなんとか友則のとなりを確保した。
「な、どうしたんだ?」
「なにが?」やはり冷たい。友則の視線は窓の外を向いている。
「どうして、そうぶっきらぼうなんだ?」
「さっき、悠から電話がかかってきた。」
「で?」
「おまえ、あいつに何を言ったんだ?」
「なにが?」意味がわからない。
「あいつはおれが浮気してると思ってる。」相変わらず、視線は窓の外だ。外は薄暗い。
「へ?してるのか?」
「そんなわけないだろう!」やっとこっちを見た。ただ目は血走っている。周りの乗客が友則に注目した。
「ちょっと待て、それとおれとの関係はなんだ?」
友則の話をまとめると、今朝小松の携帯電話に知らない人間から電話があったらしい。その人物によれば、友則は浮気をしている。そして直哉はそれを小松にばれないように手伝っている。直哉は悠に対する罪悪感でいっぱいだが、友則が怖くて言い出せない。そこで直哉はその謎の人物に、自分の代わりに小松に知らせるよう頼んだと言うのだ。よく考えるまでもなくむちゃくちゃな話だ。
「おれの代わりにその謎の人物に頼む意味が、わからないんだけど?」
「は?」友則の口がぽかん、と開いた。
「最終的におれの名前が出てきてるじゃねぇか。なら、おれはわざわざ誰かに頼む必要なんかない。自分から言うって話だ。」
「…そうか。」
「おれはそんなに信用がないか?」こんどは直哉が責める番だ。
「いや、全くすまん。そうか、そうだよな。つまりその謎の人物はおれと悠を別れさせようとしている、ってわけか。」
「いや、違う。おれと友則の仲を裂こうとしている。」
「なんで?」
「知るか。現におまえはおれに対して怒鳴った。」
「くそ、まんまと犯人の策略にはまったわけか。飛んで火に入る夏の虫じゃないか!」こいつは意味を知ってて使っているのだろうか。
「ともかくおれ、あとで小松に電話するよ。『おれはそんなこと頼んでない』って。」
「ああ、頼むよ。」友則の視線は、床を見ていた。
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