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信濃大町に着くと、マイクロバスがもう来ていた。あたりはもうすでに暗い。舟橋のおじが運転するバスは山に少し入ったところで停まった。近くにはゴルフ場があるらしい。おじさんは直哉たちを降ろすと、ふたたび駅に向かった。
降ろされた25人を出迎えたのは舟橋のおばだった。
「舟橋和代です!よろしく!さぁ、若いもの、手伝え!!」威勢のいいおばさんだった。
25人は荷物を玄関に置いて食堂に直行させられた。あちこちから「え、休みなし?」という小声が漏れた。
食堂で女性チームと男性チームに分かれた。女性チームはこのまま食堂で配膳。男性チームは夏の間だけここでバイトしているという、市川という男子大学生の指揮の下、各個室にシーツや毛布を運ぶことになった。
「あの市川さん、東大を今年卒業して、外務省に行くらしい。」友則がどこから仕入れたのか、毛布を運びながら言った。
「じゃ外交官か?たしかに頭よさそうな顔をしてた。」直哉は背が高くて、でもどこかがっちりしている市川を思い出した。
「あれ、おれこれをどこに運べばいいんだっけ?」友則はもう忘れたらしい。
「おれが207だから、おまえ206だよ。」
207に毛布をいれて玄関前を通ると、2便の先輩たちが着いたところだった。そして配膳と各個室にシーツや毛布を運ぶ作業が終わると、食堂に全員集合して着席した。
「もう聞いたと思うが、おれのおじさんの舟橋一人さんと和代さんだ。」代表が紹介すると、拍手が起こった。
「なにせ今回、通常の60%の宿泊代で泊まらせてもらうんだ。自分でできることは自分でやってくれ。」
ペンションの相場と言うのはわからないが、2泊3日食事つきで8000円というのは安いのだろう。
「よろしくお願いします!」全員、声がそろった。
「じゃ、飯を食って眠くなる前にあしたの確認だ。あしたはアルペンルートに行く。扇沢までまた、一人おじさんに2回に分けて送ってもらう。4時起床だ。朝食はバスの中でおじさんとおばさんお手製のおにぎりだ。全員、飯を食ったらさっさと寝ろ。」
「マージャン、できないんか…。」千葉が哀しそうな声をあげた。
夕食後、解散となり各々予め割り当てられた部屋に向かった。直哉は103号室だった。友則と千葉、そして成田と香取が同室だった。
「1回だけ!」千葉のわがままに答えて、マージャンに付き合うことにした。そのときだった。ドアが開いた。
「輪島、ちょっと。」舟橋だった。
「はい?どうしたんですか、代表?」
代表はドアを開けたまま行ってしまった。
「なんだろう?」他の3人も心配そうに直哉を見ている。
「ちょっと行ってくる。」3人は「ああ」とだけ言って見送った。
舟橋を追いかけていくと、207号室だった。部屋の中には代表のほかに、野田、河合、福野といった4年の先輩に混じって、舟橋一人や市川もいた。
「君が確かこの部屋に毛布を運んだんだよね?」市川が尋ねた。
「はい、そうですけど?何があったんですか?」
そう聞き返すと、代表が一枚の毛布を広げた。
「あ。」としか声が出なかった。毛布はずたずたに引き裂かれていた。
「足元も見てみろ。」河合の言葉に反応して直哉は足元をみた。畳にも引っ掻いたようなあとがついてい
る。
「犯人は畳の上に毛布を広げ、カッターか何かで毛布を引き裂いたんだ。だから畳にも傷が残った。」市川があごに手をあて、探偵のように解説した。
「おれ、やってませんよ!」なんとかそう言葉を発することができた。
「おい、輪島のかばんの中からナイフが見つかったぞ。」
後ろを振り返ると、4年の桜井が立っていた。
「へ…。」直哉は振り返ったまま硬直してナイフを見つめた。しかしそれは直哉のものではなかった。
「それ、おれのじゃないです!」
「ああ、加賀も千葉も、これは直哉のではないと否定していた。」桜井が続けた。
「本当にやってないんだな?」野田が尋ねた。
「はい。」
野田はほかの4年を見回してから「じゃ、すまなかった。あしたは早いから部屋に戻れ。」そう指示した。
「失礼します。」
部屋に戻ると、4人はマージャンをせずに直哉を心配そうな顔をして待っていた。
「わりぃ、寝かしてくれ。」
「おう、構わんで。よう考えたらあした早いもんな。寝よか!」
直哉は布団にもぐりこんで、ひとつの考えを抱いていた。毛布を引き裂いたのは、氷見じゃないだろうか。
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