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7月28日。気づくと車は富山環状線に入っていた。現場までもうすぐだ。富山県警富山東署の刑事、笹津実は朝食のおにぎりを食べ終わって窓から空の様子を窺った。
「きょうは暑くなるがんかな?」
「ええ、フェーン現象が起こって35度を超えるそうです。」
残念ながら、その予報は当たりそうだ。
「どうや、富山の夏は暑いだろ?」笹津は運転手を務める、去年東京から富山に来た新米刑事に尋ねた。
「ええ、東京より涼しいと思ってたんですけどね。」
「なぜか東京の人間は、日本海側は雪が降るから涼しいというイメージを持っとるけど、それはまちがいだ。東京じゃ、なんて言ったかな…エアコンの廃棄熱で気温が上がるっていう…。」
「ヒートアイランド現象ですか?」
「それや。東京は人口の熱で暑いらしいが、富山は違う。フェーン現象という自然現象によって発生した熱風が富山平野に吹き下りてくる。東京とは暑さの次元が違うんじゃ。」おれはなにに対抗意識を燃やしているんだろうか、笹津はすこし自分がおかしくなった。
「どうしたんですか、にやにやして?」
「いや、何でもないわ。」
現場は田んぼの中の用水路だった。この用水路は脇の道より一段高いところを流れている。その一段高いところを学校に向かいながら、遊んでいた小学生が第一発見者だった。被害者は用水路の両岸から渡してある鎖に引っかかった状態で、発見された。
「大きな用水路ですね。」上袋は幅2メートルはあるだろう用水路を見て言った。水量はかなり多い上に、流れも速い。
「ああ、広田用水。この辺では一番大きい。昨日のあの大雨の中、この仏さんは何しに用水路にきたんや?」
「これ、転落防止のためのフェンスが続いてますが、わざわざ乗り越えたんですかね?いや、突き落とされた…?」
「あ、大沢さん。仏さんの身元は?」笹津は先輩の刑事を見つけた。
「お、笹津。おまえも教育係になったんけ?」
「おかげで白髪が増えましたよ。」笹津は35歳だが、歳の割りに白髪が多かった。
「被害者はこの用水路の上流、常盤台三丁目に住む氷見曜子、49歳。今朝、夫の氷見高幸から捜索願が出されとった。」
「常盤台ですか。じゃ、ちょっと行って来ますわ。」笹津が振り返ると、上袋は運転席に乗り込むところだった。
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