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笹津は氷見宅の前に車を置くと、家には入らず歩き出した。
「どこ行くんですか?」
「広田用水や。この家から用水路にはどうやって行くんか、調べないとな。」
笹津はいまの署に着て、3年。このあたりの土地勘はある。だからどっちの方向に用水路があるのかはわかるが、そっちの方に歩いていくと行き止まりになっておりなかなか用水路にはたどり着けなかった。
ようやく見つけたのは、中学校と広田用水ではない用水路の間を伸びる幅1メートルくらいの、舗装されていない道だった。道は昨日の雨でかなりぬかるんでいる。その道を50メートルほど歩くと広田用水に出た。ここには転落防止用のフェンスがない。
「あ、涼しい。」上袋がふぅ、と息を吐いた。
言われて見れば、ワイシャツがべったりと背中に張り付いている。きょうは35度を超える富山で、木陰の水辺はいやしの空間だった。
「ここから落ちたんですかね?黙ってても落ちちゃいそうだ。」
「ああ、たぶんな。でもなにしにここに来たがんやろ、氷見さんは?」
「たしかにここは地元の人間でも来そうにないですね。」上袋が後ろを振り返って言った。中学校のフェンスと用水路の間の、この狭い道に用がある人間はいないだろう。
そこから氷見宅へは5分ほどだった。玄関先のチャイムを鳴らすと、氷見高幸が出てきた。50歳くらいかな、笹津は思った。そのまま居間に通された。氷見は手際よく台所でコーヒーをいれると、2人の前に置いた。
「このたびは。」笹津が切り出した。
「ええ。まさか、こうなるとは、思いもせんかったです。」
「曜子さんは用水路で発見されました。曜子さん、何しに用水路ちゃ行ったか、わかりますか?」
「いえ、それが全くわからんがですよ。昨日夜8時くらいにあの大雨の中、『ちょっと出てくるわ』とか言ってですね、出て行ったんですけど。」
「昨日は確か、雨で北陸線がとまりましたな。わたし呉羽から汽車で来とるんですが、いや、参りました。」
「曜子は、殺されたんですか?それともただ単に落ちたんですか?」氷見は雑談をするつもりはないらしい。それもそうか。
「それはいま捜査中です。なんとも言えないですよ。ただ、いま殺されたか、と聞かれましたけど、なにか思い当たる節でも?」
「失礼ですが、高幸さんは昨日その曜子さんが出て行かれたあと、何を?」上袋が初めてしゃべった、が余計なことを聞いた。
「わたしを疑っとるんですか?」氷見は顔を近づけた。
「いえ、そういうわけじゃありません。ただの状況確認です。」笹津は上袋のももを叩いた。
「わたしは昨日は、荏原火薬の大島社長をうちに呼んでいたんですよ。なので曜子が出て行ったあとも大島さんと雑談していました。」
「何時くらいまで?」笹津が尋ねた。
「10時くらい…じゃなかったかと思うがんですけどね。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「それで、曜子さん、恨まれたりってことはあったんですかね?」
「いえ、思い当たりせん。」
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