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母の日 病院において

母の日。
母は現在阪大病院に入院中。糖尿病と腎疾患で入院して3か月余りになる。
病状は安定したが、食事がとれない。それで栄養チューブを鼻から胃に通して最低限の栄養を採っている状態なのだが、本人はそれが嫌で度々管を抜く。

急性期も脱しているので、転院を準備しているのだが、今後の療養も考えて自宅の改装も急いでいる。

もともと、昨年秋までは自立し、一人暮らししていた。元気だった、糖尿病があるので、血糖値管理は自分でしていたが、昨秋から急激に悪くなり、腎機能も低下した上に腹水の増加も見られた。胃に初期の癌も見つかったこともあり、何度か入退院を繰り返したが、ついに今年になって長期入院となった。

もうかれこれ3か月は食事を取っていない。やせ細り、骨と皮だけになったと言っていい。医師の判断では食事できる状態と言うのだが、入院初期に腸結核の疑いから、結核治療を開始した直後にイレウスを起こし、それ以降、食事を採ろうとしない。

頑なに食べることを拒否し、死にたいという。
ほとんど寝るだけで時間感覚もあまりないようだ。
なだめ、すかして食事、リハビリをさせようとするが、拒否する。

そんな折、妹がリューマチを発症し、入院となってしまった。
母の看病のストレスも発症要因だと思う。
母は何もしてやれないと泣いたが、まさにどうすることもできない。元気になって、せめて車いすに乗れるようになったら、見舞いにも行けると励ますのだが。

5月は、私も、妹も誕生月だ。私は還暦を迎え、妹も58になる。

そして、奇しくも、私も妹も「母の日」に生まれている。

この日、母は自ら「外に出たい」と言った。車いすに乗るのも嫌がっていたのに。
車椅子に移乗させ、病院の庭に出た。
5月の薫風と初夏の陽が母に降り注いだ。

「あー、気持ちいい」

入れ歯を入れていない母の不明瞭な声だったが、はっきりとそう言った。

「5月だよな。俺も還暦になったよ」

母は何度も頷いた。それは、言わずとも、今日が特別な日だということを解っている、というのだろう。

「ほんと、5月だな」
私は、もう一度、青空をふり仰いで言った。
母も振り仰いだ。

母の眼尻にたまった涙を拭いてやった。

一筋の雲だにない青空と透き通る薫風。

しおれ始めたツツジを生き返らせるようなさわやかさだった。




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