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「敵中横断三百里」より文章を適宜に抜粋
敵弾に当たって死ぬよりも自刃して!
心静かに切腹せんとする瞬間、すぐしたから敵の叫び声
切腹の途中に捕虜となり、そのまま生きてはいては
二重の恥だ、軍刀を投げ捨て首にかけている拳銃を
口を静かに額へ当てた。
急斜面を逆落としに
敵の頭上に駆け下りた
喚声・・拳銃の乱射・・軍刀のきらめき
決死の猛襲に敵は道を早駆けして逃げた
峰を登ったとき、たちまち横からいっせい射撃の響きが
かすめ飛ぶ敵弾の下に5人は全滅を覚悟した
死なばもろとも、前後左右をかすめる敵弾のうちに
5人は騎兵の命である馬をついに手放した。が
山から谷へ5人のあとを愛馬も可愛いかな、
主人を慕って後ろへついてくる。
敵は目の下20メートルばかり
積雪の中三方から射撃する
鮮血のなかに倒れている愛馬の「河北」
「河北!許せここへ残していくぞ!」と涙ぐみながら
河北のたてがみを、むしれるだけ、抜き取った。
愛馬のなごり・・・形見の毛である。
乱射乱撃、ばらばらと弾雨を飛ばす
朝早くに敵の馬賊に発見されてから
追跡、奮迅、射撃され、人も馬も一滴の水を飲まず
一粒の食う物をもとらず、山また山を
谷また谷を、ようやく逃れてきた。
馬はよろめき人は肩で息を刻んでいく。
骨をも凍らせる寒さは迫って、しかも四方は敵だ。
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