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二浪目は予備校を一つに限定せず、単発で受講するようにした。
予備校の先生の授業は、どれも高校や大学とは比べ物にならないほど面白かった。
みんな人気講師だけあって、教えるのが抜群に上手い人たちだった。
当時、神保町に研数学館という予備校があり、
現代文は柏崎先生という講師の授業を受けていた。
大学時代、ボクが無類の読書家になったのは、この柏崎先生のおかげだ。
授業中、文学の話になると目がランランと輝いて、実に楽しそうに話してくれる。
ボクも先生が言っていた本が読みたくて、片っ端から純文学を読み漁った。
英語は、駿台の伊藤和夫先生の参考書を読んで勉強した。
この先生の授業のおかげで、ボクの英語の偏差値は垂直的にあがった。
どうしても生で伊藤先生の授業を聞きたくて、夏期講習を受講した。
想像以上に、伊藤先生の説明は分かりやすく、まさに神業だった。
伊藤先生には感謝してもしきれない。
古文は代ゼミの土屋先生という講師の授業を受講した。
土屋先生は話術が素晴らしく、授業と関係の無い話を連発しまくっていた。
話が脱線することも多かったが、それでもイライラすることがなかったのは、
あまりにも話術が素晴らしかったからで、
土屋先生のテキストはどの教材よりも完璧だったため、
自宅で勉強するには申し分のないものだった。
日本史は、山川出版の教材を参考にした。
教科書、問題集、用語辞典をボロボロになるまで使い倒し、丸暗記した。
二浪目の受験間近、ボクはちょっとアブない奴になっていた。
さすがに今回ばかりは失敗は許されないし、三浪する勇気も気力もなかったから。
初めて本気で勉強したボクは、ナーバスを通り越して、ヤバい奴になっていた。
食事をする時間も、移動する時間も惜しかった。
だから移動や食事の際には、カセットテープに自分の声で問題集を吹き込んで、
それを電車の中や食事の最中に聞きながら、猛スピードでノートに書いて。。。 ただ面白いことに、ここまで勉強すると、まったく神頼みをしなくなった。
現役時代と一浪目の時は、全然勉強してこなかったから、神頼みをしまくっていたが、
二浪目の時は、神頼みする時間すら惜しかった。
そんな時間があれば、英単語の確認や日本史の確認をしているほうが落ち着いた。
トイレとお風呂以外は、参考書を持っているような生活だった。
ものすごいプレッシャーから解放されるのは、
泉谷しげるの「春夏秋冬」のサビを、お風呂で歌う時。
「今日ですべてが終わるさ・・・♫」って、自分を励ましていた。
受験とは不思議なもので、安全パイと思われた大学は不合格で、
冒険して受験した大学が合格した。
入学した大学の受験発表の時は、おかしくなりそうな気持ちを抑えて、
会場近くの本屋の中をうろついて時間を潰していた。
家にいるのも落ち着かず、ゲーセンに行く気にもならず、
書店で本を読んでいることで、自分を押さえつけていた。
合格者の発表時間になり、期待ではなく不安な気持ちに支配され、会場へ。
自分の受験番号があるのが信じられなくて、何度も確認した。
電車の改札をくぐる前にもう一度、会場に行って確認したほどだ。
嬉しいというより、信じられない。そんな感覚だった。
家に着いて、しばらくぼーっとしていた。
この前まで使っていたボロボロの山川出版の問題集を手に取る。
「これから1日が経過するたびに、覚えたものを忘れていくんだろうな」
そう思うと、開放感より寂しさがこみ上げてきた。
合格した翌日は、I と一緒に秋葉原へ出かけた。
ずっと買いたかったファミコンを買うために。
高校時代、ボクは「大学に合格するまでファミコンは買わない」と決めていた。
基本的にボクは、人との約束も破らないほうだけど、自分との約束だけは絶対守る。
どんなことがあっても、自分だけは絶対に裏切ってはならない、というのを信条にしている。
だから、今でも安易に禁煙なんか宣言しないのだ。
買ったその日から、ボクはまるで取り憑かれたかのように、寝ないでゲームに没頭した。
そんなある日、サラリーとフクちゃんという高校時代の友人が訪ねてきた。
二人とも、大学に受かったことを母校に報告した帰りだったのだが、
ロクに会話した記憶がない。
ボクの頭の中は、彼らと別れてから再開するゲームのことで一杯だったからだ。
お風呂大好きのボクが浴槽に入らず、シャワーだけで済ませ、
無精ヒゲは伸び放題で、ゲームに没頭しまくった。
夢の中にまでゲームの画面が出て来るほどで、
受験からこの大学入学までの1ヶ月は、すごい落差のある生活を送っていたが、
どっちもインドアな生活だった。
大学に入ってしばらくしてから、
予備校時代にお世話になって講師の先生へ、お礼に伺った。
マンツーマンで話すのは、これが初めてだったが、みんな笑顔で喜んでくれた。
研数学館は既になくなり、伊藤先生はご逝去され、土屋先生は大学の教授になったという。
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