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オフィス街にあったボクの家やMパイの家から、
商店街の友だちの家に向かう時は、「藪下」の坂道を通らなければならない。
医者の息子のクボやマザコンのS井は、この「藪下」に住んでいた。
昼でも暗いこの道の途中に、小さな煎餅屋があった。
煎餅屋といっても、その店で焼いていたわけではなく、
アイスやジュース、洗剤なんかも売っていた小さなお店だ。
ここの店を、ボクやMパイは「関所」って呼んでいた。
客が来ないこの店のオヤジがいつも外に出ていて、
必ずボクらはこのオヤジに足止めを食らったので。。。
友だちの家に遊びに行くのも、エンゼルスの練習に行くのも、
何が目的で商店街方面に行くのか、必ずオヤジに呼び止められるからだ。
ジュンとここの店でラムネを買って飲んだときのこと。
「お前ら、ラムネの飲み方、分からないだろ?オジサンが見本を見せてやる」
そう言うとジュンからラムネをとりあげ、
ジュンが買ったラムネを半分以上も飲み干してしまった!
せっかく小遣いでラムネを買ったのに、
オヤジに半分近くも飲まれてしまい、ジュンは泣かされるハメに。
それでもこの関所のオヤジは、全く反省せず、
「よし、オジサンと仲直りの握手をしよう」
と、ジュンの手を強引にとると、
物凄い握力でさらにジュンを泣かせてしまった。
オヤジのこの握手の餌食になった同級生は数知れず。。。
あるとき、業者らしき人が関所のオヤジに食らい下がっていた。
「支払ってくださいよぉ」
と懇願するが、オヤジは「今は払えない」の一点張り。
あまりの誠意のない態度に、若い業者の兄ちゃんはちょっとキレた。
「支払うのが当たり前じゃないですか!」
するとさらに逆ギレした関所のオヤジは、
「金はねぇ、って言ってんじゃねーか!このやろう〜!
あるのはキン○マだけだ!これでよけりゃ・・・ほら、持ってけ!!」
と言って、あろうことかファスナーをおろして下半身を丸出しに。
ボクらもビックリだったけど、
業者の兄ちゃんはもっとビックリしたんだろう。
ただ呆然と突っ立っていた。
男子なら「たかし君」、女子なら「のりこちゃん」と
統一してそう呼んでいた関所のオヤジから、
縁日で金魚すくいした後は、金魚を強制的に取り上げられることもしばしば。
「どーせ、お前らが飼っていたら、すぐに死んじゃうんだから」
と。
日曜日、エンゼルスの試合があり、いつものように藪下の坂を下っていると、
関所のオヤジが両手を広げて、ボクの行く手をさえぎってきやがった。
急いでいるのに、いつものように、
「どこへ行くんだ!」
と同じ質問を繰り返してきた。
「野球の試合です」
と言っても、
「守備はどこを守ってんだ」
とか、
「どこのグラウンドに行くんだ」
とか、うるさいんで、
「あ!UFOだ!」
と指を差し、その方向にオヤジが気をとられている隙に
チャリを漕ぎ出したら、
「・・・てめえ!!人をだましやがったな!!」
と、顔を真っ赤にして追いかけてきやがった。
こっちはチャリだから、追いつけるわけがなく。。。
ただ翌日になると、すっかりそのことを忘れているのは幸いだった。
このオヤジの苗字は最後まで知らないままだった。
いつ亡くなったのかも分からない。
気がついた時には既に亡くなっていたが、
ボクが大学生くらいの時までは健在で、何度もつかまった。
藪下には、狂犬のようにボクらを追いかけてくる黒い犬がいて、
これも恐怖だった。
なぜか鎖につながれていなくて、そしてなぜか子供、それも男子だけを
狙って追い掛け回してくる犬だった。
マザコンのS井は自転車を持っていなかったんで、
この犬を振り切ることができず、
お尻をガブッとやられてしまったこともあった。
夕方からさらに薄気味悪くなる藪下の坂道を、ボクやMパイは、
黒い犬と関所のオヤジという「二大関門」をクリアしなければならなかった。
他にも道はいくらでもあった。
それでも一番危険かもしれないけど、
一番近い道を通るのがボクらの少年時代だった。
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