心ふるえた小説『楼蘭』 〜シルクロード小説との初めての出会い〜
私が、シルクロード小説に始めて出会ったのは、かれこれ50年ほど前、中学生の頃だった。
それは、井上靖作 『楼蘭』である。
実は読んだのではなく、耳で聴いたのだ。
その頃私は、NHKラジオ「朗読の時間」を楽しみにして聴いていた。
この作品が朗読された初日――
『楼蘭』という耳慣れない題目を聞いた時、一瞬、<なんだこれは…>と感じて興味がそがれた。
そして「井上靖」という著者の名前を聞いて、興味はさらに遠のいて行った。
題目も著者も初耳だった。
何せ中学時代のこと、夏目漱石や芥川龍之介といった文豪の名作を期待していたのだ。
ところが、出だしの「往古、西域に楼蘭と呼ぶ小さな国があった」という文が読み上げられたとたん――、失望は一気に期待に変った。
「西域」という言葉は、私のあこがれの言葉だからだ。胸がジンジン高鳴った。
「楼蘭」ってどんな所だろう――想いは遥か…まだ見ぬいにしえの国に飛んでいた。
朗読は続いた。
―― この楼蘭国が東洋史上にその名を現わして来るのは紀元前百二、三十年頃で、その名を史上から消してしまうのは同じ紀元前七十七年であるから、わずか五十年程の短い期間、この楼蘭国は東洋の歴史の上に存在していたことになる。いまから二千年程昔のことである。 (井上靖著 『楼蘭』より引用)
ここまで来ると完全に引き込まれてしまった。
一心不乱に耳を傾けた。
第1回目の朗読が終わると、次回が待ち遠しくなった。
漢と匈奴という強国に挟まれた弱小国「楼蘭」は、匈奴の掠略から逃れるために住み慣れたロブノール(ロブ湖)湖畔の土地を捨てて鄯善に移り住む。その人々にとってロブノール湖畔の故地「楼蘭」は、いつかは帰るべき場所だった。しかし、その数百年後、楼蘭を取り戻そうとした鄯善の若い武将が湖畔に立つが、楼蘭も湖も…、そこはすでに砂の中に埋もれてしまっていた。
私が青春の心を震わせて聴き入ったのは、朗読の最後の行――
「鄯善のこの若い指揮者はもう一度、部下とともに楼蘭を訪れた。併し、この時は楼蘭の城邑は全く砂に埋まり、僅かに櫓の一部を砂から覗かせているのを見ただけであった。そして細長い湖を見るために密林地帯にはいって行ったが、白く乾いた砂の道が帯のように広がっているだけで、どこにも湖を見ることができなかった。ロブ湖は姿を消し、楼蘭は全く砂漠のただ中に埋まってしまったのであった」 である。
だが私の想像の目には、青々としたロブノールと、オアシスの中に光り輝やいて建つ楼蘭の都がはっきりと見えた。
少年時代のわたしはこのような光景を思い浮かべていたと思う。
今もその想いは変わらない。
ロブノール楼蘭王国の前に広々と広がり、人々に命の恵みを与えていた。 (写真は玉竜沙湖)
いかにも小国らしいのどかな営みが伝わってくる。 (写真はチャカ湖)
ラジオから流れてくる哀愁に満ちた語り口調と音楽が、痛いほど心に染みた。
センチメンタルな気分は、床に入っても続き、容易に眠れなかった。
翌日の放課後、さっそく電車に飛び乗って書店へ出かけ、『楼蘭』を買い求めた。
当時の本は講談社発行のものだった。
中学生のくせに、世界史地図帳と年表まで買って来て、小説に出てくる西域の小国の位置を確認しながら夢中で読んだ。
西域が中国にとっても北方民族にとっても重要な地域であったこと、
西域諸国はこれら二大勢力に挟まれて常に翻弄され続けて哀しい運命を辿ったこと、
それでも尚且つ西域諸国の人々は自国に誇りを持ち続けたことが、生き生きと伝わってきた。
自分も完全にその中に入り込んでいた。
小国の悲哀とそれにも関わらず抱き続ける自尊心には深い感銘を受けた。
この小説は60ページの小品ではあるが、中学生のわたしでも、何か非常に深い人生や歴史が刻み込まれているような気がした。
これから歳を重ね、人生経験を積んで読むとまた新たな発見があるのではないか……
そんな期待を抱かせてくれた。
成人になってから2冊目(新潮文庫)を買って、その後さらに二度読んだ。
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楼蘭 テレビのスカパーで放送していたのを
ふと思い出しました
ふるびた遺跡はなく 砂に埋もれた王国
どんな国だったのだろう
まさに夢とロマンの国だったのかも知れませんね
哀しいことに 私はまだ楼蘭の歴史を余り知らない
2011/9/1(木) 午前 9:54
前漢時代の国の様子がよくわかりますね
チャカ湖も小さな湖
砂に埋もれた悠久の時が帰ってくるようですね。
2011/9/1(木) 午前 9:55
地図にある
鳥孫も一度テレビで放映していました
いま青蔵(海)鉄道もチベットラサまで通っていますが この建設工事の過程も放映されていました
凍土の中 地盤の弱い高地に建設する状況を克明に放送していました。
秘境と想われる 敦煌や楼蘭に行かれたのはまさら夢をかなえられて うらやましい限りです
見果てぬ夢 それを果たすことはまさに壮大なロマンですよね。
2011/9/1(木) 午前 10:04
和さん
いつも転載とポチありがとうございます。
2011/9/1(木) 午後 1:09 [ moriizumi arao ]
砂漠の中に消滅した幻の都楼蘭と彷徨える湖ロプノールに想いをはせるアラオ少年の姿が生き生きと蘇って来るような傑作記事です。ポチ☆
ロプノールの守り神である河竜の正体に関して、私はグーグルマップの航空写真に写っている不可思議な形をしたロプノールの今日の姿に二重写しになっているような気がしてならないのですが・・如何でしょう?
+作成中の記事でしたか、どおりで写真が無かったようですが、名文だけで想像を膨らませて十分楽しめましたよ。
2011/9/1(木) 午後 3:49
NHKラジオ「朗読の時間」は私も昔ときどき聞きました。
耳から入ってくる小説はお話しを聞いているようで面白かったです。
井上靖の小説は生きる価値を与えてくれる気がします。
楼蘭という国は素晴らしいところだった気がします。
2011/9/1(木) 午後 10:56 [ - ]
はじめまして。訪問ありがとうございました
さっき、インドから帰ってきました。
西域かぁ〜 いつか行ってみたいです
2011/9/2(金) 午前 0:58
♪こんにちは。
やはり 中学時代の思い入れが 現在までポチ!
楼蘭・・・深い人生や歴史が刻み込まれているような、
地図は大好きで、自分で勝手に国を作ってました!?。
2011/9/2(金) 午後 6:18 [ EGACITE ]
転載しますね、
2011/9/3(土) 午前 2:48
私も早速図書館の地図で調べた口です。
楼蘭って、西域ではむしろ入口の側なんですよね。
あと、羅什(クマーラジーバ)が出たキジル国とか。
2011/9/3(土) 午前 6:47
迷えるオッサンさん
再びのコメントありがとうございました。
オッサンさんもいろいろと興味をお持ちですね。
それがあなたのわかさの秘訣かもしれませんね。
ポチありがとうございます。
2011/9/3(土) 午前 10:02 [ moriizumi arao ]
あさやまさん
再びのコメント大変ありがとうございました。
私は遺跡を前にすると思わず古への中に入り込んでしまいます。
そして、しみじみと楽しんでいます。
2011/9/3(土) 午前 10:25 [ moriizumi arao ]
あさやまさん
シルクロードは少年の私も、中年の私も、そしてもちろん今の私にも
壮大なロマンを与えてくれます。
2011/9/3(土) 午前 10:28 [ moriizumi arao ]
嵐子さん
朗読の時間を共に聞いた仲間でしたか!?
楼蘭は名前の響きもとてもロマンチックですね。
実際には、漢と匈奴の2大強国に振り回されて苦労が多かったようですが、
それを感じさせない素敵な響きを持つ国ですね。
2011/9/3(土) 午前 10:35 [ moriizumi arao ]
KATOUさん
インドか〜
ほんの少ししか行ったことがないので、じっくりと浸ってみたい国です。
2011/9/3(土) 午前 10:38 [ moriizumi arao ]
EGACITEさん
楼蘭・・・深い人生や歴史が刻み込まれているような、
私もそんな思いで楼蘭とおつきあいしています。
あなたも地図好きでしたか!?
仲間意識が強まりましたね。
ポチありがとうございます。
2011/9/3(土) 午前 10:42 [ moriizumi arao ]
こんにちは
何だか このブログで場所を確認しながら
本を読んでみたくなりました
美女のお話も気になります
2011/9/4(日) 午前 10:59
シルクロードへよせる少年の熱気がばっちりと伝わってきて☆☆☆ポチ!
2011/9/5(月) 午後 4:21 [ chama ]
ソソノンさん
単行本の60ページなので、あっという間なのでぜひ…
2011/9/5(月) 午後 6:45 [ moriizumi arao ]
chamaさん
情熱はいつまでも持ちつづけよ〜ですね。
ポチありがとうございます。
2011/9/5(月) 午後 6:51 [ moriizumi arao ]