|
道に迷った?
西門を出るとすぐ信号にぶつかった。 私が差し掛かったとき、信号が青から黄色に変った。 前方を走っていたYさんは、黄色に変る寸前に交差点に入ってそのまま渡り出した。 私は一瞬迷ったが、進入せずに待った。 その間にYさんの姿は、津波のような自転車の群れの中にあっという間に消えてしまった。 う〜ん まずいな〜と思ったが仕方ない。
この信号は変則的な5差路になっている。おまけにロータリーになっていて、
いったん円状の道路を半周してから、それぞれの道に分かれるので、方向を失いやすい。
地元の人でもなれるまでは迷ってしまうとのことだった。 道を間違えてしまった安定門(西門)前の複雑な交差点 (2005年撮影) 地図によれば、我々はこの信号を少し弓なりに右折するのである。
ホテルは、信号から1kmちょっとのところにあり、自転車を借りた場所はそこからさらに数百メートルの距離だった。 青になってからロータリーを走り、やや右方向に向いている最も太い道へ入って信号を渡りきった。
そこにYさんが待っていると思ったが、姿が見えない。 私に気づかずに、自転車群に押し流されるようにして、先へ進んだのかもしれない。そう思って、私は先を急いだ。 少し不安になったが自分の判断を信じて、自転車大集団の中を掻き分けるようにして、追い抜きながら走り続けた。 追いつけなかったらホテルの前で待っていてくれるだろうと思って、あせりはなかった。
ところが、とっくに1km以上走ったはずなのに、ホテルの姿が見えて来ない。 この時点で、〈どうやら道を間違えたな〉と思った。 念のためと、<ここはシルクロードかもしれない〉と言う好奇心もあって、もう少し走ってみようと思ってペダルを踏んでいると、あたりはつるべ落としのように急に暗くなった。
昼間走るとこんな道でした。
暗闇のシルクロードを不安な気持ちで走る
ものすごい数の自転車部隊もほとんど姿を消し、街燈のない真っ暗な道を一人で走っていた。
明らかに道を間違えたと分かったが、この道ははるか昔のシルクロードだと思うと戻る気にはなれなかった。
時計を見ると9時近かった。信号から40分ほど走ったことになる。 〈ちょっと深入りしすぎたな、とにかく引き返そう…〉。 そう思ったとたん、無性に不安にかられた。
引き返す途中は、人とも車ともまったく出会わない。 あいにく、薄曇りで、月も星も全く見えない。
軒を連ねている店はすべて閉まり、真っ暗だ。 たまにほんのりと明かりが漏れてくるだけである。
それが一層孤独感を深めた。 この世の中に自分一人が放り出されたような気持だった。 当時の中国人は早寝早起きで、日没になって暗くなると、電気の節約もあって、早々に寝てしまうのだ。
おまけに道路は穴ぼこだらけで、何も見えないので穴にもろに入り込んで何度も転倒しそうになった。 10分ほど戻ると、やっとひとつの明かりが見えた。
漢方薬の小さな店で、まだカーテンを閉めずに、薄暗い電灯を灯していた。
何も考えず、とにかく店の中に入った。
人恋しさと孤独感、それ以上に少しでも不安をやわらげようと思ったに違いない。 夜なのに「ニイハオ」と挨拶するとると、70歳は過ぎていそうな老婆がうっとうしそうに出てきて、じろりとわたしの顔をみた。 こんな時間なのだから、無愛想なのは当たり前だろう。
不審そうに何か話しかけてくるが、さっぱりわからない。 こちらは苦し紛れに、英語で話しかけてみたが、もちろん通じない。 ジェスチャーで紙と鉛筆を求めると、薬を入れる茶色の袋と鉛筆を渡してくれた。 「秦都酒店」と書いたが、きょとんとしている。
人の顔を見ただけで、ちょっと少し安堵感を感じた。当時は、文字の読み書きが出来ない人がけっこういたのだが、この老婆もそうらしい。 奥に向かって、老婆がなにやら声をかけると、40歳代くらいの女性が出てきた。 先ほど書いた「秦都酒店」の脇に「地図」と書いたが、わからなかった。 中国語を勉強してからわかったのだが、中国語の地図の「図」は口の中に「冬」と書くのだった。 目的は果たせなかったが、親切に感謝して「謝謝!」と頭を深々と下げて店を出た。 店を出たとたん、猛烈に自分の無謀さを悔いた。
地図も筆記用具も、ガイドブックも何も持たずに街へ出たこと、 中国語も話せないのにひとり旅に出たことを後悔した。 後悔先に立たずだ。
今度来る時には絶対に中国語を勉強して来ようと思った。 それ以前に、まず迷いのスタート地点・西門へたどり着くことだ。
そう思いながら暗闇の中をひたすらペダル漕いだ。
すると幸運にも道端に警察官が立っていた。
“これで救われた”と思ったのも束の間、彼は英語がまったく話せなかった。 これで却って腹が据わった。
一晩かかっても探してみせる。 最悪でも、朝になれば太陽が出て方向がわかるだろう。
城壁にさえぶつかればその周囲をぐるぐる回ればホテルは見つかるはずだ。
――そう思うと気が楽になった。 不安は完全に飛んだわけではないが、少なくとも「身の危険」だけは心配していなかった。
「外国人に危害を加えると死刑」と聞いていたからだ。 なにぶんにも、外国人観光客は有力な「外貨稼ぎ」の対象だからだ。 さらに10分ほど走ると少しずつ電灯の明かりが増えてきた。
ほっと安心した。 数百メーター先に城壁らしきものがぼんやりと見えてきた。 これで少し安心。 どうにか西門にたどり着いたようだ。
今度は、間違わないように目的の道路に入った。
そこから、意気揚々と自転車を飛ばしていると、 反対側の車線から「Mさーん、Mさーん!」と言う叫び声が聞こえた。 これを聞いて、安心して力が抜けるようだった。 Yさんには心配をかけた。平身低頭謝った。
これで、ひとまず、めでたし、めでたし。
ふたり合流して自転車を借りた場所へ向かった。
怖い思いをしたが、けがの功名だった。
長くなりそうなので、今日はひとまず締めですが、
これで済まないところが旅の面白さだ。
自転車を返す段になって、またまたもめました。
では次回。
この旅で出会った西安の女性です。あのころの女性は素朴な感じでした。
|
全体表示
[ リスト ]





今晩はいつも嬉しいコメントありがとうございます。知らないことは怖いですが勇気を持つてやれば道は開けますね!応援の☆ポチですよ!
2011/11/28(月) 午後 7:07 [ 清水太郎の部屋 ]
清水太郎の部屋さん
いつも訪問とコメントありがとうございます。
応援のポチありがとうございます。
2011/11/28(月) 午後 8:23 [ moriizumi arao ]
こんばんは。
日本国内でも、迷って焦ることがあるのに知らない中国の街、まして暗くなってからですから焦った気持ちは大変なものだったことでしょう。
山でも登山道のない沢登りで一本沢を間違えただけで大変な思いをしたことがあります。
ポチ☆
2011/11/28(月) 午後 9:36 [ バタフライ ]
バタフライさん
私は慎重と、楽天が同居しているようで、それで公開することも少なくありませんでした。
2011/11/28(月) 午後 9:48 [ moriizumi arao ]
こんな時間に読んだからか、暗い道が苦手な私にはハラハラものでした!すごい体験ですねぇ…続きが楽しみです!
2011/11/28(月) 午後 11:27 [ jun ]
junさん
お久しぶりです。
コメントありがとうございました。
2011/11/29(火) 午前 7:07 [ moriizumi arao ]
♪おはようございます。
都会内の シルクロードで 迷子に!?
夜中は 真っ暗で 不安もつのりますが、
腹をすえて 美人さんを思い浮かべればポチ!?。
2011/11/29(火) 午前 10:12 [ EGACITE ]
わたしにはとてもまねできない経験ですね。
すごい☆☆☆ポチ!
2011/11/29(火) 午後 0:23 [ chama ]
勇気ありますね。
私は方向音痴で同じところをぐるぐる回るでしょう。
世界は広いですね。
小さな世界でこちゃこちゃ悩んでいるのって心が狭いですね。
2011/11/29(火) 午後 2:39 [ - ]
海外の夜の外出は絶対駄目ですが、日中は勇気を持って行動
すればいろいろ体験出来ますね。失敗もあたりして・・・
でも、それがあとになって笑い話として思い出されるんです
よね。ポチ!
2011/11/29(火) 午後 5:04 [ あゆみ ]
勇気と度胸がすごいですね。
シルクロードを走っていたなんて、なんか感動しちゃいました。
ポチ☆
2011/11/30(水) 午前 0:54
EGACITEさん
なにせ22年前の西安は中心街以外は全くの街灯梨なので、本当に闇夜で不気味だったですよ。
傑作ポチありがとうございます。
2011/11/30(水) 午前 10:37 [ moriizumi arao ]
chamaさん
すごいポチありがとうございます。
2011/11/30(水) 午前 10:39 [ moriizumi arao ]
なんか、小説を読んでいるようなハラハラがありましたー^^
傑作ぽち!
2011/12/1(木) 午後 10:54 [ 森@写真舘 ]
森@写真舘さん
事実は小説より奇なり、ってところでしょうか?
ポチありがとうございます。
2011/12/2(金) 午前 7:30 [ moriizumi arao ]