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Y君は、柳水庵の休憩所を出発して一本杉へ向かうことになる。
柳水庵を出るとすぐに下りになりました。しかし、後はずっと上りでした。
出発してから6時間近く歩いた時に、もうやめようとまた弱気になりました。その時突然、目の前に急な石段が現れたんです。
見上げると、杉の大木の前に大きな像がでんと立っていたのです。きっと弘法大師像だろうと、さすがの僕にも分かりました。標柱には「一本杉…」と書いてあります。その大師像を見上ると僕の前に立ちはだかって怖い顔でにらみつけているように見えました。なんだか心の中まで見透かされているようで怖くなりました。「情けないぞ、もうやめるのか!」と喝を入れられているような気がしました。
ところが近づいていてみると「お前が来るのを待っていたぞ」と話しかけてくれそうな静かな雰囲気に変わったのです。すごく不思議でした。
それを見ているととても心が落ちついてきて、穏やかな気持になりました。それと、ものすごく頼れる存在で、安心感というかそういうものを感じたのです。こんな気持ちになったのは生まれて初めてでした。無意識のうちに「これからの道中をお守りください」とつぶやきながら手を合わせていたんです。僕が自然に拝むなんて……。お遍路に来る前までは、お寺でも神社でもまともに拝んだことはないんです。これまでの札所でだってけっこういい加減でした。ここでだいぶ気持が変わりましたね。
同じ休むならここで休ませてもらおうと思って、あたりを見回すと、小さなお寺のような建物がありました。浄蓮院というらしいですね。
しばらくベンチに腰を下ろしていました。遍路に来るまでのことがいろいろ浮かんできました。ふじや旅館でSさんから「今までの自分を客観的に見つめるために、自分のことを『彼』と言ってごらん」と言われたことを思い出しました。そうしたら、自分のことをいくらか厳しい目で見ることができるようになったような気がしました。
「う〜ん、すばらしい」
私は心からうなり声を上げていたと思います。ふじや旅館で会った時の彼とはすっかり変わっていました。あの時には、Y君は自分のことをまるっきり甘い目で見ていました。青年期にはたった3日間でこんなに変わるのか―― 全く驚きでした。心を病んでいる人にはぜひ遍路に来てほしいと心から思いました。
地図を見ると、かなり下って最後の急坂を登れば待望の焼山寺です。
一本杉を出発する時は、〈最後のピークを過ぎたんだから、がんばって行こう〉と気合を入れなおしました。なんだか僕もちょっぴりお遍路さんらしくなったかなと思いました。
(続 く)
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2013年07月13日
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