東日本大震災 未来への祈りと伝承〜「みちのく巡礼」

みちのく巡礼は、東日本大震災の祈りの場創設と記憶・教訓の伝承、防災精神の啓発、復興に寄与する活動を行っています。

ひきこもり青年の歩き遍路

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 幼子の励ましに不覚にも流した涙はどんな涙だったのか、自分でもよくわからないままに、あと2キロ足らずの民宿Kへの道を急いだ。
 先ほどまではY君のことが全く浮かばなかったが、宿が近ずくにつれて気になりだした。この宿で会えるとしたら、おそらく彼の遍路はこれからも続くだろう。「三日区切りで歩いてみてはどうだろうか」と私が提案してから3日経った。心が急いた。
 
 思えば―― 、 私は11番札所近くの遍路宿で、深いわけがありそうな青年遍路と出会った。青年は、始めはあまり口を利かなかったが、次第に心を開いて自分の生い立ちかや遍路に来たわけを話し始めた。「ひきこもりを治すために遍路に来た」という言葉に、私は大きな衝撃を受けた。彼は高校時代いじめが原因で不登校となった。
 大学検定で高校を卒業し、大学に合格したが、将来への展望を見いだせずに、2か月ほど通学しただけで、長いきこもりに入った。彼は次第に自分が生まれてきた意味に疑問を抱くようになり、自分を生んだ母親に憎しみの感情を抱きはじめた。ある日、食事を運んできた母親に暴力をふるって怪我をさせた。その後も引きこもりを続けて2度自殺未遂を起こした。
 4年ほど経った頃、父親からだまされたと思って3日間歩いてみろと言われて四国にやってきたという。私と会ったのは3日目だった。
 私は、彼が遍路を続けるか否かは自分自身で決めさせようと考えて、敢て彼にその後の遍路を勧めたり励ましたりしなかった。
 だが、私と話して心が吹っ切れただろうか? 前向きになれたのだろうか? まだ遍路を続けているのだろうか?… 私は、とても気がかりだった。
 
 彼に出会った場合の心づもりを、固めておかなければならない。「情に流されては絶対に彼のためにはならない」ということを強く自分に戒めておこうと思った
「民宿K」に到着したのは、午後6時30分だった。もうすっかりあたりは暗くなっていた。玄関で「こんばんは」と叫んだが、誰も出てこない。もう一度高い声で叫ぶと、宿の主人が無愛想な顔で現れた。
「途中から電話した仙台のSです。遅くなってすみません」と挨拶すると、いきなり
「先に風呂へ入って!」と言いながら、「奥にあるから…」と、指さした。愛想のよくないとの評判通りだなぁと、さして気にしなかった。これでは、Y君のことを訊ねるような雰囲気ではなかった。(続 く)
 
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[ひきこもり青年歩き遍路 前回までの記事]
 
 
 
  

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滑って石に尾てい骨を打つ
 仏陀石からの下り道、夕日が沈みかけてきた。
 〈急がなくては…〉と、気がそれた瞬間、右足の踵がずず〜っと前方に滑った。体勢を立て直す間もなく、しこたま尻もちを着いてしまった。着いた場所が悪かった。角が少し尖った石に尾てい骨が当たってしまった。軽い貧血状態に覆われた。すぐに立ち上がることができない。 〈今日は杖は忘れて、8キロも歩く羽目になったし、ついていないな〜。こんなのを弱り目にたたり目と言うんだな。だけどお前自身が悪いんだぞ!〉 と自分に言い聞かせながら、しばしその場に寝転んでいた。だが、こんなことはしていられない、山道で日が暮れたら大変だ―― そう思って、自分を叱咤激励して起き上がった。癪なので滑った場所を撮影してやった。
 
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幼子の励ましに涙
 県道近くまで下ってくると、時計はすでに6時を回いた。あたりは薄暗くなった。
 すっかり疲れ果てて、何も考える気力もなく、ただ黙々と下見がちに歩いていたと思う。
 そのようなちょっと孤独な時、前方から「お遍路さ〜ん」と呼ぶ幼ない声がした。
 ふと我に返った。
 声の方に目をやると、「がんばって!」と、見上げるようにして、声をかけてくれた。
 まだ、小学校にも上がっていない幼子だった。
 なんだか気の毒そうな顔で私を見ているではないか。
 突然だったので、一瞬は情けないような気持になったが、
 すぐに笑顔を作って「ありがとう」と答えると、
 「どこから来たの?」と子どもがたずねる。
 「仙台だよ。仙台って、知ってる?」
 「ううん」と首を横に振った。
 「東京よりもずっとむこうだよ」
 「ずいぶん遠くから来たんだね」
 こんな会話を交わしてから、「さようなら」と言うと、
 今度は「気をつけて」と言ってくれた。
 これで、すっかり元気な気分を取り戻した。
 あと二キロ弱だだ、がんばろう、と足取りが少し軽くなった。
 ただ、目には涙がこぼれていた。
 どんな涙だったのか、自分でもよくわからない。
 
 先ほどまではY君のことが全く浮かばなかったが、宿が近ずくにつれて気になりだした。この宿で会えるとしたら、おそらく彼の遍路はこれからも続くだろう。「三日区切りで歩いてみてはどうだろうか」という私の提案の3日目なのだ。彼に出会った場合こちらの心づもりを固めておかなければならない。「情に流されては絶対に彼のためにはならない」ということを強く自分に戒めておこうと思った。
 
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イメージ 10 星谷寺のお参りを済ませ、興味津津で星の岩屋へ向かいました。
 星の岩屋は本堂の裏手にありました。
星の岩屋 
 
 近年、少女マンガで星をテーマにこの星谷寺(星の岩屋)が取り上げられたことから、少女たちの関心を集め、奥の院としては珍しく若い人が訪れているとのことです。
 
 星の岩屋のいわれ
 昔、悪星があって、人々に災禍をなしていたので、弘法大師が法力でこの悪星を地上にひきおろしてこの岩屋に封じ込めたところ、悪星が石と化したので、この石を祀ったという伝承があります。
 
 生不動クス
 さすがに5時近いので人気スポットと言えども私一人でした。日が傾いてきたので、境内はよけいに神秘的なたたずまいをみせています。
 見上げるような樟の木の巨木が目立ちます。この樟の木は樹齢およそ450年とのことで、不動明王を彫りこんでありました。「生不動クス」と呼ばれています。 薄暗いので、少し気味悪い感じがしました。
 
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 星の岩屋裏見の滝       
 
本堂の裏に滝があります。その奥に「星の岩屋」と呼ばれる洞窟があり、洞窟の中から、頭上から落下する滝水を裏側から眺められることから 「裏見の滝」 と呼ばれています。           

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       大師像の脇の道を通って洞窟へ入る
 
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表から見た不動の滝
 
 
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星の岩屋
 
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星の岩屋 洞窟の内部
 
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洞窟内部から見た不動の滝(裏見の滝)
 
仏陀石
 星の岩屋kら600mほど行った地点に仏陀石があります。せっかくなので足を延ばしました。よくよく自分は好奇心旺盛なのだなあと思いますね。
途中に仏陀石の謂れを書いた案内板がありました。
 
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 なんだか大勢の仏様に守っていただけるようでとても安らかな気持ちになりました。
 それにしても、5時半を過ぎました。宿に一応遅くなると連絡を入れてあるにしろ、やはり心配しているかもしれません。
それに、もしかしてY君に会えるかもしれないという期待感も湧き上がってきて下りの足取りが早くなりました。
 
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[ひきこもり青年歩き遍路 前回までの記事]
 
 
  県道16号を右に折れて川沿いの道へ入った。とてものどかな雰囲気だ。星谷運動公園付近からまた右に曲がって潜水橋を渡ると県道212号に出た。
 ここを横切ってみかん畑の間の細い坂道をくねくねと2キロほど上ってゆく。
 
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 みかん畑に中を歩いていると不思議と心が落ち着く。どういうわけだろうなんて考えてみた。かんきつ類には、気分を高揚させ、幸福感をもたらしたり、,元気が無いときのリフレッシュ効果があることを思い出した。
そういえば、拙著『諸君お遍路はいいぞ! 四国歩き遍路の魅力と巡り方』に「お遍路セラピー」と言う言葉を使ったことがある。単に歩きのによる健康効果だけではないのだろう。
 
 標高200m近くまで上ってくると集落がはるかになってきた。さすがに帰りの時間は、大丈夫なのだろうか、宿に心配をかけては申し訳ないと少し不安になった。
 
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 やがて小さな谷合に出ると、赤い橋が現れ、袂に駐車スペースがあった。ここで下りて歩くの人もいるのだろう。
 
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イメージ 6 さらに歩くいて行くと、星谷寺から200mほど手前に専用駐車スペースがあった。ここから先は車の乗り入れ禁止だ。昔流に言えば「下乗・下馬」と言ったところだろう。歩いている私までがちょっと緊張してしまう。
 
 
 
 
 
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 坂を上って星谷寺への石段を上る手前の左手に小さな滝があった。
 すぐそばには「洗心之滝不動尊」という小さなお不動さんが祀られていた。
 
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 石段の両脇には日本の杉の大木が立っていて森厳な雰囲気を漂わせている。
 石段の正面には小さいお堂が立っている。
  
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石段を登って本堂へ
 
 登り切ってみると予想通り本堂である。 
 時間は気になったが、自然な気持ちで立ち寄って礼拝した。
 本堂にも大師堂にも立ち寄らずにまっすぐ星の岩屋に向かう人が多いようだが、もちろんオーソドックスではない。まるで他人さまの家を訪ねて、その屋の主に何の挨拶もなく、勝手に有名な庭か芸術品を愛でるようなものだと思う。
 
 ここは無人のお寺である。4時過ぎなので人の気配はまったくない。 
 ゴミが無く、小道沿いの草も刈られている。誰かが継続して手入れをしてくれているのだろう。お接待の心だと思う。

 人がいなくなった寺院は…、時に何とも言えない不安な空気が漂っていたりする所もあるが、ここはそういう感じがしない。
 
 星谷寺は、第19番札所「立江寺」の奥之院とされているが、納経は第20番札所「鶴林寺」でいただける。方丈の入り口にそのような内容の張り紙がされていた。まず、本堂でお参りをする。
 
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 静かに滝の落ちる音が聞こえて来る。
 先ほどまでの急いた気分が、静寂に吸い込まれてしまったようだ。
 こんな気分になったなのは、今回の遍路では初めてだった。
 (Y君にもこんな経験をさせたいなあ〜と思った。このように、彼は時々私の心の中に登場してくる。これは何かのお導きかもしれない) 
 
 火を使うことがなんとなく憚られる雰囲気だった。灯明と線香は遠慮した。
 
  斜面を利用して作られた境内を歩んで、大師堂へ向かう。むしろ誰もいない参拝は心静かで最高だった。 
 
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 大師堂を過ぎて狭い道を上って星の岩へ向かいます。
 

                 
  

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美容院を開業する根性があるか試すために遍路にやって来た青年
 
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 きれいに咲く牡丹の花を愛でながらお世話になった住職さんに
「次に来たときにもぜひおお会いしたいですね」と、再会を約して立江寺を出発した。
 すると、同宿になった20代後半らしき青年が追いかけて来て二人で歩くことになった。丸坊主で、どこか決意を秘めているように見えた。10分ほど歩くうちに青年は自分の身上を話し始めた。
―― 神奈川県平塚市からやって来た。美容院を独立するつもりだが、相当な苦労を覚悟しなければならないので、その根性があるかどうかを試しに来たのだという。私が新しい人生の区切りにするつもりでやって来たと言うと意気投合した。
 歩いているといろいろな動機のお遍路さんに出会う。Y君にも是非このような青年との出会いを経験した欲しいな〜と、心から願った。この青年にY君のことを話した。
この青年もY君と会ってみたいと言った。
 
 青年は今日中に21番太龍寺を打って、下ったところにある坂口屋へ泊ると言う。
「私も本来は坂口屋に泊まる予定だったのですが、先ほど話した青年に会えるかもしれないので、20番の登り口の金子やに泊まります。時間があるので、番外札所の星の岩屋と仏陀石にも回ろうと思います。予定より遅くなると、宿で心配しますからね。途中に電話ボックスがあったら、宿に連絡します」と言うと彼は、
「せっかくお知り合いになったし、いろいろお話もお聞きしたいので、その時は待ってますよ」
と、少し怪訝そうな顔で言った。私はその表情の意味がピンと来た。今どき携帯電話を持たずに歩き遍路をしているのかなと、不思議に思ったのだろう。
「実は、初日に七番十楽寺の宿坊に泊まった時、うっかりして携帯電話をズボンに入れたまま洗濯してしまって、使えなくなってしまったのです。何せ以前回った時には携帯なんていう代物はなかったですから、それまでの習慣で脱いでぽいっと洗濯機に放り込んでしまったんですね。さっそく家族に連絡して新しい携帯を買って、明日泊る坂口屋宛に送ってもらう手はずになっています」と言うと、
「僕のをお貸ししますよ」と彼は言った。
だが、「若し電話ボックスがないときにはお言葉に甘えます」とやんわり断った。
 
あっ 杖を忘れた!
 幸い、立江寺から3キロほどにある櫛渕小学校の付近に電話ボックスがあったので連絡した。それから、二人はますます話が盛り上がって、会話に夢中になって快調に歩いた。ボックスから4キロほど歩いたところにちょっとした集落がある。そこで「おおき食堂」という看板が目に入った。その瞬間、会話から自分自身に神経が向いた。なんだか物足りない。「あ〜っ、杖がない!
 
 二人とも私が杖を持っていなかったことに気付かなかったのだ。彼は、「すみません。僕が気付けば…」と言ってくれたが、彼には全く責任はないのだ。
 「杖を忘れるなんて遍路の風上にも置けませんよね。とにかく戻ります。ぜひ美容院を成功してくださいね。期待しています!」とエールを送って別れた。
 
 1キロほど戻ったところの勝浦川岸にローソンがあったので、そこからタクシーを呼んで往復するという方法もあるが、それは全く考えなかった。あえて自分に罰を課するために8キロ余計に歩いた。遍路にとって一番大切な大師様の化身の杖を忘れるなんて……自分に怒っていた。
 もしもなくなっていたらどうしようという不安があった。だが、ここは四国だ、他人の杖を持っていくような罰当たりな人はいないだろうと楽観視していた。
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 「星の岩屋」へ向かう分岐点に来たのは、もう4時近くだった。そこから星の岩屋までは上り道で3キロある。しかも標高250mである。通常ならば当然止めて宿入りだ。だが、それまでの2度の遍路ではまだ行ったことがないので、どうしても行きたいという思いに駆られた。当然のことながらそちらへ向かった。
 
 
 
 
 
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