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ペットショップでケースに入れられた猫がそのケースの隙間から手をニョキっと伸ばしていた。
それを見ていた30代くらいの男女のペアの男性がケースの前にしゃがみこみ、
そっと手を伸ばすと、猫の手の甲を優しく撫でて眼尻を下げていた。
それを女性は男性の後ろから見ていた。
男性が顔だけ振り向き、『可愛いね』と一言だけ女性へ声をかけた。
『うん。』
そう女性も一言だけ返した。
何匹か猫はその店内に居るのだが男性は先程から、一匹の猫ばかり見て触っている。
『このスコティッシュ、立ち耳だよ、日本の三毛猫みたいな顔してて、ぽくないから良いなぁ。』
男性の少し弾んでいる声に応える様に、女性もケースの猫を見た。
『8万8千円だって。ちょっと体大きいし、育ったせいかな、少し安いみたいだけど。』
女性はそう言うとケースに貼られた猫の情報カードを覗き込む。
生まれたのは昨年・・・。一年くらいが経過していた為におそらく価格が落ちていたのだろう。
猫はそんな男女の会話などお構いなしと言った感じで
伸ばしていた足を自分の体の下に畳んで仕舞い込み落ち着いた顔でまったりとし始めた。
帰り道の車の中で助手席に乗った女性は、運転する男性にふと話し掛けた。
『さっき何で、あの猫ばかり見ていたの?他にも可愛くて生まれたての小さな子も居たのに。』
男性は前を見たまま視線も変えずに口を開いた。
『あぁいう売れ残りのが好きなんだ。愛を待ってるみたいで。・・・勝手な思い込みだけどね。』
『自分に逢う為に一年くらいも売れずに待ってくれてたとか?』
『さぁ、どうだろう?そんなご都合主義じゃないだろうけどね。』
『私は売れ残りじゃなかったつもりなんだけど。』
『そんなつもりで言った訳じゃないんだけど。』
少し困った顔をした男性がそのまま運転をしてアパートまで車を走らせた。
部屋に入り、少し時間が経った時にテレビを見ながら男性は
想い出したかのように喋り始めた。
『8万8千円・・・あれって命の値段だね。
命に値段なんてないって言うけどもやっぱり、あれは命の値段だね。』
女性もベッドに寝転がったまま男性を見つめた。
『お腹の子を諦めるのも8万円。あの猫を買うのもほぼ8万。
同じくらいなんだってのを考えるとやっぱり、命の値段って考えちゃうよ。』
女性は寝転がったまま男性に想いを言い始めた。
『私は堕ろしたくない。産みたいよ。あなたの子だもん。産みたい。けどダメなんだもんね。』
そのすぐ後にゲリラ豪雨かのように大雨が降り始めた。
外の蛙の合唱も、男性の声も聴こえ辛くなるくらいに雨が地面を激しく叩きつける。
川に流れた水は雨雲となり雨へと変わり、また大地へと還る。
命は同じように巡り巡りて還ってくるのだろうか?
いや、否だ。
だが、命は還ってくるものだと思いたいのだ。亡くした我が子をまた自分のもとへと。
雨は降り続ける。それぞれの答えを見付けられぬまま。
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