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ー ゆく河の流れは絶えずして しかも もとの水にあらずよどみに浮かぶ
うたかたは かつ 消え かつ結びて 久しくとどまりたる例なし
世の中にある人と栖(すみか)と またかくのごとし ―
この有名な書き出し部、読んでいてそのリズムの良さが、すうっと心に入ってきます。
この冒頭部があまりにも名文すぎて、かえってアダとなって続きが読まれなくなったと言われてます。
人生は川の中に現れては消えてゆく、水の泡に、人の命も、住まい、営みを例えています。
東日本大震災が発生して以降、鴨長明の「方丈記」が見なおされています。
400字詰め原稿用紙にして、20枚〜21枚程度のコンパクトな作品。
それは方丈記の約半分が天災と人災の記述でしめられており、
いかに災害が人と住まいに対して、苛烈であったかを書き記されたものであることから
多くの人が再注目し、読まれているようです。
▼安元(あんげん)の大火
800年前から現代人へのルポルタージュ「方丈記」は
平安京を襲った五つの災害を記録したもので
災害描写の一つ目は、西暦1177年 安元の大火
「安元3年4月28日、風の強い戌の国(8時ころ)
都の東南から出火、火は瞬く間に西北西に燃え広がった。
火は朱雀門、大極殿、大学寮、民部省あたりまで燃え広がり
一夜のうちに灰燼に帰した。火元は舞人が宿泊していた
樋口富小路(ひぐちとみのこうじ)の仮小屋。」
火元まで特定した、ニュース原稿のような、しっかりした記録。
その後に、どのような光景であったかなども、克明に記され
最後に、鴨長明の「つぶやき」が盛り込まれてます。
「@Choumei_Kamono
人のやることは全て愚かなものだと言えるが
何が一番かというと、これほど危うい都の中に、
財をつぎ込み、神経をすり減らすことは、
この上なく愚かで、
この上なく無益なことだと思います」
▼養和(ようわ)の飢饉(1181年)
鴨長明の文章は、物事を対比させるのが特徴で
また、社会的に弱い立場にいる人へのまなざしも、その人間性をあらわしていると言われてます。
「養和の頃、2年もの間、飢饉が続き、想像もできないことがあった。
土塀の前や道端で飢え死にした者の類は、数もしれず
これらの死体をかたづけることもできないので、臭い匂いがこの世のすべてに満ち満ちている。
腐って変わり果ててゆく有り様は、目もあてられないことが多い。
鴨川の河原などの死体の捨て場では、馬や車が行きかう道すらなかった。
薪が不足してくると、食べ物のあての無い人は、自分の家を壊して薪にし、市場で売る。
不思議なことには、薪の中には赤い塗料がついたものも交じっており
その元を調べたところ、困り果てた人が、寺に入って仏像や仏具を盗み出し、割砕いていたのだった。
まさに私は、けがれた世に生まれ合わせて、こんな情けない仕業を見てしまったのです。
大変労しいこともありました。
深く愛する、妻や夫がいる者は
愛する心が強い方が、必ず先に死んでいく。
我が身を次にして、手に入れたわずかな食料を、相手に譲ってしまうからだ。
母親の命が尽きたことも分からず、いたいけな幼子が、なおも乳房を吸いつつ、横たわっていることもあった。」
抑制のきいた、淡々とした文書で、事実をそのまま伝えるという、ジャーナリストの筆致
生々しい描写が、心をうちます。
極限状態に陥った時の、人間の対象的な行動
「神仏をも恐れぬ行い」
「愛情が深いほど、死に近い」
二つの描写がありますが、仏像を割り割いて薪にして売ってしまう人を
悪人と言ったり、咎め立てする文章は書いておらず
止むにやまれずに、そういうことをせざるえなかった、
追いつめられた人は、こうなってましたよ
そういう描写を通じて、個人の力ではではどうしようもない、
社会や政治の在り方を情けなさや、当時の状況を語っています。
▼元暦の大地震(1185年)
「同じ頃、この世のものとは思えない、すさまじい地震があった。
山は崩れ、川を埋め。
海は傾いて、陸地を水浸しにしてしまった。
大地は割け、水が噴き出し
都の建物で無事だったのは、一つと無かった。
あるものは壊れ、あrものは倒れてしまった。
最も恐ろしいのは、ただただ、地震なのだとわかりました」
平安京、今の京都市内中心部に津波が襲った描写がありますが
これは、琵琶湖の津波ではないかと言われています。
当時の貴族の日記にも、琵琶湖の水が引いたという記録もあり
証明する遺構もみつかっていることから、湖も津波が起ることがわかっています。
長明は、この大地震の記述の最後の「つぶやき」では、
当時の大震災の風化を憂いています。
「@Chomei_Kamono
地震が起った当初は
人々もこの世のむなしさを述べて
心の濁りも薄まったように見えたが
月日が重なり、年が経ったあとでは
地震のことを話題にする人さえいなくなってしまった」
風化の事も言及してます。
方丈記の時代と、今とが重ね合わさってきます。
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