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(家族の絆) 精神科医・野田 正彰さん 2002年4月 ・・・八十年代の富裕な消費社会を経験し、独身貴族、家庭内離婚、ホテル家族と浮かれ、それまで家族のなかで営まれていた衣食住のほとんどを家族外のビジネスに代行させてしまった。その後に、「家族はいいものだ」「家族の絆を大切にしなければならない」という、家族回帰の主張がよく聞かれるようになった。そうかもしれないが、そこには過去の家族について美化や偽りがないだろうか。 個人においても、過去の家族は美化される。やさしいお母さん、黙々と働き後ろ姿で生き方を伝えていたお父さん、かわいい弟、勝気なお姉さん、お母さんが入院したとき、あんなにも支えあった家族、といったように。しかし、皆が皆、こんなふうに美化できるわけではない。偽りの美化をしている傍らに、美化できずに黙っている多くの人がいることを忘れるわけにはいかない。 こんな家族像は、日本の三、四十年前に限っても虚偽でしかない。実際には生計を維持するのに疲れ、子どもを放任していた夫婦は少なくない。結婚を妨害された男女から生まれた子どもは、養子に出されたりした。貧困からの児童虐待もけっして少なくなかった。昔の新聞を開くと、継母による「まま子いじめ」の記事がよく出ている。そのため、今は死語になった「まま母根性」「まま子根性」といった不快な言葉もあった。挫折感から酒に溺れ、妻子に暴力をふるい続ける男も多かったが、妻子は行くところがなくそれに耐えていた。昔は現在よりはるかに殺人事件が多く、それも家族間の争いによる事件が多数を占めていた。家出、行方不明も少なくなかった。 ・・・それゆえに、家族とはこうあるべきだと声高く主張する人には注意した方がよい。「女性は家庭に帰れ」「父は権威をもて」「父母は睦まじく、日本の伝統を子に教えよ」、こんな家族像を説く人の家族関係が、しばしばすさんだものであったりする。・・・ ・・・どんなに努力しても仲良くやっていけない事情のある夫婦、子どもの非行や引きこもりに困惑し疲れ果てている親、父や母の横暴に苦しんでいる子どもなど、不幸な家族が少なくないことを忘れず、そんな人を援助するにはどうしたらいいか、考え続けるべきである。
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