どちらかと言うとヒマな時期の「擬態」シリーズ、まだ続きます。



《5》 今回は、「もしかしたら、それ擬態?」という例・・・の「またその話!」です。


このシリーズ《1》でも紹介しましたが、ちょっとだけ不思議なことに、
日本語の「擬態」に相当する英語はありません・・・(多分?)

 ⇒手元の英和辞典で調べると【mimicry, mimesis】と、
  異なる概念の2種類の言葉が、同時に(!)出てきます。


一方、普通の辞書で「擬態」を調べると、
動物の体やその一部の色彩・形態が、他のものに似ること』と、
漠然と定義されています。

ですから、日本語で「擬態」という場合には、
上記の定義に従って、具体的な対象物(モデル?)の名を付けて、
「枯れ葉擬態」、「枯れ枝擬態」、「新芽擬態」、「種子擬態」、「花擬態」、
「トゲ擬態」、「小石擬態」、「鳥の糞擬態」、「アリ擬態」、「ハチ擬態」
などと、その場限り(?)の呼び方をすることがあります。

当然のことですが、「似ているかも?」と気が付くのは人間だけで、
本来の意味での「擬態」とは無関係に、偶然に似ている場合や、
機能や発生上の制約から、必然的に似てくることもあるはずです。

 ⇒もちろん、そのような「擬態モドキ?」の場合でも、
  いくつかの条件が合致すれば、騙されてしまう捕食者が存在して、
  擬態者(?)の生存の機会が、少しでも増す可能性はあると思います。


その一方で、過去に「擬態」とされている現象の中に、
『それで捕食者が本当に騙されるの?』
という例は、実は沢山あるのです。

 ⇒例えば、トリノフンダマシは夜行性で、普段は葉っぱの裏側にいるとか、
  ツマグロヒョウモンのモデル種は日本本土には分布していないとか、
  よく言われる例がありますが、まだ結論は出ていないようです。
  

だから、虫たちの「擬態」は、奥が深いというか、まだ分かっていないことの方が多いのです。

今回は、私自身が「多分擬態かもしれない?」と思った、
あまり有名ない、ちょっとだけ不思議な虫たちの写真を紹介します。

前回《4》で取り上げた仮称【非食物擬態】の範疇と思われる例が、
何故か多いようですが、やはり微妙に複雑な領域なのかもしれません。




マダラクチカクシゾウムシ(ゾウムシ科)
イメージ 2
2015年5月13日 安曇野・長野

中央部分に、木の芽のように見える虫がいます。

必死で演技しているように感じる姿勢ですが、 
静止場所(背景の色?)は、ここがベストのようです。

擬態に、背景選択行動が伴う典型的な例だと思います。

葉っぱの上にいれば、普通のどこにでもいる雰囲気のゾウムシですが、
適切な場所を選んで、ひとたび演技を開始すれば、
素晴らしい役者に変身して捕食者の目を欺くのです。


 ⇒野鳥類以外の捕食者が、例えばハエトリグモや、
  カマキリ、サシガメなどが付近を通りかかっても、
  このゾウムシ君は全く動くことはないので、
  彼らの餌食になってしまうことはありません。
  もちろん、この場合には、姿かたちや静止場所とは全く無関係で、
  ただ「動かない!」というだけで、十分な防御効果があるのです。







スジモンヒトリ幼虫(ヒトリガ科)
イメージ 3
2017年5月31日 志賀坊森林公園・青森

何か、植物の果実か種子のような雰囲気ですが、
丸くなることで知られるハバチの幼虫ではありません。

この子は、隠れる場所が全くない舗装道路の上で、
最低でも10分以上、丸くなったまま静止していました。


 ⇒スジモンヒトリの幼虫が、丸くなるのは初見ですが、
  隠れるところがない道路上を歩くことが多いようで、
  危険を感じると、こんな風に動かなくなるのかも・・・?








ベッコウハゴロモ幼虫集団(ハゴロモ科)
イメージ 4
2013年7月22日 白岩森林公園・青森

初めて見る人は、これが虫だとは思わないかもしれません。

この白い綿毛のようなものは、幼虫が分泌したワックスで、
同じ仲間のカイガラムシの白い虫体被覆物と同じ成分だと思います。


 ⇒フワフワと風に乗って飛んでいきそうな雰囲気で、
  普通に見れば、やっぱり植物の種子です。
  しかも、集団でいると、遠くからでも良く目立ちます。








ハンノケンモン幼虫(ヤガ科)
イメージ 1
2012年8月8日 白岩森林公園・青森

私は食べ物ではないというような「」マークの静止姿勢です。

こような黄色と黒色のしま模様は、幼稚園児にでも良く目立つように、
道路の危険個所や、工事現場、非常口の案内などで、
注意を促す視覚信号として使用されています。


 ⇒写真のハンノケンモンという蛾の幼虫は、
  有毒植物を食べているわけではなく、
  特に、ベイツ型擬態とは考えられないのに、
  このような黄色と黒のしま模様は不思議です。








ミミズク(ミミズク科)
イメージ 5
2011年7月24日 だんぶり池・青森

おそらく初めてこの子を見た人は、ちょっとだけビックリするかもしれません。

姿かたちの迫力は、「熱帯ツノゼミ」に遠く及びませんが、
日本の虫たちの中では、それに近い仲間かもしれません。


 ⇒幼虫は、クヌギ、ミズナラなどに寄生し、吸汁します。
  ですから、体内に不味成分は持っていません。








モエギザトウムシ幼体(マザトウムシ科)
イメージ 6
2012年8月2日 芝谷地湿原・秋田

この子は、白と黒で分断された、長い脚を持つ美少女(?)のイメージです。

ネット情報では、どうも大人(成虫)になると、
似ても似つかない姿に変身してしまうのですが・・・

多分、鳥などの捕食者が、この子を真上から見ると、
白黒の同心円の中心に、空中に胴体部分があるので、
捕食者の注意は、脚の白黒に向いてしまうのかもしれません。


 ⇒しかしこの子は、イトトンボに見事に捕獲されてしまったのです。
  脚が長過ぎるので、空中を飛んでいるように見えたのでしょうか?

  そのときの写真は、以下の記事でご覧ください。

  【ちょっとだけ不思議な虫たち ザトウムシの仲間】
    ↓   ↓   ↓
   http://kamemusi.no-mania.com/Date/20120814/1/







ヒモワタカイガラムシ(カタカイガラムシ科)
イメージ 7
2017年5月13日 室戸市・高知

高知県にある16番札所、金剛頂寺の駐車場周辺で、
エノキの枝にぶら下がった「かなり不思議なもの」に出会いました。

遠目では、人間が「おみくじ」を木の枝に結んでいるように見えました。

 ⇒いや? お寺なので「おみくじ」ではありません!!!


褐色の楕円形の部分が、雌成虫の本体ですが、
脚や触角は樹皮に密着しているので見えません。

白色リングは、蝋状の分泌物質が外側にある卵嚢(らんのう)で、
内部には沢山の卵があるはずです。


 ⇒普通のカイガラムシの姿かたちのままならば、
  少なくとも野鳥類の餌になることはないはずなのに、
  何故、わざわざイモムシのようになるかちょっとだけ不思議です。
  このような奇妙な状態になったイモムシを、
  野鳥類は、餌(=虫)だと判断するのでしょうか・・・?








クルミハムシ蛹(ハムシ科)
イメージ 8
2017年7月24日 白岩森林公園・青森

ちょっとだけ不思議な状況ですが、一列に並んだクルミハムシの蛹です。

ほぼ完全に食害されてスケスケになった葉っぱに、
逆さまにぶら下がって、黒っぽい蛹になっています。



 ⇒何故こんな目立つ場所で、集団で蛹化するのでしょうか?
  このように、例外的に「目立つ場所」で蛹になるのは、
  防御物質を体内に持っているからかもしれません。
  
  似たような状況のヒオドシチョウの蛹の例もご覧ください。

  【ヒオドシチョウの幼虫と蛹】
    ↓   ↓   ↓
   http://kamemusi.no-mania.com/Date/20150626/1/






ところで、今回の虫たちが、少なくとも我々人間が見れば、
何かに似ている(=擬態している?)ことは間違いないとして、
実際に餌を探している捕食者には、どう見えているのでしょうか?

私が勝手に仮称【非食物擬態】と判断した写真の虫たちは、
視覚的に獲物を探す捕食者が、簡単に見つけられるような場所にいます。

しかし、発見しても、直後には虫(=食物!)とは思わず、無視するはずです。

 ⇒ただ私自身は、実際に自然状態で、そんな場面に出会ったことはありません。
  その最大で唯一の理由は、虫を探す野鳥類が必要以上に臆病なので、
  人間の目の前で、そのような行動を見せてくれるとは思えないからです。

そうは言っても、実際に仮称【非食物擬態】の虫たちが、
捕食者の餌とならない状況が実際に存在するとしたら、
やはりその場合の捕食者は、間違いなく野鳥類です。





このブログで、過去に何度も繰り返してきましたが、
虫たちの「擬態」に関しては、それがどの範疇のものであれ、
騙される対象(虫を食べる捕食者)は、ほとんどの場合、
特別な視覚認知システムを持つ「野鳥類」なのです。

野鳥類の中でも、特にスズメ目に属する比較的小型の鳥たちが、
昆虫類の種分化に大きな影響を与えているとされています。

 ⇒つまり、昆虫類が100万種以上に種分化して、
  多種多様の姿かたちになってきた主な要因は、
  野鳥類との共進化であると言っても過言ではないのです。


また、スズメ目の鳥類は、昆虫を含めた動物食であることが多く、
普段は植物の実などを食べている場合でも、子育ての時期には、
たんぱく質が豊富な昆虫類をヒナに与えています。

多くの野鳥類は、虫のいそうな場所を飛び回り、
良く発達した視覚で、獲物を見つけ出し、あっという間に捕獲します。

特に、植物の葉っぱを食べる(動きの遅い)虫たちの幼虫時代には、
鳥の餌食になりやすいのです。

だからこそ、多くの虫たちは、様々な手段を用いて、
野鳥類の餌にならないように工夫しているのです。


もう一つ、「擬態」の防御効果を検討するときに欠かせないのが、
対象となる捕食者の視覚能力の違いです。

普通に考えても、飛びながら獲物を探す野鳥類の視覚は、
人間よりもはるかに鋭いことが想像されます。

人間などの大型哺乳類は、3原色(赤・緑・青)を見分けることができますが、
多くの哺乳類は、2原色(赤・青)のみと言われています。

ただ、鳥類(捕食者)と昆虫(被食者)は、
例外的に4原色(赤・緑・青・紫外線)を見分けることができ、
これが、まさに虫たちの「擬態」が成立する条件のひとつだったのです。

 ⇒例えば、ハトの仲間は20種類の色を見分けられることが、
  実験的に確かめられているようです。
  他の鳥たちも、色の識別能力は、かなり優れていることが分かっています。


だから、虫たちがどんなに着飾って何かに似せたとしても、
主要な捕食者である野鳥類以外には、あまり意味がないのかもしれません。


鳥類の行動と、特異な視覚認知システムについては、
このシリーズ《7》で、紹介したいと思います。



この記事に

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これまで紹介してきた擬態関連の記事について、バラバラな内容を、
さりげなくまとめて、エッセイ風(?)に書き直してみました。

特に目新しい事実はありませんが、写真の変更や追加を行い、
改めて考え直して加筆・修正した部分もあります。





《4》 今回は、【非食物擬態】について・・・の「たわいもない話」です。

取りあえずは、前回紹介した4種の隠蔽的擬態の虫たちを
まとめて1枚の写真にしましたので、もう一度ご覧ください。

イメージ 2
左上:コノハムシ 2011年2月17日 多摩動物園・東京
右上:アオマツムシ 2012年9月24日 東海村・茨城
左下:ハイイロセガカモクメ幼虫 2010年10月8日 だんぶり池・青森
右下:トビナナフシ 2010年9月24日 東海村・茨城

前回のコメントにも書きましたが、普通に歩きながら虫を探していたのでは、
とても見つけることができないような、背景に溶け込んでいる虫たちです。

 ⇒写真に撮ったものを見れば、比較的簡単に探し出せますが、
  実際に野外で見つけたときには、ちょっとだけ感動します。
  もちろん、左上のコノハムシ写真は、生体展示品ですが・・・






以下は、前回には登場しなかった(?)枯れ葉擬態の虫たちです。


この4種の虫たちは、姿かたちが枯れ葉や枯れ枝にそっくりです。
しかし、上の写真とは、全く異なる雰囲気(?)があります。

イメージ 3
左上:ムラサキシャチホコ 2013年8月14日 宮古市・岩手
右上:ツマキシャチホコ 2006年8月14日 印西市・千葉
左下:マエグロツヅリガ 2012年7月21日 白岩森林公園・青森
右下:オビカギバ 2012年6月26日 道の駅万葉の里・群馬

どうでしょうか?  全く違う雰囲気(?)を感じることができましたでしょうか??

 ⇒この4種は、隠蔽的擬態の典型のようにも見えますが、
  実は、背景に全く溶け込んでいないので、よく目立つ虫たちなのです。


左上:ムラサキシャチホコ
ネット写真でよく見かけるような、常夜灯に飛んできた個体ではありません。
葉っぱの上の目立つところに静止していたものを偶然見つけたのです。
よっぽど自分の擬態に自信があるのか、近づいても、少しくらい脅かしても、
飛んで逃げることはありませんでした。

 右上:ツマキシャチホコ
この子は幼虫ではなく、成虫(蛾)なのですが、白樺の小枝のように見えます。
右側の頭部は、折れた枝の切り口(?)のように平らで、茶褐色になっています。
左側の翅の先端部も斜めにカットされているように見えて、同じく茶褐色です。

 左下:マエグロツヅリガ
ムラサキシャチホコと違って、本当に前翅が内側にカールしています。
葉っぱの上に、落ち葉がかろうじて引っかかっているように見えます。

 右下:オビカギバ
この子は、左右対称の蛾の輪郭を持つ普通の蛾ですが、
ヒラヒタと落ちてきた枯れ葉のような静止状態です。



このような枯れ枝や枯れ葉に擬態する虫たちは、
前回《3》のアオマツムシやハイイロセダカモクメ幼虫とは違って、
林道を歩いていると、誰でも簡単に見つけることができるのです。

我々が普通に目にするということは、
「虫たちの方が、静止する背景を間違えているからだ」
と言うのが、これまでの定説だったと思います。

その定説のよくある説明文によると、
「ムラサキシャチホコが、枯れ葉が散在するような場所にいるときには、
人間が普通に歩いていたのでは、決して見つけることができない」
ので、葉っぱの上にいる個体しか写真がないというものです。

これ、本当に正しい説明なのでしょうか?

もし仮に、ムラサキシャチホコが、枯れ葉の多い地面に静止していれば、
視覚的に獲物を探す野鳥類どの捕食者からは、発見されにくいので、
おそらく、(野鳥類に)食べられてしまうことはありません。

しかし、そんな枯れ葉の多い地面には、野鳥類以外の捕食者、
例えば、ネズミ、カナヘビ、カエル、ムカデ、オサムシなどがいるのです。

しかも、そのような捕食者の餌の探し方(!)を考えると、
枯れ葉に擬態してることが、意味をなさない場合が多いのです。

それならば、枯れ葉の中に紛れ込んでいるよりも、
樹上の緑色の葉っぱの上で、目立つように静止していた方が、
捕食される危険が少ないのかもしれません。

だから冷静に考え直してみると、ムラサキシャチホコは、
静止する場所を、決して間違っているわけではないのです。

間違っているのは、人間の考え方(?)かもしれないのです!!!






もう一度、ムラサキシャチホコの拡大写真をご覧ください。

ムラサキシャチホコ(シャチホコガ科)
イメージ 1
2017年7月20日 志賀坊森林公園・青森

何度見ても、鱗粉の濃淡だけで表現したとは思えないほどの、
まるで画家が描いたような立体感のあるミラクル擬態です。

 ⇒枯れ葉の中に紛れ込んで、隠れているのであれば、
  こんなに精巧な似せ方をする必要はなかったと思います。

ムラサキシャイホコを知らない人に、この写真を見せたら、
おそらく100%の人が、「枯れ葉!」と答えるでしょう・・・(多分)






やや珍しい枯れ葉(?)の写真もご覧ください。

シャチホコガ幼虫(シャチホコガ科)
イメージ 4
2017年9月14日 安曇野・長野

多分タデ科植物の真横に伸びる花茎に、雨に濡れた枯れ葉が、
かろうじて引っ掛かっているような雰囲気です。

 ⇒おそらく、獲物を探している野鳥類も、
  奇妙な状況の枯れ葉を見つけると思いますが、
  すぐに、餌だと思わずに通り過ぎてしまうでしょう。

私の場合も、この写真を撮ったとき、何も考えず、
「虫のような枯れ葉の写真でも撮っておくか!」
というような感じで、シャッターを押したのです。

シャチホコガの幼虫がタデ科植物の葉っぱを、
食べるのかどうかは不明ですが、
少なくともこの花茎には、葉っぱはありません。

 ⇒何らかの理由で、この目立つ場所まで移動してきて、
  この特異なポーズで静止していたのです。





枯れ葉??
イメージ 8
左:カレハガ 2017年7月20日 道の駅みわ・茨城
右:エグリヒメカゲロウ 2015年11月5日 浅瀬石・青森

左は常夜灯に来ていたカレハガです。
風に飛ばされた枯れ葉が、看板に壁にへばりついていると思いこんで、
シャッターを1回押しただけなのです。
帰宅後に、撮った写真を整理していて、
この枯れ葉が、カレハガであることに気付いたのです。


右は、晩秋のダムサイトで見かけたエグリヒメカゲロウです。
コンクリートの隙間で見つけたのですが、この雰囲気も、
どう見ても、風に飛ばされてきた枯れ葉にしか見えません。
蛾の仲間ではありませんが、それでも葉脈(?)が見えます。

 ⇒チョウ目とアミメカゲロウ目の全く異なる種類が、
  同じような姿かたちに進化してきたのです。


上の2枚の写真は、緑色の葉っぱの上ではありませんが、
枯れ葉があることは、すぐに分かるので、やはり隠蔽ではなさそうです。






・・・というわけで、

このように枯れ葉や枯れ枝に似た虫が、緑色の葉っぱの上にいる場合には、
目立たなくさせるような【隠蔽的擬態 Mimesis】ではありません。

そうかと言って、捕食者が危険なものとして意識的に避けるような、
よく目立つ【標識的擬態 Mimicry】でもありません。

実は、このような擬態を定義する用語は、今のところないのです。

だから、獲物を探す捕食者が「これは食べ物ではない!」と確認して、
すぐに興味を失うものということで、ありきたりな用語ですが、
このブログ記事の中で、私は『非食物擬態』と仮に呼ぶことにしました。

もちろん、擬態という言葉を使わないで、
単にカモフラージュ、扮装、模倣、偽装、変装、仮装、扮装とか、
様々なニュアンスの言葉で、表現されることもあります。

 ⇒また、あまり一般的な用語ではないのですが、
  鳥の糞に似せたアゲハの若齢幼虫やトリノフンダマシのような、
  捕食者の餌とはならない対象物に擬態する場合を、
  擬装(masquerade)と呼ぶこともあるようです。

しかし、いずれの用語も、微妙なニュアンスの違いはありますが、
普通に考えれば、何かに似せるという意味があるので、
本来の日本語の「擬態」という範疇に含まれてしまうと思います。

 ⇒全くの個人的な感想ですが、例えば「マスカレード擬態」では、
  それは、「ギタイ・ギタイ」と言ってるようなものかもしれません。


さらに、枯れ葉や枯れ枝などの元生物も含めて、
食べ物ではないという意味で、仮称『無生物擬態』ということもできますが、
これだと、熱帯のツノゼミなどの奇妙な虫たち(ODDITY)や、
金属光沢の虫たちが、その範疇には入らなくなります。

ですから、捕食者にとって、本来の餌(食物)ではないことを示す、
仮称『非食物擬態』とすれば、面白味も何もありませんが、
全てを網羅することができるのではないかと思います。
 






次は、「鳥の糞擬態」の例です。

地面に水平に広がっている大きな葉っぱの上には、
枯れ葉や枯れ枝、花の残骸など、色々なものが落ちています。

少なくとも私は、そのような落下物の中で、
鳥のフン(もちろん虫たちのフンも!)は、
自分でも不思議なくらい目に付きやすいと感じています。

 ⇒当然、その中に紛れ込んでいる、
  鳥のフンのような虫たちがいるからですが・・・?

実際に野外で目に付きやすいのかどうかは、
人によって、議論の分かれるところかもしれません。

でも、これまでの話の流れからして、そんな糞擬態の虫たちも、
仮称『非食物擬態』に含まれるのではないかと思っています。



鳥の糞擬態の例
イメージ 5
左上:トリノフンダマシ 2012年8月6日 金山町・秋田
右上:キアゲハ幼虫 2011年6月29日 白岩森林公園・青森
左下:多分モントガリバ幼虫 2010年10月8日 だんぶり池・青森
右下:ウスイロカギバ幼虫 2016年9月19日 座頭石・青森


左上:トリノフンダマシ
これは、トリノフンダマシというクモの仲間で、
名前になるほどのリアルな「鳥の糞擬態」だと思います。
腹部の白色と灰色のまだら模様に加えて、
折りたたまれた脚の黄色がポイントです。

右上:キアゲハ幼虫
キアゲハの若齢幼虫は、鳥の糞にそっくりですが、
終齢幼虫になると隠蔽的な緑色に変化します。
多分、サイズ的に鳥の糞ではなくなるからだと思います。

左下:多分モントガリバ幼虫
糞擬態の姿かたちや色に関しては、
その完成度は、ピンからキリまであります。
リアル過ぎて、鳥も人間も、蛾の幼虫とは思わないでしょう。

右下:ウスイロカギバ幼虫
この色と形、表面の濡れた感じ、未消化の果実の種子(?)などに加えて、
そして、半分折れ曲がったような静止姿勢が秀逸です。


野鳥類のように、視覚的に獲物を探す捕食者が、
これまでに例示したような虫たちを食べることは、
よほど空腹の場合を除いて、おそらくないはずです。





この際なので、金属光沢の虫たちも紹介します。

有名な金属光沢の虫たち
イメージ 6
左上:ニジイロクワガタ 多摩動物園・東京(20160317)
右上:オオセンチコガネ 十石峠・長野(20160723)
左下:マメコガネ 白鷹町・山形(20160801)
右下:ハンノアオカミキリ 矢立峠・秋田(20140605)

この4種は、比較的有名な金属光沢を持つ虫たちです。
これだけ目立つのに、(多分)有毒種でもないし、
強力な武器も持っているわけでもありません。

ただ、野鳥類は、かなり臆病であることが分かっていますので、
生物(餌)とは思えないような得体のしれないものに近づくことはありません。

金属光沢の機能については、様々な説が検討されていますが、
個人的には、やはり仮称『非食物擬態』の範疇のような気がします。




・・・しかし!!

もし、このような『非食物擬態』の虫たちに対して、
捕食者が、食物でないと判断しなかった場合は悲劇です。

鳥類のような視覚的に獲物を探す捕食者の多くは、
獲物に対して、サーチングイメージができるので、
直前に食べた虫たちを狙う習性があります。

もし仮に万が一、すごく目立つ金属光沢の虫たちが、
一度でも、捕食者に食べられてしまうと、
彼らは嫌な味も匂いも持っていないので、今度は逆に、
捕食者は、よく目立つ金属光沢の虫ばかりを狙って、
むしろ、探しながら選んで食べるようになってしまうのです。






その証拠が、下の写真です。

クロテンの糞
イメージ 7
2010年7月3日  日高町・北海道

明らかに動物の糞(多分クロテン?)なのですが、
その中に、沢山の金属光沢の翅の一部が、
消化されずに排出されていたのです。

 ⇒間違いなく「同じ雰囲気の虫だけ」を狙って、
  集中的に食べたという感じです。

虫たちの「金属光沢の防御戦略」には、大きな落とし穴があったのです。

その他の機能などの詳細は、以下のブログ記事をご覧ください。

【虫たちの生き残り戦略 金属光沢】
  ↓   ↓   ↓
 http://blogs.yahoo.co.jp/sallygenak/archive/2017/3/28


このように、防御手段を何も持たない虫たちが、
捕食者をだまして身を守ろうとする場合には、
嘘がバレてしまったとき、悲惨な結果が待っています。

クロテンの例のように、何らかの理由で、勇気ある捕食者が、
彼らを捕獲して、食べることが出来たとすると、
次からは、この味の良い目立つ風貌は、
格好のサーチングイメージになってしまうからです。

 ⇒多くの野鳥類は、直前に食べた虫たちを、
  もう一度狙って捕獲する習性があることが知られています。

  ある有名な実験があって、小鳥たちに、
  小枝とシャクガ幼虫を同時に提示した場合に、
  最初に食べたのがシャクガ幼虫だったときには、
  その小鳥は、次回からは、本物の小枝を、
  執拗に突っついて、食べ物(虫!)かどうか、確かめるのです。

だから、ミラクル擬態の象徴のようなナナフシやムラサキシャチホコでさえ、
クロテンの餌となったオオセンチコガネの二の舞になる可能性さえもあるのです。





以上、長くなりましたが、仮称『非食物擬態』の「たわいもない話」でした。




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ブログを始めてから、旧ブログも含めて、7年以上経過しました。
虫たちの写真を撮る機会が減る(北国の)冬の間に、
これまでにアップした擬態関連の記事のバラバラな内容を、
さりげなくまとめて、エッセイ風(?)に書き直してみました。

特に目新しい事実はありませんが、写真の変更や追加を行い、
改めて考え直して加筆・修正した部分もあります。






《3》 今回は【隠蔽的擬態】について・・・の「あれやこれやの話」です。


虫たちの行う 『自分の体の色や模様を普段いる背景に合わせて、
外敵に見つかりにくくする』 という防御方法は、完成度の高い場合に、
古くから昆虫マニアの興味の対象になってきました。

このような目立たなくする防御法に関しては、体の色や模様だけ似せる虫たちと、
それに加えて姿かたちまで似せる虫たちがいて、前者の防御方法を【保護色】、
後者を【隠蔽的擬態】として、明確に区別しています。

保護色と隠蔽的擬態の概念は、ほとんど同じように思ってしまいますが、
実は、ちょっとだけ機能が異なっています。

 ⇒これは、後述のようにかなり重要な問題なのです。





とりあえずは、隠蔽的擬態の代名詞にもなっている有名な虫です。

コノハムシ(コノハムシ科)
イメージ 2
2011年2月17日 多摩動物園・東京

生きている実物は、動物園でしか見たことがないのですが、
枯れた部分や虫食いの跡まで作ったコノハムシの雌です。

ほとんどの場合、背景によく似た葉っぱのある目立つ場所に
ぶら下がるようにじっとしているだけなのようです。

 ⇒実際に展示室の前では、若いお母さんが、指さしながら、
  「あそこの陰にぶら下がってるでしょ!!」とか言って、
  一生懸命に子供に説明しているのですが、初めて見た子供たちは、
  なかなか発見できないし、最後には、虫でも葉っぱでも、
  どっちでも良いみたいな雰囲気になっていました。

確かに、これが虫だと言われても、子供心が傷つくだけです!!!
それほど、葉っぱそっくりなのです。
 

そして、これらのおどろくべき精密さを持った色や形が、
単なる偶然の結果で出来上がったものではないことは、
上記のような静止行動と考えあわせてみればよく分かります。

しかし、「最初は偶然だった」という証拠(?)が、実はあるのです。

 ⇒コノハムシの近縁種は、化石で発見されていますが、
  その年代には、広葉樹はまだ存在していなかったのです。
  ですから、コノハムシの先祖は、広葉樹が出現するまでの間、
  多分針葉樹やシダ植物の中で、さりげなく暮らしていた(らしい?)のです。
  そして、植物の種類が増えて広葉樹が出現する時期になると、
  その葉っぱを食べる虫たちもの種類も増えて、
  さらに、虫たちを食べる捕食者も増えたのです。
  そんな中で、体の一部が「ほんの少し」木の葉に似ているので、
  捕食者に食べられてしまう割合が減って、子孫を残しやすくなり、
  さらには、葉脈や食痕まで真似たコノハムシの仲間が進化してきたのです。

彼らは、昼間は葉っぱにぶら下がるように動かず、捕食者の目を欺くことで、
沢山のライバル種や捕食者がいる樹上の狭いニッチにおいて、
激しい生存競争を勝ち抜いてきたのです・・・多分?








続いて、日本で普通に見られる【隠蔽的擬態】の例です。

ナナフシモドキ(ナナフシ科)
イメージ 3
1999年6月19日 与那国島・沖縄

周囲の小枝の中に、完全に紛れ込んでいるナナフシモドキです。
歩きながら虫を探すことが得意な昆虫マニアでさえ、
サーチングイメージが出来ていないと、この子を見つけるのは困難です。

 ⇒当然、視覚的に獲物を探す野鳥類も、
  この状態では、発見することは難しいと思います。


しかし考えてみると、この形態は、ちょっとだけ不思議です。
枝に擬態する「こだわり」のために、多くの機能を犠牲にしているのです。

 ⇒まず、枝に似せるためには、翅は邪魔になります。
  そして、体を枝のように細くするために、
  体が弱々しくなって、動きが鈍くなってしまいます。
  同時に、細い脚も切断され易くなります。
  ただ、これを逆手にとって、防御手段の一つとして、
  敵に襲われた際に、脚を自ら切り離すことができる・・・!!






アオマツムシ(コオロギ科)
イメージ 4
2012年9月24日 東海村・茨城

お気に入りの都市型公園で見つけた外来種のアオマツムシです。

シジミチョウの中間をを追いかけて、ふと立ち止まったときに、
偶然見つけたのですが、本当に飛び上がるほどビックリしました。

緑色の背中が平らで、縁取りの黄色ラインが入っており、
お尻の先が細くなっているので、まるで葉っぱです。

 ⇒秀逸なのは、この姿勢しかありえないという恰好で、静止しているのです。
  まるで自分の姿かたちを知っているかのように、お尻の先を枝にくっつけて、
  さらに触角を2本前方にそろえて・・・・・・・!!







ハイイロセダカモクメ幼虫(ヤガ科)
イメージ 1
2010年10月8日 だんぶり池・青森

この写真を見ただけで、すべての説明が蛇足になってしまいます。
もちろん、初めて見た人は、虫が写っていることに気付かないかもしれません。

ピンク色もうす緑色も、虫と植物が全く同じ色合いなのが驚きですが、
植物の色素がそれを食べた虫の方にも、そのまま使用されているのでしょうか?


以下、蛇足です。

ハイイロセダカモクメは、蛹で越冬します。
普通、蛹で越冬する虫たちは、春になると新しい成虫になります。
ところが、ハイイロセダカモクメの蛹は、春になっても羽化しません。
夏がそろそろ終わるかという季節になって、ようやく羽化し、
それから交尾・産卵をするのです。
幼虫は、この時期にしかないヨモギの花穂を餌とします。
ヨモギの花穂は、葉っぱと違って、隠れるところが少なく、
しかも、花穂を食べてしまうと、ますます隠れるところがなくなってしまいます。
そんな状況の中で、ハイイロセダカモクメの幼虫は、
鳥に捕食されないようなミラクル擬態を完成させたのです。
何と、彼らは、食べてなくなったもの(花穂)にそっくりなのです。








ついでなので、あまり有名でない【隠蔽的擬態】の例を紹介します。

シモツケマルハバチ幼虫(ハバチ科)
イメージ 5
2016年6月20日 弘前市・青森

庭のシモツケをぼんやり見ていると、ピンク色の蕾の中に、
白い毛の生えた花茎によく似たシモツケマルハバチの幼虫がいました。

この子は、シモツケの葉を食べている頃は、
体全体に白くて短い束状の毛があって淡黄色なのですが、
花が咲く時期になると、花も食べ始めます。

その時期には、何と体が多少ともピンク色になるのです。







アオバハゴロモ(アオバハゴロモ科)
イメージ 6
2016年7月29日 東海村・茨城

アオバハゴロモの成虫は、細い木の枝に静止していることが多く、
ときには、数個体が等間隔で整然と並んでいることがあります。

こんなイメージで、完全に植物に中に溶け込んでいるのです。

この写真には、何匹写っているか分かりますか?

もう少し整然と並んでいると、外国のウンカの仲間のように、
集団擬態の範疇になるのかもしれません。








多分コツバメ幼虫(シジミチョウ科)
イメージ 7
2016年6月6日 芝谷地湿原・秋田

遊歩道わきに、ウワミズザクラの貧弱な果実がありました。
その中に、まるで虫えい(ゴール)のように、
ひときわ大きく見える細長い果実が1個だけ見えました。

少し少し近づいて確認すると、表面に細かい毛があるので、
明らかにウワミズザクラの果実ではありません。

おそらく、コツバメの幼虫だと思います。

 ⇒幼虫は、花蕾や実を食べるので、
  もしかしたら、まばらで貧弱に見えた果実は、
  この子が食べてしまったのかもしれません。








突然ですが、多くの書物やブログ記事などで、
隠蔽的擬態の代表のように扱われているムラサキシャチホコや、
マエグロツヅリガの写真は、今回の記事に掲載されていません。


その理由は・・・・

冒頭にも書きましたように、保護色と隠蔽的擬態は、
ちょっとだけ機能が異なっています。

体の色や模様だけを背景に似せた保護色は、
静止する場所を適切に選べなかった場合には、
元の輪郭(例えば蛾の三角形の輪郭)がくっきりと表れて、
逆に良く目立ってしまいます。

しかし、色や模様だけでなく姿かたち(輪郭)まで、
葉っぱや枯れ枝に似せた隠蔽的擬態であれば、
背景を間違えても、やっぱり葉っぱや枯れ枝にしか見えないのです。

捕食者が、よく目立つ枯れ枝や枯れ葉を見つけても、
自分の食べ物ではないので、それ以上の興味を示しません。

このような状況では、通常の隠蔽的擬態の範疇ではないようです。


さらに、もう一歩踏み出して、隠蔽的擬態に関する極論を言えば、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 背景選択を間違えて静止している場合には、
 捕食者にとって、逆に良く目立つ存在になるので、
 明らかに、隠蔽的擬態の範疇から外れます。
 逆に言うと、背景選択が正しかった場合には、
 保護色だけで、十分に捕食者の目から逃れることができるのです。
 ということは、隠蔽的擬態として有効になる場面は、
 どちらにころんでも、「ない!」という結論になってしまうのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
いずれにしても、ムラサキシャチホコの擬態に対しては、
全く別のカテゴリーになるので、新たな名前が必要だと思います。

このことについては、次回《4》で、詳細に検討したいと思います。



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前回に続いて、これまでの擬態関連の記事を、テーマごとにまとめて、
生意気にもエッセイ風(?)に書き直してみました。

特に目新しい事実はありませんが、写真の変更や追加を行い、
改めて考え直して加筆・修正した部分もあります。




《2》 今回は、地味な色と派手な色について・・・の「とりとめのない話」です。


まず、普段どこかに隠れていることがない虫たちの体色や模様に関しては、
視覚で獲物を探す捕食者から目立たなくさせるような地味な色の【保護色】と
全く逆に、良く目立つようにする派手な色の【警戒色】の2種類に、
明確に区別することができます。

 ⇒体色や模様だけでなく、姿かたちまで似せている場合には、
  《1》で述べたように、目立たせる擬態を【標識的擬態 Mimicry】、
  目立たなくさせる擬態を【隠蔽的擬態 Mimesis】と呼びます。

一般的な傾向として、派手な色彩の虫たちは、日当たりの良い明るい場所に、
地味な色彩の虫たちは、日の当たらない薄暗い場所にいることが多いようです。

ただ、いずれの場合も、微妙な例外があったり、
実際の言葉の使用場面での混乱があったりするようですが・・・






地味と派手な虫のちょっとだけマニアックな例です。


保護色と警戒色の例:
イメージ 7
左: アオスジアオリンガ 2015年6月11日 酸ヶ湯温泉・青森
右: トラガ 2012年6月33日 梵珠山・青森

左側は、葉っぱのに静止するアオスジアオリンガです。
夜行性の蛾にしては珍しく緑色の蛾なのですが、
ダケカンバのうす緑色の葉っぱに溶け込んでいるように見えます。

この程度の保護色になると、歩きながら虫を探していても、
なかなか見つけられるものではありません。
間違いなく、視覚で獲物を探す野鳥類も見つけにくいと思います。


右側は、同じく葉っぱの上に静止するトラガです。
幼虫時代に微妙な有毒植物(ユリ科)の葉を食べる昼行性の蛾で、
白・黒・黄色の典型的な警戒色でよく目立ちます。

何らかの防御手段を持っている警戒色の虫たちは、
学習可能な鳥などの捕食者から攻撃されることはありません。

どうせ捕食者に食われることがないのなら、
別に体色は、どんな色でも関係ないと思われがちですが、
実際には、武器を持った種や有毒種は、ほとんどが警戒色なのです。

その理由は、次のように考えられます。

有毒種とはいえ、捕食者から攻撃を受けたとき、
獲物を直接口の中に入れてしまうような捕食者の場合には、
あわてて吐き戻されたとしても、死んでいるか、
あるいはケガをしている可能性が高いはずです。

だから、一度ひどい目にあった鳥やカエルなどの捕食者が、
次回からその色や模様を学習して、2度と攻撃しなくなるように、
より目立つ色をしている方が理にかなっているのです。

 ⇒やや専門的にはなりますが、もう少し付け加えると、
  このように、自分は犠牲になっても、血縁関係のある仲間を助けるような、
  いわゆる利他的な状況が進化することができたのかは、
  血縁淘汰説(有名な利己的な遺伝子?)で説明可能なのだと思います。






そうは言っても、ややこしい虫たちもいます。


保護色と警戒色の例外:
イメージ 6
左: アカスジカメムシ 2013年7月18日 だんぶり池・青森
右: エゾアオカメムシ幼虫 2016年9月19日 だんぶり池・青森

左側の赤と黒の縦じまのアカスジカメムシは、警戒色の典型例であり、
微妙な有毒植物であるセリ科植物から吸汁し、不味成分を体内に蓄積します。
だから、基本的には、捕食者から攻撃されることはありません。

 ⇒通常は、緑色の葉っぱの上で静止し、よく目立ちますが、
  このように、褐色になったセリ科植物の種子にもいることがあります。

そんなときは、警戒色というより、あまり目立たない保護色のようです。


一方、右側のエゾアオカメムシ幼虫の場合は、何故か、
枯れたシダの葉っぱにいることも少なくありません。

もしかしたら、羽化場所を探しているだけかもしれませんが、
この子のすぐ上には、もう1匹の幼虫がいました。

【虫たちの親子-52 エゾアオカメムシ】
  ↓   ↓   ↓
 http://blogs.yahoo.co.jp/sallygenak/archive/2017/4/3

当然のことですが、このように、緑色であっても、
枯れ葉の上にいれば目だってしまうのです。







また、ちょっとだけ不思議なことに、エゾアオカメムシの場合には、
成虫には、まるで別種のように見える色彩変異があります。


エゾアオカメムシ(カメムシ科)
イメージ 5
左: 黄色型 だんぶり池・青森(20100610)
右: 緑色型 だんぶり池・青森(20100803)

もちろん、緑色型が普通の葉っぱにいれば、典型的な保護色になりますが、
黄色型の個体が枯れ葉に静止していても、やはり保護色になります。

上の写真では、両タイプとも緑の葉っぱの上に静止しているので、
緑色系は目立たたず、黄色型はよく目立つことになります。

 ⇒よく似たイメージのアオクサカメムシやミナミアオカメムシでは、
  遺伝的に決まっている色彩型が確認されていますが、
  エゾアオカメムシの場合は、まだ分かっていないようです。






次に、同種なのに、保護色と警戒色を使い分けている例もあります。


イカリモンガ(イカリモンガ科)
イメージ 4
2012年10月6日 だんぶり池・青森

緑色の葉っぱに静止するイカリモンガです。
体の輪郭が微妙にギザギザで、枯れ葉のように見えるし、
もちろん、色や模様も枯れ葉そっくりです。

触角をそろえて前方に突出させ、
頭全体が、葉柄のように見えます。

この子は、間違いなく演技をしているのです。
しかも面白いことに、枯れ葉に擬態することに自信満々のようで、
近づいても全く逃げる気配がありません。







ところが、下の写真も同じイカリモンガなのです。


イカリモンガ(イカリモンガ科)
イメージ 3
2010年8月29日 だんぶり池・青森

和名の由来となった鮮やかなオレンジ色の碇(イカリ)の模様と、
茶色、黒色、白色のまだら状の模様があるので、
翅を閉じて止まるとよく目立ちます。

幼虫時代の食草は、付近に沢山あるオシダなどのシダ植物で、
もしかしたら、体液に不味成分があるのかもしれません。

本種は、春から夏にかけては、昼間活動し、
チョウのように、花から花へと、蜜を求めて飛びまわります。

もちろん、このときには、頭部や触角は普通であり、
前翅の裏側の鮮やかな模様を見せています。

 ⇒しかも面白いことに、枯れ葉に擬態する場合と全く異なって、
  カメラを向けただけでも、飛んで逃げてしまいます。

もしかしたら、春から夏にかけては、周囲に枯れ葉がないので、
枯れ葉のような色彩型が出現しないのかもしれません。









でも、この程度の保護色は、まだまだ可愛いほうです。


虫たちの凄すぎる(?)保護色の実例については、
以下のブログ記事をご覧ください。

【保護色の虫たちを見つける疑似体験① 初級編】
  ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20160115/1/

【保護色の虫たちを見つける疑似体験② 中級編】
  ↓   ↓   ↓ 
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20160118/1/

【保護色の虫たちを見つける疑似体験③ 特別編】
  ↓   ↓   ↓ 
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20160121/1/









最後に、もうひとつ興味深い例を示します。


イシサワオニグモ(コガネグモ科)
イメージ 2
2016年9月17日 弘前市・青森

赤色とうす黄色の縞模様のイシサオニグモは、かなりよく目立ちますが、
おそらくこの子は、有毒ではありません。

さらに、別の機会に紹介予定の「ベイツ型擬態」でもなさそうです。


この写真を撮った後、カメラのファインダーを覗きながら、
ほんの一歩だけ被写体に近づきました。

そのとき、突然このクモが、視界から消えてしまったのです。








イシサワオニグモ(コガネグモ科)
イメージ 1
2016年9月17日 弘前市・青森

何ということでしょうか?

この鮮やかな模様は、ヨモギの花穂の中では、
実に見事な「保護色」として機能していたのです。

 ⇒もちろん、赤と黄色のイシサワオニグモが、
  必ずヨモギの花穂に巣を張るとは限らないので、
  たまたま、そのような結果になったのだとは思います。


いずれにしても、このような「警戒色」から突然の「保護色」への変化は、
ある虫の体色が保護色とか警戒色とかは、(冒頭に書いてしまったように、)
最初から決まっているわけではなく、静止する背景によって左右されるのです。

ただ、何らかの防御手段を持っている虫たちの警戒色の場合には、
捕食者が学習すると、2度と攻撃しなくなるという裏付けがあり、
よく目立つような背景に静止する方が多いと思いますが・・・



・・・以上、虫たちの体色に関する「とりとめのない話」でした。





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およそ7年前に昆虫ブログをさりげなく開始して以来、
私が興味を持っている「虫たちの擬態」について、
写真が撮れたときに、その都度、関連記事をアップしてきました。

そして今回から数回に分けて、各記事のバラバラな内容をまとめて、
生意気にもエッセイ風(?)に書き直してみました。




《1》 今回は、日本語の「擬態」という言葉について・・・の「よもやま話」です。


肉食動物の餌になるという宿命を持つ虫たちが、
何らかの防御手段によって、捕食者から身を守る仕組みについては、
古くから多くの研究者や昆虫マニアの興味の対象となってきました。

特に、自分自身の体の色や姿かたちを、他の何かに似せて、
捕食者を視覚的に欺くという例は沢山知られており、
そのような仕組み・現象を「擬態」と呼んでいます。

しかし、みんなが知っているのに、ちょっとだけ不思議で、
良く分からないことが多いのが、擬態(と言う言葉)なのです。



そんなわけで、我々人間が、いろいろな虫たちを見ていると、
「ちょっとだけ○○○○に似ている!! これは擬態なのかな??」
と思ってしまう例は、予想以上に多いと思います。

 ⇒例えば、歩きながら虫を探すことが多い私の場合は、
  野鳥類とは全く逆で、葉っぱの上に落ちている枯れ葉があると、
  どうしても、虫に見えてしまいます・・・・・(話が違う)?!
  






・・・・・こんな例はどうでしょうか?


キカマキリモドキ(カマキリモドキ科)
イメージ 1
2012年8月23日 十石峠・長野

この写真を見た多くの人は、カマキリだと思うはずです。
でも、この子の名前は、キカマキリモドキと言って、
カマキリとは全く別のアミメカゲロウ目の仲間なのです。

もちろん、小さなカマキリに似ているからと言って、
そんなにメリットはないような気もします。

 ⇒武器を持つムモンホソアシナガバチにも似ているので、
  ベイツ型擬態である可能性も指摘されていますが・・・


おそらく、一般的な「擬態」という状況ではなく、
ただ偶然に同じような姿になっただけなのかもしれません。

詳細は、以下の過去記事をご覧ください。

【ちょっとだけ不思議な虫たち キカマキリモドキ】
   ↓   ↓   ↓
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20120912/1/







もう一つ例を示します。


ババシロアシマルハバチ幼虫(ハバチ科)
イメージ 2
2016年6月22日 白岩森林公園・青森

何とも不思議な、得体のしれない姿かたちですが、
どちらかと言うと「鳥のフン」に見えるのかもしれません。

 ⇒ただ、普通の【鳥の糞擬態】とはちょっと違う気もします。 
  奇妙な姿かたちそのものが、餌には見えないので、
  次回以降に紹介予定の【(仮称)非食物擬態】なのかも・・・?
    
このように、体に白いロウ物質をつけるのは、植物成分を吸い取って、
余剰のワックス成分を排出するカメムシ目のカイガラムシや、
ベッコウハゴロモの幼虫でよく見られる現象です。

しかし、普通に葉っぱを食べるハバチの幼虫が、
こんなことをするのは、ちょっとだけ不思議なことだと思います。

詳細は、以下の過去記事をご覧ください。

【かなり不思議な白い突起のある幼虫 ババシロアシマルハバチ幼虫】
   ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20160708/1/





・・と言うわけで、

キカマキリモドキも、ババシロアシマルハバチの幼虫も、
何らかの「擬態」と呼べるのかどうか、意見の分かれるところだと思います。








もちろん、捕食者を騙して自分の身を守る本物の「擬態」も沢山知られています。

何??  本物の擬態って?!



そもそも擬態 (Mimicry) という概念が出来上がったのは、今から150年以上前のことです。

この Mimicry という専門用語は、イギリスの博物学者 H.ベイツが、
南米でチョウを採集していたときに、不味成分を持つ数種の警戒色のドクチョウ類と、
それぞれよく似たシロチョウ類がいることを発見し、「味の良いシロチョウの色彩は、
ドクチョウの色彩を似せて、捕食者を騙して身を守っている」と論文を書いてから、
以後、この現象・仕組みが Batesian Mimicry と呼ばれたことに起因します。

この Batesian Mimicry という専門用語が、日本語でベイツ型擬態と翻訳されたのです。

 ⇒だから、日本で一番最初に「擬態」という言葉を使用したのは、
  英語の Mimicry を和訳したものなのです・・・多分?

もちろん、英語では、逆に目立たなくさせるようなナナフシや、
コノハムシなどの「擬態」については Mimicry と呼ぶことはありません。
単に Camouflage あるいは mimesis という言葉が用いられるようです。

 ⇒有名な W.ヴィックラー の邦題『擬態 自然も嘘をつく』の原本を見ると、
  英語版のタイトルは『Mimicry in plants and animals』となっており、
  目立たせる擬態の話がほとんどで、模倣 Camouflage や mimesis の例は、
  ほとんど出てきません。






以下の有名な以下の2種の虫たちは、そんな「擬態」の典型例です。


日本で見られる「擬態」の例
イメージ 3
左:セスジスカシバ 2013年09月11日 白岩森林公園・青森
右:アマミナナフシ 2017年10月21日 ぐんま昆虫の森・群馬

ちょっとだけ不思議なことに、日本語で単に「擬態」と言うと、
左側のハチに似せたセスジスカシバのような目立たせるタイプも、
右側の木の葉や枝に似せたナナフシのような目立たなくするタイプも、
どちらも、「擬態」と呼ばれるのです。


前述のように、日本語の「擬態」を意味する便利な単語は、英語にはありません。

そうかと言って今さら、特に英語の使い方に戻すことはできませんので、
日本語で単に【擬態】という場合には、目立たなくさせるような【隠蔽的擬態 Mimesis】と、
よく目立つようにさせる【標識的擬態 Mimicry】という相反するふたつの概念を、
明確に区別することが必要だと思います。

 ⇒上の写真の場合には、セスジスカシバが【標識的擬態 Mimicry】、
  アマミナナフシの場合が【隠蔽的擬態 Mimesis】となります。


これとは別に、モデルとなった生物・非生物の名前を付けて、例えば、
ハチ擬態、アリ擬態、鳥の糞擬態、枯れ葉擬態、新芽擬態などと、呼ぶこともあります。
場合によっては、木の皮擬態、海の砂擬態、地衣類擬態とかも見かけますが、
これらは、形状まで似せていないので、単に保護色で良いのかとも思います。

しかし、これらの呼び名には全く統一性がないので、その場かぎりの種分けになって、
擬態の進化を考える上でも、あまり有意義な分類方法ではないと思います。





さらに、微妙に誤用される「擬態」の例として、攻撃擬態が挙げられます。


もともとの攻撃擬態【ベッカム型擬態】とは、海底にいるアンコウが、
自分の鼻先に、虫のようなものをユラユラさせて、
餌と思って近づいてくる小魚などを目の前で捕獲する場合などを言います。

ここで重要なのは、積極的に獲物を欺いて近寄らせ、捕獲するような現象です。

ただ、攻撃擬態を、隠蔽擬態と対比させることもあるようで、
私が、旧ブログで最初に関連の記事を書いたとき(2011年)には、
Wikipediaの「擬態」の項目には、以下のように、擬態を二分していました。

 Wikipedia(2011.01.15)より引用:
 **********************************************************
   擬態は目的によって隠蔽擬態(いんぺいぎたい)、
   攻撃擬態(こうげきぎたい)、の2つに分けられる。
   ただし隠蔽擬態と攻撃擬態については両方を兼ねる生物もおり、
   明確な線引きは難しい。
  **********************************************************

しかし、これは誤解を招きやすく、間違いであると思います。

そもそも【隠蔽的擬態】に対比する用語は、上記に述べたように、
目立たせるような【標識的擬態】であるはずです。


この誤用(?)については、以下のブログ記事に書きました。

【擬態の不思議① 用語の混乱】
  ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20150114/1/


そのためかどうか分かりませんが、最新のWikipediaの「擬態」の項目は、
以下のように書き替えられていました。

 Wikipedia(2017.12.26)より引用:
 **********************************************************************
   擬態には背景に似せ目立たなくする隠蔽的擬態mimesisと、
  目立つことにより捕食者、獲物を欺く標識的擬態mimicryがある。
  また、獲物を得る為に擬態するものを攻撃擬態(こうげきぎたい)と呼ぶ。
  **********************************************************************

やはり、この分類(ジャンル分け)が、現在の主流ではないかと思います。






さらに言えば、攻撃擬態そのものにも、微妙な誤解があるようです。


虫たちの攻撃擬態【ベッカム型擬態】の例として有名なのは、
ピンク色の花のようなハナカマキリで、写真集などにも紹介されています。

南アフリカにいるハナカマキリの一種(Idolum diabolicum)は、
花に似ていますが、彼らは花に止まって身を隠すことはありません

中・後肢のみで、木の枝に静止していると、前肢の内側の模様は、
まるで花のように見え、中心部に向かってネクターガイドさえあります。

そして、実際に蜜を吸うために、 多くの虫たちがカマキリの花に、
獲物として集まってくるのです。

この場合が、攻撃的擬態(=ベッカム型擬態)の典型だと思います。





しかし、よく見かける下のような例はどうでしょうか?


ハナカマキリ(ランカマキリ科)
イメージ 4
2011年2月17日 多摩動物園・東京

この状況で、たまたま本物の花を蜜を吸うために訪れた獲物を捕えても、
それは攻撃擬態の範疇には入らないと思います。

ピンク色のハナカマキリが、ピンク色のランの花に静止しているときには、
目立つことはないので、【隠蔽的擬態 Mimesis】そのものなのです。

もし、これを攻撃擬態【ベッカム型擬態】というのであれば、
捕食者の隠蔽的擬態は全て攻撃擬態になってしまいます。

 ⇒子供向けの写真集やインターネット上でも、
  これらの用語の使用に関して、昔ほどではありませんが、
  多少の混乱・誤用が見られることがあります。





何故、こんなことをしつこく書くのかは、理由があります。


それぞれの「擬態」には、次回から示すように、微妙な例外があって、
両者の識別が難しい場合があるからです。

さらには、「枯れ葉擬態」や「鳥の糞擬態」のように、
一見【隠蔽的擬態 Mimesis】のように見えてしまう場合も、
実は、捕食者に目立たせるように進化した擬態で、
隠蔽的擬態の概念から外れてしまうのです。


次回から、様々な場面での擬態について、その難しさや不思議さを、
分かりやすく紹介していけたらと思います。




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