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書庫・南インドとムンバイ

ヒッピーからレイヴァーへ(その侮りがたいカルチャー)

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ゴアのビーチ。

美しい海、白い砂浜、椰子の並木。
まさに楽園を思わせるその雰囲気に惹かれ、世界中から若者たちがやってくる。

1960年代の後半、ベトナム戦争が泥沼の様相を呈していた頃、行き詰まった西欧的合理主義や物質文明に反発した欧米の若者たちは、「愛」という漠然とした理想主義の下、世界中を旅し始めた。

いわゆるヒッピーである。

このカウンター・カルチャーが目指した場所が、欧米とは全く異なる価値観を持った東洋、それも様々な思想を生み出したインドであるということは当然の帰結だったといえるのかもしれない。

続々とインドにやって来た彼らはガンジス川で沐浴し、ヨーガを学び、瞑想し、絵を描き、音楽を奏で、ジョン・レノンのようにラブとピースについて語り合った。

彼らは社会から進んでドロップアウトし、理想を追求するコミューンを造り、徹底的に原始的な生活をすることを好んだという。

東洋的な自己洞察やシンプルで原初的な生活形態。
彼らはそういったものの中に世界が変革する可能性を感じ取っていたのかもしれない。



ここゴアは、1970年代の初頭、ネパールのカトマンズやアフガニスタンのカブールなどと共に、ヒッピーたちの聖地に、それも最大の理想郷となった場所である。



それから既にもう30年が経つ。

一世を風靡したムーブメントは去り、いつしかヒッピーたちは故国へと帰っていった。

けれども、ゴアの海岸をうろつくと、40年前に生まれたヒッピーカルチャーは、そのスタイルを踏襲し21世紀の今に受け継がれているようにも思える。

くらげの触手のようなドレッドヘア、キリスト風の髭、サイケなデザインの服。
スピリチュアルなアクセサリー、体を埋め尽くすタトゥー。
そして、ハシシやチャラスなどといった麻薬……。

かつてのヒッピーたちはギターを爪弾きジミ・ヘンドリックスやボブ・ディランを歌っていたというが、今のゴアの若者たちはトランスやテクノを聴きながらうねうねと踊る。

ゴアの北部にあるアンジェナ・ビーチにはそういった現在進行形のヒッピーが幾人も、眠たげな目をしたこぶ牛のように、日がなぼんやりと海岸をうろついていた。


しかし、話によると彼らは見かけこそヒッピーらしいが、実はヒッピーではないらしい。

30年経った今、ヒッピーは別ものに変わっていたのだ。

彼らは「レイヴァー」と呼ばれる人種だという。
レイヴを楽しむ者、レイヴァー。

レイヴとは、大音量で流されるトランスやテクノなどの音楽を体で感じながら、ゆらゆらと踊ることであるという。屋外で大勢の人を集めて行われるそれは「レイヴパーティー」と呼ばれるらしい。

椰子の木のシルエットに囲まれた無人島の浜辺、星空のスクリーンに覆われた山間の盆地、青白い月光を浴びた砂漠の真ん中……。

様々な場所で行われるレイヴを求め、レイヴァーは世界中をさまよい歩く。

彼らは踊る!

大音量で流されるトランスミュージックは辺りの美しい風景と、MDMA(エクスタシー)で恍惚とした彼らの脳内にドンドンと響き渡る!

1980年代の後半にイギリスやドイツで始まったこのムーブメント。

彼らレイヴァーもヒッピーと同じように世界中を旅するが、それは西洋的合理主義に反発したためでも、東洋的な思想に変革の可能性を見出そうとしたためでもない。
彼らは異国の見慣れない土地という最高のシチュエーションの下で、ただ単に楽しみたいだけなのだ。

私は旅の途中、そういった輩に幾度となく出会った。

そして、彼らはドラッグによるトリップ体験、レイヴの恍惚とした情景を嬉々として語るのだった。


「L(LSD)やると椰子の木が踊って見えるんですよ」

「マナリ(ヒマラヤ山麓の小さな町)の山の麓にパーティー会場があるんですよ。夜じゅう踊り狂って、日の出を拝みながら人がバタバタと倒れていくんです」

「デリーのイスラエル人宿は24時間テクノがガンガンにかかっていてみんな吸ってるよ。イスラエリーは本当にクレイジーだね」

「ロンドンのハムステッド・ヒースにはマジック・マッシュルーム(食べると幻覚作用をもたらすキノコ)が生えていて、みんな拾いに来ますよ。地元の人も食べているみたいですね。日本でも長野とか岐阜に生えている所がありますよ」

「ベネズエラで月食見ながら踊るんですよ。ムーンパワーですよ。最高っすね」

「ジョイント吸ってガンジスの水に触れたらビリビリきましたよ。あの水にはパワーがあるよ」

「ピカソとかダリとかも絶対ドラッグやっていたと思いますよ。そうじゃなきゃあんな絵は描けない」

「レイヴ、最高ですよ。日本はマリファナ自由化した方がいい。真面目すぎるからね」



社会主義という壮大な理想が幻想に過ぎないということがわかり、冷戦構造の崩壊が隠されていた民族や宗教の対立を露にしてしまった今、ジョン・レノンの歌うような「国境のない世界」や「ラブ&ピース」など彼らにとっては夢物語にさえ思えないのかもしれない。

ヒッピーは現在の混沌とした世の中では生き永らえることが出来ないのだ。

レイヴの世界、そこには強烈なメッセージ性など存在しない。ただ、凄まじいまでの快楽への追求があるだけだ。

それはまさに現代という時代を象徴するようなムーブメントであるといえるのかもしれない。


詳しい地図で見る


「・南インドとムンバイ」書庫の記事一覧

  • きれいなビーチですね。寒さが苦手…夏が大好きな私です!
    ヒッピーではなくレイヴァー。。。初めて知りました。

    なるほどですね。。。。ヒッピーは世界平和、レイヴァーは
    自分自身の快楽。。なんですね〜☆
    時代は変わっていくのですね!

    つぶゆめ

    2007/12/9(日) 午後 7:16

  • 顔アイコン

    つぶゆめさん、レイヴァーもイベントなどでLOVE&PEACE的なこともやっているみたいですが、何だか基本的にヒッピーとは違うような気がします。今はまず、盛り上がることありき。そんな印象を受けます。

    さるみみの見た世界

    2007/12/9(日) 午後 10:57

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