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アレッポにはキリスト教徒もたくさんいます。

アレッポはイスラム教徒だけの街ではない。ここにはキリスト教徒も大勢暮らしている。

ギリシア・カトリック、ギリシア正教、シリア正教、プロテスタント、アルメニア正教……。

シリアには様々なキリスト教の教派が存在しているというが、アレッポにはアルメニア正教徒が多いそうだ。

この町のキリスト教徒地区はアルメニア人街とも呼ばれているのである。



アルメニアは四世紀初頭、世界で初めてキリスト教を国教と定めた国として知られている。

しかし、アルメニアの歴史は苦難の連続であった。
トルコとイランという大国に挟まれたアルメニアの地。
彼らは常にそれらの国々の支配と干渉に脅かされてきたのである。

1895年と1915年に起こったオスマントルコによるアルメニア人大虐殺。それは彼らの苦難を示して余りある出来事だ。


当時、オスマントルコの領土だったアルメニアだが、彼らにも当然、独立の気概はあった。
そんな彼らがとった行動、それはトルコと敵対関係にあったロシアとの結託だった。

しかし、帝国のスルタンがそんなことを許す筈がなく、彼らは凄まじい迫害を受けていくことになる。

アルメニア人たちは虐殺され国を追われた。そして、中東やヨーロッパに逃れ、故郷を失ったのである。

一説によると殺された犠牲者の数は百万人を下らないといわれている。
近代まれに見る民族浄化の事例のひとつである。

そして、故郷を逃れたアルメニア人の一派はこのシリアの地にもやってきた。
ここ、アレッポのアルメニア人街はそういった亡命者の造った街なのである。

イメージ 1

キリスト教徒地区は、街の北東の一角にある。
日曜日、早起きした私は教会でのミサを見に行くことにした。


アルメニア人街に入ると教会の鐘の音色がところどころから聴こえてきた。
路地の奥に大きな教会があった。人々がぞろぞろと中に入っていくのが見える。
私はその様子をしばらく眺めていたが、そのうち好奇心を抑えきれなくなり、信者でないにもかかわらず中へ入っていってしまった。


中には大勢の信者が祭壇に向けて座っていた。
入り口にいた神父に見学をしたい旨を伝えると、

「見学をしてもいいが写真は撮らないでくれ」

と言い、見学を許可してくれた。


私は一番後ろの椅子に目立たないように腰掛けると、堂内の人々の様子を観察し始めた。

アルメニア人といっても、キリスト教徒といっても他のアラブ人たちと外見的にそんなに差異があるというわけではない。

街ではアラビア語を話し、大勢のイスラム教徒たちと何ら変わらない商売を行っている。

しかし、彼らはコーランではなく聖書を手にし、メッカの方角に跪くのではなく十字を切るのだ。

恐らく家ではアルメニア語を話し、アルメニア風の生活習慣を遵守している者も少なくないのだろう。

イメージ 2
司祭による説教が始まった。 長々とした説教は、何を言っているのか解らない私にとって退屈なことこの上ない。 しかし、周りの人々は当然のことながら真剣に耳を傾け頷いていた。 世界の多くの人々と同じく彼らアルメニア正教徒も敬虔な信者であり、神に深く帰依しているのである。 しばらくすると説教は終わった。 若い神父が香を振り撒き始め、カンカンと小さな鐘が鳴らされる。 そして、そのうち聖歌が始まった。 「ハレルヤ、ハレルヤ……」 人々の唱和する美しい祈りの声。 私はそれを聴きながらイスラムの礼拝、サラートを思い出していた。 前日、アレッポ城を下りた後、私は大モスク(ジャミア・ザカリ―エ)を訪れたのである。 ここは異教徒にも解放されたモスクで、私のような旅行者でも気軽に入ることが出来る場所だった。 モスクではカフィーヤを被った男が祈っていた。 何度も立ったり跪いたりを繰り返すサラート。目を瞑りながらぶつぶつと呟いている。 敬虔な神への祈りだった。 家族が円満に暮らしていけることを願い、ささやかな成功と富を希求する。 そんな願いが叶うように自分を律し、失敗を悔い改め、成功を神に感謝する。 今、眼前で行われている祈りの朗唱。 彼らも、大モスクの男も、宗教は違えど、その希求するものは根本的には同じものだろう。 イスラム、キリスト、ユダヤ、これらの宗教はここ西アジアで生まれた。 ルーツも根本的には同じだ。この三つは兄弟の宗教なのである。 だが、彼らが仲良く共存しているとはいい難い。 隣国イスラエル、そして、パレスチナではイスラム教徒とユダヤ教徒の殺し合いが続いている。 そして、アメリカにより焦土と化したイラクの混乱。 主義や信条の違いによって人々は対立し憎しみを深める。 モスクでのサラートと教会のミサ。それは随分違っているように思える。けれども、神に祈る真摯な姿、希求する願いはどれも同じだ。 「違っているように見えてみんな同じなのに……」 部外者であるからかもしれないが、私にはそんな風に思えて仕方がなかった。 私はキリスト教徒ではないが、中東の平和を希求する一人として周りのみんなと一緒に祈った。 「アーメン」と。



「・発祥の地オリエント」書庫の記事一覧

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    宗教っていったい何のためにあるのでしょうね。。。

    kik*ou*17

    2006/9/30(土) 午後 2:34

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    人間って何か信じているものがないと生きていけないんでしょうね。宗教がない文明はひとつもありません。共産主義もある意味宗教なのかも。日本は仕事が宗教っていう人が多いのかもしれないけど、それがダメになった場合、外国の人のように宗教のバックボーンがないから自分を見失ってしまいそうですね。

    さるみみの見た世界

    2006/9/30(土) 午後 3:25

  • シリアはイスラム教の国だと思ってばかりいましたが、実は多様な宗教が混在しているのですね。日本では昔から八百万神の考え方(信仰)があり、神様はたくさんいるものと考えられているため、日本人はどんな宗教の存在も受け入れられるのかなぁと思います。その代わり深い信仰心は尊重できても理解しがたいですよね。。

    [ mou*a*ue ]

    2006/9/30(土) 午後 8:53

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    ピノコさん、キリストが生まれたのはこの辺りなのでキリスト教の方が歴史は古いです。日本人も無宗教だといいながら、実はなにか神らしきものを信じているのかもしれません。神社とかお寺とか、また、辛いことがあったときも何かに祈ってます。

    さるみみの見た世界

    2006/9/30(土) 午後 9:13

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    三大宗教の発祥地はいずれも西アジアなんですねー兄弟って仲良しか、仲悪いと徹底的かどちらかですもんね。憎しみを煽る外野がいるから尚厄介です。

    [ hig*ma7*p ]

    2006/9/30(土) 午後 10:54

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    ひぐまさん、日本も文化的な兄弟である中国や韓国といつも喧嘩してますね。

    さるみみの見た世界

    2006/9/30(土) 午後 11:59

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    私が個人的に、中東・パレスチナ問題でいつも思うのは、一神教的価値観の限界です。お互いの主張を譲り合うことがないですね。この問題の解決こそ、日本人的なあいまいさ・多神教的価値観による決着の仕方が必要だと思いますね。大和朝廷の成立と前方後円墳はその良い例だと思います。日本に限らず、アジアは、インドのヒンドゥー教にしろ、タイの仏教でも、タイ古来の民間信仰と融和したりしてるそうですし、もともとそういった調和の思想が根本にあるみたいですね。

    [ くあ東 ]

    2006/10/1(日) 午後 1:24

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    くあ東さん、アジア的な曖昧さは最近はあまりいいことのように思われていないけど、世の中黒か白かはっきりできることってそんなに多くないですよね。白と決めたら黒を全部排除するのではなく、グレーゾーンを設けた方がいいような気がします。

    さるみみの見た世界

    2006/10/1(日) 午後 2:21

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    例えばキリスト教のイエスとイスラム教のマホメットとユダヤ教のモーゼが、神に対して主張し合ったら口論になり喧嘩をするのでしょうか?僕は以外にもこの3人は、神に対して一致点をみいだし談笑するのではないかと思います。この3つの宗教がいがみあってるのは、その後の法王とかカリフやラビなどの、庶民に神を説く宗教指導者の責任が大きいんじゃないでしょうか?つい最近もローマ法王ベネディクト16世のイスラム教批判で、世界のイスラム教徒は一勢に反発しました。今の争いはこの積み重ねではないでしょうか

    masao

    2006/10/7(土) 午前 7:41

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    まさおさん、おっしゃる通り、私もそう思います。宗教はたいていどれも、人に愛を与え、他人を許し、自己の欲望を節制する。根本的にはみんな似たようなことを考えていたとは思うんですけどね〜。いつの間にか自分たちの宗教を守るために違った宗教の人を殺したりするようになっていってしまう。根本的なところが反転してしまっていますよね。

    さるみみの見た世界

    2006/10/7(土) 午後 11:26

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    新しいページをアップしたらこちらが推奨されました。
    かなり前に記事ですが、興味深い内容でした。

    ps2**62000

    2012/12/24(月) 午後 5:25

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