宿を出た途端、喧騒の真っ只中に放り込まれました。
朝のダッカ。メインストリートであるノースサウス通りの埃っぽい街路は、地面の色が見えなくなるくらい様々な乗り物で埋め尽くされていた。
鉄板を繋ぎ合わせただけのように見えるボロボロのバス、もくもくと排気ガスを吐き出しているベビータクシー、二頭立ての馬車なども普通にいる。
その中でもとりわけ多いのがサイクルリキシャの姿だ。ひっきりなしにベルを鳴らし続けるリキシャの金属音は、バスやトラックのクラクションを伴奏に、辺りの界隈に渦を巻くように鳴り響いていた。
無秩序な道路には車線はあってないようなものだ。車やリキシャたちは我先へと空いたスペースを見つけ突っ込んでいき、その合間を歩行者が縫うように通り抜けていく。私もリキシャの車輪に足を踏まれないよう細心の注意を払いながら通りをくねくねと歩いた。
途中、幾分車の流れが良くなったところでリキシャをつかまえた。
「ショドル・ガットへ」
そう運ちゃんに伝える。私はブリゴンガ川に面したダッカ最大の港、ショドル・ガットへと向かうことにしたのである。
きつい目をした兄ちゃんとしばらくやりあった後、10TK(27円)ということで話はまとまった。
私はリキシャの座席に飛び乗る。兄ちゃんはそれを確認すると、細い体に力を漲らせてキーコ、キーコとペダルを漕ぎ始めた。
ダッカでの運転は戦争のようだ。混み合った道路にはリキシャとリキシャのぶつかり合うガチャガチャという音が聞こえ、人々がいたるところで罵り合っているのが見える。
強引にリキシャを押しのけようとするバスやベビータクシー。二頭立ての馬の嘶き声が聞こえ、大八車の男たちが巨大な材木を運んでいるのが見える。のろのろと進むそれらの車両には容赦ない罵声が浴びせられていた。
「ガンッ!!」
突然、何かが我がリキシャにぶつかってきた。軽く弾き飛ばされる我々の銀色の車体。私は慌てて手すりに掴まった。
見ると、ぶつかってきたのは大型の市バスだった。のろのろと走るリキシャがうっとおしかったのだろう。
全く強引なバスである。
当然のことながら、ぶつけられた我がリキシャの兄ちゃんは怒った。バスの運転手を睨みつけると大声であらん限りの罵声を浴びせ始めたのだ(私も心の中で彼と同じように罵声を浴びせた)。
しかし、どうやら兄ちゃんは言い過ぎてしまったようだ。何事もやり過ぎはいけない。。。
何を言ったのかはわからないが、兄ちゃんの罵声を聞いたバスの運転手は切れた。
物凄い形相をさせながら運転席から飛び降り、リキシャの兄ちゃんに近づいてくる。
そして、その顔を思いっきり殴りつけたのである!
いいフックだった。。。
兄ちゃんの鼻から鮮血が滴り落ちる。
あまりのことに呆然としてしまった私だったが、実はこの時、密かに兄ちゃんの反撃を期待していた。
しかし、反撃はなかった。
先ほどの勢いはどこへやら。なんと兄ちゃんはバスの運転手に殴り返すどころか罵ることもせず、ポケットからボロ布を取り出して、おとなしく血を拭い始めてしまったのである。。。
戦わずしての兄ちゃんの敗北。
バスの運転手はそれを見て満足したようだ。彼はさっさとバスに飛び乗り、アクセルを思い切り踏み込むと、エンジン音を響かせながらどこかへと去っていってしまった。
呆然とする私。兄ちゃんはバスのゆくえを見ようともしない。私は、自分が殴られたわけでもないのに何だか悔しさが込み上げてきてしまった。
聞いた話では、リキシャの運ちゃんは、バスの運転手などに比べて立場がかなり弱く、こういったトラブルに於いても大人しく引き下がることが多いようである。
それに、リキシャという仕事は、地方からやってきた者が何の元手もなく始められる唯一と言ってもいい商売であるとのこと。恐らく彼らの儲けはかなり少ないのであろう。
そもそも街にこんなにリキシャがいるのだ。客をとるのも大変である。
この兄ちゃんもきっと貧しいであろうことは想像に難くない。
俯いて血を拭う兄ちゃんの姿……。その様子はあまりに哀れに思え、私は声を掛けることもできずにいた。
私にはそれが自分のことであるかのように辛く、暗い気持ちになってしまったのである。
しかし、そんな同情や心配は彼には無用だった。
血を拭い終えると兄ちゃんは再びペダルを漕ぎ始めた。そして、まるで何事もなかったかのように、さっきにも増して大声で、周りのリキシャやバスに罵声を浴びせ始めたのである!!
なんて逞しい!
これぞダッカの道という戦場で戦う戦士だ!
私は感動してしまった。
しばらくして我々はショドル・ガットに着いた。
私は約束の10TKを支払った後、兄ちゃんに「大丈夫か?」と聞いた。
しかし、「余計なお世話だ!」というような目つきで私を睨む兄ちゃん(首を軽く傾げて頷いてはくれたが)。
私は「ハッ!」と気付いた。
ああ、馬鹿な質問をしてしまった。。。
彼にとってはこんなのはいつものこと、殴られたぐらいで気にしていたらこの街では生きていけないのだろう。
「意味のない同情は結構……」
彼の目はそう言っているようだった。
私はそれ以上彼に話し掛けるのは止めにした。そして、まるで何事もなかったかのようにこう言って別れを告げた。
「バ〜イ!」
彼は無表情のまま顎をしゃくってそれに答え、すぐにペダルを踏みながらダッカの道の海の中にあっという間に消えていってしまった。。。
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町並みが絵になるような感じですね〜 映画の世界のようですね〜
2007/1/18(木) 午前 8:53
す、すごい所ですね・・・(・_・;)ところで、さるみみさんは一体何ヶ国語喋れるんですか?(^^)どこの人とも意思の疎通ができそうで、それもすごい!
[ ソフィー ]
2007/1/18(木) 午後 9:40
たかさん、ダッカはどこへ行っても人がたくさんいました。いろんなところで口論している人を見たので、お兄ちゃんもこういうのは慣れっこなんじゃないですかね〜。
2007/1/18(木) 午後 11:16
なんなんさん、ダッカ、ハードな世界ですよね〜。ここで生きていくのは大変そうです。
2007/1/18(木) 午後 11:18
もんの介さん、汚い町並みですけどね〜。
2007/1/18(木) 午後 11:19
ソフィーさん、日本語オンリーですよ。同じ人間ですから伝える意思さえあれば思いは伝わるもんです。
2007/1/18(木) 午後 11:24
すごい場面に遭遇しましたね!私はここでは生きていけそうにないかもしれません;それにしても大きな交通事故は起きないのでしょうか(・д・;
[ mou*a*ue ]
2007/1/19(金) 午前 1:51
人ごみを経験できますがここでは温かみのある人間性もかけてはいないですよね 東京の都心ではさめた空気というのでしょうか? 冷たさを感じてしまいますが 写真はあったかくって人間性が溢れていますよね
[ MIY ]
2007/1/19(金) 午後 2:20
ピノコさん、喧嘩は旅行中、よく見かけましたよ。事故については結構大きなのもあるみたいです。
2007/1/20(土) 午前 9:03
せぴさん、東京とは違いますよね。だけど、あったかいというよりは熱かったですね。
2007/1/20(土) 午前 9:04
ヾ(>▽<) なるほど 熱かった・・・ね^^ 言い換えれば納得できますね♡ 温かい・・・っていうより それの方があってます!!!(= '艸')ムププ
[ MIY ]
2007/1/20(土) 午後 8:12
猿耳さんのリキシャの兄ちゃん、ほんとダイ・ハードな男でしたね。リキシャの運ちゃんはたいがいみんなこうなんでしょうね。睨みつつ「首を軽く傾げてうなずいた」ところと「無言で顎をしゃくって答え」これわかります、かっこよいな。
2007/1/21(日) 午前 2:38
せぴさん、熱かったですね〜。汗だらだらでした!
2007/1/21(日) 午前 11:57
桔梗さん、リキシャの兄ちゃん、格好いいです。彼らはそうしなければ生きてはいけないからなんだろうけど、彼らみたいに強くなりたいな〜。
2007/1/21(日) 午前 11:59
そうですね、生命力に満ち溢れて強くなりたいです。
2007/1/21(日) 午後 1:53
桔梗さん、お互いに強く生きていきたいですね。
2007/1/21(日) 午後 6:10
いや〜凄い*ドラマのような経験ですね。それにしてもバスの運転手の態度には読んでいても腹が立ちます。階級のようなものを感じて非常に不愉快ですね。
2007/2/4(日) 午前 1:14
まさおさん、この一件、本当にびっくりしましたが、びっくりしている余裕もないほど路上は大騒ぎでした。運転手には私も腹が立ちました。
2007/2/4(日) 午前 9:18
2度目のバングラホームステイに1ヶ月行ってきました。3日前に帰国したところです。写真を見て懐かしい〜と叫んでしまいました。ほんと交通渋滞もすごいし、病院とかで貧富の差を歴然と見せられるところもすごい。家族や親戚の人間関係も愛情が深い分嫉妬もすごい。物乞いの数もすごい。電話の回数もすごい。カロリーの摂取量も食事の量もすごい。濃厚ヒンディームービーを見て育った子どもたちの大人っぽさもすごい。ゲストは喋って食べてリラックスするのが仕事で、一人では行動させてもらえなくて5時間とかかかる場所でも誰かがついてきてくれるのもすごい。なんか、すごい尽くしのバングラデシュ。便利とも言えないし綺麗とも言いがたいけど、惹かれる国です。
[ baz**papak*me ]
2008/6/17(火) 午後 7:17
baz**papak*meさん、ご訪問ありがとうございました。
バングラホームステイ1ヵ月とは貴重な体験されましたね〜。
実際に現地の人と共に暮らすといろんなことが見えてきそうですね。
私にとってはバングラは人々の親切さが特に印象に残っています。
いい印象の国です。
2008/6/17(火) 午後 9:47