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書庫・東側をゆく【中東欧】

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もうもうと立ち込める真っ白な靄。
蒸し暑い室内に燻された私の体からは滝のように汗が流れ落ちている。

頭上を覆い尽くす巨大な丸天井の下には、満々と熱い湯を湛えた八角形の浴槽がある。
そして、その中には、白いふんどしをつけた髭もじゃの男たちがゆったりと浸かっている。



ここはハンガリーの首都ブダペスト、その街中にある公共浴場のひとつ「ルダシュ温泉」です。


(上はゲッレールト温泉。ルダシュ温泉の写真がないため。)
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ブダペストは温泉の町です。

話によるとこの町には100を越す源泉と50近くの浴場があるそうです。
冬の朝、街は温泉の蒸気により、真っ白な靄に包まれるのだといいます。

この街の日常には温泉があります。温泉はブダペストの文化のひとつなのです。



ゆらゆらと揺らぐ湯煙をぼんやりと眺めていると、ふと、私の脳裏に遥か東方の「ある町」が追憶されてきました。

美しいその町。このブダペストに勝るとも劣らないほど美しい、ユーラシアという首飾りの要に嵌め込まれた宝石のようなその町……。

そして、その街中にはこのブダペストと同じように、もくもくと湯気を出す丸いドームがちらほらとありました。

そのドームの中は蒸し暑く、天井からはポタポタと水滴が落ちてきたものです。
そして、八角形の浴槽ならぬ、八角形の台座には、たくさんの髭もじゃの男たちが屯していて、そのうちの一人にゴシゴシと体を擦られたことを私は覚えています。

そう、彼は垢すり師。そして、それは「ハンマーム」です。
トルコの都、イスタンブール。そこにあるトルコ風呂「ハンマーム」を私は思い出したのです。


(写真はブダペストとドナウ川です)
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ヨーロッパ大陸を東へ東へと移動していくと、次第にある紋様の姿が浮かび上がってくるのに気付かされます。

幾何学的で抽象的な、精密な工芸品のようなその紋様。
「イスラム」という紋様です。


16世紀のヨーロッパには切実なる脅威がありました。
言うまでもありません。オスマントルコの存在です。

東方の異教であったイスラムの大帝国「オスマントルコ」の存在は、ヨーロッパ人にとって悪夢以外の何物でもなかったに違いありません。

そのオスマントルコの支配の西限。それがここハンガリーなのです。



ハンガリーがオスマン帝国の支配下に入ったのは1526年のことです。
破竹の勢いで進軍するオスマントルコは、ブルガリアやトランシルバニアを征服し、ついには中欧最後の強国であるハンガリーを打ち破ることになります。

オスマントルコによる支配は、その後、約150年もの間続いたのだそうです。
それは地元のキリスト教徒にとっては、長く辛い時代であったことは言うまでもありません。
この町は当時、イスラムの色に塗り替えられていたのです。


そういうわけで、ここブダペストにはイスラムの、東方の影響が色濃く残っておりました。
私がルダシュ温泉にトルコのハンマームを感じたように、この街では東方的な風情をそこかしこに感じることが出来るのです。


(写真はイスタンブールのエミノニュ地区です)
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オスマントルコの脅威。その端緒ともいえるのが、1453年のコンスタンティノープル征服でしょう。
コンスタンティノープルはビザンツ帝国(東ローマ帝国)の首都でありました。

その当時、既に没落していたとはいえ、コンスタンティノープルは、あの永遠の帝国「ローマ」の首都であった町なのです。


オスマントルコのスルタン、メフメット二世は強力な軍隊を用いてこの町を攻略しました。
そして、この町の陥落により、風前の灯だったビザンツ帝国は名実共に滅亡したのです。

当時、西のローマと並び、東のコンスタンティノープルはキリスト教世界の両翼のひとつでありました。
それがこのオスマントルコ、「イスラム」によって滅ぼされたのです。

キリスト教徒にとって、その衝撃は計り知れないものであったに違いありません。
そして、以後、コンスタンティノープルはイスタンブールへと改称され、現在に至るまで決してキリスト教世界に戻ることはありませんでした。



(写真はイスタンブールの象徴、ブルーモスクです)
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歴史は栄枯盛衰の繰り返しです。
「おごれる者も久しからず」とはよく言ったもの。

オスマントルコが地中海貿易を独占している間、ヨーロッパは西へ、新世界へと苦難の冒険を試みていました。オスマンの脅威のない新たな交易路を開拓するためです。

その後、ヨーロッパ世界は、アメリカを「発見」します。
そして、そこから得た莫大な富によって、後の産業革命の礎を築くこととなるのです。

おごれるオスマンは、現代の「欧米主導の世界」を許してしまったといえるでしょう。






私はルダシュ温泉にまったりと浸かりながら、そんな、ヨーロッパとオスマントルコの攻防について、思いを巡らせていました。

その渦中となった場で「歴史」を想像するのは楽しいもの。
心地よい湯船の中で、私はとてもいい気分でした。


しかし、そのときの私は知りませんでした。
その直後、オスマントルコに勝るとも劣らない、ある「脅威」に遭遇するのだということを……。


(写真は金角湾の夕景です)


「・東側をゆく【中東欧】」書庫の記事一覧

  • 顔アイコン

    どんな脅威だろう!
    ハマム、久々に行きたいです。

    [ 高橋美香 ]

    2007/12/1(土) 午後 11:16

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    メストさん、ハマムっていい雰囲気ですよね。あのドームがいい。
    日本にもああいう浴場できないかな〜。

    さるみみの見た世界

    2007/12/1(土) 午後 11:43

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    あっ、トルコの写真だ!!
    私もトルコは、タキシムとかベジクタシュとか、散歩していた頃が懐かしいなぁ・・・。

    「驕れる日本は・・・。」
    ふと、そんな事を考えてしまいました。

    [ hajmo_rakija ]

    2007/12/2(日) 午前 0:06

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    ラキアさん、「驕れる日本は…」。ほんとそんなこと考えますね。
    この前、テレビでレアメタル戦争のことを見ましたが、中国はほぼ世界を手中にしつつありますね。孔子学院プロジェクトなんかもすごい国家戦略を感じます。アメリカもWEBで世界構築していて英語圏でない日本は取り残されつつあるし、いくら技術がすごいといっても、日本、何だか不安です。

    さるみみの見た世界

    2007/12/2(日) 午前 0:31

  • ハンガリーには温泉があるのですね。行ってみたいなあ。

    bes*a*sa*i

    2007/12/2(日) 午前 0:46

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    ブダペスト、いいですよねぇ〜... ワタシはついに温泉に入れず終いで残念でしたけれど...
    オーストリア・ハンガリー帝国とオスマン朝の攻防は今でも双方の歴史精神の中に生きていますよね。 オーストリアはトルコのEU加盟を決して認めたくないし...
    トルコはアイヤソフィアをキリスト教界へ返還提案してまでもEU加入したいし... 温泉に浸かりながら考えてみたい話題ですねぇ〜...^^;

    PINK

    2007/12/2(日) 午後 4:15

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    べっささん、温泉があるんですよ〜。
    私は2箇所しか行きませんでしたが、たくさんあるようですよ。

    さるみみの見た世界

    2007/12/2(日) 午後 8:08

  • 顔アイコン

    PINKさん、トルコのEU加盟、いつ実現するんでしょうね。
    トルコは、「ヨーロッパ」じゃないですよねえ。アジアです。経済的にはヨーロッパなのかな?
    アヤソフィア返還ですか。トルコも必死なんですね。

    さるみみの見た世界

    2007/12/2(日) 午後 8:11

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    レアメタル。精密機械を小型化する時に用途が色々あります。身近な所だと携帯とかデジカメに使われています。中国でも消費が急拡大しているし、特に携帯は貧乏人でも持っている全世界のメガヒット商品だから、資源戦争の一因になっています。そんなものまでマネーの餌食にされないように本来は日本が外交で囲っておかないといけないのですが、日本の外務省は留学生に毛が生えた、集りの仲良しクラブですから・・・。日本の中で一番ダメな省庁ですね。

    日本は一方的に中国を敵視し過ぎるけど、もっと仲良くすれば、それなりに仲良く出来る素地は沢山あるのですけどね・・・。

    [ hajmo_rakija ]

    2007/12/2(日) 午後 9:11

  • 日本以外にも温泉が文化になってる国があるのですね〜〜
    ハンガリーの温泉も裸で入るのですか??

    [ モチコ ]

    2007/12/2(日) 午後 9:17

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    ラキアさん、確かに中国は脅威ですが、敵視しても何のメリットもないですよね。21世紀は確実に中国の時代になるのですから、今のうちからよい関係を構築しておかないといけないのに。

    さるみみの見た世界

    2007/12/2(日) 午後 9:42

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    ピノコさん、他にも温泉を楽しむ人々は結構いますよ。
    フィンランドとか有名ですよね。

    裸では入りません。ふんどしや水着着用です。

    さるみみの見た世界

    2007/12/2(日) 午後 9:44

  • よく思うのが、あの時、オスマン帝国にそこまでの軍事力がなかったら・・・と思うことがあります( ̄~ ̄;)もし、ビザンティンのままだったら、トルコは今キリスト教だったのかなァ・・・そしたら、こんなに「豚肉」で困ることはなかったのに・・・と(〃´o`)=3 フゥ

    Oyak

    2007/12/2(日) 午後 9:58

  • 顔アイコン

    OYAKさん、歴史は流れに流れていますからねぇ。イスラムになったのは必然だと思いますよ。そして、OYAKさんがぶたまんを食べられなくて困るということも。。。

    さるみみの見た世界

    2007/12/2(日) 午後 10:02

  • 私、ブダペストに行ったとき、時間がなくて結局温泉にはいけなかったんです・・・。残念。写真すてきですね〜。気持ちよさそう・・・。
    トルコではハマムに行きましたけど、男女混浴でした!!

    HIROE

    2007/12/3(月) 午後 0:46

  • 顔アイコン

    ひろえさん、男女混浴のハマム!
    お姉ちゃんはいましたか?

    さるみみの見た世界

    2007/12/3(月) 午後 11:55

  • おねえちゃんって???
    ふつうの旅行者の白人の女性は結構いましたよ〜。下だけはちゃんと隠してましたけど、それだけ。
    欧米の人って、結構平気なんですよね〜。男性もいるし、あかすりの人もトルコ人のおっちゃんだったのに〜。
    私はビキニでしたが、日本人(東洋人)の男性旅行者が入ってこないことを祈ってました(^^;;;

    HIROE

    2007/12/4(火) 午後 1:07

  • 顔アイコン

    おばさんでも子供でもない女性のことです。
    欧米の女性って裸にあまり抵抗感ないんですかねぇ。日本人が同じようなことしたらかなりびっくりなんですよね。どうしてなのか不思議です。

    さるみみの見た世界

    2007/12/4(火) 午後 11:44

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