ここから本文です
ブログ始めました!

書庫過去の投稿日別表示

全1ページ

[1]

「フレデリック・フォーサイス」ト言えば、ご記憶の向きもあろう。

1971年、「ジャッカルの日」で彗星の如く登場、以後ほぼ毎年、国際スリラーとでも称すべき作品を連発、その全てが、日本も含む各国で翻訳され、映画化され、何冊売れたか定かでないが、超ベストセラー作家の地位を築いた。本書、「アウトサイダー、陰謀の中の人生」(日本語訳書の題名)は、彼が、40年にも及ぶ作家人生を語って、2015年、イギリスで出版された本の紹介である。

彼は、イギリスの地方都市に生まれ、一人っ子として、両親の愛を独占して育った。第二次大戦中は、父が招集され、ドイツ空軍のロンドン空爆に怯えながらの日々だった。彼には小説家になる気は皆無だった。少年時代、ドイツ空軍を迎え撃った英国戦闘機のパイロットに憧れ、実際にパイロットの免許を取得している。だが、その頃、もう大戦は終わり、戦闘機乗りの夢は断たれた。次の夢は、世界中を旅するジャーナリストになることだった。記事を書くことではなく、世界中を旅することへの憧れである。この夢を果たすべく、両親の理解と援助の下、彼は、日本の中学・高校の頃、毎年夏休み、フランス、ドイツの両国にホームステイして、これら諸国の言語を、それらの国民として通用するレベルまでマスターし、その延長線上、スペイン語、ロシア語も、旅行するには差し支えないレベルまで習得している。日本や韓国でも、英語習得のための海外ホームステイが流行しているが、一度きり、ごく短期間のそれでは、英語圏の人々と同じレベルまで習得することは不可能だ。この語学力が、ジャーナリストとして広く海外各地で取材する上で、大きな資産になったのは間違いない。彼は、大学を修了することなく就職したため、一流新聞では採用されず、フリーランサーとして働かざるを得なかった。そんな彼のところに舞い込む仕事は、当時、アフリカ・中近東で繰り返されている内戦取材だった。危険が伴うため、新聞社は自社の社員を派遣したくなかったからである。彼は、こんな仕事を好んで引き受け、しかも、他のジャーナリストが避けたがる、最前線まで行って、現地人達に接触して取材した。こんな記事は確かに一部の読者には歓迎されたが、新聞社トップの好むところではなかった。この問題がはっきり顕在化したのは、ナイジェリア内乱である。彼は、最前線まで赴いて、政府軍の横暴、その犠牲になっている反乱軍及び現地人、特に子供達、の悲劇を生々しく報じた。だが、これはイギリスの国策に、そしてそれに従う新聞社トップの意向に反することだった。イギリス政府は政府軍に武器、資金を大量援助し、それに刃向かう反乱軍を悪として、その犠牲など知りたくなかったのである。彼は一種の危険人物とされ、取材要請も来なくなった。これで、ジャーナリストの限界を知った彼だが、無一文の身に借金が増える一方。窮余の一策として書いたのが「ジャッカルの日」だった。これは、当時のフランス大統領ドゴールを暗殺すべく、イギリスの殺し屋が、一人準備を進め、成功一歩手前まで行って失敗する話である。欧州各地の風物、風景、人物が、本当に生けるが如く活写されているのが、この作品の魅力なのだが、これは、彼が、言語力を駆使して各地を廻った体験に基づいているからである。

続く二作、「オデッサ・ファイル」、「戦争の犬達」も大ヒットで、彼は巨億の富に恵まれ、もう小説なんぞ書かずに、世界漫遊をしよう、と思うのだが、その富の半分は離婚した妻に取られ、後半分は金融詐欺で取られて、元の無一文となり、やむなく、この三作に続く多くの傑作を残して、我々を楽しませてくれるのである。

彼が登場した1971年の丁度10年前の1961年、司馬遼太郎の第一作、「梟の城」が出ている。これは、伊賀の忍者が太閤秀吉を暗殺すべく活動する話だが、ここでも、従来の忍者物にはない入念な考証が魅力になっており、これも、司馬が、ジャーナリスト出身だからである。フォーサイスの語学力も日本語までは及んでいないようだから、彼が司馬を真似たことはありえない。だから、偶然の一致に違いないが、興味深い偶然である。彼の諸作が、読んで面白い小説としては最高のものだが、それに尽きるのに対し、「梟の城」からスタートした司馬は、「龍馬がいく」「坂の上の雲」等、

面白いだけでなく、国や自分の行き方を考えさせる要素にまで及んでいる。だから、司馬の方が上、と断ずるのは、偏見に過ぎるだろうか?約40年間働き、退職してもう20年。司馬の諸作を再読し終えたところだが、今度は「ジャッカルの日」を読んでみよう。私の蔵書には、イギリス・ポンドの料金票が付いている。出張したイギリスで買い、帰途航空便で読み耽った記憶がある。

この記事に

全1ページ

[1]

本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事