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若い駿馬を人間のために用いるには、まず彼の野生状態の心を、様々な方法によって調御しなければならない。
 
その為の具体的な調馬法の技術である「ハミ」と「手綱」が、比丘の心を調御する具体的な瞑想法のテクニックと、リアルに重ね合わされていた。
 
これが前回までのあらすじでした。
 
今回は最初に、前回冒頭を引用した『若い駿馬の譬え』以下の全文を引用して、より突っ込んだ検討を試みましょう。
 
以下、春秋社刊:原始仏典 第5巻 中部経典2 第65経:バッダーリ経 P340〜より引用。
 
『若い駿馬の譬え』

「バッダーリよ、例えば巧みな調教師は聡明な駿馬を手に入れたら、まず最初にはみを装着させる。はみを装着させる時には、いまだかつて装着された事のないものがそうであるように、混乱し、跳ねまわり、暴れまわる。しかし彼は繰り返して、徐々にその状態を仕上げる。
バッダーリよ、聡明な駿馬が繰り返されて、徐々にその状態が仕上がったなら、調教師は更に彼に手綱を装着させる。手綱を装着させる時には、いまだかつて装着された事のないものがそうであるように、混乱し、跳ね回り、暴れ回る。しかし彼は繰り返して、徐々にその状態を仕上げる。
バッダーリよ、聡明な馬が、繰り返されて、徐々にその状態が仕上がったなら、調教師は歩調ついて、円形馬場調練について、並足について、疾駆について、突進について、王の徳について、馬の王の血統について、最高の速さについて、最高の敏捷さについて、最高の従順さについて最高の訓練を行う。
彼が最高の速さについて、最高の敏捷さについて、最高の従順さについて訓練を受けている時、いまだかつて訓練された事のないものがそうであるように、混乱し、跳ね回り、暴れ回る。しかし彼は繰り返して、徐々にその状態を仕上げる。
バッダーリよ、聡明な馬が、繰り返されて、徐々にその状態が仕上がったなら、調教師はかれにさらに彩色と飾りの環を着ける。
バッダーリよ、このように十の要素をそなえて、聡明な駿馬は王の騎乗に適し、王の餌を食べ、王の足という呼び名を得る。
 
『修学を完成した人の十種の徳』(一部繰り返しを省略)
 
「バッダーリよ、これと同じように十の事柄をそなえた比丘は食を供され招待され布施を与えられ礼拝されるにふさわしく、世間における無上の福田である。
バッダーリよ、十とはどれらか。バッダーリよ、ここに比丘は修学を完成した人(無学)の正しい見解、正しい思考、正しい言葉、正しい仕事、正しい生活、正しい努力、正しい注意力、正しい心の統一、正しい智慧をそなえ、正しい解脱をそなえている。
バッダーリよ、これら十の事柄をそなえた比丘は、食を供され、招待され、布施を与えられ、礼拝されるに相応しく、世間における無上の福田である。
世尊はこのように説いた。尊者バッダーリは歓喜し、世尊の教説を信受した。」
 
〜以上引用終わり。

私はすでに以前から、動物の調御のプロセスと、出家修行者の心の調御のプロセスが、具体的かつ実体的に、切実なまでに重ね合わされていた、と言う仮説を提示してきました。
 
このバッダーリ経に納められた一節は、正にこの仮説を体現するような内容を示しています。
 
後半の『修学を完成した人の十種の徳』における正しい見解、正しい思考、正しい言葉、正しい仕事、正しい生活、正しい努力、正しい注意力(サティ)、正しい心の統一(サマタ/サマディ)、正しい智慧(パンニャ)、正しい解脱(モクシャ/ニッバーナ)、というのは、いわゆる八正道の別バージョンであり、これらをすべて完成した人こそが、ブッダであり、それは同時に彼の弟子たちが目指すべき境地でもありました。
 
仏道修行者がその修道を完成させていくプロセスが、若い駿馬を調教して段階的に「仕上げて」いくプロセスと重ね合わされていた事は、この経典を読めば明らかな事です。
 
しかも、この若い駿馬を調教するプロセスにおいて、その具体的な方法論・調御法のキーワードとして、「ハミ」と「手綱」という専門用語がわざわざ登場する。
 
この事実には、単なる譬え話を超えた、深い意味が存在する。そう私は考えています。
 
それはもちろん、馬が何故人間に調御され得るのか、あるいはどのような作用機序に基づいて、人間は馬を調御するのか、と言うその方法論が、出家したばかりで世間の尻尾を未だぶら下げた未熟な比丘を、如何にして「礼拝されるに相応しい完成された比丘」へと調御していくのか、その瞑想修行の具体的なメソッドと、切実なまでに重ね合わされていた、と言う視点です。
 
そこで今回は、またYoutubeさんのお世話になって、若い駿馬が調御されるプロセスを実地に学んでみましょう。
 
最初は、大変貴重な映像なのですが、本物の野生馬を、ゼロから調教して人間に慣れさせようという試みを撮影したものです。
 
 
これはおそらく、それほどプロフェッショナルではない人が試みたものでかなりたどたどしいのですが、逆に本物の野生馬がいかに人間に対して反抗するか、と言うその姿が、リアルに活写されています。
 
ブッダが『若い駿馬の譬え』を語った時に、実際にイメージしていたのが果たして野生馬の調教なのか、あるいは牧場で人の手で育てられた若馬の調教なのかは定かではありませんが、基本的な馬のネイチャーは同じでしょう。
 
このトカラ馬が抵抗して暴れ回る姿は、正に「いまだかつて訓練された事のないものがそうであるように、混乱し、跳ね回り、暴れ回る。」という馬の本性を具現しています。
 
このトカラ馬は、ハミや手綱を装着される以前の段階で、ただ単に首に縄を巻かれた状態にありますが、その暴れ方を具体的に見れば、まず首を上下左右に振って、縄から自由になろうとする、そして前足で逆立って後ろ足で人を蹴ろうとする、と言うのが顕著な所でしょうか。
 
映像の調教師を見ると、彼は自分からそっぽを向いて逃げようとする馬の顔を、なんとか彼の方に顔を向けて落ち着かせ、そして首から上を撫でて、慰撫しようとします。
 
そう、人に慣れていない野生馬を調教する為に最初にやるべき事は、彼の身体、中でもその『顔』に触れて、「慰撫」する事なのです。
 
私たち哺乳動物にとって、他者が自分の身体に触れる事を許す、と言うのは、受容と拒絶の境界線を意味しています。
 
雌馬が雄馬に交尾を許す。母親が胎内の仔馬の存在を受け入れる。母馬が生まれたての仔馬を舐める。仔馬が母馬に舐められる事を感受する。群れの仲間同士が、お互いにスキンシップをし合い、仲間である事を確認する。
 
これら身体の表面にお互いに触れ合う事によって、お互いを許し合い確認し合い精神的な紐帯が築かれていく。このメカニズムは、基本的にあらゆる哺乳動物に共通するものであり、人間もまた例外ではありません。
 
人に慣れていない野生馬は、まず赤の他人である調教師が、自分の身体に触れる事そのものを拒絶します。
 
そこを無理やりにでも縄で首を引っ張って、なだめなだめ少しずつ少しずつその身体にタッチしていく事によって、その触覚を受け入れさせる事によって、逆に心が開いていく。
 
このメカニズムの妙が分かるでしょうか?
 
この野生馬は、完全に人間を拒絶しています。しかし無理やりにでもいいから、繰り返し繰り返しその身体に触れる事を繰り返し、その触覚刺激を受け入れさせる事によって、馬の中である化学変化が起きるのです。
 
それを馬の視点に立って言えば、
 
彼(調教師)は私(馬)の身体に触れている。どうにも否定しえない現実として触れているのは間違いない。しかし私(馬)は、親しい仲間や身内にしかこの身体に触れる事を許さないはずだ。今彼(調教師)が私の体に触れているという事は、実は彼は私の仲間ではないのか?
 
と言う事です。あるいは、分かりやすく逆に言えば、
 
彼は優しく私の体に触れようとしている。私たち馬の生活では、このように他馬に優しくふれあい撫で合う行為は、仲間内でしか行われない。と言う事は、彼(調教師)は、私の仲間ではないのか?
 
と言う事です。
 
接触を受け入れる事は、心を開いている証拠である。逆に無理やりにでも接触を繰り返す事によって、かたくなな馬の心は、ある意味『騙されて」心を開いてしまう。
 
このようなメカニズムの背後には、心理的というよりもむしろ、神経生理的な作用機序も存在しているのですが、詳細は後述します。
 
この身体接触によって馬の心を慰撫し、開かせるというテクニックは、次の動画により一層強調されて表れています。
 
 
 
Colt(コルト)と言うのは仔馬、もしくは4歳以下の雄馬を指すようですが、拳銃の名前にもなっている様に、アメリカ社会では非常にポピュラーなネーミングです。
 
登場する馬は、どちらもおそらく牧場で育てられた若馬でしょう。先のトカラ馬よりも遥かに人間に慣れていますが、いまだ騎乗を許す程ではなく、最後のビデオでは最終的に騎乗段階まで持っていきます。
 
かなり長い動画なので、まぁ、暇のある方は全編通して見てみて欲しいのですが、ここでも、馬を「慰撫」し人間に心を開かせる最初の要になっているのが、あらゆる形で身体接触を繰り返し、それを受け入れさせる、と言う事です。
 
身体全体の身体接触から、首から上の感覚器官が集中する顔周りの接触へと焦点を絞り、さらに進めて最終的には頭絡とハミを装着させて、ハミを付けた口腔と口角部分にポイントの焦点を絞っていくという大まかな流れが見て取れます。
 
ハミを咬ませた口周りは最大の焦点ではありますが、手綱を含めて全ての装置は頭絡に結びついています。その頭絡の革帯が締められた頭部顔面全体において、騎手の手綱さばきの機微は接触刺激をもたらす事でしょう。
 
更に、騎乗を実現した後では、背中の重みを受け入れる事と、騎手の両足によって馬腹を蹴る、と言う触覚刺激が重要な意味を持ってきます。
 
出家する前のシッダールタは、クシャトリアの王子として日常的に乗馬に親しみ、これらビデオに活写されている様な場面に実際に立会い、あるいは自らが調教師となって馬を馴らした事もあったかも知れません。
 
原始仏教で実際にブッダの弟子になった出家比丘は、実はそのほとんどがバラモンとクシャトリアであった事が知られています。
 
彼らはいわば社会の上流階級ですから、たとえ武士ではなくとも日常的に乗馬をたしなんでいた比率は高かったでしょう。また、馬にひかせたラタ車においても、ハミと手綱を使った基本的な馬の調御法は乗馬と同じなので、多くの人々にとって馬の調御が身近な日常の風景だった事は間違いありません。
 
なので、この『若い駿馬の譬え』は、極めてリアルな心象風景の共有を元にして語られた事が、理解されるのです。
 
ここでひとつ疑問に思う点は、果たして、この経典を受持した当初のスリランカ古代社会において、このような乗馬に関する心象風景は共有されていたのか、と言う事です。
 
馬を飼い、調教して使役すると言う文化が、パーリ仏教と並行してスリランカの社会においても共有されていたのでしょうか。
 
スリランカの社会において、仏教と並行して、すなわち紀元前後からイギリス植民地化以前のスパンで見た時、乗馬や馬車の文化がブッダの時代の古代北インドにおけるそれと同じようなレベルで非常にポピュラーだった、と言う事実があったのでしょうか。
 
象や牛の調御に関しては、スリランカにおいても日常的に行われていたでしょう。しかし、馬の調御と言うものはスリランカではほとんど重要ではなく、身近な存在ではなかったのではないか。
 
このあたりは、スマナサーラ長老に是非、聞いてみたい所ではあります。
 
馬と言う生き物は、象や牛と並んで、あらゆるインド思想において独自の地位を占めています。
 
アショカ王石柱の柱頭にこの三種の動物が刻まれている事はすでに指摘しましたが、馬に関しては、例えば大乗的には馬頭観音と言うものがあります。ヒンドゥ的には、ヴィシュヌ神のアバターのひとつに「ハヤグリーヴァ(Hayagriva)」という馬の顔をした神格がいます。
 
更にアシュヴァ・メーダ(馬祀祭)で知られる馬の犠牲祭がありますし、何よりもスリヤやインドラをはじめとした神々が乗るラタ車を引く神馬の存在が際立っています。
 
その起源はもちろん、アーリア・ヴェーダの民が、同時に馬に引かせたラタ戦車の民であった事に由来するのですが、煩雑になるのでここでは割愛します。
 
それはさておき、私たちは今、若い駿馬を調御して、王の足と呼ぶべき優れた騎乗馬へと育てていくプロセスとその『作用機序』について、少しずつではありますが、リアルに理解しつつあります。
 
その調馬の作用機序が、実は初心の弟子を、礼拝されるに相応しい比丘へと育てていくそのプロセスと、有機的に密接な関連性を持っていた、と言うのが私の仮説なのですが、その点からも、この馬と言う動物は極めて重要な意味を持っています。
 
それは、馬と言う生き物が、その調御に際して、頭絡とハミと言う明らかに眼に見える装置を、その顔周りに付けているという圧倒的に明白な事実です。
 
これは、ある意味、幼児の眼から見ても明白な事実でしょう。
 
そしてこの明白な事実を、ブッダの法話に耳を澄ませている比丘たちは、皆、リアルにイメージしてその心象風景を共有できていた。
 
ここでキーワードになるのが、頭絡が締め付けられる「顔の周り」であり、ハミと手綱が働きかける口の周りです。
 
顔の周りについては、ブッダの呼吸瞑想、すなわち『アナパナ・サティ』に関するパーリ経典の「顔の周りに思念を留めて、呼吸に気付く」と言う言葉が深く関連してきます。
 
そして「口の周り」については、パオ森林僧院で行われている、ヴィシュディ・マッガに根拠を持つと言われる四界分別観の瞑想が深く関連してきます。
 
そして、これらは、その作用機序において、仏の32相とも密接に重なり合っている事が、次第に明らかになって来るのです。
 
次回に続く。
 
 
この記事は、ブロガー版脳と心とブッダの悟りと連動しています。 
また、チャクラの国のエクササイズにおける探求から接続しています。
 
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