|
いまの世界不況がグローバリゼーションの下での同時不況であるとしても、各国の不況の様相にはそれぞれ独自の色合いがあるのは当然だ。例えばアメリカの場合は、景気上昇期における住宅バブル及びサブプライムローンを基礎にした信用バブルが崩壊したこと、それが今回の不況をとくに深刻なものにしている。
他方で日本の場合には、世界不況の進行に円高が平行したことが輸出に打撃を与え、かつ為替差損の発生で輸出依存度の高い企業などに大打撃を与えたことが不況を深刻化している。この点は、1929年の世界恐慌の発生とほぼ同時に金本位制へ復帰(実施は30年1月)し、恐慌の中で為替相場が平行して上昇した昭和恐慌の場合とよく似ている。
ただし今回の場合は、2005年1月の1ドル=102円前後から07年6月の123円台に至る間の異常な円安があり、それがいわば当然に崩れたという因果関係を見落とすべきではない。
以上の時期の円安をもたらした最大の要因は、「デフレーションの克服」を旗印にした日本銀行の超金融緩和政策、すなわち01年に導入されたゼロ金利と量的緩和政策の推進である。野口悠紀雄はこの金融緩和政策を、「デフレに対処するためと表向きは説明されたが、真の目的は、為替介入による貨幣供給量の増加を放置することだった」と述べている(「世界経済危機ー日本の罪と罰−」ダイヤモンド社)。すなわち、意図的な円安誘導である。
このような円安と超低金利による内外金利差の拡大が、日本の輸出ブームをもたらすとともに、日本で調達された資金による国際金融市場での投機(いわゆる円キャリー取引)を促進した。野口によれば「円キャリーによって流入した資金が、回りまわってサブプライム・ローン関連商品に回った可能性は十分ある」(同上)。
日本の主要企業と金融機関は、こうした輸出ブームと為替差益(プラス金利差益)さらに投機益によって大きな利益を得た。企業だけではない。少なからざる普通の個人も、外国債や外国株・外国投資信託への投資それに外貨預金などによって「いい夢」を見た。
この意図的な円安が、サブプライム・ローンの破綻の表面化などを機に07年半ば以降に反転したことは、いわば当然の是正運動であった。
では、なぜ21世紀00年代における円安が異常で、そして07年以降の円高が当然の反転運動なのか。それは20世紀70年代以降に進行している傾向的なドル相場の低落に照らせば明らかとなるであろう。
アメリカは20世紀の後半に至り、恒常的な経常収支の赤字国となった。しかもそうした赤字が年々増大したために、アメリカは1971年に、金1オンス=35ドルでの対外金交換制に象徴されたような、ドルの国際的基軸通貨としての地位を放棄したのである(いわゆるニクソンショック)。
日本の1ドル=360円の固定為替相場が崩れたのはこのときである。そして73年に世界的に為替相場制度は変動相場制に移行した。
それ以後の過程で、一進一退はあったが、ドル相場は傾向的に低落してきた。しかも、この間にアメリカの経常収支赤字は異常なほどに増大しているのだ。なによりも、1971年当時までの1ドル=360円と最近の1ドル=90円前後とを比較すれば、その長期的な低落ぶりは一目瞭然であろう。
なお、第1次石油危機以後における石油価格の高騰の一つの原因は、原油価格がドル建てであるための産油国の対応策だと産油国側は主張している。要するに、07年に始まった世界不況の特徴の一つは、それがドル低落傾向のあらためての表面化の下で起きたという点にある。このことの影響をとくに大きく受けているのが日本である。
もちろん、為替相場は浮動的であり、傾向的なドル相場の下落の中でも、時にその反騰期が到来することも当然である。しかし、ドル相場の長期傾向を認識していれば、企業はドル高・円安の時期には例えば円安差益金を留保するとか、輸出契約を円建てに切り替えていくとかの対応策を講ずべきであろう。
日本の大部分の企業経営者にはそのような用心深さが欠けていたし、一般的には国際認識・感覚が欠けていたといわれてもやむを得ないだろう。
しかも、円安バブルが崩壊した現在においても、日本では、いまの世界不況、中でも日本の不況がそうした傾向的なドル弱化と結びついていることがほとんど理解されていないようだ。そして、多くの経営者が円高の進行を意外、想定外のことと受け取ってきた。
またマスコミ上では、今ごろ「アメリカ一極時代が終わった」といった、ほとんど時代遅れの言葉が飛びかっている。そうしたことは、とくに経済的には、20世紀後半、遅くともその70年代から始まっていたのである。ただ、そうした傾向が、80年代末におけるソ連体制の崩壊以後、アメリカ一国の軍事的優越が出現したために覆い隠されただけのことである。
付け加えておくと、アメリカでも、オバマ新大統領およびその政権担当者たちがこのようなドル弱化の問題を正当に認識しているかどうかは疑問である。 (この項、終り)
|
こんにちは これからはお気に入りに追加して毎日拝読し、35年ぶりに勉強再開です。なかなか難しくて歯が立たないかもしれませんが、今は若い頃と違って時間はいっぱいありますからね。がんばります。まずはブログ開設おめでとうございます。お元気そうで久しぶりに笑みがこぼれました。
2009/2/9(月) 午後 4:37 [ コキリ ]
先生の記事を大変楽しみにしています。
とてもうれしいです。
2009/2/9(月) 午後 9:01 [ Greenstar ]
ブログ開設、なかなか元気ですね。すずめ百までというところですか。いい加減な経済論議の横行する中で正論に期待します。しかし老人にとっては文章が長すぎます。用語も難解ですんなり頭に入りません。もっと簡潔に分かりやすく議論してください。
2009/2/10(火) 午前 9:23 [ y.wada ]
先生、ブログ開設おめでとうございます。
私も証券マンの端くれ、先生のブログは大変参考になります。
これからも拝読させていただきます。
今後の益々のご活躍を祈念しております。
2009/2/10(火) 午前 10:07 [ 陸上部監督上阪 ]
ブログ開設おめでとうございます。
これを機にますますご見識をご発信なされることを期待しております。
2009/2/10(火) 午前 10:50 [ Yo***oWak** ]
この度は、おめでとうございます。久しぶりに勉強の機会を与えて下さりありがとうございます。
楽しみに拝見させていただきます。くれぐれもお体をお大切に。
2009/2/10(火) 午後 0:59 [ 原 靜枝 ]
このたびはおめでとうございます!
そしてありがとうございます!!
年賀状に「今の時代の先生の日経論が聞きたい」と書いた私としましては感激です。そして冷静で鋭いご指摘、今後も興味深く読ませていただきます。
2009/2/10(火) 午後 5:47 [ Semisei ]
おめでとうございます。ブログ解説をお待ちしてました。先生の経済診断を楽しみに拝聴させていただきます。ご連絡ありがとうございました。
2009/2/11(水) 午前 0:39 [ k-keiko ]
眠れる獅子が動き出しましたね。かねがね貴兄のご意見を拝聴しようと思っていました。貿易の現場にいた当時のニクソン・ショックにあわてふためいたことを思い出します。
いま騒がしく論争されている、交付金なるものは、はどれだけの経済的効果があるのか疑問に思います。、給付というのは、社会的弱者でない限り、労働の対価とし得られるべきもの。わが民族のDNAにはなじまないと思いますが、ご意見を起きさせください。ご健筆?を心からお祈りします。
2009/2/14(土) 午後 3:20 [ ohshige ]