|
3月10から11日にかけての世界各地の株式相場は、10日のニューヨークでダウ平均が379ポイント、5.1%上昇した流れを受けて、同日のヨーロッパでも反発、明けて11日には東京が321円、4.6%の上昇となった。同日のアジア各地の市場でも、上海を除いて軒並み株価は上昇した。
一般に、不況の中で株価は実体経済に先行して底入れ・反転する場合がよくあるので、今回の反発がそういうものであることを一概に否定することはできない。私たちは確実な景気予測手段を持っているわけではない(それが市場経済の特徴だ)から、あらゆる景気指標を謙虚に検討する必要がある。
しかし、それにしても、今回の株価反発の起点となったNY市場の動きには疑問を感ずる。
このNY株式急反騰のきっかけとなった主因は、NYタイムズ(11日)によると、いま危機のまっただ中にあり、多額の政府資金が注入されているシティグループのパンディットCEO(最高経営責任者)が、同銀行の2009年第1四半期のこれまでの業績が2007年第3四半期以来の最良となった、との覚え書きを公表したことである。ただし、その具体的内容はなにも明らかにされていない。
それでも、投資家たちはこのメモを「08年第4四半期には82.9億ドルの赤字だったシティグループの業績が今後は好転するというサインと受け取った」。その結果、先週には1ドルを下回ったシティの株価が36%上昇、つれてバンク・オブ・アメリカの25%高など大銀行株は軒並み2桁の率で上昇した。
上場株式が1ドルを下回るいわゆる「ペニー株」となると、それが3営業日(だったと記憶する)続くと上場廃止に追いやられる。シティもバンク・オブ・アメリカもその危機に陥っていたわけだが、とりあえずはその危機を脱したわけである。
もう一つ、私には引っかかることがある。それは、共和党のマケイン上院議員らが先週、「経営に失敗した大銀行を政府資金で救済する必要はない」と主張、そうした銀行の例としてシティを示唆したというニュースだ(これもNYタイムズ)。
パンディットCEOの覚え書きを以上のようなシティの窮状と照らし合わせて、そこになにか不自然さを感ずるのは思い過ごしだろうか。
大銀行・大金融企業の救済問題に関して、もう一つ不可解なことを紹介しておきたい。それは世界トップともいえる保険大手企業AIG(アメリカン・インタナショナル・グループ)の救済だ。
ウォールストリート・ジャーナル紙(6日)は、米政府による1730億ドル以上のAIG救済資金のうち、約500億ドルが少なくとも20を超える国内外の金融機関に支払われた(AIGを経由して―引用者注)と報じた。それらは、ゴールドマンサックス、メリルリンチ、モルガンスタンレー(以上はアメリカ)、ソシエテ・ジェネラル、カリヨン(フランス)、ドイツ銀行(ドイツ)、バークレイズ、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド、ロイズ・バンキング・グループ(イギリス)などである。
この点につきNYタイムズ(8日)は、「AIGー納税者のドルが消えゆく(Go
to Die ,死に行く?)ところ」と題する記事を掲載、米納税者が納めたお金がAIG経由で外国の金融機関にも流れており、しかも、この先そうした資金がどれだけの額に達するかは「誰にも確かなことはいえない」と述べている。
AIGが政府の救済資金を使ってこれらの金融機関に支払いを行っているのは、これまでにCDS(クレディット・デフォルト・スワップ)というデリバティブ(金融派生商品)をこれらの金融機関などに売った後始末のためである。
詳細説明は省略するが、CDSというのは一種の保険で、たとえばAIGのような保険会社が、社債などを持っている他の企業(カウンター・パーティという)に対し、その保有する社債などがデフォルト(債務不履行)となった場合に、AIGがその元本を社債発行企業に代わって支払う約束をし(プロテクションの売却)、その対価(リスク・プレミアム、いわば保険料)をカウンター・パーティから毎期受け取るというもの。
この仕組みは保険と似ていて、カウンターパーティが保有する社債など(債権)が一度には、あるいは一挙に大量にはデフォルト(債務不履行)にならない、という仮定に立っており、いわゆる金融工学を使ってCDSの売却代金(リスク・プレミアム)などを算出している。この仮定は、いわば、大規模な不況はこない、したがってそのような債務が一挙に不履行に陥る恐れはない、と仮定していることを意味する。
これは、大地震は来ないという仮定で、建築設計の手抜きをした某建築士の手法と本質的には変らないではないか。ところが、デフォルトは一挙に大量に発生した。その結果、AIGはそのカウンターパーティに代り金を支払えなくなったのである。
そう考えると、今回の世界大不況には人災(社災?)の要素があると考えなければならないし、そうした人災を引き起こした元凶を救済する理由があるのか、という疑問が起きる。
私は不況を緩和する対策は必要だという考えを持っているが、これまでは不況における人災とその責任ということを十分には考慮してこなかった。もし、金融機関の破綻に際して預金や保険金などの一般国民の権利を保証できれば、AIGのようなケースは政府が救済する必要がないのではないか。
では、非金融の大企業の場合はどうか。たとえばGM(ゼネラルモーターズ)。同社はアメリカNo.1(これまでは世界1)の自動車メーカーであり、それが破綻した場合の影響は非常に大きい。
だが、GMの赤字はすでに4年目なのだ。つまり、GMの経営は今回の景気後退が起きる(2007年末)以前から、そしてリーマンブラザーズの破綻で金融危機が一挙に表面化(08年9月)する以前から悪化していたのであり、その意味では要するにGMは普通の意味での不良経営の大企業にほかならないわけだ。
それに対し、経営の苦しい自動車会社の中でも、フォードは政府資金による救済を求めていない。それなのに、なぜGM(とクライスラー)を救済する必要があるのか?もし、破綻した場合のGM労働者の救済措置がキチッととられるならば、GMの倒産もやむを得ないのではないか。
このように考えると、オバマ大統領の新ニューディールもずいぶん甘いものだ、という評価になってくる。それだけ、財政資金を無駄に、少なくとも不適当なところへ支出していそうである。
不況対策のあり方としては、いわゆる需給ギャップを計算して、そこから計算上出てくる需要不足を埋めるというようなずさんな有効需要政策をとるべきではない、と私は述べてきた。それとともに、景気後退と不況の打撃を緩和するための措置についてももっときびしい点検が必要だ、ということを確認したい。 (この項、終り)
|
先生の分析が、これまでの経済理論を踏まえ、いよいよ現状分析に入ってきたように感じております。
「大規模な不況はこない、従って債務が一挙に不履行になることがないと仮定したシステムは人災と考えられ、引き起こした元凶を救済する必要があるのか。厳しい点検が必要。」という指摘は確かにそのとおりだと思うのですが、社会がこのシステムを受入れてしまった(追認してしまった)責任があると考え、救済と倒産させるコストを比較(税金の投入額と失業者増大や連鎖倒産による社会の損失額の比較)して社会全体の損失が少ない方法を選択するという考え方も間違いではないようにも思います。
社会が同じ間違いを選択しないような仕組みを作ることはもちろん必要ですが。
2009/3/13(金) 午後 8:50 [ ねずみ ]
不良金融債権を安全と謳い、それを保障することで全世界に債権を売っていた『AIG』(保障部門)を救済する意義が何処まであるかわかりません。が、『AIG』を潰すと不良金融を保障する会社がなくなるので(金融商品が下落するので)潰せないでしょうね。
GMについては底に穴が空いたバケツに水を入れるような作業であり、市場から退場宣告を受けている企業です。どこまでその存続に意味があるのかわかりませんが、きっと存続させるんでしょう。民主党の支持母体ですしね。
さて、今回の不況、結局何処が負担するのでしょう?アメリカは機軸通貨をいい事にドルの刷り放題するようですが・・・。⇒再度の景気対策を打つと思われる。
また、先生の御指摘の通り、大量のイタミ止めを打っても効果がありません。むしろ感覚がマヒして経済がおかしくなる恐れがあります。適度なイタミ止めで、このツライ時期を乗り越えるのが肝要と感じています(自然回復)。もしくは大規模な手術(不良債権の摘出)を選択するかですね。ただし、患部の規模がわからなく、手術が出来ないのがイタイところです。今は闇雲に痛み止めと輸血をしているような状態でしょうか。
2009/3/15(日) 午後 4:58 [ K9 ]