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前回の「診断録」(5月28日号)では、最近のマス・メディアにはマイナスの景気指標を取り上げない傾向が見られると指摘した。ところで、29日にはいくつかの注目すべき景気指標がまとまって発表されたが、同日夕刊などを見ると、メデイアによってその取り扱い方がはっきりと分かれていたので、それを紹介しておきたい。
29日に発表された景気指標は、いずれも2009年4月についての、完全失業率(総務省発表)、有効求人倍率(厚生労働省)、鉱工業生産指数(経済産業省)、消費者物価指数(総務省)、家計調査(同)などである。
このうち、有効求人倍率というのは、職を求める人(求職者)の一人に対して、どれだけの求人があったかを示す倍率、すなわち 求人数÷求職者数 のこと。100人の求職者に対して100人の求人があれば、倍率は1であり、100人の求職者に対して50人の求人しかなければ倍率は0.5である。すなわち求職者の半分しか職を得られる見込みがない、ということを示す。
また、家計調査は1世帯あたりの収入や消費支出の動向を示すので注目されている。
さて、以上のそれぞれの結果は以下の通りであった。完全失業率は5.0%で3月より0.2ポイントの悪化で、2003年3月以来5年5ヶ月ぶりの5%台。有効求人倍率は0.46倍で3月より0.06ポイントの悪化で、この統計を取り始めた1963年以降では最悪だった99年5,6月の水準と同じ。
鉱工業生産指数(季節変動修正済み)は3月に比べて5.2%の上昇で、上昇率は過去2番目の大きさ。
消費者物価指数は、値動きが激しい生鮮食品を除いた総合指数が前年同月比で0.1%の下落。下落は2ヶ月連続で、景気下降に伴う需給関係の悪化(供給過剰の深まり)を示す。
家計調査による1世帯あたりの消費支出額は実質(物価変動の影響を除いてみた数値)で前年同月比1.3%の減少。減少は14ヶ月連続で過去最長。なお、4月から定額給付金の支給が始まったが、消費支出は増加しなかったわけである。
さて、各メディアによるこれら景気指標の扱い方だが、29日夕刊第1面のトップ記事を見ると以下の通りだった。
日経は「4月鉱工業生産5.2%プラス−生産、持ち直す兆し」で5段見出し。読売は「求人倍率 最悪の0.46倍−失業率も悪化5%」 で5段。毎日は「有効求人最悪0.46倍−完全失業率は5.0%」で5段。朝日はトップは「前時津風親方 懲役6年」で4段。ただし、左側トップに「求人0.46倍 過去最悪」で3段。
NHK7時のニュースはトップが補正予算の成立。国会関連のニュースの次が「雇用状勢悪化」で求人倍率と失業率を詳しく報道した。
要するに、日経以外は1面トップは雇用状勢の悪化の記事で、朝日とNHKはそれに準じた扱いだった(ただし、朝日の1面トップはピントがずれていたというべきだろう)。
日経は失業率と求人倍率については1面の第2見出しで4段。これに対して、ほかの各紙の鉱工業生産指数の扱いは、読売は1面第3見出しで2段。毎日は2面第2見出しで3段。朝日は12面右下の1段記事。
NHKは7時のニュースでは鉱工業生産指数には触れず、だった。
つまり、日経以外は鉱工業生産の増加をトップ記事扱いにはしなかったわけで、朝日の場合にはその極端な軽視といえそう。NHKとしては7時のニュースとしてはこの問題は専門的すぎる(?)と考えて取り上げなかったのだろう。
鉱工業生産の回復を、現時点で景気回復の兆しとして過大視することへの疑問は当「診断録」が前回に指摘したとおりである。その点、日経以外の各紙は今回は妥当な扱いをしていたといえる。
消費者物価下落の記事は、日経は1面第3見出しで3段、読売と毎日は2面の1段。朝日は12面の2段。この点では日経の扱いが妥当といえる。
家計調査の消費支出減少の記事は、日経が3面の3段、読売が2面1段で、朝日と毎日にはこの記事は載らなかった。定額給付金の消費刺激効果については賛否両論の対立があっただけに、4月の消費支出の記事はもっと重視されるべきだった(30日朝刊へ回したということも考えられるが)。
なお、読売はこの記事を取り上げていたものの、定額給付金には触れていなかった。記事を書いた記者の頭から定額給付金のことが抜け落ちていたためだろうか。
このように見てくると、メディアによって景気指標の取り扱い方がずいぶん違うことが非常にはっきりする。とくに、景気動向を考える上での日経の鉱工業生産の重視と、他のメディアの雇用問題重視との違いが際立っている。それはまた、今日では景気の現状についての楽観論と悲観論(ないし慎重論)の違いを表している。
そのような違いは、新聞あるいは放送を作る際のそれぞれの「目線」の違いを示しているのではないか。
なお、今回は詳細には触れなかったが、物価に関しては、消費者物価だけではなく最近は生産者物価の下落傾向も目立っている。そうしたことから、日本経済はかつて1990年代から2000年の00年代にかけて経験したデフレーションに再び陥り始めているのではないか、という警戒論がこのところ台頭している。
つまり、たとえ日本経済が現在の不況から抜け出せたとしても、その先に待ち受けているのは明るい景気回復ではなく、回復らしからぬ回復ではないか、という危惧である。その点については、いずれこの「診断録」でもあらためて取り上げる予定である。 (この項 終り)
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