文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

世界大不況

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 現在の景気後退の進行において、表面化した供給過剰による商品在庫の増加を削減する過程(在庫調整の過程)がかなり進行したことは事実である。しかし、その事実をもって、景気が底を打った、すなわち景気調整が終ったと見なすことは尚早である。
 実際には、在庫調整に続いて、過剰になった設備を削減する設備調整が進行しつつあるのだ。最近世上に盛んな景気底打ち論は、在庫調整の終了(ないしは終了への接近)をもって、今回の景気調整が終わったと見なし、本格化しつつある設備調整を無視する誤りを犯している。

 設備投資に関し最近もっとも注目すべきニュースは、日経新聞社による2009年度の設備投資動向調査(日経、6月8日)と、内閣府が6月10日に発表した4月の機械受注統計である。
 この設備動向調査によると、09年度の全産業の設備投資計画は08年度実績に比べて15.9%の減少で、これは2年連続のマイナス(08年度は−5.6%)、かつ1973年の調査開始以来最大のマイナスである(従来の最大のマイナスは93年度の11.8%)。
 内訳では、基幹業種の電気機器(−29.4%)や自動車(33.3%)の投資抑制が響いて製造業が24.3%の減少、非製造業では通信が5.7%、不動産が42.3%、小売業が10.2%減少するのに対し、電力が5.8%、鉄道・バスが6.3%増加、非製造業全体では4.5%の減少となっている。 
すなわち、企業は08年度下期における在庫調整に続いて、09年度には本格的に過剰設備の削減を進め、新規投資は極力抑えようとしているわけだ。

 以上が企業の09年度の投資計画であるのに対し、実際の投資動向を先行的に(約半年)示す機械受注統計(船舶・電力を除く民需、季節調整済み)を見ると、09年4月の受注実績は6888億円 で前月に比べて5.4%の減少(2ヶ月連続の減少)、前年同月に比べて31.8%の減少であった。この4月の受注額は1987年4月以来22年ぶりの低水準であり、上記の投資計画調査の内容を裏付けている、というよりそれを上回る減少ペースとなっている。
 
 ところが、内閣府によるこの実績発表に先立って、日経グループのQUICKが民間調査機関26社に聞いたところでは、4月の機械受注統計についての予測は、26社平均では0.7%の増加という結果であった(日経、6月9日)。 これは、最近の民間調査機関の景気動向把握がしばしば実態と相当にかけ離れていることを端的に示すものといえよう(ただし、26社のうち12社は減少を予測したという)。

 では、なぜ多くの調査機関がこのような設備投資の減少と、その背後で進行する企業の設備調整を無視ないし軽視しているのだろうか。おそらくそれは、彼らの多くが今回の景気後退下の産業活動(金融部門を除く)の低下を、主として08年秋以降に激化した金融危機の影響によるものと捉え、その金融危機が山を越えれば、産業活動は在庫調整を経て速やかに元に戻ると考えているからではないか、と推察される。 
 最近よく聞かれる見方、すなわち鉱工業生産が3月から増加に転じたことを評価し、それをもって景気底打ちの指標と見なす捉え方がそれである。
 
 しかし、前に当「診断録」(5月28日号)でも指摘したが、鉱工業生産指数は、重要であるとはいえ、全産業活動指数(経産省調査)のうちに占める比重は約20%である。その全産業活動指数は3月には前月比で2.4%低下している(6ヶ月連続の低下)。また鉱工業生産指数は、季節調整値ではあるが、月による変動がかなり不規則的で、1,2ヶ月の数値から単純に将来の傾向を結論するわけにはいかないものである。
 
 顧みると、今回の景気後退は、08年秋における金融危機の全面表面化に先だって、日本では07年11月に、アメリカでは08年1月に始まっている。この後退にいたる景気上昇期には、マネー過剰を背景とする世界的な住宅バブルや自動車ブームがあり、その頭打ちと崩壊の過程が石油価格急騰(第3次石油危機)及び金融危機の衝撃によって激化したのである。
したがって、景気後退の進行の中で、多くの産業部門(金融部門を除く)では、企業は過大になった生産を減らすだけではなく、その土台にある過大な、あるいは時代に合わなくなった生産設備を除去し、刷新する必要に迫られているのだ。]
そうしたリストラクチャリング(事業の再構築)の必要に直面している産業の代表格が自動車である。
 
 自動車メーカーは、アメリカでも日本でも(すくなくとも先進諸国では)、現在すすめている減産による在庫調整が終われば、単純に元の生産規模の回復へ向って増産に転ずるというわけにはいかないだろう。なぜなら、第3次石油危機を招来した世界的景気上昇とその反動の中で、自動車は石油多消費型商品としての弱点を決定的にさらけ出したからだ。
 中でも大型乗用車生産が中心のアメリカの自動車メーカーが危機に陥り、ついにクライスラー社とGMが破産に至ったことはまさにその象徴である。たしかに、アメリカの自動車ビッグスリーの場合には、退職者の医療費負担など独特の高コスト要因があったが、まさに今回ついに破綻に至ったのは、上記のような時代的背景が影響したからにほかならない。 

 日本の自動車メーカーもそうした問題の圏外にあるのではない。トヨタも「利幅の大きい大型車・高級車を収益拡大の柱に据えてきたが、世界不況を機に、今後は小型車や環境対応車など低燃費車の需要が伸びる」とみて、「小型車でも利益を稼げる経営体質への転換を急ぐ」という(日経、6月7日)。 
 具体的には、「2012年をメドに、まず国内でカローラ、ヴィッツなど計100万台を対象に、車台や部品の共通化を進め、年1000億円規模のコストを削減」する(日経、同)。そのようなリストラクチャリング の過程で、09年度の設備投資は、上記の投資計画調査によると、08年度に比べて36.3%減らす計画である。

 村沢義久東京大学特任教授は、自動車産業の大転換について、次のように述べている。「米フォード・モーターがモデルTを世に送り出してから101年目の今年、自動車業界は歴史的な地殻変動の時代に入ろうとしている。ガソリン自動車から電気自動車へのシフトと、それに伴う産業構造の大変化の時代である」(日経、6月10日)。
 ちなみに、ニューヨーク株式市場でのダウ工業株30種平均を構成する企業(30社)の中に入っていたGMは、銀行大手のシティ・グループとともに、6月8日にダウ構成銘柄から外された。その結果、ダウ銘柄から84年ぶりに自動車メーカーが消えることになった。これなども、以上のような時代の大転換を表すものといえるだろう。

 しかし、転換を迫られているのは自動車メーカーだけではない。各国の消費者は、今回の不況の中で、省エネルギータイプの商品、そして低価格の商品に対する志向を強めたし、また浪費型消費を転換して、物の長期利用を志すようになったと思われる。
 もちろん、そのような傾向の中には、不況期に特有の一過性のものが含まれているかも知れないが、すくなくとも当面、各企業はそのような消費者に適応しなければならない。
 
 このように、2009年ないし09年度には、産業・企業の大きな再調整がさらに進むはずである。その中心は設備調整と雇用調整であろう。その中で、デフレ傾向もさらに進むだろう。最近では6月10日に日銀が発表した5月の企業物価指数は前年同月比で5.4%下落、1987年3月以来22年2ヶ月ぶりの大幅下落となった。
 したがって、現在はまだ景気の底打ちを確認できる段階にはない。
 
 マクロ的に(経済全体として)見ると、景気回復を牽引する需要は、政府支出と在庫投資を別とすれば、輸出、個人消費、企業設備投資、住宅建築である。このうち、輸出には中国向けなどに回復が見られるが、それ以外のもの、すなわち内需にはまだはっきりした回復の傾向が見えてこない(政府補助による消費促進の一時的効果は見られるが)。
 以前なら、景気動向を論ずる場合には、需要とくに設備投資をいわば景気の牽引車として重視したものである。その投資がいま景気動向を論ずるに際してあまり顧みられないのはまことに奇異である。

 おそらく、株価や石油その他の鉱物原料の価格が09年春から上昇していることが、即景気回復を示すものと受けとめられているのではないか。あるいは人びとは、そして政府も、努めてそのように経済の現状を楽観したいのかも知れない。  
 しかし、当然のことだが、株価上昇は期待・予想の産物であり、それがそのまま現実の景気を表すものではない。他面、石油などの反騰は、前回の「診断録」(6月6日号)でも述べたように、景気回復にとってはマイナスである。
 いずれにせよ、私たちは、引き続き、複眼をもって経済の進行を注視していく必要がある。                 (この項、終り)


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