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イタリアのレッチェで開かれた主要8カ国(G8)財務相会議は13日に共同声明を採択、その中で「世界経済には株式市場の回復など安定化を示す兆候がある」との認識を示したと伝えられる(日経、6月14日)。だが、株式相場は市場参加者の期待(予想)の合成物であり、まだ現実の経済ではない。
その現実においては、EU(ヨーロッパ連合)をはじめとするヨーロッパや発展途上国(中国などのいわゆる新興市場国を除く)では景気の悪化がよりきびしく進行中であり、このため世界銀行は6月11日に09年の世界経済の成長率見通しをマイナス3%に引き下げた(4月の見通しは−1.75%)(ツァイト Zeit Online、11日、NYTimes、12日) 。
わが国でたいへん重視されている鉱工業生産指数の動きを見ると、6月12日にEU統計局が発表したユーロ圏諸国(16カ国)合計の4月の指数は、対前月比1.91%のマイナス(12ヶ月連続)、対前年同月比では21.59%のマイナスだった。この対前年比減少率は過去最大である。
EU加盟国全体(27カ国)では、対前月比は0.89%、対前年同月比は19.36%のマイナスだった。ちなみに、EU加盟主要国について4月の同指数の前月比と前年同月比を見ると、ドイツ(−2.1、−23.16,)、フランス(−1.4、−19.42)イタリー(−1.11、−24.23)、イギリス(0.19、−12.28)、といったところで、独、仏、伊の落ち込みの大きさが目立つ。
このうちドイツでは、いま大コンツェルンも信用逼迫で悲鳴を上げているという(シュピーゲル Spiegel Online、6月13日)。そうした状況の中で、大百貨店チェーンのカールシュタットを傘下に持つアーカンダー・コンツェルン(Arcandor)が6月9日に支払い不能(Insolvenz)を宣言した。
ドイツ商工会議所(DIHK)が 2万社以上の企業に対して行ったアンケート調査によると、大企業(従業員が1000人超 )のうち、信用条件が悪化したとする企業の割合は36%で、今年年初に比べて10%ポイントの増加だった。全企業では、同様の割合は23%で、年初に比べて3ポイントの増加だった。「ヨーロッパ中央銀行の金利引き下げによってリスクプレミアムの上昇は抑制されているが、それでも経済状況の困難化により、明らかに金融コストも一部上昇している。流動性の隘路はますます企業の存立を脅かしている」(DIHK報告、Spiegel、同上)。
ドイツの景気悪化は輸出の減少によるところが大きいが、4月のドイツの輸出は前年同月比で28.7%減少した。これは政府が1950年に統計を取り始めて以来最大の減少率である。
主要産業のうち自動車産業の状況は、自動車保有者にスクラップ・プレミアム(政府による買い換え補助金)が与えられているにもかかわらず、とくに不透明である。「この補助金は自動車メーカーにとっては回復の藁火(ワラ火、一時的な火種)であり、起爆剤にはならない。明年にはこの補助金はブーメラン(比喩的に、自分で自分の首を絞める道具)として自動車産業に返ってくるだろう」(同上)。
どうやらドイツ及び多くのヨーロッパ諸国では、経済危機とくに金融危機の状況は、昨年秋から最近までのアメリカのそれに近似しているのではないか。
このようなヨーロッパの苦境を、日本への直接の影響は大きくないと軽視してはならない。なぜなら、たとえば、日本の最大の輸出先である中国にとっての最大の輸出先は、アメリカではなくヨーロッパなのだから。
2007年の実績によると、中国の主要輸出先が全輸出に占める比率(構成比)は、ヨーロッパ:23.6%、アメリカ:19.1%、香港:15.1%、日本:8.4% であった(中国統計年鑑、2008年版)。このうち香港は主として中継地で、そのうち相当部分がやはりヨーロッパやアメリカに再輸出されたものと見られるが、詳細情報は入手していない。
その中国のこの5月の輸出は前年同月比で26.4%減少した(6月11日、中国海関総署)。これは6ヶ月連続の減少で、データが揃う1980年以降での最大の減少率である。その輸出先別動向は、対ヨーロッパは−24.1%、対米が−17.1%だった。この内訳を見ると、なぜ中国の輸出が大きく減少しているのか、その原因が推定できる。要するに、ヨーロッパ経済の景気悪化が中国の輸出にもっとも大きく影響しているのである。
その結果、中国経済が直面している大きな問題は、「活発な輸出の支持なしに、いかに中国が長期にわたり経済を強調に保てるかという点にある。すでに輸出依存度が高い中国海岸地帯では賃金と利潤が減少しており、それが消費者の支出力を制約している」(NYTimes,6月12日)。
最近の日本経済に見られる部分的は回復傾向が主に対中国輸出の増加によるものだけに、予想以上のヨーロッパの景気悪化の直接の影響とともに、いなそれを上回るであろう中国を介しての間接的影響を注視する必要がある。
このように見てくると、G8財務相会議後の記者会見で与謝野財務・金融・経済財政相が語った言葉、「各国が底打ち感を持っているとの強い印象を受けた」(日経、14日)というのを聞くと、そのリアリティの薄さに驚く。 (この項、終り)
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